PET-CT検査は、全身のがんを一度でスクリーニングできるため、早期発見・早期治療に役立ちます。ただし、見つけるのが得意ながんと苦手ながんがあるので、検査を受けるときには「組み合わせ」が重要になってきます。また、CTを使うため放射線の被曝リスクがあることも忘れてはいけません。ここでは、PET-CTの基本情報とメリット・デメリット、検査に関する注意点、検査の精度を高めるために大切な医療施設選びのポイントについて紹介しています。
★こんな人に読んでほしい!
・PET-CTについて、メリットやデメリットも含めて詳しく知りたい方
・PET-CTの費用の目安を知りたい方
・PET-CTを受ける医療施設の探しかたを知りたい方
★この記事のポイント
・PET-CTは、PETとCTの長所を組み合わせた、全身のがんを一度に調べられる検査
・がんの種類(部位)によって向き不向きがある。甲状腺がんや悪性リンパ腫などの発見は得意で、早期の胃がんや泌尿器系のがんなどの発見は不得意
・PET-CT検査を受けたほうがいいのは、50歳以上の方、がんの既往歴がある家族がいる方、がん検診に対応していないがんが心配な方、がん検診に対応してないがんが心配な方
・PET-CTを人間ドックで受けるときの費用の相場は約10万円
・PET-CTの医療施設選びは併用できる検査と検査体制の確認がポイント
目次
PET-CTとは? PETとCT、PET-CTの違い
PET-CTとは?
PET-CTとは、PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)とCT(Computed Tomography)を一体化させた検査です。
PET-CTの「PET」は、「18F-FDG(フルデオキシグルコース)」という放射性薬剤を投与して特殊なカメラで全身を撮影する核医学検査で、がん細胞の活動状況を調べるのに適しています。
がんには、エネルギーとしてブドウ糖を多量に消費する性質があります。PETで患者に投与する18F-FDGはブドウ糖に似た性質を持っているため、投与した18F-FDGは、エネルギーとして使おうとがん細胞に取り込まれ、画像を介してがんを可視化できるようになります。
PET-CTは、PETとCTの長所を合わせて三次元的な画像を生成することによってがんを見つけ出す検査であり、PET単独、CT単独の検査よりもより精密な検査が可能です。PET-CT検査画像では、18F-FDGがたくさん集まっているところが強く光ります。この強く光っている部分は、たくさんの18F-FDGを取り込んでいるがんが存在する可能性のある部位です。光の強さを見ることで、がんが活発に活動しているか、身体に悪さをする悪性のものかを確認することが容易になります。
CTを使うことから被曝を心配する方もいるかもしれませんが、PET-CTによる被曝量は健康診断で行われるX線の胃バリウム検査と同じくらいの量であり、一定のリスクはあるものの基本的には1回の検査では危険が及ぶレベルではないとされています。また、18F-FDGは、検査の翌日には尿と一緒に体外に排出されるため、副作用も心配もほとんどないとされています。
PETとCT、PET-CTの違いは?
