がん検診

妊娠中・授乳中でも乳がんになる可能性はある? 乳がん検診で受けられる検査と授乳中の乳房トラブルを解説

妊娠中 がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

妊娠中や授乳中は、乳がん検診を受けたくても検査による影響が気になり、受診を先送りにしがちです。この記事では、妊娠中・授乳中に乳がんになる可能性、健康診断で受けられる検査・受けられない検査について解説します。乳がんの症状に似ている授乳中の乳房トラブルについても、まとめて紹介します。

★こんな方に読んでほしい!
・妊娠前に乳がん検診を受けておらず、妊娠中に気になっている方
・授乳中に乳がんが気になり、受けられる検査がないか調べている方
・妊娠中・授乳中に健康診断を受ける際に、乳がん検診を受けてもよいか知りたい方

★この記事のポイント
・乳がんの罹患数は30代から増加。晩産化で妊娠中・授乳中に乳がんが発覚することも
・妊娠中・授乳中の健康診断の受診は、まずは、かかりつけの産婦人科医や助産師に相談を
・妊娠中・授乳中に健康診断で乳がんの検査を受けるなら「乳腺超音波(エコー)検査」
・授乳中の乳房のしこりは良性のものも多いが、乳がんやほかの疾患の場合もある
・乳がんはセルフチェックと定期的な検査が大切

妊娠中・授乳中も乳がんになる可能性はあるか

乳がんってどんな病気?

乳がんは乳腺の組織にできる悪性腫瘍(がん)です。乳房は、母乳を産出する乳腺と脂肪組織からできていて、多くのリンパ管が通っています。乳腺は乳頭から放射状にわかれて乳腺葉を形成し、乳腺葉は母乳をつくり出す乳腺小葉と母乳を運搬する乳管から構成されています。乳がんは乳腺組織のうち乳管にできやすいですが、乳腺小葉にできることもあり、進行すると周囲の組織に広がり、さらに進行するとリンパ節や血管を介してほかの臓器に転移することがあります*1

乳がんの発症リスクは30代から急増する

乳がんは日本人女性がもっともかかりやすいがんです。乳がんにかかる人の数は年々増加傾向にあり、2019年国立がんセンターの統計によると、乳がんは女性部位別がん罹患率のトップでした。罹患率は発症リスクとも言えます*2,*3。乳がんの発症リスクは20代後半から徐々に高まり30代で急増し、40〜70代にかけてピークが継続します。 乳がんによる死亡数は30代後半から急速に高まり、30〜69歳では乳がんが女性の死因第1位です*4

妊娠中・授乳中も乳がんに気をつける必要がある

自治体によっては、乳がん検診の実施は妊娠中・授乳中は除外しているところもありますが、妊娠中・授乳中も乳がんになる可能性はあります。アメリカ・カリフォルニア州のオークランド乳がん研究グループによれば、45歳未満の乳がん患者のうち、妊娠中・授乳中の罹患率は2.6%という結果が報告されています*5。妊娠中・授乳中に乳がんが発覚するのは珍しいことではありません。

日本では晩産化が進んでいます。2021年の厚生労働省の報告によれば、1975年には25.7歳であった母の第1子出生時平均年齢は、2015年には30.7歳まで上がり、以降、最新調査の2019年まで横ばいの状況です*6乳がんの発症リスクは30代以降に急増するため、今後さらに晩産化が進めば、妊娠中・授乳中に乳がんが見つかることがより増えるのではないかと考えられています。つまり、妊娠中・授乳中も、乳がんに気をつける必要があるということです。

乳がんは早期発見し適切な治療を行えば、5年相対生存率が9割と予後もよいです*7。乳がんで亡くなる可能性を下げるために、定期的に乳がんの検査を受診することが大切です。妊娠中・授乳中に乳がん検診を受けようと思ったら、まずはかかりつけの産婦人科医に相談しましょう。

