PET検査

PET検査はがん以外の病気にも反応。炎症や良性疾患によるケース、認知症を早期発見するためのPETも紹介

PET検査 PET検査
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

人間ドックとしてのPET検査は、ほぼ全身のがんの早期発見を目的として用いられる検査で、がん細胞に薬剤が集積する(集まること)仕組みを利用します。しかし薬剤が集積するのは、じつはがん細胞だけではありません。がん以外に、どういった病気に薬剤が集積するのか、病気以外にも集積するのか、なぜ集積するのかなどを解説します。また近年注目されている、認知症の早期発見を目的としたPET検査も紹介します。

★こんな人に読んでほしい!
・PET検査を検討中で情報収集している方
・PET検査で異常が指摘され、がんなのかがん以外なのか心配で検索している方
・がん以外でPET検査の薬剤が集積する病気を知りたい方

★この記事のポイント
・PET検査ではブドウ糖が活発に消費されている部位に18F-FDGが集積し、色が濃く写ったり、光っているように見えたりする
・PET検査で異常が指摘されたからといって必ずしもがんであるとは限らない
・副鼻腔炎・肺炎・肝炎などの炎症、子宮筋腫・子宮内膜症・良性卵巣腫瘍などの良性の病気などでもブドウ糖代謝が活発になり、薬剤が集積することがある
・腸管蠕動(ぜんどう)亢進、人工肛門部位、月経時子宮内膜、排卵期卵巣、授乳中乳線など病気以外の要因で薬剤が集積することもある
・人間ドックで行えるがん以外のPET検査として、認知症の早期発見を目的としたPET検査(アミロイドPET)が近年注目されている

PET検査は全身のがんを一度に調べられる検査としてよく用いられる

PET検査でがんを見つける仕組み

PET(ペット)検査は、Positron Emission Tomographyの頭文字を略した名称で、正式には陽電子放出断層撮影といいます。全身のがんの可能性を調べる検査として有用です。がん細胞は正常細胞よりもエネルギー消費が激しく、ブドウ糖を大量に消費する特徴があります。その仕組みを利用して、PET検査では、ブドウ糖に似た性質を持つ薬剤「18F-FDG (18-Fフルオロデオキシグルコース)」という放射線同位元素を注射し、がん細胞に薬剤が多く集積(集まること)する部位を特定することでがんの有無や位置を確認します。

画像上では薬剤が多く集積する部位が濃く写ったり、明るく目立っている(光っている)ように見えたりします。見え方は、医療施設が導入しているPET装置や解析プログラムなどによって異なります。

PET検査のメリット・デメリット

PETはほぼ全身のがんを一度に調べられる検査です。しかしながら、現時点ではがん検診の有効性の十分な臨床データがなく、国が推奨するがん検診ではありません*1。PETをがん検診に用いる場合、他の検査を併用する「総合がん検診」が望ましいとされています*2。これらを踏まえ、PET検査のメリットとデメリットをまとめました*1,*3

【PET検査のメリット】
・ほぼ全身のがんの有無を2~3時間程度の検査で一度に調べることができる
・がんの進行の程度を知ることができる
・がんの転移・再発を効率的に調べることができる
・18F-FDGの静脈注射後は横になった状態で撮影するだけなので、身体的負担が少ない

【PET検査のデメリット】
・PET検査が不得意とするがんがある(およそ1cm以下の小さながんや消化器官粘膜に発生する早期のがん*4、悪性度の低いがんなど)
・がんの正確な位置や形は把握しづらく、がんかどうか判断しにくい部位がある
・費用が高い
・わずかだが被曝する
・偽陽性になる(がん以外の原因でも反応が出る)ことがある