PETとは、特殊なカメラで撮影した画像で、投与した18F-FDGがたくさん集まる部位を確認し、がんの有無や広がりを調べる検査です。18F-FDGは血流にのって全身に広がるため、PETは一度の検査で身体全体のがんを調べることが可能です(後述しますが発見することが苦手ながんもあります)。ただし、PETは画像が鮮明でなく、正確な位置や大きさ、形を把握しにくい弱点があります。CTは、X線を使って身体の断面写真を何枚も撮影して身体の内部を画像化して状態を診断する検査です。CTは部位を指定して撮影するため、身体全体のがんを発見することには向いていませんが、がんの正確な位置や大きさ、形を調べることに向いています。
PET-CTは、この2つの検査で得た画像を組み合わせて三次元的な断層像を作成する検査です。PET単体では検出できなかったがんを発見できるため、より精度の高い検査が可能になり、検査時間を短縮することができるようになりました。
PET-CTのメリットとデメリット
PET-CTのメリット
PET-CT検査は、一度の撮影で全身のがんを調べることが可能であり、また1cmほどの小さながんでも発見できることがあります。CTなどの画像検査単独では見落としやすいとされていた、「がんの転移や再発」「サイズの小さい比較的初期のがん」「リンパ節のがん」の見落とし防止につながります。また、CTを使うことで「がんや腫瘍の形や大きさ」の異常を確かめることができるため、PET単独では見落とす可能性があるがんや腫瘍の見落としを減らすこともできます。
また、PET-CTは検査画像の光の強さで18F-FDGをたくさん取り込み活発に活動しているかどうか(活性状態)を確認し、悪性度を判断できることから、「サイズが小さくても危険性が高いがん」を見落とすリスクを下げることができます。たとえば、PET-CTで脳腫瘍が見つかった場合、すぐに細胞の検査をすることは難しいですが、活性状態をもとに治療の必要性を判断することができるので、治療計画が立てやすくなります(ただし、その他の検査も必要)。
PET-CTは、PET検査とCT検査を同時に行うことで検査時間の短縮が可能になりました。また、CTでは造影剤を使う場合があり、造影剤にアレルギー反応を起こす方はCTを受診できないことがあります。PET-CTでは造影剤を使わないため、造影剤にアレルギーがある方もがんの検査を受けられるというメリットもあります。
一般的には、内視鏡検査やX線検査、CTの単独検査による画像読影は、医師の知見や技術による影響が出やすいと言われていますが、PET-CTではそのような差が出にくいとされていることも、メリットと言えるでしょう。
PET-CTのデメリット
PET-CTは、8F-FDGが集まりにくい部位のがん(一部の肝臓がん等)、もともと糖が集まりやすくFDGとの見分けがつきにくい部位のがん(胃がん等)の発見は得意ではありません。また、泌尿器系など、正常な状態でも18F-FDGが集まりやすい部位や炎症が起こっている部位は、がんか別の原因かの判別が難しいため、がんの発見が目的の検査には向いていないと言われています。血糖値の高い方は正確な検査が難しくなるというデメリットもあります。
また、PET-CTは精度が高いとされる検査ではありますが、胸部X線検査や大腸内視鏡検査、マンモグラフィーなど、部位ごとの検査に比べると精度が十分でない場合もあります。5mm以下の小さいがんは検出できる確率が下がるため、PET-CTが発見を得意としているがんであっても、病巣が小さい場合は検出が難しくなることがあります。年齢や性別、生活習慣などを考慮して、個別のがん検診、専門ドック、オプション検査と組み合わせて検査することをおすすめします。
「1-1.PET-CTとは?」で心配する必要のない被曝量と述べましたが、PET-CTはCT撮影を行うので、PET単独の検査よりも被曝線量が多くなります。PET-CTを受ける際には、検査を受けることのメリットと被爆することのデメリットをきちんと説明してもらい、十分納得した上で検査を受けるようにしてください。被曝量の低減や被曝リスクを回避するために、医療施設でどのような取り組みをしているかを聞いてみるのもひとつの手段です。
PET-CTでは、PET画像とCT画像双方を扱うことができる専門医が必要なため、条件を満たした医療施設が少ないという現状があり、自宅や会社の近くでPET-CT検査を受けたいと希望しても、提供している医療機関が見つけられない場合があるというデメリットがあります。また、人間ドックは自由診療となるため、PET-CTの検査費用は自己負担となります。
