健康診断

健康診断の実施から報告まで「会社の義務」を解説。受診拒否する従業員への対応や健康診断の費用も紹介

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会社(企業・事業所)には、健康診断の実施が義務づけられています。定期的に従業員の健康をチェックし、従業員の労働環境を整えることが目的です。ここでは健康診断の実施から報告まで会社の義務についての解説と、受診を拒否する従業員への対応や健康診断の費用について紹介します。

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★こんな人に読んでほしい!
・会社の健康診断の対象者を知りたい方
・健康診断の費用について、会社が負担する範囲を知りたい方
・健康診断を拒否する従業員への対応を知りたい方

★この記事のポイント
・従業員を雇用する企業には健康診断の実施義務がある
・正社員だけでなく条件によってパートやアルバイトも健康診断を受ける必要がある
・厚生労働省は「健康診断の費用は会社負担が望ましい」としている
・就業規則に健康診断についての項目を盛り込んでおこう

健康診断の実施は会社の義務

会社の健康診断の目的

会社経営をする事業者(以下、会社)には、労働安全衛生法第66条により従業員に対する健康診断の実施が義務づけられています*1

会社の健康診断の目的は、従業員の健康状態を把握したうえで従業員ごとに適した働き方や環境を整え、従業員の健康を守ることにあります*2

会社の健康診断は、1972年の労働安全衛生法の制定により始まりました。その後、数度の検査項目の追加、変更が行われ、現在に至ります*3

1972年1989年1998年2007年~
項目・既往歴・業務歴の調査
・自覚症状・他覚症状の有無の検査
・身体計測(身長、体重)
・視力・聴力検査
・胸部X線(レントゲン)検査、喀痰検査
・血圧測定
・尿検査(尿糖、尿蛋白)
・既往歴・業務歴の調査
・自覚症状・他覚症状の有無の検査
・身体計測(身長、体重)
・視力・聴力検査
・胸部X線(レントゲン)検査、喀痰検査
・血圧測定
・尿検査(尿糖、尿蛋白)
・既往歴・業務歴の調査
・自覚症状・他覚症状の有無の検査
・身体計測(身長、体重)
・視力・聴力検査
・胸部X線(レントゲン)検査、喀痰検査
・血圧測定
・尿検査(尿糖、尿蛋白)
・既往歴・業務歴の調査
・自覚症状・他覚症状の有無の検査
・身体計測(身長、体重、腹囲
・視力・聴力検査
・胸部X線(レントゲン)検査、喀痰検査
・血圧測定
・尿検査(尿糖、尿蛋白)
追加・変更・貧血検査(Hb、RBC)
・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
・血中脂質検査(TC、TG)
・心電図検査
・貧血検査(Hb、RBC)
・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
・血中脂質検査(TC、TG、HDL
・心電図検査
・貧血検査(Hb、RBC)
・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
・血中脂質検査(LDL、HDL、TG)
・心電図検査

太字は当該年に追加・変更のあった項目

上記の健康診断に加え、2015年12月には従業員50人以上の会社を対象に、従業員のメンタルヘルスに着目した「ストレスチェック」の年1回の実施も義務化されました*4。なお、2022年8月現在実施されている会社の健康診断の種類と検査項目は「健康診断の種類と検査項目」で紹介します。

健康診断を実施しないと罰則も

会社が健康診断を実施しなかった場合、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金が科されます*1。また、下記を行わなかった場合も同様です。

・健康診断の結果の記録(第66条の3)
・健康診断の結果の通知(第66条の6)
・都道府県労働局長の臨時の健康診断の実施等(第66条第4項)

健康診断にて知り得た情報が漏洩した際には、同法第105条(健康診断等に関する秘密の保持)の違反となり、同法第119条により6ヶ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科されます。

また、従業員による健康診断の受診拒否にも注意が必要です。健康診断を受診しない従業員に受診勧奨をせず本人に健康被害が生じた場合、安全配慮義務違反(労働契約法第5条*5)に抵触するおそれがあるためです。

会社に健康診断の実施義務があるように、従業員にも会社の健康診断を受ける義務があります(労働安全衛生法第66条第5項)。ただし他の医師による健康診断を受け、その結果を提示する場合はこの限りではありません(安全衛生規則第50条*6)。しかしながら、従業員が健康診断を受診しない場合、従業員に対する法的な罰則は設けられていません。

従業員がためらうことなく健康診断を受診できるようにするために、会社側は受診義務の周知はもちろん、目的への理解をうながす働きかけ、医療施設・受診日の選択肢を増やす、情報の取り扱いについての丁寧な説明など、さまざまな取り組みが必要と言えます。健康診断の受診について、就業規則などであらかじめ取り決めておくことも一案でしょう。

