脳ドック

20代・30代で脳ドックを受けたほうがいい人の特徴とは。若年層の発症確率やリスク因子、予防から兆候がみられた際にとるべき行動も解説

20.30代脳ドック 脳ドック
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

脳血管疾患(脳血管の異常が原因で起こる脳や神経の疾患の総称)は中高年に多く見られる病気ですが、まれに若い世代でも脳梗塞やくも膜下出血などを発症することがあります。リスクを把握する意味で20代や30代でも脳ドックを受けたほうがよい人の特徴や、脳血管疾患の危険因子、予防のために若いうちから意識したい食事や運動のヒント、兆候に気づいたときにとるべき行動について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・20代、30代で脳ドックを受けるか迷っている方
・若くても脳梗塞やくも膜下出血が起こるか心配な方
・脳梗塞やくも膜下出血を経験した家族がいる方

★この記事のポイント
・脳血管疾患には、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」がある
・脳血管疾患の推定患者総数のうち、若年層(15〜34歳)の割合は0.41%
・若い世代の発症はまれだが、発症すると命に関わる可能性が高い
・過度なダイエットによる低栄養状態も脳血管疾患のリスクを高める
・脳血管疾患は突然起こる。兆候に気づいたら、迷わず救急車を呼ぼう

20代・30代でも注意が必要。脳梗塞やくも膜下出血など脳の病気

脳梗塞とくも膜下出血の違いとは。知っておきたい脳疾患のこと

脳の病気には、脳血管疾患や脳腫瘍、広義では頭痛や認知症などがあります。このうち脳血管疾患は日本における死因の上位に位置しており、2021年の死因順位は第4位、死亡数は10万人を超えています*1

脳血管疾患とは脳血管の異常が原因で起こる脳や神経の疾患の総称で、一般的に「脳卒中」と呼ばれる疾患や「血管性認知症」「高血圧性脳症」「無症候性頸動脈狭窄・無症候性頭蓋内動脈狭窄」などがあります。このうち脳卒中は、脳の血管が詰まることで起こる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」に大きく分類されます*2

脳血管疾患の発症に大きく関わるのが高血圧です*2。また、糖質異常症や肥満なども関与しており、これらが増加する中高年以降の発症が多い病気ですが、まれに20代・30代の若年層で発症するケースもあります(詳しくは「低栄養もリスクに。脳梗塞、くも膜下出血など若年層の脳疾患の危険因子」で解説)*3。世代を問わず、脳血管疾患への理解を深め、予防のための適切な健康管理を意識することが大切です。

若年層における脳疾患の発症率

脳疾患の発症率を世代別にみていきます。厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」によれば、年齢階級別の脳血管疾患の推計患者数は下記表の太字のとおりです*3

<脳血管疾患の推計患者数(年齢階級別)>(単位:千人)

総数 0~14歳 15~34歳 35~64歳 65歳以上
全傷病の総数 8348.8 742.7 692.2 2375.3 4523.7
脳血管疾患 197.5 0.3 0.8 27.6 168.7
脳梗塞 126.9 0.1 0.4 11.5 114.9
その他脳血管疾患 70.6 0.2 0.5 16.1 53.8
※厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況「統計表3 推計患者数,総数-入院-外来・年齢階級・傷病大分類別」をもとに編集部で作成
※数値は四捨五入されているため総数と合わないことがある

脳血管疾患の推定患者総数19万7500人のうち、年齢階級15〜34歳における推定患者数は800人で、脳血管疾患全体の0.41%です。また、15〜34歳の全傷病の推定患者総数69万2200人に対する脳血管疾患の割合は0.12%で、割合としては高くないことが示されています。

参考までに、下記は15〜34歳で推定患者数の多い傷病の上位3つです*3
1位:消化器系の疾患(15万500人/21.74%)
2位:皮膚および皮下組織の疾患(6万3700人/9.20%)
3位:精神および行動の障害(6万1600人/8.90%)
※カッコ内は各傷病の年齢階級15〜34歳における推定患者数と、全傷病の推定患者総数69万2200人に対する割合
※消化器系の疾患には虫歯や歯周病など歯の疾患が含まれる

他方、下記は厚生労働省の人口動態調査統計をもとに各年齢階級別(20〜59歳)の死因順位をまとめたものですが、25〜29歳以降5歳刻みの年齢階級すべてにおいて、死因順位の5位以内に脳血管疾患が入っています*4

