PET検査は肺がん、乳がん、大腸がんなど多くの病気の診断に有効であることが近年の研究で証明されてきています。一度の検査でほぼ全身のがんを調べることができ、1cm程度の比較的小さながんも検出できるため、人間ドックのプランにPET検査を導入する病院も増えてきています。年々保険適用も拡大されている注目度の高い検査ですが、放射線を出す薬剤を体内に注射するため、副作用や被爆を心配する方もいるかもしれません。
この記事ではPET検査を受けようか検討している方に向けて、PET検査の副作用や注意点についてくわしく紹介します。またPET検査の仕組みやPET検査でわかること、費用相場などについても解説しているので参考にしてください。
★こんな人に読んでほしい!
・50歳以上の方
・家族にがんになった方がいる
・PET検査の副作用が気になる方
★この記事のポイント
・PET検査は「がん細胞は正常細胞に比べてブドウ糖を多く取り込む」という性質を利用している
・「ブドウ糖に似た性質を持ちつつ放射線を出す特殊な薬剤」を体内に注射して、体内から放出される放射線(陽電子)を検出して画像にしている
・すべてのがんを見つけられるわけではないが、PET検査が得意とするがんは乳がん、肺がん、大腸がんなどを含めて13種類ある
・PET検査の費用相場は10万円前後、検査時間は30〜40分程度
・PET検査の放射線被爆による健康への影響は心配ない。ただし、妊婦は原則受けることができない
目次
PET検査とは? 検査のメリット
PET検査の仕組み
がんは大きくなったり活動したりするために「糖代謝」といってブドウ糖を大量に消費しています。PET検査は「悪性度の高いがんほど消費するブドウ糖の量が健康な細胞に比べて多くなる」という性質を利用して、ブドウ糖に似た性質を持つ薬剤で放射線を放出する「FDG薬剤(フルデオキシグルコース、18F-FDGともいう)」を体内に注射しています。
注射したFDG薬剤が体内のどこに集まっているのかを画像化するために使うのが「PET」というトンネル型の装置です。FDG薬剤の中に含まれる「陽電子」という放射線の一種を検出して解析することでがんが疑われる部位はどこなのか全身を一度に調べることができます。がんの大きさや転移状態、良性か悪性かの判断に役立ちます。
またPET検査はがん以外にも炎症部位、てんかん、アルツハイマー、心筋梗塞などさまざまな病気に対しても有効性が認められている検査です。がんについては悪性リンパ腫や乳がん、大腸がんなどを含む下記の13の病気を対象に、以下の条件を満たす場合はPET検査が保険適用になることがあります(2020年時点)*1。
対象疾患:悪性リンパ腫、悪性黒色腫、脳腫瘍、乳がん、肺がん、大腸がん、頭頸部がん、食道がん、子宮がん、卵巣がん、転移性肝がん、膵がん、原発不明がん(早期胃がんは適用外)
- 他の画像検査などでがんのステージ診断、転移、再発が確定できない場合
- 腫瘍の大きさやリンパ節の転移などからがんが確認されている場合
- PET検査あるいはPET-CT検査が診断に有効であると考えられる場合
ただし、人間ドックなどのがん検診でPET検査を受ける場合は、自由診療であるため医療保険が適用されず、費用は原則全額自己負担になります。
また現在多くの病院では、がんの疑いがある部位をうつしだすPET画像と臓器の形や位置を正確にうつしだすCT画像を重ね合わせることでより高い精度でがんを見つけ出すPET-CT検査が主流になりつつあります。
PET検査が得意ながん、苦手ながん
がんの種類や状態によって、PET検査で発見するのが得意ながんと不得意ながんがあります。
PET検査は一般的に1cm程度の大きさになったがんを発見できると言われているため、比較的早期のがんでも発見できる検査です*2。なかでもPET検査が発見を得意としているがんは「肺がん」「大腸がん」「乳がん」などです。一方で「早期胃がん」はPET検査にあまり向いていません。そのほかにも 「前立腺がん」「腎臓がん」「膀胱がん」などは苦手です。これは、膀胱内は正常でもFDG薬剤が集まってしまい正常との区別が難しいためです。PET検査で見つけづらいがんもありますので、単独で受け続けることはあまりおすすめできません。
<PET検査が得意とするがん>
悪性リンパ腫、悪性黒色腫、脳腫瘍、乳がん、肺がん、大腸がん、頭頸部がん(咽頭がん、口腔がん、頸部リンパのがん等)、食道がん、子宮がん、卵巣がん、転移性肝がん、膵がん、原発不明がん
<PET検査が苦手とするがん>
早期胃がん、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がん、尿管がん、肝細胞がん、胆道がん、白血病など
がんそのものを見つける以外にも、がんが見つかったあとでほかの臓器に転移がないかどうか全身を調べる目的でPET検査が使われることもあります。また、通院している病院にPET装置がない場合は、ほかの病院に紹介状を出される場合もあります。
