マンモグラフィは「痛い」「つらい」などの声を耳にすることが多い検査のひとつです。乳がん検診で採用されているマンモグラフィについて詳しく解説するとともに、痛みを軽減する方法を紹介します。マンモグラフィと痛くない乳がん検査の違いも、比較表でそれぞれまとめています。
★こんな方に読んでほしい!
・初めて乳がん検診を受ける方で「マンモグラフィは痛い」と聞き、不安を感じている方
・乳がん検診を受診予定だが、過去に受けたマンモグラフィがとても痛かったので、痛みを軽減する方法を知りたい方
・できればマンモグラフィ以外の痛くない検査方法で乳がん検診を受けたいと考えている方
★この記事のポイント
・マンモグラフィの検査時に、乳房を引っ張り出したり強く圧迫したりすることが、痛みを生じさせやすい原因
・マンモグラフィは、とくに40代以降の方に推奨される検査方法。石灰化をともなう乳がんや、比較的硬さがあるしこりを見つけるのに優れている
・マンモグラフィの検査時の痛みの感じ方は人それぞれ。痛みはなくすことはできないが、軽減する方法はある
・乳腺超音波(エコー)検査は40歳未満の女性や高濃度乳房の方におすすめの検査方法。検査にともなう被爆や身体的負担がないため誰でも安心して受けられる
・無痛MRI乳がん検診は、MRI(DWIBS法)を用いた、造影剤を使用しない「痛くない」「被曝しない」新しい乳がんの検査方法
目次
「痛い」「つらい」と言われる、乳がん検診とは
厚生労働省が定める乳がん検診では、マンモグラフィが採用されている
「がんの統計2022」によれば、乳がんの罹患率は30代後半から増加、40代後半〜50代にかけてピークを迎え、60代後半あたりまでやや低くなるものの、おおむね横ばいで推移します*1。また、日本人女性の9人に1人が生涯のうちに乳がんにかかります*1。ただし、早期発見して適切な治療を行うことができれば5年相対生存率(診断後あるいは治療後5年経過した際の生存率)は9割以上と予後がよいです*2。
乳がんの予防にはセルフチェックと定期的な検診が大切と言われています。厚生労働省が定める乳がん検診では、検査方法として問診とマンモグラフィが採用されています*3。なお、最近では30代の方向けに乳腺超音波(エコー)検査を取り入れている自治体も増えています。
マンモグラフィの検査時の痛みはなくすことができない⁉
マンモグラフィは「痛い」「つらい」などの声を耳にすることが多い検査のひとつです。乳房を圧迫して撮影するため痛みが生じやすいですが、痛みの感じ方は人それぞれであり、すべての方がつらい痛みを感じるわけではありません。しかし、この痛みをできるだけ軽減する方法やほかの乳がんの検査方法を選択することはできます。詳しくは、後述の「マンモグラフィでできるだけ痛みを軽減するポイント」以降で紹介します。
マンモグラフィの有効性は? 40歳以降の女性で乳がんの死亡率減少効果あり
乳房にはカルシウムの沈着による石灰化が生じることがあります。石灰化の多くは発生しても問題ありませんが、なかには乳がんが原因で石灰化が生じる場合があります。マンモグラフィでは、こうした石灰化の形状・個数・広がり方、しこりがある場合はその形状などを診て、悪性を疑ったほうがよいかを判定します。微小石灰化は乳房内にできたとしてもほぼ無症状のため、マンモグラフィを受けることで早期発見できる可能性は高くなります。
ただし、40歳未満の方へのマンモグラフィ検診の実施は推奨されていません*4。これは40歳未満の場合、乳がん罹患率が低く、またマンモグラフィの死亡率減少効果(がん検診の有効性)を検討した研究もほとんどないためです*4。一方、40歳から74歳を対象としてマンモグラフィ検査を実施することは、乳がんによる死亡率減少効果を示す科学的根拠があるため*4、マンモグラフィ検査は40歳以降の女性におすすめの乳がんの検査方法です。
乳がんの予防を考えると、単にマンモグラフィを避けるのではなく、年齢、乳房の状態、乳がんリスクなどを勘案し、自分に合った乳がんの検査方法を選択することが望ましいと言えます。
マンモグラフィで乳房を薄く伸ばすことの意味
マンモグラフィはどんな検査?
