健康診断

肝機能障害とは? AST、ALT、γ-GTPが高い原因と改善方法、注意事項を解説

肝臓機能検査 健康診断
吉井 友季子
こちらの記事の監修医師

医療法人優美会吉井クリニック 院長

近年、アルコール以外の原因で脂肪肝などの肝機能障害を指摘される方が増加しています。無症状だからと長期間放置すると、気づかぬうちに肝硬変や肝がん(肝臓がん)に進行する危険があります。この記事では、健康診断に含まれる肝機能の検査項目の概要と、結果が基準範囲外の際に疑われる病気、肝機能障害の改善法について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・健康診断で肝機能に異常が見つかった方
・脂肪肝が増え始める20代後半~40代男性
・お酒を飲む機会が多い方、またはお酒はあまり飲まないが食生活の乱れが気になる方

★この記事のポイント
・肝機能障害は自覚症状がほとんど表れないが、放置してしまうと肝硬変や肝がんへ進行する可能性がある
・肝機能障害はアルコール以外にも肝炎ウイルスや肥満、薬、胆道系の病気などによって引き起こされる
・肥満や飲酒による肝機能障害は、自身の生活習慣を見直して改善することが可能
・肝臓をより詳しく調べたい方は人間ドックで腹部エコー検査の追加を

肝臓は「沈黙の臓器」、悪性化しても自覚症状が表れにくいため注意

肝臓のおもな役割は3つ

肝臓は右上腹部からみぞおちあたりに存在する臓器で、成人では約1.2〜1.5kgほどの重さになります。腹部では最大の臓器と言われており、生命維持にとって非常に重要な3つの働きをしています*1

1)体内のエネルギー代謝

肝臓では胃や腸で細かく消化、吸収された炭水化物、脂肪、タンパク質などの栄養を身体が利用しやすい物質にして貯蔵し、必要であればそれらを分解してエネルギーを作り出したり血中に放出したりします。大量の飲酒や食べ過ぎなどで過剰にエネルギーを摂取すると、肝臓に中性脂肪が必要以上に蓄えられ脂肪肝の原因になります。

2)有害物質の解毒

肝臓では薬物(例:サプリメント、鎮痛剤、抗癌剤等)、アセトアルデヒド(アルコールを分解するときに発生する物質)、アンモニアなどに含まれる有害物質を毒性の低いものに変えて、胆汁中や尿中へ排出を行っています。

3)胆汁の生成と分泌

胆汁には、脂質や脂質性ビタミンの分解を助けて腸で吸収しやすくする働きがあります。食べ物の消化に必要です。

肝機能障害とは肝細胞が炎症を起こしている状態

肝機能障害とは、肝臓の細胞になんらかの炎症が起こっている病態を指します。おもに血液検査で肝機能の数値に異常がある場合に、肝機能障害が疑われます。肝機能は、血液中の酵素量で評価します。これは、肝臓の細胞がなんらかの原因で破壊されると、肝細胞内に存在する多数の酵素が血中に放出されるためです。肝細胞、胆道に存在する代表的な酵素は下記で、一般的な健康診断の血液検査の項目に含まれています*2,*3

  • AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)※GOTとも言う
  • ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)※GPTとも言う
  • γ-GT(ガンマ・グルタミル・トランスフェラーゼ)※γ-GTPとも言う

なお、肝機能障害と似たワードに「肝炎」があります。肝機能障害が肝炎と呼ばれることもあり、両者の違いは明確ではありません。どちらも肝臓の細胞の炎症や異常により肝機能に障害が起こっている状態を指します。

肝機能障害が起こる主因としては、ウイルスによる肝炎、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害、脂肪肝(脂肪性肝炎)、自己免疫性肝炎などがあります*4。それぞれの病気の特徴については「肝機能障害で考えられる病気は? 早期発見すれば生活習慣病の改善で治る場合もある」でまとめています。

肝機能障害を放置するのは危険。肝がんは予後が悪く死因第5位

肝臓は“沈黙の臓器”と言われており、肝機能障害が起こっていても初期の段階では自覚症状がないことがほとんどで、あったとしても風邪に似た症状で気づきにくいです。肝機能障害が進行すると全身倦怠感、むくみ、食欲不振、吐き気、発熱、といった症状が現れる場合がありますが、症状が現れるほど慢性化してしまうと肝硬変に移行し、肝がんが発生する恐れがあります。

