脳の検査でよく用いられるMRI/MRAとCTは、いずれもトンネルのような形状の装置です。見た目は似ていますが、それぞれの特徴や見つけられる病気には違いがあります。この記事ではMRI/MRAとCTそれぞれの検査時間や費用、特化部位などを一覧表でまとめています。加えて、脳の検査という観点から、頭部MRI/MRAと頭部CTで見つけられる病気の違い、造影CTを受ける場合の注意点についても解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・MRI/MRAとCTで見つけられる病気の違いが知りたい方
・MRI/MRAとCTのそれぞれの特徴を理解して、自分に合う頭部検査を受けたい方
・脳の病気を心配しており、脳ドックに興味がある方
★この記事のポイント
・脳卒中は初期症状がほとんどないため、早期発見するためには頭部MRI/MRAや頭部CTなどの画像検査を受けることが重要
・頭部MRAではMRI装置を使用する。MRIが断面画像であるのに対し、MRAは脳血管を立体的に描出する
・MRIは磁気を利用した検査で、頭部においてはCTと同等もしくは同等以上の画質を有する。放射線被曝がなく、造影剤を使用せずに脳血管の描出ができるので頭部スクリーニング検査に適している
・CTは放射線(X線)を利用した検査で検査時間が短い。脳出血やくも膜下出血など緊急性が高い病気を疑う場合に優れている
・造影CTはまれに副作用が発生する場合がある。以前に造影剤で副作用を起こしたことがある方や、気管支喘息を有する方、腎機能が悪い方などは副作用の発症リスクが高まるためとくに注意が必要
目次
脳卒中の発症リスクは年齢とともに増加傾向
脳卒中は男性が寝たきりになる原因第1位
脳卒中とは、脳の血管が詰まる脳梗塞と脳の血管が破れる脳出血、くも膜下出血など脳血管の病気の総称で、脳血管疾患の約97%を占めます*1。脳血管疾患は1980年ごろまでは日本人の死因の第1位を占めていました*2。2021年の調査では死因第4位となり*1、過去50年間を見ると死亡者数は減少傾向です*2。しかしながら、最新の調査では65歳以上男性における要介護になった原因の第1位が「脳血管疾患(脳卒中)」となっており*3、脳卒中は健康寿命を損ねる最大の要因であることがわかります。なお、女性の第1位は「認知症」です。
脳卒中は初期症状はほとんどなく、命に関わる危険も。画像検査での早期発見が重要
脳卒中は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、多量飲酒ならびに心房細動と呼ばれる不整脈を放置することで脳の血管が次第に硬くなり、発症しやすくなるとされています*4。発症リスクは65歳を超えると急増しますが*5、基本的に症状がないまま進行していくため、無症状の段階で早期発見をすることが重要です。たとえば脳動脈瘤と呼ばれる脳血管に発生するコブのような病気は、MRIなどの画像検査を受ければ比較的容易に発見できますが、日常生活では気づかないことが多く、ある日突然破裂する可能性があります。破裂し、くも膜下出血を引き起こせば命に関わる危険があります。
脳の異常を早期発見する方法としては、頭部MRI/MRA(以下、頭部MRI)や頭部CTといった画像検査が主流です。なお、頭部MRIは脳の断面画像を得られ、頭部MRAは脳血管を立体的に描出できます。頭部MRAの検査機器はMRI装置を使用します。
MRIとCTの違い
MRIとCTの特徴を比較一覧表で解説
MRIとCTのそれぞれの特徴を下記の表にまとめました。
MRI | CT | |
---|---|---|
特徴 | 電磁波、磁場を利用した撮影方法 | 放射線(X線)を利用した撮影方法 |
検査時間 | 比較的長い (1部位:20分〜1時間前後) | 比較的短い (1部位:数十秒〜10分前後) |
費用 | 費用が比較的高額 3~5万円前後(自費診療) | 比較的安価 2~4万円前後(自費診療) |
対応している医療施設数 | 比較的少ない | 比較的多い |
放射線被曝 | なし | あり |
得意な部位 | 脳・脊髄・関節・骨盤腔内臓器 | 脳・肺・腹部・骨 |