精度を高めるためにはほかの検査と組み合わせるとよい

PET検査は全身を一度に調べることができる優れた検査ではありますが、苦手とする部位(胃・腎臓・膀胱など)や精度の限度があります。PET検査による全身がん検診の精度評価に関する研究では、がん発見率は0.96%で、他のがん検診手法で報告されている数字よりも高いと結論づけられています*5。事実、厚生労働省の統計によれば、自治体などで実施されている5大がん検診(胃がん・肺がん・大腸がん・子宮頸がん・乳がん)におけるがん発見率は0.02~0.3%でした*6。また同研究ではPETによる全身がん検診について、がん発見率が良好な一方で感度※は低く、PET単独では発見されないがんも多くあるという結果になりました*5

そのためCTやMRI、超音波(エコー)検査、内視鏡検査など他の検査と併用することで精度の向上が期待できます。病気の発症リスクを自覚している部位がある方や、PET検査に加えて胃部内視鏡検査や腹部超音波(エコー)検査など各部位に特化した検査を組み合わせて受けることをおすすめします。

※感度:病気を持った人のうち、その所見がある人の割合

PET検査で異常ありだったが、がんではなかった。どのような原因が考えられる?

PET検査の偽陽性について

どんな検査であっても、100%がんを判別することはできません。また、実際にはがんでないのに「異常あり(がんの疑いあり)」の判定が出ることがあります。これを「偽陽性」と言います。

PET検査ではブドウ糖が活発に消費されている部位、すなわち、がんが疑われる部位に18F-FDGが集積します。炎症や良性疾患はがんと同様に、ブドウ糖代謝が活発になることがあるため、誤って「異常あり(がんの疑いあり)」「陽性」と判定される場合があります

がん以外で薬剤が集積する要因

PET検査ではブドウ糖が活発に消費されている部位に18F-FDGが集積し、画像上で色が濃く写ったり光って見えたりします。PET検査で薬剤が集積するがん以外の要因としてまず挙げられるのが、炎症性疾患です。炎症が起こると、免疫反応の一環で糖が多く消費され、炎症を起こしている部位の血流が増加するため、PET画像上では薬剤が一時的に多く集積します。炎症の例では下記が挙げられます*7,*8

・脳炎
・副鼻腔炎
・歯周炎
・慢性甲状腺炎
・肺炎
・結核
・逆流生食道炎
・乳腺症
・急性胃炎
・膵炎
・クローン病
・胆のう炎
・肝炎
・サルコイドーシス
など

クローン病とは、大腸や小腸の粘膜に慢性の炎症を引き起こす病気で、難病に指定されています*9。サルコイドーシスとは、肉芽腫と呼ばれる炎症細胞の集積が全身にできてくる病気です*10。また、炎症以外の良性疾患や腫瘤(しこり)に対しても集積を示すことが報告されており、下記がその一例です*7,*8

・子宮筋腫
・子宮内膜症
・良性卵巣腫瘍(チョコレートのう腫・奇形腫)
・大腸ポリープ
・膿瘍(のうよう)
・唾液腺腫瘍
・良性骨腫瘍
など

膿瘍とは、組織内部に膿(うみ)がたまっている状態のことです。上記はいずれも確定診断ではなく、その病気の疑いになります。

さらに上記のほか、腸管蠕動亢進(ぜんどうこうしん)、人工肛門部位、月経時子宮内膜、排卵期卵巣、授乳中乳線などの要因で薬剤が集積する場合もあります*7,*8。腸管蠕動亢進とは、蠕動運動(腸管が食物などを押し進めるために伸び縮みを繰り返す運動)が活発になっている状態を指します。空腹時や感染性胃腸炎、下痢を起こしているときなどに起こりやすいです。

PET画像の配色はブドウ糖代謝の活発度を反映している

PET画像の配色は、異常の検出に役立ちます。PET画像はブドウ糖代謝の活発度を反映しているため、一般的なカラー表示では、ブドウ糖代謝の活発度が高い部位は赤やオレンジなど暖色系、ブドウ糖代謝が低下している部位は青などの寒色系の色で表示されます。がんの可能性で考えたとき、暖色系の色が濃いほどがん細胞の存在の可能性が高いと言えます。しかしながら実際には、前項で紹介した病気や一時的な状態であることもあります。