マンモグラフィは、乳房を片方ずつ圧迫板ではさんでX線撮影をする検査です。乳房を透明の圧迫板ではさみ薄く広げることで、乳腺の重なりを減らして病変を発見しやすくしています。マンモグラフィはとくに40代以降の方に推奨される検査方法で*3、石灰化をともなう乳がんや、比較的硬さのあるしこりを見つけるのに優れた検査です。
なぜマンモグラフィは痛いと言われがちなのか
マンモグラフィでは、撮影時に乳腺をより広くよりはっきりと描出するために、乳房を引っ張り出したり、強く圧迫したりすることで、痛みが生じやすいと言われています。
マンモグラフィの撮影は片方ずつ行われます。乳がんは乳房の外側の上部(脇の下)あたりに発生することが最も多いため、乳房だけでなく脇の下の乳腺組織も圧迫板の間に引っ張り出して圧迫し、撮影します。日本人のマンモグラフィ撮影時の平均的な圧迫乳房厚は、37.7mmだったという調査結果があります*5。マンモグラフィを初めて受診する際、乳房がここまで薄くなることに驚く方は多いです。こうした圧迫による乳腺の痛みや違和感について、強く痛みを感じる方、圧迫感などはあるもののそこまで痛くない方、まったく痛みを感じない方など、乳房を圧迫した際の感じ方には個人差があります。
なぜ乳房を圧迫し、薄く伸ばした状態にして撮影するのか
マンモグラフィでは、撮影時に乳房を圧迫し、薄く伸ばした状態にすることで、乳腺組織の重なりを解消し、病変を発見しやすくします。また、薄くすることは検査時の放射線被爆の低減にもつながります*6。
検査時に乳房を引き寄せたり、圧迫して薄く伸ばしたりすることにより、人によっては強い痛みを感じることがありますが、身体をこわばらせたり引いたりすると、痛みをより感じやすくなり、乳房が十分に圧迫できずに検査の精度が低くなる可能性があります。深呼吸をして身体の力を抜き、できる限りリラックスして臨みましょう。
マンモグラフィによる被曝の影響は?
マンモグラフィではX線を使用します。X線(レントゲン)検査でよく心配されるのが、放射線被曝による影響です。現状、日本のマンモグラフィの装置では、ほとんどの場合2.4mGy(ミリグレイ)以下で撮影されています。乳房の厚みや乳腺の量の割合によって線量は変わってきますが、実際の被曝線量は2mGy程度です*7。将来的に、白血病や発がんなど、マンモグラフィ検査が原因となって身体に影響が出るような線量ではないとされています*6。
乳腺濃度と、マンモグラフィ受診時の痛みや違和感
高濃度乳房(デンスブレスト)とは?
乳腺組織の密度(乳腺濃度)は、高い順に「極めて高濃度」「不均一高濃度」「乳腺散在」 「脂肪性」の4種類に分類されます*8。このうち、「極めて高濃度」と「不均一高濃度」にあたる乳房が「高濃度乳房(デンスブレスト)」です。40代以上の日本人女性のうち約40%が高濃度乳房であると考えられており*9、これは欧米に比べて高い割合と言われています。また、日本人女性における高濃度乳房は、脂肪性乳房と比べると乳がんの発症リスクがわずかに高くなる傾向があるとの報告もありますが、この分野はさらなる研究が必要だとされています*9。
マンモグラフィでは、脂肪は黒く、乳腺腫瘤(しこり)や石灰化などの病変は白く写ります。一方で乳腺組織も白く写り、高濃度乳房の方ほどその白さは強い傾向にあります。本来発見しなければいけない腫瘤が、乳腺に隠れてしまう可能性があります。そのため、高濃度乳房の方はそうでない方と比較して、マンモグラフィで乳がんや治療の必要な腫瘤などを見つけることが難しくなる傾向にあります。
マンモグラフィ受診時の痛みに注意が必要な方
次に該当する方は、マンモグラフィ受診時の痛みや違和感等に注意が必要です。
高濃度乳房の方
高濃度乳房の場合、マンモグラフィの際に強い痛みや違和感が生じることがあります。また、がんと乳腺を画像上で区別するのが難しい場合もあります。
ハリがあり小さめの乳房の方
日本などのアジア系女性の乳房のサイズは、欧米女性と比較してハリがあり小さめであるという特徴があります。こうした乳房の場合、マンモグラフィ検査時に乳房を引っ張り出し、薄く伸ばした状態にすることで強い痛みや違和感が生じることがあります。
