PET検査

PET検査に向いているがんと向いていないがんは? 発見しづらい理由と有効な併用検査も紹介

PET PET検査
吉井 友季子
こちらの記事の監修医師

医療法人優美会吉井クリニック 院長

PET検査は一度にほぼ全身のがんスクリーニングが行える検査ではありますが、発見に向いているがんと向いていないがんがあります。この記事ではPET検査の得意分野と苦手分野、PETのみでは発見しづらいがんにはどのような検査を併用するとよいかなどを解説します。その他、新しい全身がん検査法であるMRIを利用したDWIBS(ドゥイブス)検査についても紹介します。

★こんな人に読んでほしい!
・PET検査を受けようか決めかねている方
・PET検査で見つけやすいがん、見つけにくいがんを知りたい方
・PET検査が自分に向いているのかどうか知りたい方

★この記事のポイント
・PET検査はがんが疑われる部位の有無や、ほかの臓器への転移、治療の効果判定に利用されている
・PET検査は比較的早期の段階から調べることができる優れた検査だが、PET検査のみでの検診では発見されないがんも多くある
・PET検査で見つけやすいがんは甲状腺がん、肺がん、大腸・直腸がん、乳がん、悪性リンパ腫など
・PET検査で見つけにくいがんは食道がん、肝臓がん、胃がん(とくに早期胃がん)、前立腺がん、子宮頸がん、腎臓がん、膀胱がんなど
・気になるがんが「PETのみでは発見しづらいがん」の場合、ほかの検査を併用するとよい

PET検査とは?

一度の検査でほぼ全身のがん探索が可能。PET装置によるがん検査

PET(ペット)検査とは、Positron Emission Tomographyの頭文字を略した名称で、がんが疑われる部位の有無や、ほかの臓器への転移、治療の効果判定などさまざまな目的で利用されている検査です。がん検診以外では、PET検査は一般的に下記のようなケースで活用されています。

・がんの再発や転移の評価
・化学療法や放射線治療の治療効果判定
・がんが疑われる部位の広がりを評価

PET検査は比較的高い精度で一度に広い範囲でがんの可能性を調べられるため、一般的にはがんの治療判定やほかの画像検査で原因が分からない病気の診断などに用いられています*1,*2

一度の検査でほぼ全身のがんを探索しているため、がん検診においては、複数のがん検査を受ける時間が取れない方や、部位別のがん検診では調べられない部位も含めてがんの可能性を調べたい方などに向いていると言えます。

PET検査の精度について。すべてのがんを発見できるわけではない

あらゆる検査で言えることですが、PET検査のみですべてのがんを100%正確に診断することはできません。「FDG-PETがん検診ガイドライン第3版」によれば、2006~2009年に全国233施設で実施された15万5456例の各種がん検診のうち、最終的にがんが発見されたのは1912例(検診の1.23%)でした*3。18F-FDG※を用いたPET検査で陽性(がんの疑いあり)と判定されたのは15万5456例中1491例(検診の0.96%)で、さらに精密検査を受けてがんが発見された割合(陽性的中率)は32.3%でした。また発見されたがんはUICC基準(国際的に活用されている指標)におけるステージ1のがんがほとんどを占めていたとしています*3

すなわち、PET検査はほぼ全身のがんを比較的早期の段階から調べることができる優れた検査ですが、PETのみでの検診では発見されないがんも多くあるため、精度を高めるためにはほかの検査と組み合わせて受けることが重要であると言えます。

※18F-FDG(フルオロデオキシグルコース):ブドウ糖に似た性質を持つ放射性薬剤*1,*2。PET検査ではこの薬剤を静脈注射などで体内に投与し、FDGの集まり方(集積)を画像化する。

PET検査で見つけやすいがん、見つけにくいがん

PET検査が得意とするがん

PET検査で見つけやすいがんの例は下記の通りです。

・甲状腺がん
・頭頸部がん(咽頭がん、口腔がん、頸部リンパのがん等)
・肺がん
・乳がん
・膵臓がん
・大腸がん
・卵巣がん
・子宮体がん
・悪性リンパ腫
など

「FDG-PETがん検診ガイドライン第3版」によれば、PET検査で発見されたがんのうち、陽性率※が高かったのは甲状腺がん90.7%、肺がん86.8%、大腸・直腸がん85.9%、乳がん84.0%という結果でした*3。すなわち甲状腺がん、肺がん、大腸・直腸がん、乳がんといったがんは比較的PET検査で見つけやすいがんであると言えます。

