がん検診

乳がん検診で見つかる「嚢胞」とは? 乳がんの確率や精密検査が必要なケースについて解説

乳がん検診 がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

乳がん検診では「嚢胞(のうほう)」を指摘されることがあります。乳がんと関係があるのか、今後どうなるのかなど、不安になるかもしれません。嚢胞は40代を中心に全世代でみられる所見で、多くの場合は良性です。しかし、まれに嚢胞の内部に乳がんが見つかることがあります。本記事では、嚢胞とは何か、乳がんが見つかる確率、精密検査が必要とされる嚢胞の特徴について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・乳がん検診を受けて嚢胞があると言われた方
・嚢胞が見つかり、乳がんである確率を知りたい方
・精密検査が必要とされる嚢胞の特徴を知りたい方

★この記事のポイント
・嚢胞とは水分(分泌物)がたまった袋状のもので、やわらかいしこりとして手でさわれることもある
・嚢胞の中身は通常はただの水分だが、約0.1%の確率で嚢胞の内部に乳がんが見つかることがある
・乳がん検診で嚢胞内になんらかの病変が見つかり、乳がん検診カテゴリー3以上と判定された場合は乳がんの可能性が疑われるため、必ず精密検査を受診しよう
・嚢胞の多くは良性であるため治療の必要はないが、痛みが強い場合は水分を吸引する選択肢もある

乳がん検診で見つかる「嚢胞」とは?

嚢胞とは“水分がたまった袋状のもの”で、やわらかいしこりとしてさわれる

乳がん検診における「嚢胞(のうほう)」は、乳腺超音波(エコー)検査(以降、乳腺エコー検査)でよくみられる所見です*1。黒い円または楕円の影のように見え、サイズは数ミリのものから数センチのものまでさまざまです。乳腺エコー検査では、影の形状や濃さ、サイズ、位置などを観察して総合的に判断します。影が境界のはっきりとした円や楕円形で均質的に濃い場合、良性であることが多いです*2。嚢胞は一般的に良性で、多くの場合、経過観察になります。

嚢胞とは、乳管内部に水分(分泌物)がたまり、袋状に広がったものです*1。乳管は乳腺組織のひとつで、母乳を運ぶ管のことです*3。嚢胞は、サイズや状態によってはしこりとして手でさわることができ、やわらかい感触が特徴です。一般的に、袋の中身はただの水分であるため、嚢胞自体が身体に何か悪さをするわけではありません。しかし、嚢胞の内部に腫瘤(しゅりゅう)がみられる場合、まれに腫瘤から乳がんが見つかる可能性があります*1。そのため、嚢胞内に液体以外の何かがみられる場合は、再検査や精密検査が行われることがあります。

嚢胞は女性ホルモンが原因、月経周期で大きさが変化する

嚢胞は、乳腺症でみられる症状のひとつです。乳腺症とは乳腺のさまざまな良性変化をひとくくりにした総称で、おもに卵巣から分泌されるエストロゲンやプロゲステロンという女性ホルモンが関わっています*4

女性ホルモンが関係していることから、月経周期によって嚢胞の大きさが変わることがあります。大きさや数には個人差があるものの、月経前には大きくなることがあるとされています。また、閉経後に卵巣機能が低下すると、症状が自然と消えることもあります*4。そのため、嚢胞の大きさが変化していても、基本的に心配する必要はありません

嚢胞が見つかったらどうしたらいい? 乳がんである確率は?

嚢胞は40代を中心に多くみられ、乳がんが見つかる確率は約0.1%

嚢胞は40代を中心に幅広い年代の女性によくみられます。日本赤十字社熊本健康管理センターが公開した2021年度のデータによれば、健康診断の一環や人間ドックで乳腺エコー検査を受診した方のうち嚢胞の所見があったのは11.1%でした*5。とくに40代に多く、40代で嚢胞が見つかったのは19.7%でした。また、そのほかの年齢においても20~80代まで幅広く認められました。

このように嚢胞はよくみられる所見ですが、そのうち乳がんが見つかる確率は非常にまれで、嚢胞全体の約0.1%という報告があります*6。つまり、乳腺エコー検査受診者のうち約1割が嚢胞を指摘されるものの、そのうち乳がんが見つかる確率は非常に低いと言えます。

嚢胞内に病変が見つかり検診カテゴリー3以上であれば、必ず精密検査の受診を

乳がん検診における乳腺エコー検査の結果は、以下の5つのカテゴリーに分類されます。

<「乳房超音波診断ガイドライン」の検診超音波カテゴリー*7

カテゴリー1異常所見なし
カテゴリー2所見があるが精検不要
カテゴリー3良性、しかし悪性を否定できず
カテゴリー4悪性の疑い
カテゴリー5悪性

カテゴリー1もしくはカテゴリー2と判定された場合、精密検査は不要です。嚢胞が見つかり、カテゴリー3以上と判定された場合は、乳がんの可能性が考えられます。必ず乳腺専門の医療施設を受診し、精密検査を受けてください。