<各年齢階級別(20〜59歳)の死因順位>

1位2位3位4位5位
20~24歳自殺不慮の事故がん心疾患先天奇形等
25~29歳自殺がん不慮の事故心疾患脳血管疾患
30~34歳自殺がん心疾患不慮の事故脳血管疾患
35~39歳自殺がん心疾患不慮の事故脳血管疾患
40~44歳がん自殺心疾患脳血管疾患肝疾患
45~49歳がん自殺心疾患脳血管疾患肝疾患
50~54歳がん心疾患自殺脳血管疾患肝疾患
55~59歳がん心疾患脳血管疾患自殺肝疾患
※厚生労働省 令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況 結果の概要「第7表 死亡数・死亡率(人口10万対)、性・年齢(5歳階級)・死因順位別 」をもとに20〜59歳を抜粋し編集部で作成

このことから、若い世代で脳血管疾患を患う確率は低いものの、発症すると命に関わることが多いと考えられます。20代・30代であっても無関係だと思わず、次から紹介するリスクを把握し、健康的な生活習慣を意識することが大切です。

低栄養もリスクに。脳梗塞、くも膜下出血など若年層の脳血管疾患の危険因子

先に紹介したとおり、まれではありますが若い世代でも脳血管疾患を発症することがあります。その要因として考えられるものを紹介します。

先天性の異常

生まれつきの体質等によって、脳血管疾患を発症しやすい場合があります。脳血管疾患との関連が判明している先天性異常が下記です。

【奇異性(潜因性)脳塞栓症】
静脈で作られた血栓が、血液が本来通る血管とは別のルート(シャント)で左心系に流入し、脳血管を塞ぐことで起こる疾患です*5。50歳以下の若年者脳梗塞の原因として注目されている病態です。

【抗リン脂質抗体症候群】
血液中の自己抗体(抗リン脂質抗体)によって血栓ができやすくなる病気です*6。血栓が脳血管に移動すると、脳梗塞や一過性虚血発作(脳への血流低下により発作的に起こるめまいやしびれ、言語障害などの症状。数十分程度で解消されるため看過されやすいが、脳梗塞の予兆のケースもある)が起こることがあります。

【もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)】
脳の太い血管(内頸動脈)の終末部が細くなり、脳の血液が不足することで起きる病気です*7。細くなった血管を補うため、周囲の毛細血管が網目のように拡がった状態がもやもやして見えることが病名の由来です。毛細血管は破裂しやすく、脳出血につながるケースもあります。また、場合によっては脳梗塞が起こることもあります。

脳動脈解離

なんらかの誘因で脳動脈壁内に出血し、血管壁が裂けることで発症する疾患を指します*8。首の付近にある椎骨(ついこつ)動脈で発生することが多く、血管が詰まったり破裂したりすると脳梗塞やくも膜下出血を引き起こすことがあります。原因が明らかでない突発性のものと、首をひねる運動などで起こる外傷性のもの、頸椎マッサージやカイロプラクティック等により起こる医原性のものがあります。

家族性脳動脈瘤

脳血管疾患のうち、くも膜下出血のおもな要因となる脳動脈瘤(脳にできるこぶのようなもの)*2は、高血圧や喫煙、飲酒といった環境因子のほか、遺伝要因の関与も指摘されています。なお、最新の研究では、同じ家系でも遺伝要因は複数であること、家系によっても異なることが発表されています*9

高血圧・脂質異常症・肥満のほか、低栄養もリスク

脳梗塞の発症には、高血圧や不整脈、糖尿病、肥満、喫煙などが関与しています。脳出血やくも膜下出血には、高血圧、喫煙のほか、飲酒も要因として挙げられます*10

また、脳出血には低栄養(コレステロール値の異常低値)もリスクとして指摘されています*10,*11。低栄養とは、タンパク質や炭水化物、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなど、健康的に過ごすうえで必要な栄養素が不足した状態を指します*12。おもに食が細くなりやすい高齢者がハイリスク群ですが、過度なダイエットなどで食生活が偏りがちな若年層の女性も注意が必要です。

20代・30代でも脳ドックを検討してほしい人の特徴

脳ドックでは、MRI/MRAによって脳の状態を撮影(撮像)し、おもに脳血管疾患の兆候やリスクを調べる検査が行われます。これまでの内容を踏まえ、20代・30代でも脳血管疾患のリスクチェックを検討してほしい方の特徴をまとめました。

・高血圧、糖尿病の方
・肥満気味、糖質異常症の方
・喫煙、飲酒の習慣がある
・外食や加工食品など、塩分過多な食事が多い
・偏頭痛が気になる・頭部や首に影響があるスポーツをしている
・脳血管疾患を患った血縁者がいる
・食事が偏っている、食事制限によるダイエットをしている