※陽性率:病気を持った人が実際に陽性となる割合。真陽性率、感度とも。

乳がんについて、サイズが小さいものは検出されないことも多いため乳腺超音波(エコー)検査と組み合わせて受けることが有用であると言われています*3。また、近年は乳がんに特化したPET検査(PEM検査)も登場しています。

PET検査の苦手分野と発見に不向きながん

PET検査が苦手とするがんには、下記のような特徴があります。

・1cm以下のサイズが小さいがん*4
・細胞密度が低いがん(がん細胞の占める割合が比較的低く、悪性度が低いがん)
・高分化がん(がん細胞の分裂スピードが比較的遅く、悪性度が低いがん)
・18F-FDGが生理的に集積する部位(脳や脊髄などの中枢神経系、腎臓や尿管、膀胱などの尿路系)の評価
など

上記に相当するがんやPET検査に向いていないがんには下記が挙げられます。

・食道がん
・肝臓がん
・胃がん(とくに早期胃がん)
・前立腺がん
・子宮頸がん
・腎臓がん
・膀胱がん
など

これらのがんが気になる場合は、他の検査との併用が適しています。詳細は次項で解説します。

PET検査に不向きながん、その理由と有効な併用検査

前項で紹介した通り、一部のがんはPET検査では見つけづらい傾向にあります。各がんについて、PETが不向きとされる理由の解説と、有効な検査方法を紹介します。特定部位のがんが気になる場合は、これらの検査を併用することで精度の向上が期待できます。

食道がん*3

【PETで見つけづらい理由】
がんのサイズが小さい場合や、食道の内面をおおっている粘膜の表面を這うように広がる病変の場合には18F-FDGの集積が乏しく、検出が困難とされています。

【有効な検査方法】
胃内視鏡検査(胃カメラ)、胃X線検査(バリウム検査)
ガイドラインでは、食道がんの発見において胃カメラとバリウム検査に勝るものはないとしています。

肝臓がん*3

【PETで見つけづらい理由】
PET検査で発見された肝細胞がんはほとんどないと言われており、とくに高分化のタイプの肝細胞がんは性質上検出が困難です。一方で転移性肝がん(他臓器のがんが肝臓に転移したがん)は18F-FDGが集積します。

【有効な検査方法】
腹部超音波(エコー)検査
肝臓がんの発見には、腹部超音波(エコー)検査が有効とされています。とくに肝炎ウイルスを保有している方は肝臓がんのリスクが高いため、腹部エコー検査の併用がおすすすめです。

胃がん(とくに早期胃がん)*3

【PETで見つけづらい理由】
生理的集積(正常だが18F-FDGが集まる部位)の頻度が高く、胃炎やポリープ で偽陽性(誤ってがんの疑いありと診断されること)になる場合があります。

【有効な検査方法】
胃内視鏡検査(胃カメラ)
胃カメラは、小さなカメラのついたチューブを口や鼻から挿入し、モニターとつなげてリアルタイムで食道や胃を観察する検査です。直接観察することができるため、胃がんには有用な検査です。

前立腺がん*3

【PETで見つけづらい理由】
以前はアーチファクト※による影響がありました。以前との比較においては、近年はその影響が少なくなったため、PET検査で前立腺がんを見つけられる場合もあるとされています。

※アーチファクト:撮影時の条件や機器の特性などによって画像に生じるゆがみやブレ、ノイズなどのこと。アーチファクトの影響が大きくなると正しく診断を行えない場合がある。

【有効な検査方法】
PSA検査、MRI検査
前立腺がんの発見において、現時点では腫瘍マーカー(血清PSA)を用いた血液検査(PSA検査)によるスクリーニングが最も簡便で有効な検査とされています。詳細は下記記事をご覧ください。

子宮頸がん*3

【PETで見つけづらい理由】
PET検査は早期の子宮頸がんを検出できないことが多く、スクリーニングには不向きであると言われています。

【有効な検査方法】
子宮頸部細胞診
子宮頸部の細胞を直接採取する子宮頸部細胞診は、子宮頸がん罹患率減少効果の確実なエビデンスがある検査方法*5、自治体のがん検診項目にも含まれています(原則20歳以上が対象、2年に1回*6)。

腎臓がん*3

【PETで見つけづらい理由】
18F-FDGが尿中に排出されることから、PET検査では腎臓の評価が難しい場合が多いです。

【有効な検査方法】
腹部超音波(エコー)検査、MRI、CT
腎臓がんは腹部エコー検査が最も一般的で有効な検査とされています。なかには腹部エコー検査検査でも検出が困難な場合があるため、その際はMRIやCTなどの検査を組み合わせることが必要であると言われています。