MRIとCTの使い分けについて整形外科を例に挙げると、靭帯や関節などの軟部組織や炎症範囲を調べる場合にはMRIを用い、骨折の詳細な評価、骨と臓器の位置関係を調べる場合にCTを用いて検査することが多いです。
頭部MRIと頭部CTでわかる病気の違い
MRIとCTはどちらか一方が優れているというわけではなく、見つけたい病気や緊急性などの状況によって最適な検査が異なります。この項では頭部領域におけるMRIとCTの使い分けについて解説します。代表的な頭の病気において、「画像診断ガイドライン2016年版」で推奨されている検査を表にまとめました*6。推奨グレードのAは「強い科学的根拠があり、行うように強く勧められる」、Bは「科学的根拠があり、行うように勧められる」を指します。
推奨される画像検査 | 画像診断ガイドラインにおける 推奨グレード※1 | |
---|---|---|
脳内出血(急性期) | CT | A |
くも膜下出血(急性期) | CT※2 | A |
脳梗塞(急性期) | CT、MRI | A |
脳動脈瘤(未破裂) | MRI(MRA)※3 | B |
原発性脳腫瘍 | 造影MRI | A |
アルツハイマー病(認知症) | MRI | B |
※1:推奨グレードは下記の通り
A)強い科学的根拠があり、行うように強く勧められる
B)科学的根拠があり、行うように勧められる
※2:CTで診断が困難な場合はMRIを考慮してもよい
※3:MRI(MRA)で十分な情報が得られず、さらなる精査が必要なときは造影CT(CTA)を推奨
脳血管疾患における急性期とは、発症後の診断・治療を行う期間を指します。表からもわかるように、緊急性が高い出血性病変(脳出血、くも膜下出血など)は頭部CTが向いている一方で、脳動脈瘤といった脳血管の病気は頭部MRI(MRA)での描出が優れています。
また、ヨード造影剤を注射して撮影する頭部造影CTでは脳動脈瘤の位置や形を確認することや、異常血管を描出することができるため、脳動脈瘤や脳動静脈奇形などの診断の際にも使用されています。
頭部スクリーニング検査には原則MRIがおすすめ
無症状の方が脳ドックなど頭部のスクリーニング検査を受けるのであれば、頭部MRIが第一選択と言えるでしょう。この理由として、「画像診断ガイドライン」では下記の通り説明されています*6。
・ほとんどの頭の病気に関して、MRIの精度はCTと同等か、もしくはCT以上
・MRIはCTよりもコントラスト分解能(組織や病変の小さな濃度差を検出できる能力)と細部の描出に優れている
・MRIはさまざまな断面で画像を評価することが可能(CTも可能)
・MRIは微小な脳梗塞や脳動脈瘤など自覚症状のない病変の検出にも優れている
ただし、すべての場面でMRIが優れているわけではありません。緊急性が高い脳出血や大きな脳腫瘍が疑われる場合など、CTのほうが優れている面もあります。
なお、頭が痛い、手がしびれるなど自覚症状がある方は、脳ドックではなく医療施設を受診して医師の判断を仰ぎましょう。
MRIはさまざまな点で優れた検査ですが、検査時における制限が存在します。一部の方は検査を受けられないことを理解しておくことが重要です。次項ではMRIのメリット、デメリットについて説明します。
MRIのメリット・デメリット
MRIのメリットとデメリットは下記の通りです。
<メリット>
・放射線被曝がない
・造影剤を使わずに脳血管を描出することが可能
・多くの頭部の病気において、CTと同等もしくは同等以上の画質が得られる
など
<デメリット>
・検査時間が比較的長い(1部位:20分~1時間前後)
・圧迫感を感じやすい
・検査時の音が大きい
・体内に金属がある場合は検査できないことがある(例:心臓ペースメーカー、人工内耳、人口中耳、金属製あるいは可動型の義眼、神経刺激装置)
・CTと比較した場合、検査費用が高い
など
また、下記に該当する方は安全上の理由からMRIを受けられない場合があるため、事前に医療施設に問い合わせてみた方がよいでしょう。
・金属製心臓人工弁など体内に金属が入っている人(脳動脈瘤手術の金属クリップなども含む)
・検査の8週間以内に血管ステント手術を受けた
