2015.4.27

アンジェリーナ・ジョリーの乳腺切除と卵巣摘出、その社会的意義<後編>

健康な人々にももたらされた、“アンジー効果”

81st Annual Academy Awards - Arrivals米女優のアンジェリーナ・ジョリーが、がんリスク回避のために乳腺切除と卵巣摘出の手術を受けたという。女性特有のがんを罹患した女性にとっては、勇気をもらえるアクションだったと、実際に若くして卵巣がんを罹患したMさんは語った。
「アンジェリーナ・ジョリーの乳腺切除と卵巣摘出、その社会的意義<前編>」はこちら

では、乳がんや卵巣がんを罹患していない健康な女性に、彼女はどんな影響を与えただろうか。多くのメディアが挙げるのは、「遺伝子を原因とするがんがあると知らしめた」こと、そして「乳がんへの注目を集めた」ことだ。

前者は、遺伝子検査や家族の病歴への関心を高めた。後者は、メディアが報じることにより、乳がんというワードを多くの人の目に触れさせることになった。FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアでも話題になり、乳がんの検査の喚起へとつながった。

さらにもうひとつ、多くの人が知ったワードがあるとMさんは言う。「乳房再建手術」だ。

失ったふくらみを取り戻すということ

手術で女性特有の臓器を失うことについて、Mさんはこう話す。「私は左の卵巣と卵管を失いましたが、術後の経過診察でエコー検査を受けるたびに涙が止まりませんでした。エコー検査によって、左卵巣がないことを思い知らされる。克服までに7年近くかかりました。乳房がなくなるということは、裸になるたびにつらい気持ちに襲われるということです」

病巣が大きく、大部分の組織を摘出することになった場合でも、失ったふくらみを再建できる手術、それが乳房再建手術だ。方法は大きくふたつある。ひとつは、おなかや背中などからの組織移植、そしてもうひとつは人口乳房(インプラント)の挿入である。前者は比較的リスクが少ないが、乳房以外の皮膚にも傷をつくることになる。アンジェリーナ・ジョリーも受け、いま注目を浴びているのは、後者のインプラントの挿入だ。

2013年、日本でのインプラントによる乳房再建が保険適用化された。それまでおよそ100万円かかっていた手術が、30万円程度の負担で受けられるようになった。乳房再建は、現実的な選択肢のひとつになったと言える。しかしながら、インプラントの挿入には感染症などのリスクも存在する。保険適用によって乳房再建を導入する医療施設が増えたものの、技術がともなっていないことを指摘する専門家もいる。術後も変わらぬ外見と生活を取り戻すためにも、病院選びには、リスクの説明の有無や手術の実績などの確認が不可欠だ。

乳房再建は乳がん罹患者の希望だとMさんは言う。「乳房を再建できれば、心の傷を浅くすることができます。友人と温泉にだって行けるし、海やプールで水着になることもできる。あたりまえの生活に戻れるのです」。アンジェリーナ・ジョリーが社会に提示したのは、遺伝子検査や予防措置のための手術という選択肢だけではない。仮に乳がんになってしまったとしても、「乳房再建」という選択肢があることを女性たちに提示した。

卵巣と卵管の摘出後、彼女は『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿をこうしめくくっている。「知識は力です」。

上 昌広(かみ まさひろ)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所理事長
マーソ株式会社 顧問
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈(やまもと かな)
この記事の監修ドクター
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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Colorda編集部