がん検診

乳がん検診の「視触診」を廃止する医療施設が増加傾向にある理由とは? 視触診の実施状況や目的、受ける場合の「恥ずかしさ」への対処法も紹介

視触診 がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

厚生労働省が乳がん検診の指針において「視触診は推奨しない」と改正したことを受け、視触診をやめる医療施設が増えつつあります。近年の乳がん検診における視触診の実施状況とその目的、視触診に対する恥ずかしさなどの抵抗感を減らす方法を紹介します。

★こんな人に読んでほしい!
・乳がん検診の視触診に抵抗がある方
・乳がん検診の視触診の目的を知りたい方
・視触診の恥ずかしさを軽減する方法を知りたい方

★この記事のポイント
・乳がん検診ではマンモグラフィ検査が推奨されており、視触診は減りつつある
・自治体の乳がん検診では視触診の廃止が進む一方、職域検診では視触診の実施が多い傾向
・乳がんは40代から罹患数が急増、40歳以降は定期的に乳がん検診を受けよう
・視触診が恥ずかしい方は女性医師や女性技師がいる医療施設を選ぶ方法もある
・乳房を意識した生活習慣「ブレスト・アウェアネス」を始めてみよう

乳がん検診の「視触診」を廃止する医療施設が増えている

視触診はそもそも推奨されていない

乳がんは乳房にできる悪性腫瘍(がん)です。国立がんセンターの統計によると、2019年には約9万7千人が罹患しており、女性の部位別がん罹患数では1位です*1乳がんの罹患数を年齢別に見ると、30代後半~40代で急増しているため*1、40歳以上の女性は乳がん検診を2年に1回受診することが推奨されています*2

乳がん検診は、厚生労働省が検診によってがんで亡くなる方を減らすことができるという科学的根拠に基づき推進されている「5大がん検診(胃がん・子宮頸がん・肺がん・乳がん・大腸がん)」のひとつで、自治体が行っているがん検診または、会社が行っている健康診断や人間ドックのオプションとして受けることができます。

<厚生労働省が指針で定める乳がん検診の内容*2
●対象年齢
40歳以上

●受診間隔
2年に1回

●検査項目
問診およびマンモグラフィ(乳房X線)検査
※視診、触診は推奨しない

マンモグラフィ検査は画像診断の一種で、乳房をプラスチックの板で挟んでX線(レントゲン)で撮影し、乳房のしこりや石灰化の有無を調べます。乳がんの検査には、ほかに視診、触診、超音波(エコー)検査などがありますが、乳がん検診で死亡率減少効果があると推奨されているのはマンモグラフィ検査です。乳房を目で見て、手でふれて調べる視触診の実施は、精度管理の難しさなどから乳がんの一次検診※としては推奨されていません。

※一次検診:症状がない人を対象とした検診で、スクリーニングとも言う。精密検査(二次検診)の要不要を振り分けることが目的*3

視触診が推奨されなくなった経緯

日本における乳がん検診は、1987年に視触診のみ実施する視触診単独法からスタートしました*4。2000年にマンモグラフィ検査が導入されてからも視触診は行われてきましたが、2013年に国立がん研究センターが「視触診単独での検査は死亡率減少効果が不明であり、適正に行われるための精度管理ができない状況では実施すべきでない」と公表しました*5。これを受けて、2016年に厚生労働省は「視触診は推奨しないが、仮に視触診を実施する場合はマンモグラフィと併用すること」とがん検診の指針を改正*6、2018年には職域におけるがん検診マニュアルも指針と同様に定められました*7。このような経緯から、乳がん検診の視触診を実施しない医療施設が増加傾向にあります。

視触診の実施状況。自治体の検診は23.7%、職域検診では実施が多い傾向

自治体の乳がん検診および職域検診(健康保険組合や企業が任意で実施するがん検診)で、視触診がどの程度行われているかを調べたデータがあります*7

<市区町村における乳がん検診の実施状況(2021年度)*8

乳がん検診(集団・個別)を実施している市区町村数(1729)
問診 1726 99.8%
マンモグラフィ(乳房X線)検査 1726 99.8%
視触診 409 23.7%
超音波(エコー)検査  705 40.8%
その他の検査 7 0.4%