生理前~生理中の方
生理前から生理中は女性ホルモンの影響により乳腺が発達して乳房が張ることにより、痛みに敏感になることがあるため、健康診断や人間ドックを実施する医療施設によっては生理後の受診が望ましいとしています。
20~30代の方
20~30代の方は乳腺が発達しており、乳腺の濃度が高い方が多いです。そのため、マンモグラフィでは詳細に判断できない場合が高頻度にみられ、マンモグラフィ検査の有効性が低いと言えます。
マンモグラフィの痛みや違和感が気になる方におすすめの検査については、このあとの「どうしてもマンモグラフィを受けたくない方へ、痛くない乳がんの検査の方法とは?」で紹介します。
マンモグラフィでできるだけ痛みを軽減するポイント
マンモグラフィ受診前と検査時のポイント
マンモグラフィの検査中の痛みや違和感をなくすことはできませんが、できるだけ軽減するためにも以下の点に注意しましょう。
生理前~生理中の受診を避ける
女性ホルモンの影響により、生理前から生理中は乳腺が発達し乳房が張ることが多いです。そのため、乳房を圧迫する際に痛みがより強く出ることがあります。痛みが不安な方は、この期間は避けて受診しましょう。
身体に異変がある場合は担当技師に申し出る
乳房に痛い箇所がある、ケガをしている、肩が痛い、めまいがするなど、何かあれば事前に検査技師に相談してください。
撮影時の姿勢に気をつける
力が入っている場合や緊張している場合は違和感が生じやすいとされています。深呼吸をして力を抜き、できるだけリラックスして検査に臨むことが大切です。
我慢できないほど痛い場合は、遠慮せず伝える
圧迫する際にがまんできないほどの痛みを感じたときは、すぐに検査技師に申し出ましょう。
マンモグラフィを受診する医療施設選びのポイント
痛みを感じやすい人は、以下のような医療施設での受診を検討してみましょう。
日本乳がん検診精度管理中央機構の認定を受けた医療施設
安心してマンモグラフィ検査を受けるために、使用する撮影装置の精度管理が適切に行われている医療施設を選択することもポイントです。判断材料のひとつとして、日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)が発行する施設・画像評価の認定があります。精中機構では、マンモグラフィの読影医師や撮影技師に対しても講習会や認定証の発行を実施しています。こうした認定を受けている医療施設を選択することで、より安心してマンモグラフィ検査に臨むことができるでしょう。認定医療施設は日本乳がん検診精度管理中央機構のWebサイトより検索することができます。
日本乳がん検診精度管理中央機構 マンモグラフィ検診施設・画像認定施設(外部サイト)
痛みを軽減してくれる検査機器がある医療施設
マンモグラフィの検査機器のなかには、威圧感のない丸みを帯びたデザインの機器、圧迫圧力に応じて圧迫速度を徐々に低下させて痛みを軽減してくれる機器、痛みを軽減するために圧迫完了後に乳房の厚みが変化しない範囲で減圧してくれる機器など、検査時の痛みに考慮したマンモグラフィ装置を導入している施設もあります。機器名などで検索すると、装置を導入している医療施設がヒットすることがあります。ただし、先にご紹介した精度管理や読影技術がともなっていることが重要です。
乳がん検診でマンモグラフィを受けられない人
撮影時の被爆や圧迫による影響を考慮し、次に該当する方はマンモグラフィ検査を受診することができません。
・妊娠中もしくは妊娠している可能性がある方
・授乳中の方
・豊胸手術を受けた方
・1年以内に胸部付近の手術をされた方
・撮影時に破損の恐れがある医療器具等を装着している方(例:ペースメーカー、VPシャント、カテーテル、CVポート等)
しかしながら、受けられない人の条件は医療施設により異なることがあります。事前に確認しておきましょう。
どうしてもマンモグラフィを受けたくない方へ、痛くない乳がんの検査の方法とは?
