人間ドックで行われるPET検査は、一度に多くの種類のがんを発見でき、一般にがんの早期発見に役立つと期待されている検査です。一度の検査でほぼ全身のがんを調べられますが、PET検査では発見しにくいがんも存在するなど、注意事項もあります。PET検査の基本情報から、検査の流れや所要時間、検査前後の注意事項、安静時間に行動制限が設けられている理由を解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・PET検査を検討している方
・初めてPET検査を受けるにあたり、流れや所要時間を知りたい方
・PET検査の安静時間にスマホや読書が禁止の理由を知りたい方
★この記事のポイント
・PET検査は画像診断の一種で、ほぼ全身のがんを一度に調べることができる
・検査の前日~数時間前から、運動や食事の制限がある
・薬剤投与後の安静時間は「何もしない」ことが大切。ぐっすり眠るのもNGとする医療施設もある
・検査後は放射性物質の影響がなくなるまで数時間~1日程度、過ごし方に注意を
・検査結果は1~3週間後に郵送が一般的。医師による結果説明を受ける場合は別料金が必要な場合も
目次
PET検査とは
PET検査はほぼ全身のがんを一度に調べる検査
PET検査とは「Positron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)」の略称で、がんの可能性などを調べる画像診断の一種です。ほぼ全身のがんを一度の撮影で調べることができる点が特徴です。正常な細胞と比較して3~8倍のブドウ糖を取り込むというがん細胞の性質を利用します。静脈からFDGというブドウ糖に似た物質に放射性同位元素をつけた薬剤を注射したあと、専用の装置(PET装置)に入り、特殊なカメラで体内に取り込まれたFDGの分布を画像化し、FDGが多く集まる部位を特定することでがんの有無や位置を確認します*1,*2。
FDGは正確には18F-FDG(18F-フルオロデオキシグルコース)といい、ブドウ糖に微弱な放射線を出す成分を組み込んだ薬剤で、がん細胞をマーキングする役割を果たします。がん細胞は正常な細胞に比べて活発に活動するため、エネルギーとなるブドウ糖をより多く消費します。ブドウ糖とほぼ同じ成分のFDGが体内でがん細胞に取り込まれる(集積する)と、白黒の画像では集積部位が濃く写し出されたり、カラー画像の場合は色がついたり光っているように表示されたりします。なお、近年ではPET検査とCT検査(X線で臓器の形状など身体の内部を撮影する検査)を組み合わせて、がんをより高い精度で診断できるPET-CT検査が主流になりつつあります*2。
自覚症状のない方が、複数部位のがんの予防・早期発見が目的で受診を希望する場合は人間ドックなどで受けられ、費用は10万円前後(自由診療、全額自己負担)です。また、PET検査は早期胃がんを除く悪性腫瘍や悪性リンパ腫の病期(がんの状態を知るための指標、「ステージ」とも)の診断や、転移状況、再発に関する診断、治療効果の確認、てんかんなどがん以外の病気の診断等にも活用されており、一定の条件下において保険適用になります*2。
PET検査の注意点
PETはほぼ全身のがんを一度に調べられますが、がん検診の有効性に関して現時点では十分な臨床データはなく、国が推奨するがん検診ではありません*1。がん検診にPETを用いる場合は他の検査を併用する「総合がん検診」が望ましいとされています*3。これらを踏まえ、PET検査を受ける前に知っておきたい注意点をまとめました*1,*2。
がんを見つけにくい部位がある
人体にはもともとブドウ糖が集まりやすい(生理的集積)部位があり、その部位にがんができている場合には、がんによる集積か生理的集積かの診断が難しいことがあります。ブドウ糖が集まりやすい部位には、脳、心臓、肝臓、腎臓、尿管、尿道、膀胱などが挙げられます*1。また、炎症を起こしている部位(外傷、細菌・ウイルスへの感染、慢性炎症など)は、がんと判別がつきにくい場合があります。
発見が不得手ながんもある
PET検査の特性上、発見が難しいがんもあります。下記はその一例です。CTやMRI、超音波(エコー)検査、内視鏡検査など他の検査との併用により、精度の向上が期待できます。
・消化器官粘膜に発生する早期のがん(胃がん、食道がんなど)
・5mm以下の小さな腫瘍や微小ながん細胞、散らばって存在するがん細胞
・がん細胞が薄く広がっていくスキルス性のがん(胃がん、一部の大腸がん、乳がん、肺がん)
・エネルギーをあまり必要としないごく初期のがん、皮膚の表面に発生するがん
・悪性度の低いがん(高分化がん、一部の甲状腺がんなど)
・FDGが集まりにくい臓器の原発がん(肝細胞がん、胆道がん)や血液のがん(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)
など
血糖値が高いと正しい評価ができないことがある