・妊娠中、妊娠の可能性がある
・刺青やアートメイクがある
・閉所恐怖症
など
閉所恐怖症の方でも、オープン型MRIを利用したり鎮静剤を使用したりすることで受けられる場合もあるため、医療施設へ相談してみてください。
頭部のスクリーニング検査には原則MRIがおすすめですが、頭部MRIを受けられない場合はCTも有用です。
CT検査のメリット・デメリット
CTのメリット・デメリット
CTのメリットとデメリットは下記の通りです。検査時間が短く出血を描出するのに優れているため、迅速な対応が必要な急性期にはとくに有効な検査と言えます。
<メリット>
・検査時間が短い
・脳出血の描出に優れている
・骨折や頭蓋骨の形状など、骨の詳細な情報を得ることができる
・MRIと比較した場合、検査費用が安価である
など
<デメリット>
・放射線被曝がある
・骨に囲まれている領域はアーチファクト(画像の乱れやゆがみ)により評価が難しい
・脳血管の評価には原則造影剤が必要
など
なお、CTの放射線被曝の安全性について、一般的に成人では100mSv(ミリシーベルト)以下のCT被曝による発がんリスクや遺伝的影響は極めて小さいとされています。頭部、肺など部位ごとのスキャンによる被曝量はいずれも10mSv未満(平均実効線量※)と大幅に少ないため、CTを受けたことが原因でがんになるということは考えにくいと言えます*6。
※実効線量:放射線は受けた部位によって感受性(ダメージの受けやすさ)が異なる。実効線量は、「検査をした部位に当たった放射線の量(等価線量) × 部位ごとの放射線感受性を表す係数(放射線加重係数)」を足し合わせた放射線量を指す。
造影CTを受ける場合の注意点
CTでは血管や病変をよりくわしく調べる場合に、造影剤の投与を行うことがあります。造影CTの検査ではヨード造影剤と呼ばれる薬剤を静脈から注入しながら検査を行います。ヨード造影剤は通常1日経過すれば腎臓から尿としてほぼ体外へ排出されるため基本的には安全ですが、以下のような禁忌(検査を受けられない方)や副作用があることを理解しておくことが重要です。
<ヨード造影剤の禁忌および原則禁忌>
・ヨードまたは、ヨード造影剤の副作用歴がある方
・重度の甲状腺疾患がある方
・気管支喘息の既往がある方
・腎機能が悪い方
・心臓や肝臓に重度の病気がある方
・ビグアナイド系糖尿病用剤を服用している方
など
上記に当てはまる場合には、ヨード造影剤の副作用を発症するリスクが高まるとされています。ヨード造影剤の副作用には以下のような症状があります。
<ヨード造影剤の副作用*7>
・軽度(発生頻度:3%程度、100人につき3人)
かゆみ、発疹、吐き気、動悸、息切れ、くしゃみ、頭痛など
・重度(発生頻度:0.004%、10万人に4人)
呼吸困難、意識障害、血圧低下など
※100万人に3人の割合で死亡例の報告あり(発生頻度:0.0003%)
MRIとCTはそれぞれ優れた点がある検査ですが、頭部CTでは脳血管を詳細に観察するために造影剤が必要となります。造影CTを行う際には副作用の発症リスクがあることや放射線被曝があることを考慮すると、脳ドックなどのスクリーニング検査の場合は頭部MRIのほうが少ない身体的負担で得られる情報が多い検査と言えるでしょう。MRIやCTの検査について不安や疑問を感じる方は一度医療施設に相談をしてみることをおすすめします。
参考資料
*1.厚生労働省 令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況
*2.厚生労働省 令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況
*3.内閣府 令和4年版高齢社会白書(全体版)第1章 高齢化の状況 第2節 2 健康・福祉
*4.厚生労働省 e-ヘルスネット 脳血管障害・脳卒中
*5.厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況
*6.日本医学放射線学会「画像診断ガイドライン2016年版」
*7.日本医学放射線学会「造影剤血管内投与のリスクマネジメント」(2006年)