メリット・デメリットを理解した上で、乳腺超音波(エコー)検査を検討
乳腺超音波(エコー)検査は、検査にともなう被爆や痛みがないため誰でも安心して受けられるメリットがあります。こうしたことを考慮して、40歳未満の女性や高濃度乳房の方には乳腺超音波(エコー)検査をおすすめしている医療施設もあります。
乳腺超音波(エコー)検査はベッドに仰向けに寝た状態で乳房の上にゼリーを塗って超音波プローブを当てることで乳房の画像を得る検査です。乳腺超音波(エコー)検査は、マンモグラフィには映りにくいしこりや、サイズが小さいしこりを見つけるのに優れていますが、石灰化を見つけるのには向いていません。また、超音波検査単独法やマンモグラフィ検査との併用法において乳がんの死亡率を減少させる効果はまだ検証中です*4。
近年注目されている乳がんの検査、無痛乳がん検診(DWIBS)
詳しく検査したいけれど、身体的負担を減らしたいという方は「無痛MRI乳がん検診」がおすすめです。無痛MRI乳がん検診はDWIBS法(ドゥイブス法)を利用した新しいがん診断法で、2004年に日本人医師である高原太郎教授が開発しました*10。最も大きな特徴は、乳房をはさんだり圧迫したりしないので、身体的負担がないことです*11。圧迫しないことは、豊胸術や乳がんによる乳房手術におけるインプラント挿入後などの検査を可能にしています。さらに、検査着やTシャツを着たまま検査ができるので胸を見られる心配がなく、MRI検査であるため放射線被爆もありません。
また、従来の乳房MRIとは異なり、無痛MRI乳がん検診ではガドリニウム造影剤(以下、造影剤)を使用していません*11。造影剤は脳や腎臓に薬剤が残留する危険があることや*12、喘息の既往がある方は副作用のリスクがあることがわかっています*13。
ただし、無痛MRI乳がん検診は国の指針で定められた検診法ではないため、人間ドックなど自費診療でのみ受けることができます。
マンモグラフィ・乳腺超音波検査・無痛MRI乳がん検診の違い
乳がん検診におけるおもな乳がんの検査はマンモグラフィ、乳腺超音波(エコー)検査ですが、人間ドックなどでは近年、痛くない・恥ずかしくない乳がん検診法としてMRIが注目されています。とくに前述した「無痛MRI乳がん検診(DWIBS)」は新しい乳がんの検査方法として注目されています。それぞれの検査の特徴、メリット・デメリット、費用目安は下記のとおりです。
マンモグラフィ | 乳腺超音波(エコー)検査 | 無痛MRI乳がん検診 | |
---|---|---|---|
特徴 | ・X線(レントゲン)による撮影 ・脂肪性乳房の方に適している ・石灰化のある小さな乳がんの発見に適していている ・石灰化や乳腺の全体像を把握しやすい | ・超音波(エコー)による撮影 ・若い方や高濃度乳腺の方に適している ・マンモグラフィには写らない小さなしこりを発見しやすい | ・MRI(ドゥイブス法:背景抑制広範囲拡散強調画像)による撮像 ・高濃度乳腺の方や豊胸後や術後乳房の方も受診できる ・マンモグラフィや超音波検査よりも精度が高い |
メリット | ・死亡率減少効果が科学的に認められている ・自治体のがん検診で受けることができる(ただし対象は40歳以上、2年に1回のみ) ・導入している医療施設数が多い | ・身体的負担がない ・放射線被曝がないため、妊娠中の検査が可能 | ・身体的・精神的負担がない(痛くない・見られない) ・造影剤が不要 ・検査着を着たまま検査が可能で、裸になったり乳房をさわられたりすることがない ・放射線被曝がないため繰り返し検査が可能 |
デメリット | ・乳房を強く圧迫されることによる身体的負担がある ・放射線被曝がある ・乳腺濃度が高いと病変をみつけにくい ・検査時に検査技師が乳房をさわってポジショニングする必要がある ・乳房が小さい場合や変形している場合は観察範囲が限られてしまう場合がある | ・死亡率減少効果が現状では明らかでない ・石灰化の評価がしにくい ・がん以外の良性の所見も見つかりやすいため、再検査となる可能性が高くなる ・検査時に上半身裸になり、乳房に機器を押し当てる必要がある ・医師や検査技師による技術差が影響しやすい | ・死亡率減少効果が現状では明らかでない ・受けられる医療施設が限られている ・費用が比較的高額である |
費用目安 (自由診療の場合) | 4,000~8,000円 | 3,000~6,000円 | 2~3万円 |
自身の年齢、乳房の乳腺濃度、乳がんリスクなどに合わせて、乳がんの検査方法を選択することが大切です。
参考資料
*1.がん研究振興財団「がんの統計2022」
*2.国立がん研究センター がん情報サービス「院内がん登録 2013-14年5年生存率集計」
*3.厚生労働省 がん検診
*4.国立がん研究センター がん対策研究所 乳がん
*5.松本雅紀ら「マンモグラフィによる被曝線量評価のための平均乳房厚の検討」日本乳癌検診学会誌 2000, 9 (1) MAR
*6.日本放射線技術学会 マンモグラフィ
*7.環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和3年度版、HTML形式)」第2章 放射線による被ばく 2.5 身の回りの放射線
*8.日本乳がん検診精度管理中央機構 乳房構成の判定方法
*9.厚生労働省 第21回がん検診のあり方に関する検討会(資料)「対策型乳がん検診における『高濃度乳房』問題の対応に関する報告書」(2017年)
*10.東海大学工学部 MRIを活用した新たながん診断法を開発 医用生体工学科・高原太郎教授
*11.ドゥイブス・サーチ
*12.医薬品医療機器総合機構 安全対策に関する通知等(医薬品)「ガドリニウム造影剤の「使用上の注意」の改訂の周知について(依頼) 平成29年11月28日 薬生安発1128第1号、第2号、第3号(厚生労働省より)」
*13.日本医学放射線学会 「ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言」の改訂について