<PET画像の見え方の例>

なお、医療施設やPET検査装置、解析プログラムなどによって画像の表示方法や配色、評価基準は異なる場合があるため、詳しい画像の見方は医療施設もしくは医師に確認してください。

人間ドックのPET検査で認知症を早期発見できる可能性がある

PET検査は人間ドックで全身のがん検査としてよく用いられますが、近年はアルツハイマー型認知症に特化したPET検査(アミロイドPET)を行う医療施設も増えてきています。

日本の認知症高齢者は高齢化にともない急増しており、2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になる見込みです*11。なかでもアルツハイマー型認知症は認知症の約7割を占めており、認知症の原因としてもっとも割合が高いです*12。アルツハイマー型認知症では、アミロイドβ(ベータ)と呼ばれる異常なタンパク質が脳内に長年蓄積することで進行するという考え方が現在広く支持されています*11。アミロイドPETでは専用のアミロイドPET製剤を投与して画像化することで、アミロイドβが脳内にどの程度蓄積しているかを調べて認知症の発症リスクを評価することができます*13

アルツハイマー型認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の場合でも、脳内では一部糖代謝が低下します*10。MCIにおける記憶力や注意力などの認知機能の低下は日常生活に支障をきたすほどではないため、非常に気づきにくいです*11アミロイドPETは、このような早期の段階からアルツハイマー型認知症への進行を予測できると言われています*10。なお、アミロイドPETはアルツハイマー型認知症の発症リスクを評価するための検査であるため、認知症の診断をするものではありません。

またアルツハイマー型認知症の場合、通常の18F-FDGを用いたPET検査の画像上では、脳内の一部領域(側頭葉や前頭葉など)における集積が周辺よりも少なく表示されます。これは、記憶を司る側頭葉領域の糖代謝低下が起こるためです*10。進行すると、意欲・思考・感情のコントロールなどを司る前頭葉領域の糖代謝も低下するため、これらの領域に18F-FDGが集まらず、周辺との差異がみられます*10

PET検査の費用

PET検査の費用相場はおよそ10万円前後、前項でご紹介したアミロイドPETの費用相場はおよそ30万円前後です。人間ドックなど予防医療と目的としたPET検査は、自由診療のため全額自己負担です。ただし、てんかんやサルコイドーシスなど一部の病気の患者の場合、部位のより正確な特定などでPET検査が用いられることがあり、この場合は保険適用されます*10。適用条件を満たしているかどうかは、あらかじめ医師や医療施設に確認するようにしましょう。

参考資料
​​*1.国立がん研究センター がん情報サービス PET検査とは
*2.日本核医学会、日本核医学会PET核医学分科会「FDG-PETがん検診ガイドライン第3版」(2019年)
*3.国立国際医療研究センター病院 PET-CTとは
*4.日本核医学技術学会学術委員会、日本核医学会他「がん FDG-PET/CT 撮像法ガイドライン 第2版」(2013)
*5.国立がん研究センター「多臓器を対象とした PET によるがん検診の精度評価に関する研究」(2008年)
*6.厚生労働省「令和2年度 地域保健・健康増進事業報告の概況 健康増進編」
*7.日本産科婦人科学会雑誌61巻9号(2009年)「PET 検査の有用性と問題点」
*8.大阪公立大学医学部附属病院 血液内科・造血細胞移植科 FDG-PET
*9.難病情報センター クローン病
*10.日本核医学会「FDG PET, PET/CT診療ガイドライン2020」
*11.厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト 認知症
*12.政府広報オンライン 知っておきたい認知症の基本
*13.日本核医学会、日本認知症学会、日本神経学会「アミロイド PET イメージング剤の適正使用ガイドライン 改訂第2版」(2017年)

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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