嚢胞内になんらかの病変が認められても、カテゴリー2と判定されることがあります。嚢胞内の病変の大きさが15mm以下でしこりや血の分泌などの自覚症状がない場合等は、カテゴリー2に分類されます*7,*8。乳房超音波診断ガイドラインではカテゴリー2について、「明らかな良性所見をさすのではなく、検診上、“要精検とする所見がない”もの」と説明しています*7。病変内に小さな早期乳がんが存在している可能性は否定しきれませんが、次の乳がん検診まで待っても生命予後に関わらない可能性が高いことから、過剰診断を防ぐためこの段階での精密検査は不要とされています*7,*8

嚢胞内の病変に対して行われる精密検査の種類

乳腺エコー検査で乳がんが疑われた際の精密検査には、乳腺エコー検査の再検査(追加検査)やマンモグラフィのほか、細胞診、組織診(生検)があります*9。これらの検査により、嚢胞内の病変が良性か悪性かどうかを精査していきます。

細胞診のなかで代表的な「穿刺(せんし)吸引細胞診」は、採血で使うような細い針を乳房に刺し、取った細胞を染色し顕微鏡で観察する検査です。麻酔なしで行われることが多く、身体的負担の少ない簡便な検査法です。一方、組織診とは、細胞診よりも太い針を刺し、多くの組織を用いて同様に染色して観察する検査で、針を使って組織を採取する「針生検」と手術で組織を採取する「外科的生検」に分けられます。針生検は麻酔をしながら行いますが、基本的に入院の必要はありません*9

身体的負担は、外科的生検>針生検>穿刺吸引細胞診の順で大きいですが、診断の正確さも外科的生検>針生検>穿刺吸引細胞診の順です。そのため、もし穿刺吸引細胞診で、嚢胞内の病変が良性か悪性かどうかを確定できなかった場合は、針生検や外科的生検の実施が検討されます*9

乳がん検診の精密検査の費用や、不安をまぎらわすヒントを以下で紹介しています。

嚢胞は放置しても大丈夫? 痛みがひどいときの対処法は?

嚢胞は多くが良性のため、基本的に治療の必要はない

嚢胞は40代を中心に多くみられ、乳がんが見つかる確率は約0.1%」で紹介したとおり、嚢胞の内部に乳がんが見つかるケースは非常にまれです。もし嚢胞が見つかっても、内部に何も病変が認められないことがほとんどであり、その場合治療の必要はありません*1。次回の乳がん検診まで、通常通りに過ごすことが可能です。

嚢胞による痛みが強い場合は、嚢胞内の水分を吸引する処置ができる

嚢胞が周囲を圧迫することで、胸に痛みを感じることがあります。この痛みを緩和するため、乳房に細い針を刺して、嚢胞内にたまった液体を吸引する方法があります。麻酔なしで行える簡便な検査で、入院の必要はありません。そのまま消失することもあれば、嚢胞内に再び水分が溜まり再発することもあります。痛みが気になる方は、まずは乳腺専門の医療施設に相談しましょう。

嚢胞が良性であっても、乳がん検診とブレスト・アウェアネスを継続しよう

嚢胞が見つかっても、明らかな良性で精密検査不要と診断された方であれば、通常どおり、乳がん検診など乳がんの早期発見のための対策を続けましょう。乳がん検診でマンモグラフィを行うだけでなく、嚢胞の状態を確認するために乳腺エコー検査を併用するとより安心です。

また、日ごろから乳房を意識した生活習慣「ブレスト・アウェアネス」を行うことも大切です。ブレスト・アウェアネスは近年主流になっている考え方で、厚生労働省の指針においても推奨されています*10。入浴中や着替えのときに乳房を見たりふれたりして、普段から自分の乳房の状態を把握しておき、変化に気づいたらすぐに乳腺専門の医療施設に相談するようにしましょう*11

乳腺エコー検査を受けられる医療施設は、以下から検索できます。
https://www.mrso.jp/breast/

参考資料
*1.日本予防医学協会 検査結果の見方 乳がん検診(マンモグラフィ・乳腺エコー)
*2.日本超音波医学会「乳腺疾患超音波診断のためのガイドライン―腫瘤像形成病変について―」(2005年)
*3.国立がん研究センター東病院 乳がんについて
*4.日本乳癌学会 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版「Q4 乳房の症状,病気にはどのようなものがありますか」
*5.日本赤十字社熊本健康管理センター 令和3年度 事業実績報告書 検査データ「11.乳房」(1)乳房超音波検査
*6.有村俊寛ら「単純嚢胞と鑑別が困難であった嚢胞内乳癌の1例」日本乳癌検診学会誌 21(1) Mar.2012
*7.日本乳腺甲状腺超音波医学会『乳房超音波診断ガイドライン 改訂第4版』南江堂 2020年
*8.原田恵実ら「乳房超音波診断ガイドライン改訂第4版が及ぼす効果」人間ドック(日本人間ドック学会)Vol.37 No.1 2022年
*9.日本乳癌学会 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版「Q3 細胞や組織の検査はどのようなときに行われますか」
*10.厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年10月1日一部改正)」
*11.乳がん検診の適切な情報提供に関する研究「乳房を意識する生活習慣 ブレスト・アウェアネス(令和2年度 厚生労働科学研究費補助金<がん対策推進総合研究事業>)」

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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