厚生労働省「令和4年度 市区町村における
がん検診の実施状況調査」(対象時期:2021年度)をもとに編集部で作成

上記「令和4年度 市区町村におけるがん検診の実施状況調査」では、2021年度に乳がん検診を実施している自治体のうち23.7%が視触診を実施しています。このうち集団検診を行っている165自治体では、36自治体(21.8%)が「2022年度に視触診の実施をやめた、またはやめる予定」、25自治体(15.2%)が「2023年度以降、視触診の実施をやめる予定」と回答しています。視触診単独での乳がん検診を行っている自治体は0です。

なお、参考までに2017年度の同調査では、集団または個別検診において視触診を実施している自治体数は1726中1067、割合は61.8%でした*9視触診を実施している自治体は2017年度と比較し、2021年度では半分以下に減少していることがわかります。

<被用者保険※における乳がん検診の実施状況(2021年度)*10

健康保険組合 全国健康保険協会 (協会けんぽ)
問診 49.1% 100.0%
マンモグラフィ(乳房X線)検査 95.5% 100.0%
視触診 43.0% 97.9%
超音波(エコー)検査  89.9% 0.0%
その他の検査 2.7% 0.0%
厚生労働省「被用者保険におけるがん検診の実施状況について」をもとに編集部で作成
※被用者保険:会社などに勤めている人が加入する保険

上記「被用者保険におけるがん検診の実施状況について」によると、職域検診の実施状況は、加入している健康保険により差が見られることがわかりました。視触診実施率は、大企業や団体などの健康保険組合で43.0%、中小企業が加入する協会けんぽで97.9%です。

これらのデータから、自治体の乳がん検診において視触診の廃止が進みつつある一方で、会社の健康診断の際に乳がん検診を受ける場合、協会けんぽに加入している方では、ほぼ視触診があると考えたほうがよいと言えます*10。また、健康保険組合の視触診実施率は43.0%ですが、超音波(エコー)検査の実施率が89.9%と高いことから、超音波検査を併用する際にも視触診が実施される可能性があると考えられます*10

視触診の有無が気になる方は、自身が加入している健康保険の種類を確認のうえ、受診予定の医療施設に問い合わせてみましょう。

健康保険の種類については下記記事でも紹介しています。

「視触診」に抵抗がある場合の対処法

視触診でどんなことを調べるかを事前に把握しておく

前項のとおり、お住まいの自治体や加入中の健康保険の種類によっては視触診が含まれている可能性があります。乳房はプライベートな部位であるため、医療行為とわかっていても見られたりふれられたりすることに抵抗感を覚える方もいるでしょう。しかし、視触診は一次検診(スクリーニング)としては推奨されていないものの、乳がんの精密検査において乳腺疾患に習熟した医師またはその監督のもとで行われている検査であり、決して意味がないわけではありません。受診時の抵抗感の軽減のためにも、視触診の内容や目的を事前に把握しておきましょう。

乳がん検診の視触診ではおもに下記のような点を確認しています*11

・乳房に変形がないか
・えくぼのような皮膚の引きつれがないか
・乳頭に湿疹や分泌物がないか
・乳房にしこりがないか
・首や脇の下のリンパ節が腫れていないか
など

もし乳房にしこりがあった場合には、その大きさや硬さ、境目がはっきりとしているか、触ると動くかどうかなども確認していきます。

乳がん検診の内容については、下記もご参照ください。

女医や女性スタッフが対応する医療施設を選ぶ

乳がん検診では、基本的に上半身の衣服を脱いで、椅子に座った状態または診察台に仰向けになった姿勢で視触診を受けます。男性の医師やスタッフによる診察や検査等に抵抗がある方は、女性の医師や検査技師、看護師のみが対応する医療施設を検討してもよいでしょう。

なお、受診先を選択できず男性医師が診察する場合でも、女性の看護師やスタッフが同席するなど、女性が安心して受診できるよう配慮をしている医療施設がほとんどです。

とくに婦人科検診では、コース(プラン)名に「女性医師対応」と記載してあることもあります。
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自己触診より取り組みやすい「ブレスト・アウェアネス」とは