PET検査の費用と検査時間
<PET検査の費用>
PET検査を自費で受ける場合の費用相場は、10万円前後です。保険診療の場合はこの3割もしくは1割負担になります。さらに、紹介状なしで大病院を受診した場合には追加で5000円前後の追加料金がかかります。また、PET-CT検査の場合にはさらにCT検査の費用が追加されます。
<PET検査にかかる時間>
検査時間は30分前後、検査前の安静時間は1時間程度です。医療施設によって異なりますが、受付から会計をするまでにかかる時間は3時間前後です。
PET検査のメリット・PET検査をお勧めする人
ここまでお話ししたPET検査の特徴からPET検査のメリットをまとめると次のようになります。
- 部位別のがん検診では調べられない部位も含めてがんの疑いが調べられる
- 検査にともなう痛みや副作用の発症リスクが少ない
- 1cm程度の比較的早期ながんも見つけることができる
- 1回で全身の検査ができる
- がんの悪性度の疑いを数値で評価することができる
PET検査にはこのように優れた特徴がいくつもある一方で、被曝の影響や副作用もまったくゼロではありません。次に、PET検査の副作用についてくわしく解説します。
PET検査の副作用
被爆量は少ないが受診頻度は医師と相談を
PET検査で投与する薬剤には放射線を出す「ポジトロン核種」というものが含まれているため、放射線被爆があります。被爆線量は多くなく、1回あたり約3.5mSv(シーベルト)程度です*1。日本人が1年間に自然に浴びている被爆線量量(2.4mSv)の約1.5倍程度なので、健康への影響は心配ありません。
PET-CT検査の場合にはCT検査分の被爆量(5〜14mSv程度)が増えますが、実際には「100mSv以下では被爆の影響によるがんのリスクは検出できないほどゼロに近い」ということがわかっているため、いずれにせよ被爆の影響は基本的に心配しなくて大丈夫です*3。
ただし、年1回など高頻度でPET検査を受ける場合には、被爆のリスクよりも検査を受ける利益のほうが大きくなるかどうか、医師と相談して決めることをおすすめします。
薬剤の副作用はある?
PET検査は安全性が高く、体内に投与するFDG薬剤により具合が悪くなったり体が熱くなったりするなどの副作用はほとんどありません。日本メジフィジックスが販売しているPET薬剤の添付文書によると、使用成績を調査した1291例のうち、吐き気や痒みなどの明らかな副作用がでたのは2例(0.2%)のみでした*4。
CT検査やMRI検査で使用する造影剤は喘息の方や腎臓が悪い方は受けられないといった制約がありますが、PET検査で使用する薬剤は副作用が出にくいため制約がほとんどありません。使用する薬剤の量も、CT検査の造影剤は100cc程度なのに対してPET検査のFDG薬剤は5cc程度と少量なので身体への負担も少ないです。ちなみにPET-CT検査もPET検査と同様のFDG薬剤を使用するため、副作用の心配はありません。
その他、採血などで気分が悪くなったことがある方や注射時のアルコール消毒でかぶれやすい方は事前に検査室のスタッフに申し出てください。
検査することができない人
以下のような方はPET検査を受けることができない場合があります。
<妊娠中、妊娠の可能性がある方>
妊娠中の方や妊娠の可能性がある方は、胎児への放射線被爆があるため原則PET検査を受けることはできません。担当医に他の検査で代用することができないか相談してください。妊娠していることに気づかずに胎児が被曝してしまうリスクを避けるには、生理終了後10日以内に検査を行うのが望ましいと言われています。なお、授乳中の方はPET検査を受けても問題ありません。ただし検査当日は母乳に微量の放射線が含まれているため授乳を控えたり、子どもを長時間抱くことを控えたりするといった制限があります。
<生理中(月経期間中)の方>
生理中でもPET検査を行うことは可能ですが、避けたほうがよいでしょう。生理中にPET検査を行うとFDG薬剤が子宮内膜に、排卵期にも子宮内膜と卵巣に集まることが知られています。薬の集積が、子宮がんや卵巣がんによるものなのか、月経周期に関わるものなのか区別がつかなくなります。生理と検査日が重なってしまった場合にはPET検査を担当する技師やスタッフにその旨を伝えてください。
<糖尿病など血糖のコントロールが不良の方(低血糖で重症化する恐れのある方)>
PET検査で投与するFDG薬剤は糖分に似ている物質なので、血糖値や糖代謝の影響を受けます。糖尿病の方はもともと体内に糖が多く存在するため、血糖値が慢性的に高いです。このような方がPET検査をするとFDG薬剤が体内に取り込まれず、検査の評価が正しくできないことがあります。
<安静が困難な方>
安静にすることが困難な方は検査を受けられないことがあります。FDG薬剤の注射前後に激しい動きをしてしまうと、正しい評価ができなくなってしまうためです。PET検査中に動いてしまうと画像がぶれてしまうだけでなく、検査台から落ちてしまい怪我をする危険もあります。