国立がん研究センターによると、肝がんの死亡率(年齢調整死亡率)と罹患率は1995年ごろから減少傾向です。しかし、がんの部位別罹患数の順位では男性5位(2019年)、がん死亡数の順位では男女計で5位(2021年)で肝がんは依然として日本人の死因の上位を占めています*5

近年は肥満や高血圧などの生活習慣病人口が増加したことで、お酒を少量しか飲まない方でも脂肪肝になり肝機能障害と診断されるNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)が増えていることが問題視されています*6

血液検査でわかる肝機能の項目。基準値と上昇する要因を解説

肝機能項目の基準範囲

肝機能の検査項目と基準範囲は、健康診断の種類や検査機関、医療施設などによって異なる場合があります。日本臨床検査医学会では、肝機能のおもな検査項目の基準範囲を下記の通り設定しています*7。各検査項目の詳細は次項以降で紹介します。

<日本の共用基準範囲>

項目[単位]基準範囲
AST(GOT)[U/L]13〜30
ALT(GPT)[U/L]10〜42
γ-GT(γ-GTP)[U/L]13〜64
ALP [U/L]38〜113
総ビリルビン(T-BIL) [mg/dL]0.4〜1.5

再受診、再検査が必要な数値は?

血液検査の結果は、その日の体調や前日の食事などさまざまな要素によって変わるため、基準範囲外の項目があったら必ずしも肝機能障害であると決まったわけではありません。しかし、基準範囲外となった理由を探るために再検査や精密検査が必要な場合があります。要再検査や要精密検査となる条件等は医療施設によって異なります。例として、自治体が実施する特定健診における保健指導または受診勧奨対象の数値と、日本人間ドック学会の判定区分を紹介します*8,*9

<特定健診における保健指導および受診勧奨判定値>

項目[単位]保健指導判定値受診勧奨判定値
AST(GOT)[U/L]31以上51以上
ALT(GPT)[U/L]31以上51以上
γ-GT(γ-GTP)[U/L]51以上101以上
※ALP、総ビリルビンは検査項目外

<日本人間ドック学会の判定区分>

項目[単位]異常なし軽度異常要再検査・生活改善要精密検査・治療
AST(GOT)[U/L]30以下31~3536~5051以上
ALT(GPT)[U/L]30以下31~4041~5051以上
γ-GT(γ-GTP)[U/L]50以下51~8081~100101以上
※ALP、総ビリルビンは判定区分の設定なし

入院が必要な数値は?

基準範囲を大きく超えると、場合によっては入院による詳細な検査(肝生検)や治療が必要だと判断されます。入院の要否判断は医療施設によって異なりますが、参考までに大まかな目安の数値が下記です。

  • AST、ALT:500以上(急性肝炎などの疑い)
  • γ-GT:500以上(アルコール性肝機能障害などの疑い)
  • ALP:400以上(胆道がん、胆石、胆がんなどの疑い)
  • 総ビリルビン:10mg/dL以上(肝機能障害の疑い)

肝生検とは、腹部から針を刺して採取した肝臓の組織を顕微鏡などで詳しく調べる検査です。肝臓の病態や確定診断、治療法を決定するために必要な検査です。採取の際は局所または全身麻酔を施すため、通常1〜2日の入院を要します。後述する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の確定診断の際にも、肝生検が行われます*6

AST(GOT)、ALT(GPT)

AST(GOT)とALT(GPT)はいずれも肝細胞で作られる酵素で、肝細胞がなんらかのダメージを受けていると両方の数値が上昇します。肝細胞中ではAST(GOT)のほうがALT(GTP)よりも多く存在します。

なお、AST(GOT)は心臓、筋肉にも多く存在します。そのため、仕事などで運動量が多い方、筋トレなどのハードな運動を日常的に行っている方もAST(GOT)の数値が上昇することがあります。この場合、CK(おもに筋肉に存在する酵素)の値の上昇もみられることが多いです。運動による一時的な上昇の場合、しばらく運動を休むと数値が下がります。運動による上昇が考慮されずAST(GOT)のみが基準範囲を超えている場合は、心筋梗塞や筋肉の異常が疑われます。

AST(GOT)およびALT(GPT)が上昇すると疑われる病気:急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝がんなど

これは何のための検査?「AST(GOT)」
これは何のための検査?「ALT(GPT)」
これは何のための検査?「クレアチンキナーゼ(CK)」

γ-GTP

γ-GTPは、肝臓、腎臓、膵臓などの臓器に障害が起きたときや、胆汁の排出路(肝内胆管、胆嚢、総胆管など)に異常が起こると上昇します。アルコールとの相関が強いので、日常的に飲酒を多くする方は数値が上昇する傾向があります。アルコールによる一時的な上昇が疑われた場合は、1〜4週間程度の断酒でγ-GTPを含む肝機能が改善するかどうかを確認します。