PET-CTで見つけやすいがん、見つけにくいがん
PET-CTで見つけやすいがん
PET-CTは、必ずしもすべての部位のがんを見つけられるわけではありません。見つけやすいがんは下記の通りです。
- 頭頸部がん
- 肺がん
- 乳がん
- 食道がん
- 大腸がん
- 甲状腺がん
- 胆嚢がん
- 子宮がん
- 卵巣がん
- 精巣がん
- 悪性リンパ腫
- 悪性黒色腫 など
上記のなかでは甲状腺がんの発見例がとくに多いとされており、食道がん、乳がん、大腸がん、肺がん、子宮がんもPET-CTの有用性が高いと言われています。
PET-CTで見つけにくいがん
PET-CTの画像では、18F-FDGがたくさん集まっている部位の光が強くなります。このため、もともと糖が集積しやすく18F-FDGとの見分けがつきにくい部位や18F-FDGが集まりにくい部位のがんは、PET-CTでは見つけにくいです。また、サイズが小さいもの、炎症が起こっている部位、正常な状態でも18F-FDGが集まりやすい部位なども、PET-CTでの診断が難しくなる場合があります。PET-CTで見つけにくいと言われているがんは下記の通りです。
- 胃がん(とくに初期のもの)
- 腎がん
- 尿管がん
- 膀胱がん
- 前立腺がん
- 肝細胞がん
- 胆道がん
- 白血病
- 肺がんの一部
- 5mm以下の小さながん など
脳腫瘍においては、PET-CTが保険診療の対象になっているため診断に使われることがありますが、小さいサイズの腫瘍は見つけにくい、正常な細胞との判別が難しい場合があるなどの理由で、MRIなど別の検査の併用が必要になることがあります。
がん以外で見つけられる病気
エネルギーとしてブドウ糖しか使えない脳、エネルギーをたくさん消費する心臓や骨格筋、免疫細胞が活性化している炎症部位は、18F-FDGの反応が出やすいです。PET-CT以外の検査も必要になりますが、てんかん、アルツハイマー型認知症、脳卒中、心筋梗塞、心サルコイドーシス、血管炎、関節炎などの検査で使われることがあります。
PET-CTを受けたほうがいい方、受けることができない方
家族の既往歴(家族歴)
がんの発症には遺伝が関係している場合があることがわかっています。また、生活習慣が発症と関わっている場合には、同じ家庭内で暮らす家族の発症リスクも高まりやすいです。家族にがんを発症した方がいるからといって必ず発症するわけではありませんが、早期発見を考えるのであれば、家族にがんの既往歴がある場合は検査を受けることをおすすめします。「FDG-PETがん検診ガイドライン2019版」においても、遺伝的なリスク、がんの家族歴がある方は推奨年齢に限らず検査を受けることが推奨されています。
年齢
「FDG-PETがん検診ガイドライン2019版」では、PET検査に関しては50歳以上の方の検査を推奨しています。ただし、厚生労働省では、子宮頸がんは20歳以上、肺がん、乳がん、大腸がんは40歳以上をがん検診の対象とし、受診を推奨しています。PET-CTと個別のがん検査を併用することでがんの発見率も高まるので、早期発見・早期治療を考えるのであれば、30代、40代の受診を検討するのもひとつの手段です。ただし、PET-CTには被曝のリスクがあるので、検査の間隔については考慮する必要があります。
節目や記念
PET-CTを人生の節目や大切な家族のイベントにあわせて予約するようにすれば、検査のタイミングを逃すこともないでしょう。男性であればがん罹患率が高くなり始める「40歳」、女性であれば「30歳」などの節目、お子さんがいる方は入学(小学校・中学校・高校・大学)などの節目を目安にするのもおすすめです。
がん検診に対応していないがんに心配を感じている方
頭頸部がん(咽頭がん、口腔がん、頸部リンパのがん等)、甲状腺がん、膵臓がん、子宮体がん、悪性リンパ腫は、PET-CTが得意とするがんです。これらはがん検診が行われていないので、心配な方はPET-CTで調べるのもひとつの手段です。甲状腺がんは女性に多く、幼いころの放射線被曝がおもなリスク要因であり、家族歴も関係しているとされます。そのほかのがんは、生活習慣や喫煙、肥満、家族歴などが関係しているとされています。
PET-CTが受けられない方、注意が必要な方
PET-CTは被曝のリスクがあるため、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方は受けることができません。授乳中の方に関してはPET-CTを受けられる医療施設もありますが、「FDG-PETがん検診ガイドライン2019版」においては「検査を受けないことが好ましい」とされていて、検査を受けた場合には検査後24時間授乳を控える必要があります。また、糖尿病の方や血糖値が高めの方はPET-CTでがん細胞がうまく検出されないことがあるので、医師に相談する必要があります。