脳ドックの詳しい検査内容や費用、脳ドックの受診頻度の目安は下記をご参照ください。

若いうちから意識したい、脳血管疾患予防のための生活習慣

脳血管疾患の予防には、発症に大きく関与する高血圧への対策がポイントとなります*10高血圧の大きな要因として指摘されているのが、塩分の摂りすぎです。高血圧はこのほかに、肥満や飲酒、運動不足、ストレス、遺伝的体質などが複合的に組み合わさることでも起こると考えられています*13。血圧を上昇しにくくし、ひいては脳血管疾患の発症を遠ざけるために、若いうちから意識したい生活習慣のヒントをまとめました。

・減塩を心がける
全体的に薄味を心がけましょう。ハーブや香辛料、酢、レモンやゆずなどの柑橘類を上手に利用するとよいでしょう*13。外食や中食(弁当や惣菜、デリバリーなど)が多い方は、塩分や脂肪が多い料理や主食のみなどの一品料理より、主食・主菜・副菜がそろったメニューを選ぶのが望ましいです*14。麺類の場合、塩分が多いためスープはできれば残しましょう。

・カリウム、カルシウムを摂る
塩分を排出するはたらきがあるカリウムを意識的に摂りましょう*13。カリウムは、海藻類、果物類、野菜類、イモ類などに多く含まれています。カルシウムは血圧の安定に役立ちます。牛乳や乳製品などから摂取すると吸収効率がよいとされています。

・禁煙・節酒をする
喫煙は、血管の収縮に作用し血圧の上昇を促すだけでなく、がんや脳血管疾患、心臓病などあらゆる病気のリスクを高めます*10。禁煙の努力をしましょう。お酒は飲みすぎると血圧が上昇することがわかっています。飲酒習慣がある人の飲酒の適量は1日あたり日本酒1合程度といわれています。お酒はほどほどにし、週に1日以上の休肝日を設けましょう*15

・適度な運動を継続的に行う
適度な運動が血圧の降下に有用であることがわかっています。高血圧改善や予防につながる運動として推奨されているのが、ややきついと感じる程度の有酸素運動(ウォーキング、スロージョギングなど)です。できれば毎日30分以上(もしくは1回10分以上の運動を合計40分以上)を目安に行うことが理想です。日頃運動習慣がない方は、こまめに動くよう意識するところからはじめてもよいでしょう*16

覚えておきたい「ACT FAST」。兆候があったら迷わず救急車を

脳血管疾患は突然起こるのが特徴です。そして、発症後いかに早く適切な処置を受けられるかどうかが、予後に大きく関わります。自身や身近な人に以下のような異変が起こったら、すみやかに救急車を呼びましょう*17

<脳血管疾患かなと思ったら「ACT FAST」>
Face:顔の半分が下がる、歪みがある、うまく笑顔が作れない
Arm:片方の腕に力が入らない、両手を上げたままにできない
Speech:言葉が出ない、呂律が回らない、普段通り会話できない
Time:症状があらわれた時刻を確認する
ACT FAST:速やかに救急車を呼ぶ

上記のほか、下記も脳血管疾患の代表的な兆候です。

・片目が見えない、ものが2つに見える、視野の半分が欠ける
・力はあるのに立ったり歩いたりできない、フラフラする
・経験したことがない激しい頭痛がする
など

繰り返しますが、脳血管疾患は発症から治療までの時間が非常に重要です。上記のような兆候が見られたら、ためらうことなくすぐに救急車を呼びましょう。

参考資料
*1.厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況 結果の概要」
*2.日本脳卒中学会 脳卒中とは
*3.厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況「統計表3 推計患者数,総数-入院-外来・年齢階級・傷病大分類別」
*4.厚生労働省 令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況 結果の概要「第7表 死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)・死因順位別」
*5.Brain and Nerve 脳と神経 58巻11号 (2006年11月)1.奇異性脳塞栓症
*6.難病情報センター 原発性抗リン脂質抗体症候群(指定難病48)
*7.難病情報センター もやもや病(指定難病22)
*8.慶應義塾大学医学部外科 脳神経外科学教室 脳動脈解離
*9.東京女子医科大学 研究成果足立医療 脳神経外科
*10.厚生労働省 e−ヘルスネット 脳血管障害・脳卒中
*11.大阪がん循環器病予防センター <報告>地域住民における血清アルブミン値と病型別脳卒中発症リスクとの関連(CIRCS)
*12.厚生労働省 e−ヘルスネット 低栄養/ PEM
*13.厚生労働省 e−ヘルスネット 高血圧
*14.厚生労働省 e−ヘルスネット 中食の選び方
*15.厚生労働省 e−ヘルスネット 栄養・食生活と高血圧
*16.厚生労働省 e−ヘルスネット 高血圧症を改善するための運動
*17.日本脳卒中学会・日本脳卒中協会「脳卒中の予防・発症時の対応」(厚生労働省2021年度「循環器病に関する普及啓発事業委託費」)

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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