2025年には高齢者の5人に1人がなると予想されている認知症*1。とくにアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの変性性認知症を完全に治す治療法はまだありません。できる限り症状を軽減させ、症状の進行を遅らせることが治療目標となるため、早期発見・早期治療が大切です。認知症の検査のひとつに、MRI検査のデータを用いて脳の萎縮の程度を調べる「VSRAD®(ブイエスラド®)」という検査があります。この記事では、VSRAD®の特徴や検査の流れ、結果の見方、料金などを解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・もの忘れが気になる方
・脳ドックでVSRAD®を追加しようか迷っている方
・VSRAD®の解析結果レポートの見方が知りたい方
★この記事のポイント
・VSRAD®は、脳の萎縮の程度を解析する検査で、アルツハイマー型認知症の早期発見やレビー小体型認知症と見分けるのに役立つ
・認知症は複数の検査によって総合的に診断される。VSRAD®はあくまで診断の一助となる検査であり、認知症であることがわかる検査ではない
・VSRAD®は50歳以上の認知症が不安な方におすすめ
・VSRAD®を受診したい場合は頭部MRI/MRA検査の受診が前提となる。所要時間は、通常のMRI検査の時間より6分ほど長くなり、全体で20~30分程度
・頭部MRI/MRA検査とVSRAD®がセットになっている脳ドックの費用目安は15,000~30,000円程度。脳ドックのオプション検査として提供されている場合は、10,000円以内で追加できる
目次
VSRAD®はどのような検査?
MRI画像を用いた「脳萎縮」の評価支援システム
VSRAD®(ブイエスラド®)は、Voxel-based Specific Regional Analysis system for atrophy Detectionの略で、画像データの特定領域を解析し、萎縮の程度を評価支援するシステムです*2。MRIで撮影した頭部の画像データが用いられ、脳の「海馬傍回(かいばぼうかい)」と「背側脳幹(はいそくのうかん)」という領域をコンピュータで解析します*3。VSRAD®にあらかじめ実装された54~86歳の健常な男女80名の脳画像データと比較することで、萎縮の程度を客観的な数値で示します*2。海馬傍回は非常に小さな領域のため、目視で確認するのは困難とされていましたが、VSRAD®の登場により確認できるようになりました*3。
ただし、VSRAD®はアルツハイマー型認知症の診断を行うものではなく、脳萎縮の度合いを客観的に評価することによって診断の補助を行うシステムです。症状や経過、他の検査結果などと合わせて総合的に診断することが重要になります。
アルツハイマー型認知症の早期発見や、レビー小体型認知症との鑑別に役立つ
VSRAD®により測定された海馬傍回や背側脳幹の萎縮の程度は、アルツハイマー型認知症の早期発見や、レビー小体型認知症との鑑別(見分けること)に役立ちます。海馬傍回とは記憶の形成・保持・再生をつかさどる領域で、アルツハイマー型認知症では最も早期に海馬傍回付近の萎縮がみられることから*3、健常な人の脳と比較することで早期発見につなげます。一方、背側脳幹の萎縮はアルツハイマー型認知症と比べた場合、レビー小体型認知症で特徴的にみられることがあるため、これらを鑑別するために調べます。なお、受診する医療施設によっては、VSRAD®のバージョンの違いにより、背側脳幹の萎縮は評価されないことがあるため、確認しておきましょう。詳細は後述の「解析結果レポートの見方を解説。脳萎縮の程度と分布を確認できる 」をご覧ください。
認知症の約半数を占めると言われているアルツハイマー型認知症には、もの忘れ(記憶障害)、時間や場所がわからなくなる(見当識障害)、人格の変化などさまざまな症状があります*1,*4。一方、レビー小体型認知症は、認知症の約20%を占め、記憶障害以外に幻視、手の震えや身体が固まり動きづらくなるなどのパーキンソン症状がみられることが特徴です*5。いずれも認知症と分類されますが、それぞれ症状が異なり、治療方法も異なるため、正しく鑑別診断する必要があります。
VSRAD®は受けたほうがいい? どのような方におすすめ?