妊娠中・授乳中の乳がん検診

妊娠中・授乳中の乳がんの検査

健康診断などで実施される乳がん検診の基本的な検査方法は、乳房の内部を調べるための検査として「マンモグラフィ(乳房X線検査)」「乳腺超音波(エコー)検査」が一般的です。医療施設によっては、医師が乳房をその目で見たりふれたりして病気がないかどうかを確かめる「視触診」を併せて実施する場合があります*8

厚生労働省が定めるがん検診の指針に基づいて、自治体では乳がん検診が実施されています。対象者は40歳以上の女性、頻度は2年に1度、検査内容は問診とマンモグラフィが基本です*9。マンモグラフィは乳がんの死亡率を減少させることが科学的に認められており、乳がん検診で推奨されている検査方法です。

会社の健康診断等では、乳がんの検査が含まれていたり、オプション検査として付加できたりすることがあります。しかしながら、妊娠中・授乳中は、健康診断の乳がんの検査でマンモグラフィを受診できません。妊娠中・授乳中に、健康診断で乳がんの検査を受診したい場合、選択肢としては「乳腺超音波(エコー)検査」があります

妊娠中・授乳中の「マンモグラフィ」について

マンモグラフィは、乳房に特化したX線(レントゲン)検査で、とくに40代以降の方に推奨される検査方法です。乳腺の重なりを少なくするために、2枚の透明の板で乳房をはさんで薄く伸ばし、1方向もしくは2方向から撮影します。

健康診断で妊娠中に「マンモグラフィ」ができない理由

マンモグラフィではX線を使用します。また、検査の際に強く乳房を圧迫刺激することで子宮収縮を生じさせる可能性があるため、胎児への影響を考慮し、健康診断では一般的に受診不可とされています。

妊娠中のX線(レントゲン)検査でよく心配されるのが、放射線被曝による胎児への影響です。しかし、「産婦人科診療ガイドライン」によれば、胎児被爆が50mGy(ミリグレイ)未満であれば問題ないとされています*10。マンモグラフィなど、通常の健康診断で行われる検査の放射線量は50mGy未満です*11通常のX線(レントゲン)検査であれば胎児への影響はないとされていますが*10、誤って被曝してしまうなどの特殊な場合や検査の必要性などを考慮して、健康診断では一般的に妊娠中のX線(レントゲン)検査は受診不可としている医療施設が多く見られます。

もし妊娠中に乳がん検診で「マンモグラフィ」を受けてしまったら(検査後、妊娠の可能性に気づいたら)

妊娠の自覚がないままマンモグラフィを受診してしまうことがあるかもしれません。マンモグラフィの使用についての医療施設側の考え方はさまざまです。妊娠の週数によっても異なりますが、もっとも放射線感受性の高い妊娠初期でも胎児の確定的影響のしきい値(=しきい線量:集団の1%に影響が現れる線量)は約100mGy(ミリグレイ)です*10。通常の検査で母体が受ける放射線量は、胸部X線(レントゲン)検査0.4mGy、マンモグラフィ2.4mGyとされており*11胎児がしきい値を超える被曝を受けることはないと言えます。

健康診断で授乳中に「マンモグラフィ」ができない理由

健康診断で妊娠中には受けられなかったX線(レントゲン)検査などが受けられるようになるのは、母体の回復などを考慮して、産後6ヶ月以降を勧めている医療施設が一般的です。しかし、授乳中の場合は産後6ヶ月であっても、乳腺が発達した状態となっており、通常時よりも検査の際に痛みを強く感じ、正確な診断が難しくなります。そうしたことを考慮して、健康診断の乳がんの検査では、授乳中はマンモグラフィを実施しないとしている医療施設が多く、代わりに乳腺超音波(エコー)検査を推奨しているところもあります。

妊娠中・授乳中の「乳腺超音波(エコー)検査」について

乳腺超音波(エコー)検査は、超音波で乳房の病変を見つける検査です。乳房の表面から超音波を発生する探触子(プローブ)という機械をあて、超音波が反射する様子を画像で確認します。高濃度乳房(デンスブレスト)を指摘されたことがある方や20〜30代の方などに適した検査です。

