乳がん検診の結果、「要精密検査」の通知が届いたら、誰でも不安になるものです。しかし、要精密検査の判定とがんの確定はイコールではありません。この記事では、どんな場合に要精密検査の判定になるのか、精密検査の目的、乳がん検診でがんと確定される人の割合、検査内容や費用について解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・乳がん検診を受けた結果、要精密検査になった方
・乳がん検診の精密検査の内容や費用を知りたい方
・要精密検査になったことの不安がぬぐえない方
★この記事のポイント
・乳がん検診では、精密検査が必要か、不要かを判断する
・病変が良性の可能性が高くても「要精密検査」になることがある
・乳がん検診の精密検査でがんが確定するのは5%未満
・乳がんは早期発見・治療で5年相対生存率は90%以上。早期発見のためにも定期的に乳がん検診を受けよう
目次
乳がん検診で「要精密検査」になったら
乳がん検診の結果の見方
乳がん検診の結果に「要精密検査」と書かれていたら、不安になる方も少なくないでしょう。まずは落ち着いて、結果報告書の内容を確認してみましょう。
乳がん検診の判定は、「乳癌診療ガイドライン」に基づき5つのカテゴリーに分類され、その分類をもとに「精密検査の必要がない人」「精密検査が必要な人」のどちらかに振り分けます*1。会社の健康診断などにある「再検査」の区分はありません。
<「乳癌診療ガイドライン」のカテゴリー分類*1>
カテゴリー1 |
異常なし |
カテゴリー2 |
明らかに良性と診断できる所見がある |
カテゴリー3 |
良性、しかし悪性を否定できず(下記に区分) |
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3-1:ほぼ良性。良性の可能性が高く、悪性の可能性は極めて低い |
3-2:良性の可能性が高いが、悪性も否定できない |
|
カテゴリー4 |
悪性疑い、悪性の可能性が高く良性の可能性もあり細胞診・生検が推奨される |
カテゴリー5 |
悪性、ほぼ乳がんと考えられる |
上記カテゴリーのうち、1・2は「異常なし」もしくは「要経過観察」と判断され、精密検査は不要です。3・4・5は所見(なんらかの変化・病変)がみられ、それが悪性かどうかを精査するために精密検査が必要(要精密検査)とされます。
なお、実際の結果報告書に記載される判定表記は医療施設によって異なります。上記のカテゴリーは記載されず「精密検査不要」「要精密検査」のみ記載される場合や、「A」「D」などのアルファベットで表記されるなどさまざまです。
また、所見欄などに「石灰化」「嚢胞(のうほう)」「腫瘤(しゅりゅう)」といった所見が記載されることもあります。要精密検査と判断された要因と考えられるため、所見欄も確認しておきましょう。乳がん検診の結果の見方、乳がんの検査で発見されることが多い所見については下記記事でも紹介しています。
乳がん検診では良性の可能性が高くても「要精密検査」になることがある
乳がん検診の結果、要精密検査になったとしても、乳がんの所見が確認されたとは限りません。悪性が疑わしい場合だけでなく、上記カテゴリー3−1にあるように「良性の可能性が高く、悪性の可能性は極めて低い」場合も「要精密検査」に振り分けられるためです。
カテゴリーの判断は画像を読影する医師や技師の経験等によるところが大きく、読影者によっては「明らかに良性(カテゴリー2)」と考えられる症例でも、念のため「良性、しかし悪性を否定できず(カテゴリー3)」とする場合もあります*1。つまり、乳がん検診の要精密検査には「万が一ということもあるので念のため調べる」ケースも含まれていると考えられるのです。
このようなケースもあることを念頭に置き、要精密検査と判定された理由を知るためにも精密検査は必ず受けましょう。
精密検査は乳腺専門医がいる診療科を受診
乳がん検診の精密検査は、乳腺科、乳腺外科、乳腺外来など乳腺専門の診療科が対応しています。乳がん検診を受けた医療施設に乳腺科などの専門科がある場合は、同じ施設で精密検査を受けられます。その際、紹介状は必要ありません。
自治体が実施している集団検診や、健診(検診)のみを行う健診・検診センターなど、専門の診療科がない医療施設で乳がん検診を受けた場合は、その施設が提携する診療科を紹介されるか、精密検査を受けられる医療施設を自身で探す必要があります。後者の場合の受診先の選択肢は大きく2つです。
乳腺専門医がいる医院・クリニック(乳腺科・乳腺外科・乳腺外来など)