膀胱がん*3

【PETで見つけづらい理由】
腎臓と同様に、膀胱も尿中の18F-FDGの影響で評価が困難な場合が多いです。

【有効な検査方法】
腹部超音波(エコー)検査、MRI
腹部エコー検査は腹部ガスや尿の溜まり具合によって描出範囲が限られる可能性がありますが、MRIよりも比較的細かい病変を見つけることができるとされています。

PET検査のメリット・デメリット

PET検査のメリットとデメリットには次のようなものがあります。

【PET検査のメリット】
・ほぼ全身のがんの有無を2~3時間程度の検査で一度に調べることができる
・がんの転移・再発を効率的に調べることができる
・18F-FDGの静脈注射後は横になった状態で撮影するだけなので、身体的負担が少ない

【PET検査のデメリット】
・サイズの小さながん(およそ1cm以下)は検知できない可能性がある*4
・正確な位置や形を把握しづらく、がんかどうか判断しにくい部位がある
・比較的費用が高い(10万円前後)
・わずかだが被爆する

PET検査での放射線被曝は、人への健康へ影響をおよぼす放射線量よりも大幅に少なく基本的には心配ないと言われています。時間とともに18F-FDGから放出される放射線量は弱くなり、体内の18F-FDGは尿と一緒に体外へ排出されます。

近年では新たな全身がん検査法としてDWIBS(ドゥイブス)が登場しています。DWIBSはMRI装置を利用してほぼ全身のがん探索を行える検査であり、放射線被曝はありません。次項でPET検査とDWIBSの違いについて説明します。

全身がん検査にはDWIBSドゥイブス)という方法もある

DWIBS(ドゥイブス)は新しいがん診断法で、2004年に日本人医師である高原太郎教授が開発しました*718F-FDGなどの放射性薬剤や造影剤は使用しません。PET検査とDWIBSの特徴をそれぞれ表にまとめました*7,*8

PETDWIBS
食事制限検査前絶食ありなし※
薬剤、注射放射性薬剤(18F-FDG)を静脈注射なし
医療被曝放射性薬剤による被爆
(PET-CTの場合はCTによる被爆もある)
なし
検査時間注射を含めて3時間程度30分~1時間程度
検査御処置30分~1時間程度待機なし
糖尿病、腎機能が悪い方検査できない場合がある検査可能
検査に適しているがん甲状腺がん、頭頸部がん(咽頭がん、
口腔がん、頸部リンパのがん等)、
肺がん、乳がん、膵臓がん、
大腸がん、卵巣がん、子宮体がん、
悪性リンパ腫 など
咽頭がん、甲状腺がん、食道がん、
乳がん、肝臓がん、胆嚢がん、
胆管(胆汁が流れる管)がん、
大腸がん、子宮がん、卵巣がん、
腎臓がん、尿管がん、膀胱がん、
前立腺がん、悪性リンパ腫、
多発性骨髄腫(骨髄がん)など
検査に向いていないがん食道がん、肝臓がん、
胃がん(とくに早期胃がん)、
前立腺がん、子宮頸がん、
腎臓がん、膀胱がんなど
肺がん、胃がんなど
費用10万円前後5〜8万円前後

※経口造影剤を使用する医療施設の場合は当日食事制限あり

DWIBSは費用が比較的安価なため、全身がんのスクリーニングを受けたい方にとって定期的に検査を受けやすい点で優れています。PET検査が苦手とする部位(腎臓、膀胱、尿管、前立腺、肝臓など)も含めたがん探索を行えます。また、PET検査とは原理が異なるため、糖尿病や腎機能が悪い方でも受けることが可能です。

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス PET検査とは
*2.国立国際医療研究センター病院 PET-CTとは
*3.日本核医学会、日本核医学会 PET 核医学分科会「FDG-PETがん検診ガイドライン第3版」(2019年)
*4.日本核医学技術学会学術委員会、日本核医学会 PET 核医学分科会、日本核医学会分子イメージング戦略会議「がんFDG-PET/CT 撮影法ガイドライン第2版」(2013年)
*5.国立がん研究センター がん対策研究所 子宮頸がん
*6.厚生労働省 がん検診
*7.東海大学工学部「MRIを活用した新たながん診断法を開発 医工学科・高原太郎教授」
*8.名古屋市医師会健診センター DWIBSドック(全身がん検査)

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