健康診断の費用は会社が負担

「健康診断の費用は企業(事業者)が負担すべき」が厚生労働省の見解です*7。健康診断は、労働安全衛生法により会社に義務づけられているためです。

健康診断の受診時間の賃金の発生については会社ごとに異なる(労使間の協議)としつつも、従業員の円滑な受診を鑑みると健康診断の受診時間にも賃金を支払うほうが望ましいとの見方を示しています*8

会社の健康診断の費用は医療施設などによって異なりますが、おおむね5,000~15,000円程度(保険適用外)です。団体で受診する場合には費用が割引されるケースもあるため、加入中の保険組合や医療施設に問い合わせてみましょう。

なお、健康診断の費用は、次の条件を満たすことで経費として計上可能です。

・受診義務がある従業員全員が健康診断を受診している
・従業員の健康管理を目的とした常識的な範囲の健康診断である
・会社が健康診断の費用を医療機関に直接納めている

パート、派遣社員は? 会社の健康診断の受診義務がある人

正社員のほかパート、アルバイトも労働時間によって受診義務あり

会社の健康診断を受ける義務があるのは正社員です。アルバイトやパートタイマーの方も次の条件に当てはまる場合、会社が実施する健康診断を受ける義務があります*9

・期間が定められていない雇用契約を結んだ、または1年以上の雇用期間が定められている
 ※契約更新によって1年以上雇用されている場合も含まれる
・同じ業務に就く通常の従業員の1週間の所定労働時間の4分の3以上の労働時間数(週)である

なお厚生労働省では、雇用契約の条件を満たしており、同じ業務に就く通常の従業員の1週間の所定労働時間の2分の1以上の労働時間数(週)である方にも、健康診断を実施することが望ましいとしています。

通常の従業員の週の労働時間数が40時間と仮定した場合、週に20~30時間以上勤務していれば健康診断の対象となる計算です。

派遣社員は派遣会社が実施

派遣社員の健康診断に関しては派遣先企業(会社)ではなく、派遣会社に実施義務があります。ただし、派遣先企業は派遣社員に対しても安全配慮義務(労働契約法第5条*5)が発生します。

派遣社員も含めた全従業員が安全で健やかに働けるような労働環境の整備は、会社にとって重要なミッションであると言えるでしょう。

従業員の家族は受診義務なし

従業員の家族は、健康診断の受診義務はありません。受診義務は、会社から賃金を支払われる者に発生するためです。

従業員の扶養家族が健康診断を受けたい場合、自治体の健康診断(40歳以上は特定健診)や医療施設による健康診断(保険適用外)があります。いずれも費用は受診者が負担しますが、自治体によっては無料、または安価で健康診断を受けられます。また、健康保険組合によっては従業員の扶養家族向けの健康診断を設定しているケースもあります。加入中の健康保険組合に問い合わせてみましょう。

代表取締役に受診義務はないが、健康診断の受診が望ましい

会社の健康診断は労働者(賃金を支払われる者)に対して行われるものであるため、賃金を支払う立場である事業主(社長、代表取締役)に受診義務はありません。しかしながら、健康管理が大切であることに変わりありません。年に1回は健康診断や人間ドックを受けることをおすすめします。

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健康診断の種類と検査項目

会社が実施する健康診断の種類

会社に実施義務がある健康診断には、いくつかの種類があります。そのうち、「一般健康診断」と呼ばれる健康診断の種類は以下のとおりです*10

対象実施時期
雇入れ時の健康診断常時雇用の従業員雇用が決まった時点
定期健康診断常時雇用の従業員年1回
特定業務従事者の健康診断労働安全衛生規則第13条第1項第2号に該当する業務に就く従業員対象業務への配置替え時、6ヶ月に1回
海外派遣労働者の健康診断海外に6ヶ月以上派遣する従業員海外への6ヶ月以上の派遣前
海外から帰国後の国内での業務開始前
給食従業員の検便給食業務に就く従業員雇用が決まった時点
配置替えの時点

上記のほか、業種によって異なる検査項目を加えた特殊健康診断などがあります(「その他、特別な健康診断」を参照)。

一般健康診断の検査項目

一般健康診断のうち、会社が年1回行う定期健康診断と雇入れの際に行う健康診断の検査項目が下表です*10

定期健康診断雇入れ時健康診断
●既往歴・業務歴の調査
●自覚症状・他覚症状の有無の検査
●身体計測(身長※、体重、腹囲※)
●視力・聴力検査
●胸部X線(レントゲン)検査※、喀痰検査※
●血圧測定
●血液検査※
・貧血:血色素量、赤血球数
・肝機能:GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP
・血中脂質:LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪
・血糖
●尿検査(尿糖、尿蛋白)
●心電図※