上昇すると疑われる病気:急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がん、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝炎、薬剤性肝障害、胆道系疾患など

これは何のための検査?「γ-GTP

ALP

ALPは胆汁中に放出される酵素で、肝臓や腎臓、腸や骨で作られています。胆汁の流れる道は胆道と呼ばれ、肝臓内の肝内胆管、総肝管、胆嚢、総胆管、十二指腸乳頭部の総称です。胆道がふさがれて流れが悪くなると(胆汁うっ滞)、血中のALPが上昇します。

AST(GOT)およびALT(GPT)は急性肝炎など肝臓の病気で数値が上昇しますが、胆汁うっ滞ではあまり上昇しません。一方で、ALPは胆汁うっ滞など胆道の病気で数値が上昇しますが、肝炎などではあまり上昇しません。したがってこれらの酵素値を比較することで肝機能障害の原因が肝臓由来なのか、胆道由来なのかを推測するのに役立ちます。また、骨の病気や妊娠中の女性、成長期の子どもはALPが高い数値を示すことがあります。

上昇すると疑われる病気:肝内胆汁うっ滞、胆嚢結石、閉塞性黄疸、肝がん、薬剤性肝障害など

これは何のための検査?「ALP」

総ビリルビン(T-BIL)

ビリルビンとは古くなった赤血球が破壊されるときにできる黄色い色素のことで、肝臓で処理されたのち胆汁になって胆道へ排出されます。肝臓で処理される前のビリルビンは「間接ビリルビン」、胆汁中に排出されたビリルビンは「直接ビリルビン」と呼ばれ、これらを合計したものが総ビリルビン(T-BIL)です。肝臓の機能が低下すると間接ビリルビンが血中に増加して、皮膚や白目が黄色くなる黄疸と呼ばれる症状が現れることがあります。

上昇すると疑われる病気:肝炎、肝硬変、肝がん、胆道系疾患、体質性黄疸など

これは何のための検査?「総ビリルビン(T-BIL)」

肝機能障害で考えられる病気は? 早期発見すれば生活習慣の見直しで改善することも

アルコール性脂肪肝

アルコール性脂肪肝は、お酒の飲み過ぎによって起こる脂肪肝です。肝臓でアルコールを分解するときに発生するアセトアルデヒドという悪性物質が活性酸素を通じて肝細胞を傷つけることで、脂肪が分解されにくくなり肝細胞に中性脂肪が蓄積されます。

1日あたりの純エタノール摂取量が男性30g以上(1日あたりビール750ml、日本酒1合半、ワイングラス2杯半、ウイスキーダブル1杯半)、女性20g以上を超え続けると、アルコール性肝障害を起こすことがあるとされています*6。ただし、肥満の方や日本人の約46%に該当するとされるALDH2不活性型(生まれつきアセトアルデヒドを分解する酵素が弱い方)はより少量の飲酒量で肝障害を起こす危険があるため注意が必要です*10

アルコール性脂肪肝が進行するとアルコール性肝炎、肝硬変、肝がんになる危険があるため、悪化する前に断酒、節酒をすることが重要です。典型的な症状としては食欲不振、だるさ、発熱が挙げられ、肝臓が腫れてくると右上腹部痛や腹水(身体の中に体液が溜まる症状)、黄疸が現れます。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

過食、運動不足、肥満、糖尿病、脂質異常症などアルコール以外の要因によって引き起こされる脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれます。近年、肥満人口の増加によりNAFLDが増加していることが問題視されており、日本でのNAFLD有病率は9~30%、患者数は推定1000万人以上です。非アルコール性と言っても、少量の飲酒をしている人もNAFLDに含まれます*6

NAFLDのうち8~9割の方はほとんど進行しませんが、残りの1~2割は肝硬変や肝がんへ進行すると言われています。このように徐々に進行していくタイプのNAFLDは非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれます。アルコール性脂肪肝と同様に、初期はまったくと言っていいほど症状が現れないため、血液検査や画像検査を利用して進行していないかを確認することが重要です*6