ブレスト・アウェアネスとは

乳がんは女性に最も多いがんですが、がんが乳腺にとどまっている(がんが原発臓器に限局している)うちに治療をすれば、5年相対生存率※は99.3%にのぼります*1。乳がんを早期発見するための取り組みとして、以前は自分自身で触診をしてしこりを探す「自己触診(セルフチェック)」が勧められていましたが、手技が煩雑で習得が難しく、正確性や継続性などに課題がありました。そこで最近では乳房を意識した生活習慣を意味する「ブレスト・アウェアネス」が推奨されています*12,13

※5年相対生存率:特定のがんと診断された場合に治療でどのくらい生命を救えるかの指標。日本人全体で5年後に生存している人の割合と、特定のがんと診断され5年後に生存している人の割合を比較して表す。100%に近い数値ほど命を救える見込みが高くなる*14

<ブレスト・アウェアネスのポイント*13
1)自分の乳房の状態を知る
入浴のときや着替えのときに自分の乳房を見たり触れたりして、普段の大きさや硬さを知りましょう。また、月経周期に連動した乳房の変化にも意識を向けましょう。

2)乳房の変化に気をつける
異常(がん)を見つけるというよりも、「いつもと変わりないか」という意識で乳房の変化(乳房の腫瘤の自覚、乳頭からの分泌物、乳頭や乳輪のただれ、乳房の皮膚の凹みやくぼみ、乳頭痛など)に気を配りましょう。

3)変化に気づいたらすぐ医師に相談する
乳房のしこり、くぼみや引きつれ、乳輪や乳頭部のただれ、血液のような分泌物などの自覚症状に気がついたら、次の検診を待たず、すみやかに乳腺科医のいる医療施設を受診してください。

4)40歳になったら乳がん検診を受ける
乳がんのリスクは40代から急増します。40歳以上の方は定期的にマンモグラフィ検査を受けましょう。異常が見つかったら、必ず精密検査を受けましょう。

20代・30代、高濃度乳房の方もブレスト・アウェアネスを意識しよう

ブレスト・アウェアネスは、厚生労働省が乳がん検診を推奨する年齢に達する前の20代・30代の方や、高濃度乳房(デンスブレスト)と指摘された方が、乳房の異変に気がつくための手立てとしても期待されています*13

高濃度乳房とは、乳腺組織の密度(乳腺濃度)の分類のうち「極めて高濃度」「不均一高濃度」にあたる乳房を指します*15。高濃度乳房は乳房の構成を表すもので疾患ではありませんが、マンモグラフィ検査においては偽陰性(乳がんがあるのに異常なしと判定される)となりやすい点が指摘されています*14。なお、マンモグラフィの有用性が低いとされる20・30代の方や高濃度乳房の方に向けた乳がんの検査として、視触診や超音波(エコー)検査を実施している医療施設もあります。

年齢や乳房の構成にかかわらず日頃から自身の乳房の状態を把握しておき、小さな変化にも気づけるようにしておくことが、乳がんの早期発見につながります。

高濃度乳房については下記記事でも紹介しています。

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス がん種別統計情報 乳房
*2.厚生労働省 がん検診
*3.日本対がん協会 がん検診とは
*4.日本乳癌検診学会「日本乳癌検診学会の歴史」日本乳癌検診学会誌 2012, 21(1)
*5.国立がん研究センター「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版」
*6.厚生労働省「胃がん・乳がん検診に関する指針の改正について」(2016年)
*7.厚生労働省「職域におけるがん検診に関するマニュアル」(2018年)
*8.厚生労働省 第37回がん検診のあり方に関する検討会 参考資料5「令和4年度 市区町村におけるがん検診の実施状況調査 全国集計」(2023年)
*9.厚生労働省 第24回がん検診のあり方に関する検討会 参考資料2「平成29年度 市区町村におけるがん検診の実施状況調査 全国集計」(2017年)
*10.厚生労働省 第37回がん検診のあり方に関する検討会 資料4「被用者保険におけるがん検診の実施状況について」(2023年)
*11.日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版 Q6.乳がんの診断はどのようにして行うのでしょうか。
*12.厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年10月1日一部改正)」
*13.日本乳癌学会 乳がん診療ガイドライン2022版 検診・画像診断 総説1 乳がん検診とブレスト・アウェアネス
*14.国立がん研究センター がん情報サービス がんに関する用語集 5年相対生存率
*15.日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版 Q5.乳がん検診について教えてください。

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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