高齢者の5人に1人がなる時代に! 認知症は早期発見が大切
2025年には、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると推計されており*1、認知症は決して他人事の病気ではありません。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの変性性認知症※には根本的な治療法がなく、早めに治療を開始して症状の進行を遅らせることが大切です。認知症は症状が進行すると、まわりの家族や介護者の身体的・精神的負担が増えていきます。
※変性性認知症:脳の神経細胞が少しずつ死滅していくことによる認知症で、神経変性疾患あるいは中枢神経変性疾患とも呼ばれる*6。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などが含まれる。これに対し、脳卒中(脳梗塞・くも膜下出血・脳出血)による認知症は脳血管性認知症と呼ばれる。
VSRAD®はもの忘れが気になる50歳以上の方におすすめ
VSRAD®は認知症が不安な方や「最近、もの忘れが多いな」と感じている方におすすめですが、何歳でも受診できるわけではありません。VSRAD®の対象は原則50歳以上です。これは脳の萎縮を54~86歳の健常者の画像データと比較して解析していることに起因しており、50歳未満では偽陽性(脳が萎縮していないのに、萎縮しているという結果)が出ることがあるためです*2。
VSRAD®の注意点
50歳未満の方にはVSRAD®を原則実施できない
前項で解説した通り、50歳未満の方がVSRAD®を受けると偽陽性の結果が出ることがあるため、原則実施できません。もの忘れが気になる50歳未満の方は、お近くのもの忘れ外来やかかりつけ医を受診し、ほかの検査を検討してもらいましょう。
65歳未満で発症する認知症は「若年性認知症」と言われており、女性よりも男性に多く見られるのが特徴です*7。2009年に厚生労働省が発表した報告によると、10万人あたりの発症者数は35~39歳の8.9人から徐々に増え、50~54歳では51.7人にも上ると推計されています*8。非常にまれな病気であるため、若くして認知症の症状がみられてもただの疲れやストレス、更年期障害の一症状などと自己判断して受診が遅れ、その結果診断が遅れがちです。また、更年期障害やうつ状態などと誤診されたまま経過してしまい、認知症の症状が目立つようになってから診断される例も少なくないとされています。気になる症状があれば、早めに受診するようにしましょう。
MRIを受けられない方にはVSRAD®も実施できない
VSRAD®は、MRI検査の一環として行われるため、MRI検査が受けられない方には実施できません。MRI検査は強力な磁石や電波を使うため、以下にあてはまる方は検査を受けられないことがあります*9。事故ややけどのリスクにつながるため、事前に必ず確認しておきましょう。
・ペースメーカーや人工内耳などの金属類が体内に入っている方
・磁石を使用したインプラントが埋め込まれている方
・刺青やアートメイク、マスカラをしている方
・閉所恐怖症の方
など
VSRAD®だけで認知症の確定診断はできない
冒頭でもふれた通り、VSRAD®の結果のみでアルツハイマー型認知症の確定診断やレビー小体型認知症との鑑別(見分けること)はできません*10。VSRAD®は診断ツールではなく、診断の補助となるシステムです。
認知症の診断は、認知機能検査(神経心理検査)や頭部MRI/MRA検査(以下、頭部MRI検査)など複数の検査や症状、経過などとあわせて総合的に行われるため、VSRAD®のみの結果で判断されることはありません。「ブイエスラド(VSRAD)適正使用ガイドライン」では、VSRAD®が含まれている脳ドックにおいても、臨床的に認知症が疑わしい場合においてVSRAD®の結果を参考とするよう求めており*10、あくまで総合的な判断の一助として活用するよう注意喚起しています。また、VSRAD®の結果で脳の萎縮がみられても認知症とは限らないほか、健康な方であっても萎縮がみられるという結果になるケースがあります*2。
VSRAD®による検査の流れは?