「乳腺超音波(エコー)検査」は被爆や痛みがなく安心

乳腺超音波(エコー)検査では、検査による被爆や痛みの影響を心配する必要がないため、妊娠中・授乳中でも安心して受診できます。妊娠中・授乳中は通常の乳腺より診断がしづらい状態ですが、明らかなしこりやコブなどは乳腺超音波(エコー)検査でも判別できる可能性があります。

「乳腺超音波(エコー)検査」単独での死亡率減少効果は不十分

乳がんの死亡率を減少させることが科学的に認められているマンモグラフィに対し、乳腺超音波(エコー)検査では、単独の検査で乳がんの死亡率が低下するという明らかな検証結果はまだ得られていません*9。乳腺超音波(エコー)検査でも妊娠中・授乳中は乳腺の発達により病変が見えづらくなること、熟練した医師や看護師、技師でないと正確な検査ができないこともあり注意が必要です*12

妊娠中・授乳中の乳がん検診は、受診する前に産婦人科医に相談する

自治体によっては30歳代の女性を対象に乳腺超音波(エコー)検査を実施しているところも増えてきています。もし、自身が対象となる乳がん検診が妊娠中・授乳中でも受けられる場合は、申し込み前にかかりつけの産婦人科医に相談しましょう。

たとえば、千葉県浦安市では住民登録のある30〜39歳と40歳代奇数年齢の女性を対象に、乳腺超音波(エコー)検査による乳がん検診を無料で実施しています。この検診は妊娠中の方も受けられますが、乳房に触れることで子宮収縮を促す可能性を考慮し、かかりつけ医に相談してからの受診としています*13

実施主体によっては、妊娠中・授乳中の方の乳がん検診は受診対象外としていることもあります。健康診断を実施する医療施設でも、母体の回復などを考慮して、乳がん検診の受診は産後6ヶ月以降が望ましいとしているところも多いです。本来、自分が受診対象となる乳がん検診において、妊娠中・授乳中の受診がどのような取り決めとなっているか確認してみましょう。

しこりや違和感、痛みなどの症状がすでにある場合は、健康診断ではなく乳腺科や乳腺外科などを受診しましょう。

授乳中のしこりや血乳は乳がんの症状? 授乳中によくある乳房のトラブル

乳房に起こる症状や疾患は、乳がん以外にもさまざまなものがあります。とくに授乳中は乳房が張ったり、母乳が詰まってしこりができたり、血乳が出たりするなどトラブルが多い時期でもあります。 授乳中によくある乳房のトラブルの例は以下の通りです*14

・うつ乳:母乳がなんらかの原因で乳房内に溜まってしまう状態(乳汁のうっ滞)。授乳中であればいつでも起こる可能性がある。

・乳汁のう胞(乳瘤):乳腺内に母乳が溜まり固まってしこりができている状態。

・乳管閉塞:授乳中に母乳中の成分が固まり、乳管が詰まった状態。白い石のような小さな栓(乳栓)ができて、乳管口(母乳の出口)を詰まらせることもある。うつ乳から始まり、しこりができて痛みをともなう。

・乳口炎(白斑):乳管口がふさがれ母乳が詰まって、炎症を起こしている状態。乳頭の先の表皮に白い点(白斑)ができ、授乳の際に痛みをともなう。乳腺炎になることもある。

・乳頭亀裂(乳頭の裂傷):乳頭の先端や根元の部分にできる、裂けたような傷のこと。授乳を開始したばかりの時期や、乳児の歯が生える時期に多く見られる。

・乳腺炎:母乳が溜まり過ぎたり(うっ滞性乳腺炎)、乳頭の小さな傷から細菌が入ったり(化膿性乳腺炎)するなど、乳腺に炎症や細菌感染が起きている状態。乳房が赤く腫れたり、痛みや熱感がともなったり、ときには高熱が出ることもある。

・産褥早期の血性乳頭分泌(血乳):出産後すぐの時期(産褥早期)は乳頭から血が混じった分泌物がでること(血乳)があり、これは新しく作られた血管が刺激されて出るといわれる。