ウイルス性肝炎

ウイルス性肝炎は、A、B、C、D、E型などの肝炎ウイルスに感染することで引き起こされる肝臓の病気です。A、E型は汚染された水や二枚貝、ジビエ肉や内臓などおもに食べ物を介して感染します。B、C、D型は輸血、注射器の使い回し、剃刀や歯ブラシの共用、入れ墨などおもに血液を介して感染します。

日本での持続感染者はB型とC型が多く、B型が110~120万人、C型が90~130万人いると推定されています*11。肝炎ウイルスに持続感染すると、自覚症状がないまま肝硬変や肝がんに進行する危険があります。国立がん研究センターの発表によると、肝炎ウイルス感染者の肝がんリスクは非感染者にくらべて28.2倍高いことがわかっており、C型肝炎ウイルス単独感染者は約35.8倍、B型肝炎ウイルス単独感染者は16.1倍でした*12。各都道府県や自治体の取り組みとして、肝炎ウイルスの無料検査(B型・C型)や、治療費の助成などが行われている場合があります。

薬剤性肝障害

薬剤性肝障害は、薬の服用により肝臓の機能に障害が起こる病気です。解熱剤、抗がん剤、高糖尿病薬、高脂血症薬、痛風薬、睡眠剤、抗うつ剤、漢方薬、サプリメントなどさまざまな医薬品で起こる可能性があります。薬剤性肝炎の症状として、食欲不振、倦怠感、発熱、かゆみなどが現れる場合があります。

薬剤性肝炎が起こるパターンは大きく4つあります*13

  • 規定量の10〜20倍など大量の薬品を一度に摂取した場合
  • 少量の摂取であっても薬へのアレルギーがあった場合
  • 代謝や分解が体質にあっていない薬品を6ヶ月(なかには2年以上)服用し続けている場合
  • 薬の副作用などによって免疫機能が下がり、その結果体内の肝炎ウイルスなどが増加して肝炎を起こしてしまう場合

薬剤性肝障害を早期発見するためには日頃からお薬手帳などで飲んだ薬を記録しておくこと、お酒と一緒に薬を飲まないこと、アレルギー体質がある場合は事前に医師に伝えておくことなどがあります。また、常用している健康食品やサプリメントの情報も記録しておきましょう。まれに、サプリメントなどが薬剤性肝障害の原因となる場合があるためです*14,*15。医療施設で処方された薬品の場合は無断で中止すると危険な場合があるため、まずは医師に相談してください。

自己免疫性肝炎

自己免疫性肝炎は、自己免疫の異常により長期間に持続する肝炎で、男女比は1:6と女性に多く、とくに60歳前後の中年以降の女性に多いと言われています*16。自己免疫性肝炎が起こる原因は未だ解明されていませんが、遺伝的要素やウイルス性感染(A型肝炎ウイルス、伝染性単核症、サイトメガロウイルス、麻疹ウイルス)、一部の薬品などが誘発しているという報告があります。自己免疫性肝炎と診断される方の約1/3に慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群(涙腺や唾液線に異常が起こりドライアイなどの乾燥症状が表れる病気)、関節リウマチなどの自己免疫疾患や膠原病の合併が見られるのが特徴的です。適切に治療すれば予後はおおむね良好ですが、適切に治療をしなかった場合、ほかの肝臓の病気に比べて早期に肝硬変や肝不全へ進行する傾向があるとされています。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、肝臓の中を通るとても細い胆管(胆汁が流れる管)が壊れ、胆汁の流れが通常よりも滞ることで起こる肝機能障害です。原因は未だ解明されていませんが、自己免疫反応の異常により胆管が攻撃されることが要因のひとつと考えられています。特徴として、ALPやγ-GTPなどの胆道系酵素の数値の上昇や血液中に抗ミトコンドリア抗体(AMA)という自己抗体が検出されることが挙げられます。2018年の推定患者数は3万7000人で、中年女性に多いです*17。かゆみなどの自覚症状が表れていない初期であれば効果的な治療薬の普及により予後は非常によいですが、黄疸(肌や白目などが黄色くなる症状)などの症状が現れるほど進行すると肝不全や食道静脈瘤破裂のリスクが高くなり予後不良とされています。

がん

肝臓に発生するがんはおもに、肝臓自体から発生する原発性肝がん、肝臓内の胆管(胆汁が流れる細い管)に発生する肝内胆管がん、ほかの臓器に発生したがんが肝臓に転移して発生する転移性肝がんの3つに分類されます。肝がんは基本的に突然発生することなく、10〜20年におよぶ肝炎ウイルスへの長期感染や、アルコール性脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などにより、慢性的な肝障害が肝硬変に進行してしまった場合に発生することがほとんどです。そのため肝炎ウイルス検査を一度も受けたことがない方や、日常的に飲酒量が多い方、健康診断で数年にわたって肝機能障害と診断されているが放置している方などは注意が必要です。