その他、PET検査日の2〜3日前に胃や大腸のバリウム検査をした方は、体内に残ったバリウムが検査の妨げになる可能性があるため、担当医に事前に相談してください。バリウムが多く残っていると検査ができない場合があります。
PET検査の注意点
検査を受ける方の注意点
<検査前の注意点>
1)糖尿病薬の服用中止
糖尿病の方は血糖値を下げる薬の服用を一時的に中止することがあるため、事前に担当医に相談してください。その他、痛み止めや常用薬などは飲んでいてもPET検査には問題ありません。
2)注射後1時間は安静にする
PET検査の約1時間前にFDG薬剤を注射します。注射をしたあとは身体の余分な活動を少なくして正常に検査できるようにするために、運動はもちろん音や光の刺激すらない状態が望ましいとされています。そのため、待ち時間に読書、音楽を聴く、会話をするといったことはできません。検査で呼ばれるまで、マッサージチェアのような椅子が用意された待機室でアイマスクをして静かに寝ていることが多いです。検査直前は膀胱内を観察しやすくするために、トイレに行くように案内されます。
3)検査前は激しい運動をしない
検査前に激しい運動をすると正常に評価ができなくなることがあります。これは筋肉が疲労回復のためにエネルギーを消費して、一部の筋肉にFDG薬剤が集まってしまうためです。たとえばスクワットをしてしまうと下肢に集まったFDG薬剤ばかりが画像上目立ってしまい、他の部位の病気が見つけにくくなってしまいます。ただし、荷物を持ったり階段を登ったりするなど日常生活程度の運動をすることは問題ありません。
4)検査前に飲めるのは糖分のない水やお茶のみ
検査前には水分を取ることができますが、飲めるのはお水やお茶などに限られます。これは砂糖やミルクが入っている飲み物を飲むとFDG薬剤の集まり方が変わってしまい、検査結果に影響が出てしまうためです。コーヒーや紅茶は砂糖やミルクが入っていなければ問題ありませんが、ジュースやスポーツドリンクは砂糖が含まれているため検査前に飲むことはできません。
5)検査の5〜6時間前は絶食
検査予定時間の5〜6時間前は食事をとることができません。これは食事をしてしまうと食後にインスリンというホルモンが体内で分泌されてFDG薬剤の働きを妨げてしまうためです。そのため、誤って検査前に食事をとってしまうと最悪の場合検査が中止になることもあります。ただし、当日の検査スケジュールに余裕がある場合や食事内容によっては検査を行えることもあるため、まずは検査室の技師やスタッフに問い合わせてみてください。
<検査時の注意点>
PET検査自体はトンネル型の装置に30〜40分程度横たわるだけで終了します。特別注意することはありませんが、閉所恐怖症など途中で検査をやめたくなってしまった場合は身体を動かさずに声に出して気分が悪い旨を伝えてください。検査室のスタッフが検査を一時中断して対応してくれます。
<検査後の注意点>
PET検査は体内に微量の放射線を注射するため、終了後にも注意点があります。検査で注射した薬剤は尿と一緒に体外へ出ていくため、水やお茶を多めに飲むようにしてください。身体から出る放射線は時間が経つにつれて急速に少なくなるため4〜5時間くらいすれば注射したときの約10分の1程度まで少なくなります。自分の身体や周りの人の体調に影響が出る量ではないため、基本的には日常生活をして問題ありませんが、むやみに人混みへ行くことは控えましょう。
また胎児や子どもは大人に比べて放射線の影響を受けやすいので、妊娠中の方や子どもとの接触も控えるのが賢明です。授乳中の方は母乳に微量の放射線が含まれているため、検査後24時間の授乳は念のため控えてください。また添い寝をしたり、抱いたりすることも可能ならば12時間は避けたほうがよいです。
付き添いの方の注意点
PET検査では、機械で放射線をあてているわけではありません。体内に注射するFDG薬剤の中に微量の放射線が含まれているため、注射をした患者の体内からわずかに放射線が放出されています。
患者に付き添う方も多少なりとも被爆をするため、PET検査の際に子どもや妊娠している方を一緒に連れていくのは避けましょう。また日常生活において介助が必要な方の場合には、必要最小限の人数にしましょう。
参考資料
*1. 日本核医学会「FDG PET,PET/CT 診療ガイドライン 2020」
*2. 日本核医学技術学会学術委員会、日本核医学会 PET 核医学分科会、日本核医学会分子イメージング戦略会議「がんFDG-PET/CT 撮影法ガイドライン第2版」(平成25年)
*3. 環境省「低線量被ばくによるがん死亡リスク」
*4. 日本メジフィジックス株式会社 FDGスキャン注 添付文書
日本核医学会、日本核医学会 PET 核医学分科会「FDG-PET がん検診ガイドライン 第3版」(2019年6月)
日本核医学会、日本アイソトープ協会「PET検査Q&A」(2011年7月)