乳腺専門医がおり、かつ乳がんの精密検査に対応している医院やクリニックを受診します。乳がん検診の結果、要精密検査になった旨を伝え、予約します。多くの場合紹介状は不要です。受診の際、検査結果書のほか、マンモグラフィなどの画像データを持参するよう指示されることがあります。画像データの発行には日数や手数料がかかる場合があるため、検診を受けた医療施設に問い合わせましょう。
乳腺専門医がいる総合病院や大学病院
規模が大きい病院や大学病院(特定機能病院、一般病床200床以上の地域医療支援病院、一般病床200床以上の紹介受診重点医療機関)*2で精密検査を受ける場合は、がん検診を受けた医療施設からの紹介状が必要です。紹介状なしで大病院を受診すると、診察料のほかに特別な料金がかかります*2。また、受診には多くの場合予約が必要です。大病院を希望する場合は、事前に検診を受けた医療施設に相談しましょう。
データで見る、乳がん検診の要精密検査数とがん確定数の割合、5年生存率
乳がん検診での精密検査数は約6%、そのうちがん確定数は5%未満
先述の通り、乳がん検診では良性の可能性が高くても「要精密検査」と判定されることがあります。実際に乳がん検診を受けた人のうち、要精密検査となった人の割合をみていきます。
厚生労働省によると、2019年度に乳がん検診を受けた約234万人のうち、「要精密検査」と判定されたのは全体の6.3%にあたる約14.8万人でした。精密検査の結果、がんが見つかった人は6,949人で、がん検診受診者全体の0.3%、精密検査数のうち4.7%にあたります*3。
<2019年度がん検診受診者における要精密検査の受診状況(乳がん)*3>
がん検診受診者数(A) | 2,344,748人 |
要精密検査者数(B) | 147,806人 |
がん検診受診者数に対する割合(B/A) | 6.30% |
がんであった者数(C) | 6,949人 |
がん検診受診者数に対する割合(C/A) | 0.30% |
要精密検査者数に対する割合(C/B) | 4.70% |
要精密検査と判定されても、その中でがんと確定する人の割合は5%未満です。数字のとらえ方は人それぞれですが、あまり心配しすぎず、落ち着いて精密検査に臨むとよいでしょう。
乳がんは早期発見で5年相対生存率は90%以上
もし精密検査で乳がんと診断されたとしても、早期に発見し適切な治療を受ければ高い確率で命を守ることができます。国立がん研究センターの院内がん登録生存率集計によると、病期※1(ステージ)Ⅰで治療を行った場合の5年相対生存率※2は99.8%で、全体の5年相対生存率も90%を超えています。乳がんは比較的ゆっくり成長することが多いとされています。定期的な検診の受診が早期発見につながります。
<5年相対生存率(乳がん、2013-2014年診断症例)*4>
病期(ステージ) | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | 全体 |
---|---|---|---|---|---|
相対生存率(%) | 99.8 | 95.5 | 80.7 | 38.7 | 92.2 |
※1)病期:がんの大きさ、広がり方によって、がんの進行の程度を判定するための基準。ステージや病期分類とも呼ぶ*5。
※2)5年相対生存率:がんと診断された場合に治療でどのくらい命を救えるかの指標。日本人全体で5年後に生存している人に比べ、特定のがんと診断され5年後に生存している人の割合がどのくらい低下するかを表す。100%に近い数値ほど命を救える見込みが高くなる*6。
乳がん検診の精密検査(二次検査)の内容と費用
乳がん検診の精密検査の種類
乳がん検診で要精密検査とされた方が受ける精密検査(二次検査)には、一般的にマンモグラフィ検査による追加撮影、乳腺超音波(エコー)検査、生検・病理検査などがあります。状況に応じて、これらを組み合わせて実施することもあります*7。
マンモグラフィ検査
乳房専用のX線(レントゲン)撮影です。乳房を2枚の板ではさみ、薄く伸ばした状態で撮影します。視触診で発見しにくい小さな病変や、微細な石灰化の発見が可能です。精密検査では、疑わしい部分を多方向から撮影することがあります。
乳腺超音波(エコー)検査
乳房の表面にプローブと呼ばれる超音波の出る器械をあてて、はね返ってくる超音波の様子を画像で確認する検査です。マンモグラフィでは写らない小さなしこりの発見のほか、乳腺が発達している若い方や高濃度乳房を指摘された方の病変の発見に役立ちます。
この検査は何のための検査?「乳腺エコー検査(乳腺超音波検査)」
生検・病理検査
病変の一部を採取し、がんかどうかを調べる検査です。検査方法は大きく「細胞診」と「組織診」があります。
【細胞診】
乳頭から出る分泌物や病変に細い針の注射器を刺し、吸い出した細胞を顕微鏡で調べます。多くの場合、急所麻酔をせずに行うため、身体への負担は比較的少ない検査です。