肝機能障害を改善する3つの生活習慣

アルコール性肝障害は断酒が原則

アルコール性脂肪肝(肝障害)を治癒する方法は断酒のみです。断酒をすることでAST、ALTおよびγ−GTPなどの肝機能を改善できます。初期段階であれば1ヶ月程度の断酒で血液検査の肝機能数値が基準範囲内になり、肝臓の働きが正常に戻りますが、肝硬変に進行すると断酒をしても肝機能を正常に戻すことは不可能になります。自分で断酒をするのが難しい場合は、アルコール外来や減酒外来などを行っている医療施設を利用するのも効果的です。

なお、国立がん研究センターによれば、ストレスを長期間にわたって自覚している方ほど全がんの罹患リスクが高くなるとの報告があり、なかでも肝がんはとくにストレスの影響を受けやすい可能性が考えられるとしています*18。ストレスとがん発生のメカニズムはいまだ解明されていないものの、ストレスによる喫煙や飲酒、免疫機能低下などの影響が考えられています*18

ストレスを感じるとお酒を飲みたくなるなど自身のみでは断酒が難しい場合は、アルコール外来や減酒外来などの受診を検討しましょう。

肝機能の改善につながる食生活

脂肪肝(とくにNAFLD)と診断された方は、肥満を改善する食生活を心がけましょう。「NAFLD/NASH診療ガイドライン」には、カロリー制限による体重減少がNAFLD/NASHを改善させるとあります*19。特定の食品しか食べないといった極端なカロリー制限ではなく、必要な栄養素は過不足なく摂取しつつ過剰になりがちなカロリーを控えていくことが健康的な減量につながります。ポイントを下記にまとめました*6,*19

飲料、菓子類に含まれる果糖を控える

体重増加や脂肪肝との関連が指摘される果糖の摂り過ぎに注意しましょう。果糖はジュースや清涼飲料水、缶コーヒーといった飲料や、菓子類をはじめとするさまざまな加工食品、果物にも含まれています。

動物性脂肪やトランス脂肪酸を控える

ラードやバターなどの動物性の油(飽和脂肪酸)や、マーガリンやショートニングに含まれるトランス脂肪酸の摂取を控えましょう。トランス脂肪酸が肝臓に影響を及ぼす可能性を示唆する研究もあります*20

不飽和脂肪酸の摂取を意識する

不飽和脂肪酸のなかでも、青魚などに含まれるオメガ3脂肪酸が肝がん発生リスクの低下につながるとの研究結果があります*21。なお、MCTオイル(中鎖脂肪酸のみを抽出したオイル)の摂取が肥満による肝疾患に対し肝臓を守る働きを持つ可能性を示したとの研究結果もありますが、同研究ではMCTオイルの成分によって機能が異なる点も言及しており、今後より詳しい研究が待たれます*22。また、肝臓への負担を考えて注意を呼びかけている医療施設もあります。肝機能の異常を指摘されている方は、摂取について医師と相談しましょう。

ビタミンEの摂取を意識する

「NAFLD/NASH診療ガイドライン」では、薬物療法としてビタミンEの投与が推奨されています*19。ビタミンEはアーモンドなどのナッツ類、ほうれん草やブロッコリーなどの緑色野菜に多く含まれています*23。ただし、冠動脈疾患がある方は過剰摂取に注意が必要です*19。摂取量について医師と相談しましょう。

有酸素運動で体重減少

「NAFLD/NASHガイドライン」によると、食事療法と運動療法を組み合わせた減量が肝機能を改善させることがわかっています。具体的には7%の体重減少によって肝臓の脂肪が減少して炎症を減らす効果が認められました。さらに10%の体重減少では肝繊維化(肝細胞が繰り返し傷つけられて自己修復がうまくできていない状態)の改善が期待できます*19

効果的に減量するためには、有酸素運動を取り入れましょう。内臓脂肪を減少させるのに必要な運動量は少なくとも1週間あたり10メッツ・時以上(メッツ・時=運動強度×実施時間)と言われています(運動単独の場合)*24。これはどのくらいの運動量かというと、早歩き(約4 メッツ)を30分間×週5日実施することに相当します(4メッツ×0.5時間/日× 5 日/週=10メッツ・時/週)。ただし1回あたりの運動時間は短くても長くても減量の効果は大差ないことがわかっているため、自身に適したペースで継続をすることが重要と言えそうです。