※医師が必要でないと認めたときに省略可能な項目
●既往歴・業務歴の調査
●自覚症状・他覚症状の有無の検査
●身体計測(身長、体重、腹囲)
●視力・聴力検査
●胸部X線(レントゲン)検査
●血圧測定
●血液検査
・貧血:血色素量、赤血球数
・肝機能:GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP
・血中脂質:LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪
・血糖
●尿検査(尿糖、尿蛋白)
●心電図

海外に6ヶ月以上派遣する従業員は、渡航前後の定期健康診断(医師の判断により検査項目の追加あり)が必須です。また、給食従業員は雇用決定の時点と配置替えの際に検便が必要となります。

その他、特別な健康診断

一般健康診断のほか、業種によっては特別な健康診断が求められます*10。いずれも配置替え時や6ヶ月に1回(じん肺健診は管理区分に応じて1~3年以内ごとに1回)の受診が必須です。

対象者
特殊健康診断・有機溶剤業務に従事する方(屋内作業場など)
・鉛業務に従事する方
・四アルキル鉛等業務に従事する方
・特定化学物質の製造および取扱い業務に従事する方
(一部の物質に限り、過去に従事した方も含む)
・高圧室内業務もしくは潜水業務に従事する方
・放射線業務に従事する方
・除染などの業務に従事する方
・石綿の粉塵発散場所での取扱い業務に従事する方
(過去に従事した方も含む)
じん肺健診・粉じん作業に従事する方
・粉じん作業に従事した経験がある管理区分2および管理3の方
歯科医師による健診塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄リンなどから発生するガスや蒸気、粉塵が発散する場所での業務に従事する方

検査項目は業種によって異なります。詳細は、都道府県労働局や労働基準監督署に問い合わせてください。

健康診断の実施後に会社が行う対応

従業員への結果の通知と記録の保管

会社には、健康診断を受けた従業員に対し所見の有無にかかわらず健康診断の結果を通知することが義務づけられています。また、会社には従業員の健康診断結果を5年間保管する義務があります*11, *12

従業員の健康診断結果の保管については、従業員の同意が必要です*11。厚生労働省では、健康情報等の取扱いについての規定を就業規則に明記しておくことが望ましいとしています*13

また、同省では健康診断のデータの閲覧について、次に該当する者としています*13

・直接の人事権を持つ監督的な地位の者(社長、役員、人事部長など)
・産業保健業務従事者(産業医、保健師、看護師など)
・管理監督者(従業員本人の所属長)
・人事部門の事務担当者

医師への意見聴取、労働環境の整備

健康診断の結果、異常(所見)が見られた従業員には、次の措置を講じる必要があります*11

・当該従業員の健康について医師などに意見を求める
・当該従業員への医師や保健師からの保健指導
・当該従業員との話し合いのもと、健康状態に応じた労働時間の短縮や配置転換

また、厚生労働省は二次検査(再検査や精密検査)が必要だと診断された従業員に対しては、再受診の声がけを行うことが望ましい*11としています。

所轄労働基準監督署長への報告

50名以上の従業員を雇用する企業は、所轄の労働基準監督署に健康診断結果を報告することが義務づけられています*9。報告に必要な書類は厚生労働省サイトにてダウンロードできます。

従業員数50名未満の企業に対しては、健康診断結果の報告義務はありません。ただし、あくまでも報告義務がないだけであり、健康診断の実施義務はあります。

【健康診断を管理しているご担当者様へ】煩雑な健診管理をカンタンに! サービス利用料無料&選べる医療機関は全国1,200以上、「MRSO法人健診管理サービス」の詳細はこちら→

参考資料
*1.e-Gov法令検索 労働安全衛生法
*2.厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会 報告書」(2016年)
*3.厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会 報告書【参考資料】」(2016年)
*4.厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」(2021年改訂)
*5.e-Gov法令検索 労働契約法
*6.e-Gov法令検索 労働安全衛生規則
*7.厚生労働省 よくある質問「健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?」
*8.厚生労働省 よくある質問「健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?」
*9.東京都労働局 よくあるご質問「Q16.一般健康診断では常時使用する労働者が対象になるとのことですが、パート労働者の取り扱いはどのようになりますか?」
*10.厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
*11.厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(2017年改正)
*12.厚生労働省 第5回 健康診査等専門委員会「【資料1−2】検診結果等の保存期間について」(2019年)
*13.厚生労働省「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」(2019年)

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