【組織診】
細胞ではなく、組織の一部を採取して検査します。局部麻酔をし、注射針よりも少し太い針で組織を採取する「針生検」、もしくは手術で組織を採取する「外科的生検」が行われます。なお、針生検にもバネの力を利用する「コア針生検」、吸引力を利用する「吸引式乳房組織生検(マンモトーム生検、バコラ生検)」などの方法があります。局部麻酔による負担はありますが、細胞ではなく組織を検査するため、より確度の高い診断ができるとされています。
精密検査の費用の目安
精密検査にかかる費用は、基本的に受診者が負担します。費用は保険適用となり、原則3割負担です。乳がん検診後の精密検査(二次検査)の費用の目安(いずれも3割負担)は下記です。
・マンモグラフィ検査:2,500円前後
・超音波(エコー)検査:2,000~2,500円程度
・生検・病理検査:1,000~5,000円程度
このほか、受診先によっては下記の費用がかかることがあります。
・初診料(初めて訪れる医療施設の場合)
・画像データ等(マンモグラフィなど)の発行手数料(がん検診を受診した医療施設に支払う)
・紹介状の発行手数料(精密検査を大病院で受診する場合に必要。がん検診を受診した医療施設に支払う)
診察料、初診料などは医療施設によって異なります。費用について不明点がある場合は、予約時などに受診する医療施設まで確認しておくとよいでしょう。
不安がぬぐえない、精密検査の結果が怖い方へ。ふさぎがちな気分をまぎらわすヒント
精密検査を受けた人のうち乳がんが確定した人は5%未満とのデータはありますが、それでも精密検査を受けるまでの期間や、精密検査を受けたあとの結果を待つ間は不安がつきまとうものです。
しかし、強すぎる不安感は時として体調に影響をおよぼしかねません。不安をほんの少しでもまぎらわすための心の持ちようと行動のヒントを紹介します*8,*9。
・話す・声に出す
誰かに自分の気持ちを「話す」と、話す過程で自然と気持ちが整理され、落ち着きを取り戻せると同時に、理解者や共感者がいることで不安の緩和にもつながります。また、大声で叫んだり、歌を歌ったりするのもよいでしょう。横隔膜が動くことでリラックスをつかさどる副交感神経が刺激され、ストレス発散につながると言われています。
・不安と向き合い受け入れる
「不安」は誰もが感じる自然な感情です。不安に思う自身の気持ちや今の状態もごく自然なことだと肯定し、不安を受け入れ、今なにができるかを考え行動することは、不安と付き合っていく方法のひとつだと指摘されています。
・身体を動かす
運動をすると幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが活性化します。セロトニンには精神を安定させる作用があり、不安をやわらげ、ネガティブな感情を消し去り、リラックスをうながします*10。運動は心の健康にも身体の健康にも効果的です。
・これ以上調べない
今はインターネットでなんでも調べられる時代です。人は不安を抱えているときほど、危険に関する情報を集めやすいことが指摘されており、ネガティブな情報にふれる時間が長ければ、不安が強くなってしまったり、落ち込みも強くなったりしがちです*11。意識的に情報を遮断することが、心にとって有用な場合もあるでしょう。
参考資料
*1.日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン 総説4 マンモグラフィガイドラインとBI―RADSのカテゴリー分類について
*2.厚生労働省「医療機関の機能・役割に応じた適切な受診を行うようお願いします。」
*3.厚生労働省「令和2年度地域保健・健康増進事業報告の概況 健康増進編」
*4.国立がん研究センター「院内がん登録 2013-14年5年生存率集計」
*5.国立がん研究センター がん情報サービス がんに関する用語集 病期
*6.国立がん研究センター がん情報サービス がんに関する用語集 5年相対生存率
*7.国立がん研究センター がん情報サービス 乳がん 検査
*8.厚生労働省「こころもメンテしよう」こころと体のセルフケア
*9.国立精神・神経医療研究センター コロナ心の支援情報:不安との付き合い方 セルフケア
*10.厚生労働省 e–ヘルスネット セロトニン
*11.Bryan McLaughlin.Caught in a dangerous world: Problematic news consumption and its relationship to mental and physical ill-being. Health Communication, Aug. 2022