PET検査

PEM検査とは? 乳房専用PETのメリット・デメリット、注意事項をくわしく解説

PEM PET検査
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

乳がんは1996年以降日本女性のがん罹患の第1位で、罹患数、死亡数とも増加傾向です*1。乳がんの予防、早期発見にはマンモグラフィや乳腺超音波(エコー)検査による乳がん検診を受けるのが一般的ですが、近年はPEM検査(乳房専用PET)という方法も選べるようになりました。この記事ではPEM検査の特徴、メリットやデメリット、費用などについて解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・乳がんに特化したPET検査を受けたい方
・PEM検査についてくわしく知りたい方
・マンモグラフィや乳腺超音波(エコー)とは異なる方法で乳がん検診を受けたい方

★この記事のポイント
・PEM検査は乳房専用PETを用いた乳がん検査。従来の全身PETよりも小さい乳がんを発見できるようになった
・PEM検査は利点として痛みが少ない点や豊胸術後の方でも検査が可能である点などが挙げられるが、放射線被曝があることや費用が比較的高いなどといったデメリットもある
・PEMの費用相場は2〜4万前後。全身PET(費用相場10万円前後)と組み合わせて実施している医療施設が多い
・PEM検査は痛みの少ない乳がん検査を受けたい方や、一度の検査で良悪性の推定までしたい方、乳がんの発症リスクを自覚している方におすすめ

PEM検査は乳がんに特化した乳房専用PET

PEM(ペム/Positron Emission Mammography)検査とは、乳房専用のPET検査装置を用いた検査で、乳がんの発見が主目的です。乳房専用PETやマンモPETなどと呼ばれることもあります。PEM検査はPET検査と同様、18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)と呼ばれるブドウ糖に似た性質を持つ放射性薬剤を体内に注射します。18F-FDGは正常細胞よりもがん細胞に多く取り込まれるため、18F-FDGの集積(集まること)を乳房専用の検出器で撮影(撮像)して画像化することでがんを発見します。

従来から行われているマンモグラフィや乳腺超音波(エコー)検査では、しこりを見つけることはできても、その良悪性は針で組織を採取して評価する必要がありました。しかしPEM検査は、画像を撮った段階で病変の良悪性の推定ができる点で優れています。また全身PETと組み合わせることで他部位への転移の可能性を調べることができるため、早期に乳がん治療へとつなげることができるとされています。

PEM検査のおもな特徴3つ

全身PETよりも小さな乳がんの発見が可能

全身PETは広範囲を撮影するのに対して、PEM検査は乳房のみを時間をかけて詳細に撮影するため、早期乳がんなどの小さな病気を発見できる精度が高いとされています。全身PETでは1cm以下の乳がんを発見するのが難しかったのに対して*2、PEMでは1.5mm程度の非常に小さな乳がんまで描出できるようになりました。PEMの診断精度は90%以上と良好な成績が報告されています*2*3

圧迫の強さはマンモグラフィの半分。豊胸術後も検査可能

PEM検査には対向型とリング型の2種類があります。対向型はマンモグラフィのようにそれぞれの乳房を2枚の板のような装置ではさんで検査を行います。乳房の圧迫はマンモグラフィのおよそ半分以下のため、乳房の痛みはマンモグラフィほど強くありません*4,*5。マンモグラフィと同様、左右それぞれを2方向ずつ合計4回撮影することが多いです*2。一方、リング型はベッドのような装置にうつ伏せで寝て、装置のリングに乳房を下垂させて撮影を行います。左右それぞれの乳房を1回ずつ撮影します*2

いずれのタイプであっても乳房を強く圧迫しないため、痛みが少ない点が優れています。また豊胸術後の方や乳房を一部切除して変形している方など、マンモグラフィでは検査が難しい方もPEM検査を受けることができます。

高濃度乳腺の女性にも適している

乳腺の割合は年齢とともに減少しますが、40歳以上の日本人では高濃度乳房(乳腺の割合が多い状態)の方が約4割近くいると推測されています*6。高濃度乳房はマンモグラフィでがんを発見することが難しい傾向があります。これは、マンモグラフィの画像上では乳腺も病変も白っぽく写り、重なったときに病変が見えづらくなるためです。しかし、PEM検査では乳腺密度の影響をほとんど受けないので、高濃度乳房の方でも問題なく検査が可能です。

PEM検査のメリットとデメリット

PEM検査のメリット

PEM検査のメリットとしては、下記の点が挙げられます。

・身体的負担が少ない
・豊胸術後でも検査を受けられる
・月経周期の影響を受けない
・体内金属がある方や閉所恐怖症の方でも受けられる
など

PEM検査のデメリット

PEM検査のデメリットとしては、下記の点が挙げられます。

・18-FDG(放射線薬剤)による被曝がある
・受けられる医療施設数が少ない
・授乳中および妊娠中は受けられない
・検査費用が比較的高い
など

PEMは世界中でもまだ導入件数が少ない最先端の検査機器であるため、日本国内での導入数が少なく、検査できる医療施設が限られているのが難点と言えます。

また、授乳中は乳腺組織への 18-FDG(放射線薬剤)の 集積が非授乳時よりも多くなっているため、PEM検査は避けたほうがよいとされています*2

PEM検査以外に注目されている乳がん検査として、近年は無痛MRI乳がん検査という方法があります。無痛MRI乳がん検査は放射線被ばくがなく、受けられる医療施設が比較的多いです。検査費用は2〜3万円前後です(自由診療の場合)。無痛MRI乳がん検査については別の記事でくわしく解説しています。