授乳中の乳房のしこりの大半は良性と言われますが、乳がんやほかの疾患の場合もあります。気になる症状があった場合は、自己判断せず、かかりつけの産婦人科や母乳外来、助産師などに相談しましょう。

妊娠中・授乳中も乳がんのセルフチェック(自己検診)と定期的ながん検診が大切

乳がんの発症リスクの高い方とは

乳がんの発症リスクは30代以降に高まります。なかでもエストロゲン(卵胞ホルモン)を分泌している期間が長い人ほどかかりやすいとされています。妊娠中・授乳中はエストロゲンの影響が少なくなるため、その間リスクは減ることになりますが、ほかにも乳がんの発症のリスク因子があります。

【乳がんの発症リスク因子】*15,*16
・初経年齢が早い
・初産年齢が遅い
・良性乳腺疾患にかかったことがある
・第一親等で乳がんになった血縁者がいる
・エストロゲンを含む経口避妊薬(ピル)使用経験がある・運動不足、肥満などの生活習慣
・近親者に乳がんあるいは卵巣がんになった人がいる
・近親者に3人以上、下記のがんに罹患した人がいる
乳がん、膵臓がん、前立腺がん(特定スコア以上の悪性度の場合)、脳腫瘍、白血病、大腸がん、子宮体がん、甲状腺がん等

上記項目に当てはまる方は、より高いリスクを持っていると認識しましょう。

乳がんの自己検診(セルフチェック)

乳がんは早期だと変化が現れにくいため、定期的にがん検診等で確認することが望ましいです。自治体のがん検診や会社の健康診断で妊娠中・授乳中でも乳腺超音波(エコー)検査の受診が可能であれば、選択肢として検討してください。しかし、妊娠中・授乳中の女性は対象外になっている、マンモグラフィしかないなどの場合は、セルフチェックが非常に大切になります。以下のような症状や異常を見つけたら*4、すぐにかかりつけ医や妊娠・出産時の主治医の診察を受けてください。

・乳房にしこりがある
・乳房にくぼんでいる部分やただれている部分がある
・乳頭から血が混ざった分泌物がある
・乳頭に陥没や変形がある
・左右の乳房の形が非対称である
・脇の下が腫れて違和感がある

妊娠中・授乳中も、乳がんリスクはあります。発覚したときには進行した状態だったとならないよう、できるだけ受診機会は逃さず、逃したとしても自身で異変に気づけるようセルフチェックを習慣化しておきましょう。

参考資料
*1.国立がん研究センターがん情報サービス 乳がんについて
*2.国立がん研究センターがん情報サービス がん統計 最新がん統計
*3.国立がん研究センターがん情報サービス がん統計 乳房
*4.日本対がん協会「もっと知りたい乳がん(2020年2月)」
*5.A E Lethaby. Overall survival from breast cancer in women pregnant or lactating at or after diagnosis. Auckland Breast Cancer Study Group. Int J Cancer, 1996 Sep.
*6.厚生労働省 人口動態統計特殊報告「令和3年度 出生に関する統計の概況」1 出生の推移
*7.国立がん研究センターがん情報サービス 院内がん登録5年生存率集計結果(2013-14年診断例)
*8.国立がん研究センターがん情報サービス 乳がん 検査
*9.国立がん研究センターがん情報サービス 乳がん検診について
*10.日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン―産科編2020」
*11.環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和3年度版)」HTML版 第2章 放射線による被ばく 2.5 身の回りの放射線
*12.日本人間ドック学会 診断に関するQ&A「Q. 妊婦・授乳期の乳腺検診はどうすればよいでしょうか?
*13.千葉県浦安市 乳がん(超音波)検診 30歳代・40歳代奇数年齢
*14.日本助産師会、日本助産学会「乳腺炎ケアガイドライン2020 2版」
*15.国立がん研究センターがん情報サービス 乳がん 予防・検診
*16.日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版 Q4.乳がんと遺伝について

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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