慢性的に血糖値が高い方は、FDGが体内に取り込まれにくいため、PET検査の評価が正しくできないことがあります。FDG-PETがん検診ガイドラインには「最低4時間の絶食後、血糖値が150mg/dl以下」を原則としており、「200mg/dl以上では検査中止の判断も必要である」とあります*3。血糖値が慢性的に高い方、糖尿病の方は事前に主治医と相談しましょう。
少量だが被爆する
PET検査では放射性薬剤を体内に注射するため、少量ですが被爆します。PET検査1回あたりの放射線の量は約3.5mSv(シーベルト)、PET−CTの場合は1.4~3.5mSvが加わります。日常生活で浴びる年間の自然放射線量が平均で約2.1mSv、健康に影響するとされる放射線量は100mSv以上であることを勘案すると、健康には差し障りのない被爆量と言えます*1。ただし、妊娠している方や妊娠の可能性がある方には、基本的にPET検査は行われていません。授乳中も控えたほうがよいですが、受ける場合には検査後12時間程度は赤ちゃんとの密な接触(抱っこや添い寝)をできるだけ避け、母乳は24時間が経過してから与えたほうがよいとFDG-PETがん検診ガイドラインには記載されています*3。
その他の注意点
胃X線(レントゲン)検査を受けたばかりの方は、胃や消化管にバリウムが残っていて診断の妨げになることがあるため、PET検査まで日数を空けるよう指示される場合があります。空ける期間は2~3日としているところが多いですが、2週間、1ヶ月としている医療施設もありさまざまです。
また、生理中にPET検査を受けると子宮や卵巣のがんの評価が難しくなるため、避けたほうがよいとする医療施設もあります。ペースメーカーを身につけている方は、検査により影響を受ける可能性があるので事前に申告しましょう*4。
いずれも、事前に医療施設の対応を確認しておきましょう。
PET検査の所要時間
PET検査の所要時間は医療施設にもよりますが、全体で約2~3時間です。検査の撮影時間(PET装置に横たわっている時間)は20~40分程度ですが、撮影前にFDGを注射したあと、FDGが全身にいきわたるまで1時間程度安静にして待つ時間があります。また検査後も30分~1時間程度、体内に取り入れた放射性物質が軽減するのを待つ時間があるため、あわせて2~3時間程度になります。詳しい検査の流れと待ち時間の過ごし方は、次項で解説します。混雑状況によって受付や会計の待ち時間が加わるので、ゆとりを持ったスケジュールを立てましょう。
PET検査前の注意事項と当日の流れ
PET検査受診前の注意事項
PET検査では、検査前の過ごし方が検査の精度に影響します。検査前日~検査の直前まで、運動や飲食に下記の制限があります。
前日から激しい運動を控える
運動で疲労した筋肉は筋肉がエネルギーを欲している状態であるため、ブドウ糖を取り込もうとします。そのため、PET検査の際にその筋肉にFDGが多く集積してしまい、正しい評価が難しくなります。階段をのぼるなど日常的な動作は問題ありませんが、検査の前日はジョギングやサイクリング、筋トレなど、身体に負荷のかかる運動は行わないようにしてください。
4~6時間前から絶食をする
PET検査を受けるときに血中のブドウ糖濃度が高いと、がん細胞内にFDGが取り込まれるのとブドウ糖が取り込まれるのが競合し、空腹時と比べてがん細胞へのFDGの取り込みが相対的に低下してしまいます。また、食事などで血糖値が上がるとインシュリンの分泌が増加し、その結果全身の筋肉や脂肪にFDGが取り込まれてしまうため、病巣部位への異常なFDGの集積を見つけにくくなってしまいます。そのため検査の4~6時間前から絶食して検査を受けます。糖分を含むあめやガムも口にできません。糖分を含まないあめやガムでも、咀嚼などによりあごの筋肉周辺のFDGの集積につながることがあるため避けましょう。
水やお茶は飲んでOK
検査前の絶食中でも、水分は摂取できます。むしろ検査の前にしっかり水分を摂ることで余分なFDGが排出され、より正確な検査がしやすくなります。ただし、飲めるのは無糖の水やお茶のみです。糖分を含む飲み物は血糖値に影響するため摂取できません。お酒は前日から禁止としている医療施設が多いです。
PET検査当日の流れ
当日は下記のような流れで検査を行います。画像の撮影はCTやMRIのように、トンネル状の装置に横たわって行います。閉所が苦手な方は、事前に医療施設へ伝えておきましょう*1,*2。
<検査の流れ(例)>
1)受付後、問診や血糖値の測定
2)検査着に着替える
3) FDGを注射し、全身に薬剤が行きわたるまで1時間ほど安静に過ごす
4) PET装置に横たわり、画像の撮影を行う(20~40分程度)
5)検査後は薬剤の影響が減るまで、30~40分ほど待機する
人間ドックのプランによって同日に超音波(エコー)検査など他の検査も受ける場合は、FDGの影響を考慮し、多くの場合PET検査の前に行われます*3。
当日の服装
人間ドックでは検査着に着替えることが多いので、服装の制限はありません。検査着が用意されていない場合、極力金具のない服での受診を呼びかけている医療施設もあります。不明点がある場合は事前に医療施設まで問い合わせておきましょう。
安静時間に「何もしない」ことを指示されるのはなぜ?
