脳ドック

認知症は脳ドックのみではわからないが、リスクの把握は可能。認知症の種類や検査内容、費用を解説

脳ドック 脳ドック
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

脳ドックは脳の異常や病気の早期発見に役立ちますが、認知症の診断には複合的な検査が必要なため、脳ドックだけでは診断されません。ただし、脳卒中などに起因する血管性認知症のリスクは脳ドックで把握できます。この記事では認知症の基本と脳ドックでわかること、検査や費用について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・脳ドックで認知症がわかるか知りたい方
・将来的な認知症のリスクを把握したい方
・認知症の検査や費用について知りたい方

★この記事のポイント
・認知症は脳ドックだけでは診断されず、複合的な検査によって診断される
・脳ドックのみで認知症の診断はされないが、血管性認知症の原因となる脳血管疾患のリスクや兆候が把握できる
・認知症の検査は高額になりがち。リスクチェックが目的であれば費用助成を利用して脳ドック+認知症の簡易チェックなども選択肢に

認知症とは。種類と症状

代表的な認知症の種類

認知症とは、脳の病気や障害などで認知機能が低下することで日常生活に支障が出ている状態をいいます。認知症にはいくつか種類があり、代表的な認知症として以下の4つが挙げられます*1

【アルツハイマー型認知症】
脳の神経細胞が衰えて減少し、脳全体が萎縮することで起こる認知症です。症状はもの忘れから始まることが多く、比較的ゆっくり進行します。東京都健康長寿医療センター・東京都健康長寿医療センター研究所*2による調査では、全認知症のうちアルツハイマー型認知症が占める割合は57.3%で、最も多い認知症です。

【血管性認知症】
脳梗塞や脳出血などの脳の血管障害によって起こる認知症です。ダメージを受けていない部位の認知機能は残るなどの特徴があるほか、アルツハイマー型認知症と合併するケースも多くみられます。同調査では全認知症のうち15.5%を占めています。

【前頭側頭型認知症】
おもに大脳の前頭葉や側頭葉の萎縮によって起こる認知症です。65歳未満での発症が多く、抑制ができない、社会性の欠如といった人格の変化や、同じ行動を繰り返すなどの特徴がみられます*3。同調査では全認知症のうち10.0%が前頭側頭型認知症と診断されています。

【レビー小体型認知症】
レビー小体という特殊なタンパク質が大脳にたまることによって起こる認知症です。日によって症状に波がある、具体的な幻視がある、動作がゆっくりになるなどの特徴がみられます*4。同調査では全認知症のうち4.1%を占めます。

高齢化社会が進む日本では、2025年には65歳以上の5人に1人(約700万人)が認知症になると予測されています*1。認知症を発症する可能性は誰にでもあります。親や家族はもちろん自身の発症も想定し、今のうちから認知症を深く理解しておくことが大切です。

認知症の症状

認知症の症状は種類によって多少の違いはありますが、おおむね脳の神経細胞の障害による中核症状と、中核症状にさまざまな要素が関わり合い副次的に起こる行動・心理症状(BPSD/Behavioral and psychological symptoms of dementiaの略)の2つにわけられます*1。行動・心理症状(BPSD)の定義は専門家の間でもまちまちですが、多くの場合、客観的な視点から世間の常識を逸脱した異常な行動や心理状態を指します*5

【中核症状】
・記憶障害(同じことを何度も聞く、しまった場所がわからないなど)
・見当識障害(時間や場所がわからない、慣れた道で迷うなど)
・実行機能障害(順序よく物事を行えないなど)
・失語、失行、失認(言葉が出てこない、今までできていたことができない、見ているものを認識できないなど)
など

【行動・心理症状(BPSD)】
・不安
・憂鬱
・無関心
・暴力
・徘徊
・睡眠障害
・怒りっぽい
・幻覚や妄想(もの取られ妄想や被害妄想、嫉妬妄想など)
・外出して帰れなくなる
など

中核症状は認知症初期から多くの人にみられる一方、行動・心理症状(BPSD)は個人差があり、周囲の対応などによって軽減することが可能です。

若年性認知症は65歳未満が発症

認知症は一般的に高齢者の発症が多いですが、65歳未満で発症するケースもあります。65歳未満で発症する認知症を若年性認知症と呼びます*4

東京都健康長寿医療センター・東京都健康長寿医療センター研究所*2による調査では、若年性認知症の有病者数は3.57万人※と推定されています。就労状況では、65歳未満で認知症を発症した人のうち今までどおりの職場で働いている人の割合は5.0%、定年前に自己退職した人の割合は57.7%となっており、仕事への影響が少なくないことがうかがえます。