PEM検査の費用相場は2〜4万円前後

PEM検査は全身PETのオプション検査として用意されているのが一般的です。そのため検査の費用は全身PETの費用(10万円前後)に加えて、PEM検査の費用(2〜4万円前後)を追加することで受けられる場合が多いです(自費診療の場合)。

ただし医療施設によってはPEM検査のみで受けられる場合もあるため、詳細は医療施設に確認してください。

PEM検査の流れと注意事項

PEM検査の流れ

PEM検査の流れは以下の通りです。

1)問診後に18-FDGを点滴で注入
2)数十分間、安静に過ごし、薬剤を全身にいきわたらせる
3)PET装置にて全身を撮影(PEM検査のみの場合は省略)
4)PEM装置にて乳房を撮影
・対向型:椅子に座った状態でマンモグラフィのように乳房を装置ではさみ、左右の乳房を2方向ずつ計4回撮影(1方向8分、計30分程度)
・リング型:リング型にくり抜いた専用のベッドにうつ伏せになり、左右の乳房をリングに垂らすように入れて5〜10分程度ずつ撮影(計10〜20分程度)
5)検査終了後は体内の放射線薬剤(FDG)が減退するまでリカバリールームなどで待機
6)会計

全身PETとPEM検査をあわせて受ける場合でも、18-FDGの投与は1回のみのため、被曝量は変わりません。検査結果は後日、郵送もしくは外来で受け取ります。

PEM検査の注意事項

PEM検査は乳がんを発見するのに優れた検査ですが、すべての乳がんを見つけられるわけではありません。検査の特性上、下記の場合は発見が難しいと言われています。

・一部の乳がん(非浸潤がんや浸潤性小葉がんなど)
・細胞密度が低いがん
・ブドウ糖代謝が低い(悪性度が低い)がん
・糖尿病の方、検査時の血糖値が高い方
など

また生検直後の乳腺や、乳腺炎、一部の良性腫瘤に対しては、がんでなくても18-FDGが集積することがあるため、正確な診断が難しい場合があります。そのためガイドライン上では、可能な限りマンモグラフィや乳腺超音波(エコー)検査などほかの検査と組み合わせてPEM検査を受けることが推奨されています*2

PEM検査はどんな人におすすめ?

以上の内容をまとめると、PEM検査は下記の方におすすめです。

・痛くない乳がん検査を受けたい方
・着衣のまま検査を受けたい方
・検査時に胸をさわられることに抵抗がある方
・一度の検査で良悪性の推定までしたい方
・全身PETを受ける方
・マンモグラフィや乳腺エコーとは異なる方法で乳がん検査を受けたい方
・乳がんの発症リスクを自覚している方

乳がんの発症リスクは一般的に40歳前後から高まりますが、以下の項目に当てはまる方は乳がんになるリスクが高いことがわかっています。

【乳がんの発症リスク因子*7
・遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)※
・高齢初産もしくは未出産
・初潮が早く、閉経が遅い
・閉経後、肥満になっている
・血縁者が乳がんになっている
・良性の乳腺疾患になったことがある
・閉経後、ホルモン補充療法・ピル(経口避妊薬)を服用した経験がある

※遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC):Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndromeの略。「BRCA1」あるいは「BRCA2」という遺伝子に病的な変異を持っており、一般的な日本人女性の6〜12倍の確率で乳がんになりやすいことがわかっている。がんを発症していない方も含めると、200〜500人に1人がHBOCに該当するとされている*8

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 乳房
*2.日本核医学会「乳房専用PET診療ガイドライン2019(修正2020年4月)」
*3.Wendie A Berg, et al. High-Resolution Fluorodeoxyglucose Positron Emission Tomography with Compression (“Positron Emission Mammography”) is Highly Accurate in Depicting Primary Breast Cancer. The Breast Journal, 12(4):2006
*4.伊藤正敏ら「対向型乳腺専用高分解能PET(PEM)の開発と性能の概要」Isotope News 2015年11月号 No.739
*5.日本乳がん検診精度管理中央機構 日本医学放射線学会の仕様基準を満たした乳房X線撮影装置一覧表
*6.日本乳癌学会「高濃度乳房について」(2018年)
*7.日本医師会 知っておきたいがん検診 乳がんの原因
*8.日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 遺伝性乳がん卵巣がんを知ろう!みんなのためのガイドブック2022年版「Q1.HBOC(エイチビーオーシー)とは何でしょうか?」

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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人間ドックのミカタ
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