受診者側はMRI検査を受けるだけ。撮影時間は20~30分ほど
VSRAD®は頭部MRI検査に追加して行われるため、受診者側は通常のMRI検査を受けた状態のままでVSRAD®も一緒に受けられます*3。所要時間は、頭部MRI検査に加えて6分ほど長めに撮影(撮像)するので、全体で20~30分程度です。検査中の痛みはなく、食事制限なども不要で、検査前後は普段通りに生活することができます。
この検査は何のための検査?「VSRAD®(脳萎縮評価支援システム)」
解析結果レポートの見方を解説。脳萎縮の程度と分布を確認できる
頭部MRI検査とあわせてVSRAD®を受けたあとは、医療施設からVSRAD®による解析結果レポートが渡されます。レポートには数値や脳画像が表示されており、脳萎縮の程度や分布を確認できます。ここでは「ブイエスラド®アドバンス※」の解析結果レポートにある「VOI内萎縮度」と「VOI間萎縮比」の見方を解説します。これらの指標は、アルツハイマー型認知症の早期診断やレビー小体型認知症との鑑別(見分けること)に役立ちます。
※ブイエスラド®アドバンス:VSRAD®のバージョンは、2009年に登場した「ブイエスラド®プラス」と2012年に登場した「ブイエスラド®アドバンス」がある*2。これらの解析結果間に差がみられることがあるため、経過観察では同じバージョンが使用される*11。
VOI内萎縮度*12
VOIとはVolume of Interestの略で、脳内のどの領域を見ているか(関心領域)を指します。「ブイエスラド®アドバンス」では、内側側頭部(記憶に関わる3領域:海馬・扁桃および海馬傍回の大部分)が関心領域に設定されています*13。「VOI内萎縮度」は関心領域内の萎縮の程度を示す指標で、アルツハイマー型認知症の早期診断のための参考情報となります。萎縮の強さを4段階の数字で表し、数値は下記を意味しています*12。
数値0~1:関心領域内の萎縮はほとんど見られない
数値1~2:関心領域内の萎縮がやや見られる
数値2~3:関心領域内の萎縮がかなり見られる
数値3以上:関心領域内の萎縮が強い
なお、数値が6以上の場合は撮影ミスの可能性があるため、医療施設に確認してください。また、この指標は健常な脳との相対比較のため、受診者の脳における他領域の萎縮次第で結果数値への見方が変わることがあります*2。
VOI間萎縮比(背側脳幹/内側側頭部)*12
VOI間萎縮比は「ブイエスラド®アドバンス」で追加された指標で、「ブイエスラド®プラス」にはありません。背側脳幹と内側側頭部のどちらの萎縮が目立つかを評価することで、脳萎縮に関してアルツハイマー型認知症の特徴とレビー小体型認知症の特徴のどちらが目立つかを評価します。具体的には、VOI間萎縮比の値が大きいほど内側側頭部より背側脳幹の萎縮が目立つことを示すため、レビー小体型認知症の可能性が考えられます。反対にVOI間萎縮比の値が小さいほど背側脳幹より内側側頭部の萎縮が目立つことを示すため、アルツハイマー型認知症の可能性が考えられます*2,*13。
ただし、この指標はあくまで認知症が疑われる方で、さらに内側側頭部の萎縮がやや見られる場合(VOI内萎縮度2未満)に参考として使用されます*13。これは、健常者では分母である内側側頭部の萎縮の数値が小さいことから、VOI間萎縮比の数値が高くなりやすいためです。また、数値が高いかどうかの目安は医療施設ごとに傾向があるため、検査を受けた医療施設で確認してください。
VSRAD®の料金は? 脳ドックでは1万円以内でオプション追加可能
VSRAD®を脳ドックで受診したい場合、頭部MRI検査の受診が前提になります。VSRAD®を含むこれら画像診断のみの脳ドックの費用目安は15,000~30,000円程度です。また、医療施設によっては頭部MRI/MRAのみの脳ドックのオプションとしてVSRAD®が提供されていることがあり、追加費用の目安は3,000~9,000円程度です。
MRSOでは、VSRAD®を含む脳ドックを提供している医療施設を検索することができます。検索ワードに「VSRAD」と入力して、調べてみてください。

※VSRAD®およびブイエスラド®は、エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社の登録商標です。
参考資料
*1.国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト 認知症
*2.エーザイ株式会社「ブイエスラド®のすべて」2022年6月
*3.エーザイ株式会社「脳萎縮評価支援システム ブイエスラド®について」2022年2月
*4.長寿科学振興財団 健康長寿ネット アルツハイマー病
*5.長寿科学振興財団 健康長寿ネット レビー小体型認知症
*6.日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」第1章
*7.厚生労働省「若年性認知症ハンドブック(改訂4版)」(2020年)
*8.厚生労働省 若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
*9.国立がん研究センター がん情報サービス MRI検査とは
*10.エーザイ株式会社 ブイエスラド適正使用ガイドライン作成委員会「ブイエスラド®(VSRAD®)適正使用ガイドライン」2020年3月改訂
*11.エーザイ株式会社「ブイエスラド®解説シリーズ6 ブイエスラド アドバンスとブイエスラド プラスの解析結果の違いについて」2022年3月
*12.エーザイ株式会社「ブイエスラド®解析シリーズ2 解析結果レポートのみかた」2022年3月
*13.エーザイ株式会社「ブイエスラド®アドバンス」2020年6月