※2018年10月1日の住民基本台帳人口(18~64歳、日本人)の積によって算出

認知症は複数の検査により総合的に診断。脳ドックではリスクの把握が可能

脳ドックは脳血管疾患の検査が中心。脳血管疾患は血管性認知症の原因

一般的な脳ドックでは、MRIなどで撮影(撮像)した画像からおもに脳血管疾患のリスクを調べます。脳血管疾患とは脳の血管の異常によって起こる病気の総称で、代表的なものが脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)です*6。画像から脳の萎縮を発見することはできますが、認知症は複合的な検査(「認知症検査の種類」を参照)によって診断されるため、一般的な脳ドックで認知症と診断されることはありません

ただし、「代表的な認知症の種類」で触れたとおり、血管性認知症は脳血管疾患が原因です。脳ドックで脳血管疾患のリスクを知ることは、血管性認知症のリスクの把握につながります。

認知症のリスクを知るには、専門的な検査を実施するドックの受診を

脳ドックによっては、簡易的な認知機能検査やアルツハイマー型認知症において特徴的な脳の萎縮をMRIで確認する検査(ブイエスラド/VSRAD)、血液検査でアルツハイマー型認知症のリスク要因となる物質について調べる検査(MCIスクリーニング検査、APOE遺伝子検査)などをオプションまたは脳ドックに組み込んだプラン(コース)で実施しているところもあります。いずれも認知症の評価を補助する検査であり認知症の診断はされませんが、将来的な認知症のリスクや兆候の把握が目的であれば受診を検討してもよいでしょう。

また、近年では認知症に特化した認知症(認知機能)ドックを行う医療施設もあり、なかには認知症の診断から診断後の治療やケアまで行う医療施設もあります。リスクを知りたいのか、診断が必要と考えるのか、自身の目的を明確にしたうえで医療施設を選びましょう

認知症が疑わしい場合に受ける診療科とは。迷ったら地域包括支援センターに相談を

最近もの忘れが激しい、時間や場所がわからなくなる、いつもできていることができなくなったなど認知症のような症状が思い当たる場合は、脳ドックではなく認知症外来、もの忘れ外来、脳神経内科、精神科、老年病科、脳神経外科などの専門科を早めに受診しましょう。

とくに若年性認知症の場合は、仕事のミスやもの忘れが増えても、仕事の疲れやストレス、更年期障害などが原因と軽くとらえて認知症の専門科にかかるのが遅くなる傾向にあります*4。なんとなくいつもと違うと感じたら、産業医やかかりつけ医に相談し、専門の診療科への紹介状を書いてもらいましょう。

産業医やかかりつけ医がいない、どこを受診すればいいか迷う場合や、家族に検査を受けてほしいが本人が受診を拒否する場合は、お住まいのエリアの「地域包括支援センター」に問い合わせましょう。地域包括支援センターでは、認知症に詳しい医療施設からコミュニティ、サポート制度など役立つ情報を提供しています*7

認知症検査の種類と費用の目安

認知症検査の種類

認知症の診断は、問診や診察、複数の検査によって行われます。問診・診察では普段の様子や日常生活で困っていること、既往歴などを本人または家族などから聞き取り、その後認知症の詳しい検査を実施します。

認知症の検査は大まかに、神経心理検査、画像検査、リスクを推定する血液検査の3つにわけられます。

神経心理検査

単純な計算や単語の記憶、質問などの検査で認知機能を評価します。代表的な検査として、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート(MMES)検査、MoCA、時計描画テスト(CDT)などがあります。

脳ドックのオプションなどにある簡易認知機能検査では、長谷川式簡易知能評価スケールを用いることが一般的です。

画像検査

MRI/MRA、CTなどの装置で脳を撮影(撮像)し、画像から脳の萎縮や異変を調べます。

【頭部MRI】
磁力や電磁波をあて、身体の断面を撮影(撮像)します。おもに脳梗塞や脳出血、脳腫瘍の有無を調べます。検査の所要時間は約20~30分です。医療被曝はありませんが、強い磁場を発する装置を使うため、治療等で身体に金属が入っている場合は受けられないなどの制限があります。脳ドックの基本的な検査として実施されます。

【頭部MRA】
MRIと同じ医療機器を用いて脳の血管を撮影(撮像)する検査です。MRAではおもに脳動脈瘤や脳血管狭窄など、脳の血管に起こる異変を調べます。脳ドックでは基本的な検査としてMRIとセットで行われます。