PET-CTの費用
人間ドックにおけるPET-CTは、基本的には自由診療です。医療施設やプランによって異なりますが、PETとPET-CTでは費用に違いはほとんどなく、費用は10万円前後となるのが一般的です。
診療で受診した場合には公的医療保険(健康保険)が適用される場合もありますが、「確定診断がついている」「他の検査や画像診断では病期(ステージ)診断や転移、再発の診断が確定できない」などの条件を満す必要があります。保険適用となった場合は、3割負担となり3万円前後が相場となります。
PET-CTの流れと注意事項
PET-CT検査の流れ
【前日】
とくに必要な準備はありませんが、糖尿病の方はインスリンの投与を中止する場合がありますので、かかりつけの医師に事前に相談してください。ただし、医療施設によって激しい運動や重労働(雪かきや草むしりなども含む)、糖分の過剰摂取、飲酒を控えるように指示されることがありますので、その際は指示に従ってください。
【当日】
検査の4〜6時間前から絶食を指示されます(水分は水またはお茶のみ可。糖分を含むものは不可)。18F-FDG (PET検査薬)の注射をしたあとは、検査薬が全身にいきわたるまで静かに横になって過ごし、会話や咀嚼は避けて身体をリラックスさせます(30分〜1時間)。撮影直前にトイレに行き、膀胱を空にします。
【検査後】
検査終了後は、体内の18F-FDGが減退するまで30分ほど休息し、帰宅となります。
PET-CT検査の注意点
検査後、放射性薬剤である18F-FDGが体外に排出されるまで半日〜1日かかると言われています。18F-FDGは尿として排出されるので、トイレのあとは手洗いをしっかりと行いましょう。授乳中の方がPET-CTを受けた場合は、24時間授乳を控えてください。また、検査後に18F-FDGが体外に排出されるまでは、妊婦や乳幼児への接触を控える必要があります。「FDG-PETがん検診ガイドライン2019版」では、投与後12時間接触を控えることが好ましいとされていますが、医療施設によって指示される時間は違いますので、受診した医療施設の指示に従ってください。
医療施設の選び方や受診頻度
PET-CT検査の医療施設を選ぶポイントは?
PET-CTは全身のがんを調べられる検査ですが、胃がんや前立腺がん、膀胱がんなどの苦手ながんもあります。また、全体的なスクリーニングは得意としていますが、詳細に調べるのであれば、部位別のオプション検査や専門ドックを併用することが望ましいです。気になる部位やPET-CTが苦手とする検査が組み合わせられる医療施設を選ぶことをおすすめします。
また、PETとPET-CTの機器は異なるため、医療施設においてPET-CTの機器を導入していることが前提となります。さらに、PET-CTの知見がある医師と、調べたい臓器の知見がある医師がダブルチェックできる体制が整っている医療施設のほうが検査の精度は高まります。検査後の精密検査や治療が速やかに行われる体制が整っているかどうかも含めて、医療施設のWebサイトなどで調べておきましょう。
PET-CT検査はどのくらいの頻度で受けるべき?
1度の検査で問題が起こる被曝量ではないとされていますが、複数回の検査をどれくらいの間隔を空けるかに関しては慎重に判断する必要があるでしょう。
PET-CTを受ける頻度と身体への影響については明確なエビデンスがありません。1年に1回の検査が必要、初回はPET-CTで翌年はPETのみ、2年連続PET-CTを受けたあとは2〜5年おきに受ける、消化管内視鏡検査とPET-CTを交互に受けるなど、医療機関によって方針が異なります。被曝リスクのことを考慮して毎年受けたほうがいいか、数年おきに受けたほうがいいかなど、医療機関の主治医と十分相談しながら決めていきましょう。
参考資料
日本核医学会、日本核医学会PET核医学分科会「FDG-PET がん検診ガイドライン2019」
千葉県がんセンター PET/CT
日本核医学会、日本アイソトープ協会「PET検査Q&A」
日本医学放射線学会、日本核医学会、日本磁気共鳴医学会「FDG PET/MRI診療ガイドライン2019」
日本核医学会「FDG PET,PET/CT 診療ガイドライン2020」
国立がん研究センター がん情報サービス 遺伝性腫瘍・家族性腫瘍
厚生労働省 がん検診
日本頭頸部癌学会 頭頸部がん