PET検査当日は、FDGの注射後、1時間程度安静にして薬剤が体内に取り込まれるのを待つ時間があります。検査に影響しないようにするため、安静時間は横になって過ごし、基本的に安静にして休むように指示されることが多いです。
安静時間に控えたほうがよいこと
PET検査では、身体を動かすと筋肉にFDGが集積しやすくその部位の正確な評価が難しくなるため「安静でいること」が指示されます。下記は、その際に控えたほうがよいことです。
・スマホを見る
・本を読む
・音楽を聴く・ものを食べる
・会話をする
・動き回る
・ぐっすり眠る
など
スマホの閲覧や読書、音楽を聴く、会話など身体を動かさない行為であれば問題ないように思えますが、これらも眼球やあごの筋肉、脳の神経などを使い、その部位にFDGが集積しやすくなることが指摘されているため控えることを指示されます。目を閉じて休んでもかまいませんが、睡眠中の無意識な歯ぎしりやいびきもあごの筋肉を使うので、眠り込むことがないよう指示している医療施設もあります。
安静時間にしてもよいこと
以下は、安静時間であっても行ってよいことです。
・水を飲む
・トイレに行く(排尿)
PET装置での撮影の直前に体内の余分なFDGを排出することで、FDGが集積している部位を診断しやすくなります。そのため、安静時間中に水を飲み、検査直前にトイレを済ませるようすすめられます。このときの尿には放射性物質が含まれているので、飛散や服につくのを防ぐために男性も座って排尿するよう指示している医療施設もあります。また、トイレのあとは手を念入りに洗いましょう。
検査後の待機時間の過ごし方
検査後は体内に残っている放射性物質を軽減するため、30分~1時間程度待機します。医療施設によっては、待機時間後により検査の精度を高めるために2回目の撮影をすることがあります。検査前と同様、安静にして待機しましょう。
体内の放射性物質は時間の経過とともに減っていき、注射後約2時間で半分、約4時間で4分の1、約24時間後には測定できないくらいになります。念のため、周囲への影響を考慮し検査後約24時間はとくに妊娠中の方や乳幼児との接触をできるだけ控えるように指示している医療施設もあります。
PET検査の結果はいつわかるのか
人間ドックでPET検査を受けた場合、結果報告はおもに下記のパターンで行われます。
・当日に医師から簡単な説明があり、検査結果は後日郵送される
・別日に医師からしっかりとした説明があり、その後検査結果が郵送される
・後日郵送で検査報告書を受け取り、希望者は別日に医師からの説明が受けられる
郵送による検査結果が届く日はおよそ1〜3週間後が目安です。検査後、別日に医師から説明を受ける場合、別途料金を設けている医療施設もあります。不明点は医療施設に問い合わせましょう。
人間ドックではなく保険適用でPET検査を受けた場合、結果は主治医に送られ、主治医からの説明を受けることが一般的です。
参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス PET検査とは
*2.国立国際医療研究センター病院 PET-CTとは
*3.日本核医学会、日本核医学会PET核医学分科会「FDG-PETがん検診ガイドライン第3版」(2019年)
*4.日本核医学会、日本アイソトープ協会「PET検査Q&A 改訂4版」(2019年)