この検査は何のための検査?「頭部MRI・MRA検査」

【VSRAD®(ブイエスラド®、脳萎縮評価支援システム)】
MRIで撮影(撮像)した画像を解析し、早期のアルツハイマー型認知症の特徴としてみられる海馬付近の萎縮を調べます。通常のMRIに加え約6分程度の時間を要します。診断の助けとして活用され、この検査の結果のみで認知症と診断されることはありません。脳ドックではオプションまたは認知症リスクを調べるプラン(コース)で行われます。また、対象を50歳以上としている医療施設がほとんどです。

この検査は何のための検査?「VSRAD®(脳萎縮評価支援システム)」

【頭部CT】
X線によって身体の断面を撮影(撮像)する検査です。おもに脳梗塞や脳出血、脳腫瘍の有無を調べます。撮影時間は1分未満とMRIに比べ短い一方、医療被曝があります。過去の治療歴などでMRI/MRAが受けられない場合や、急性の脳出血の検査などに使われます。

この検査は何のための検査?「頭部CT検査」

【脳SPECT】
ごくわずかな放射性物質を含む検査薬を注射し、その分布を画像化して脳の血流や状態をみる検査です。おもに脳血管疾患、認知症を調べます。所要時間は薬の投与から30~40分程度、X線やCTと同程度の医療被曝があります。一般的な脳ドックで実施されることはなく、認知症ドックや専門の診療科が対応しており、医師が必要とした場合に実施されます。

【脳PET(FDG-PET)】
特殊なブドウ糖(FDG)を注射し、その分布を画像化してがんの有無を調べる検査です。脳PET検査では脳腫瘍の有無に加え、アルツハイマー型認知症や脳血管疾患などの検査としても活用されます。X線やCTと同程度の医療被曝があり、検査の6時間前から食事制限が必要です。脳ドックでの実施は少なく、人間ドックのPET検査+脳ドックなどのプランで受診できるほか、認知症ドックや専門の診療科が対応しています。

この検査は何のための検査?「脳PET検査」

リスクを推定する血液検査

血液検査によりアルツハイマー型認知症に関わる物質を調べ、将来的なアルツハイマー型認知症のリスクを把握する目的の検査です。

【MCIスクリーニング検査】
MCI(軽度認知障害)とは、認知症の前段階を指します。この段階で適切な対処を行えば認知症の発症の予防や進行の遅延が期待できるとされています。MCIスクリーニング検査は採血によりアルツハイマー型認知症の原因となる物質を調べ、MCIのリスクを評価する検査です。脳ドックのオプションのほか、認知症ドック、専門科が対応しています。

【APOE遺伝子検査】
採決により、アルツハイマー型認知症の発症に関連する遺伝子を持っているかどうかを調べる検査です。脳ドックのオプションのほか、認知症ドック、専門科が対応しています。

認知症検査の費用の目安

認知症の検査のおもな検査費用の目安を下記にまとめました。なお、自覚症状があり専門科を受診する場合は基本的に保険適用、3割負担です。検査によっては保険適用外のものもあり、その場合は全額自己負担です。自覚症状はないが、念のためリスクを調べたい場合は脳ドックや認知症ドックでの受診となり、基本的に保険適用外、10割負担(全額自己負担)です。

検査の種類保険適用保険適用外(10割負担)
頭部MRI/MRA5,000~1万円1.5~3万円
VSRAD®5,000~1万円1.5~3万円
頭部CT5,000~6,000円1.5~2万円
脳SPECT2~3万円
脳PET(FDG-PET)3万円前後
※認知症の検査は保険適用外
10万円前後
MCIスクリーニング検査1.5~2.5万円
APOE遺伝子検査1.5~2.5万円
※「-」は実施なし

認知症の検査は、精密医療機器などを用いることが多く、また検査によっては保険適用外のため、高額になりがちです。自治体や加入している健康保険組合によっては、脳ドックの費用助成(補助)を行っている場合があります。リスクチェックが目的の場合は、費用助成を利用して認知症の簡易チェックができる脳ドックを受診するのも一案でしょう。

参考資料
*1.厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」 認知症
*2.東京都健康長寿医療センター・東京都健康長寿医療センター研究所「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム」(2020年)
*3.難病情報センター 前頭側頭葉変性症(指定難病127)
*4.認知症介護研究・研修大府センター 若年性認知症について知る
*5.山口晴保「BPSDの定義、その症状と発症要因」(2018年)認知症ケア研究誌 2巻
*6.厚生労働省 e-ヘルスネット 脳血管障害・脳卒中
*7.政府広報オンライン 知っておきたい認知症の基本

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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