また、近年ではレジスタンス運動と呼ばれるスクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングも有酸素運動と同様に肝機能改善に有用であると報告されています*19

極端なダイエット、健康食品やサプリ、プロテインにも注意が必要

肝機能の改善には食事や運動による減量が有用ですが、一方で極端なダイエットなどによる栄養の偏りも脂肪肝の原因となることが指摘されています(低栄養性脂肪肝)*25。栄養が多すぎても少なすぎても、肝臓は脂肪を蓄積しやすくなるということです。

健康食品として成分が凝縮されたものやサプリメントなどの長期摂取も、一定の栄養素の過剰摂取につながるため注意が必要です*14,*15。また、水分補給替わりにプロテインを飲用するなどもタンパク質の過剰摂取につながり、肝臓や腎臓に負担がかかることがあります。

健康維持には、食事からさまざまな栄養素を過不足なく摂取することが理想です。健康食品やサプリメントを常用する際は、事前にかかりつけ医に相談することが望ましいでしょう。

肝がんの早期発見は健康診断では不十分。人間ドックでは画像検査の追加が可能

肝臓について、自治体の特定健診や企業の健康診断の血液検査に含まれているのは基本的な肝機能項目のみです。詳しい肝臓の検査を受けたい方は人間ドックで画像検査を追加することができます。ただし、肝炎ウイルスに感染していることがわかっている方、あるいは慢性肝炎・肝硬変と診断されている方は診察を受けて医師の指示に従ってください。

肝機能障害に不安がある方には、腹部超音波(エコー)検査がおすすめです。上腹部全体(肝臓、胆嚢、腎臓、膵臓、脾臓)を観察するため、肝機能障害の原因になりうる肝がんや胆管がん、胆嚢結石、急性および慢性肝炎、脂肪肝の有無に加えて腎臓結石や胆嚢ポリープ、膵臓がんなどの病気の有無をエコー画像によって調べることが可能です。このほか、医療施設によってはCT検査やMRI検査を用いた肝臓の検査コースを選択することができます。

参考資料
*1. 日本医療機能評価機構「Mindsガイドラインライブラリ」 肝癌 Minds版やさしい解説
*2. 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
*3. 厚生労働省 e-ヘルスネット 特定健康診査の検査項目
*4. 厚生労働省 知って、肝炎
*5. 国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計
*6. 日本消化器病学会「患者さんとご家族のためのNAFLD/NASHガイド」2016年
*7. 日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドラインJSLM2021 基準範囲・臨床判断値」
*8.厚生労働省「特定健診・特定保健指導の健康増進に係る科学的な知見を踏まえた技術的事項に関する資料」2022年
*9.日本人間ドック学会「判定区分 2023年度版」2023年5月改定
*10.アルコール健康医学協会 適正飲酒の10か条 第2条 食べながら適量範囲でゆっくりと
*11.厚生労働省 肝炎総合対策の推進
*12.国立がん研究センター がん対策研究所予防関連プロジェクト C型肝炎ウイルス感染と肝がん
*13.厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 肝臓「薬物性肝障害」2019年9月改訂
*14.国民生活センター「健康食品の摂取により薬物性肝障害を発症することがあります」2017年
*15.日本医師会「『健康食品』やサプリメントを摂りすぎていませんか?」2012年
*16.難病情報センター 自己免疫性肝炎(指定難病95)
*17.難病情報センター 原発性胆汁性胆管炎(指定難病93)
*18.国立がん研究センター がん対策研究所予防関連プロジェクト 自覚的ストレスとがん罹患との関連について
*19.日本消化器病学会、日本肝臓学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)」
*20.田中直樹ら(2022)「食事中トランス脂肪酸による肝発癌促進機構の解明と予防法の開発」科学研究費助成事業 研究成果報告書
*21.国立がん研究センター がん対策研究所予防関連プロジェクト 魚、n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連について
*22.京都大学「食事性肥満から肝炎発症に関わる制御因子の同定―中鎖脂肪酸油による予防・GPR84標的NASH治療薬の可能性―」
*23.厚生労働省 eJIM ビタミンE
*24.厚生労働省 e-ヘルスネット 内臓脂肪減少のための運動
*25.日本生化学会 タンパク質栄養状態悪化による肝脂肪蓄積の機構

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