人間ドック

人間ドック・健康診断の腫瘍マーカーはPSA以外は有用とは言えない―がん早期発見のために受けるべき検査とは

血液検査 人間ドック
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

腫瘍マーカー検査は採血や採尿により簡便に行うことができる、がん診断の補助的な検査です。人間ドックや健康診断のオプションでよく見かける検査で、その種類はさまざまです。この記事では、人間ドックや健康診断で腫瘍マーカー検査が必要かどうかについて、メリット・デメリットを用いてわかりやすく解説するとともに、代表的な腫瘍マーカーの特徴、検査結果の見方、ほかに受けたほうがよい検査についてまとめています。がん早期発見のために人間ドックや健康診断で腫瘍マーカー検査を受けるべきか考えている方はぜひご覧ください。

★こんな人に読んでほしい!
・腫瘍マーカー検査を、オプションで追加すべきか迷っている方
・すでに腫瘍マーカー検査を受けていて、結果の見方が知りたい方

★この記事のポイント
・腫瘍マーカー検査はがん診断の補助検査のひとつ
・早期のがんに対しては前立腺がん(PSA)以外の腫瘍マーカーは必ずしも有効とはいえない
・がんの早期発見には、まずはそれぞれのがんで有用とされる検査を受診することが推奨されている
・がんリスクの高い方は画像診断などほかの検査と合わせて腫瘍マーカー検査を検討する
・人間ドックや健康診断における腫瘍マーカー1種あたりの費用は1,500~3,000円程度

腫瘍マーカー検査で、がんは早期発見できるのか

体内にがんができると、がん細胞やがん細胞に反応した細胞から特殊なタンパク質・酵素・ホルモンなどが作り出されます。こうした物質を腫瘍マーカーと言います。血液、尿などの体液からこれらの量を測定する腫瘍マーカー検査はがん診断の補助検査のひとつで、いわば「がん発見の手がかりとなる検査」です。それだけで早期にがんを発見することは難しく、画像診断などの複数の検査結果と組み合わせて判断されます。

腫瘍マーカー検査はがんの進行とともに陽性率が上昇する傾向があり、おもにがん治療の効果、手術後の再発や転移の有無を調べるために用いられています*1。がんの早期発見については、前立腺の異常に敏感に反応する腫瘍マーカー「PSA」が前立腺がんを早期発見するための最も有用な検査とされており*2、2019年時点で全国80.8%の自治体の前立腺がん検診に用いられています*3

人間ドックや健康診断で受けるべきか? 腫瘍マーカー検査の精度

人間ドックや健康診断で腫瘍マーカー検査を受けるかどうかを判断するためには、まず腫瘍マーカー検査についてよく理解しておくことが大切です。以下は腫瘍マーカー検査のメリット、デメリットです*1

【腫瘍マーカー検査のメリット】

  • 採血や採尿で検査できるため、身体への負担が少なく簡便
  • MRI検査やCT検査などの画像診断よりも低額で実施できる
  • がんやその他の疾患が見つかるきっかけとなることがある
  • 腫瘍マーカーPSAは前立腺がんの早期発見に有用とされている

【腫瘍マーカー検査のデメリット】

  • がんがある程度進行していないと検査数値が基準値(基準範囲)を超えない
  • 影響因子が多く、がんの有無と無関係に高い数値になることがある
  • がんがあっても数値が高くならないこともある
  • PSA以外の腫瘍マーカーで早期がんを発見するのは難しい(あくまで補助的な検査)

このように人間ドックや健康診断の腫瘍マーカー検査は、がんがなくても陽性を示す「偽陽性」や、がんがあるのに陰性を示す「偽陰性」という結果が出ることがあり、とくに早期のがんに対して前立腺の腫瘍マーカーPSA以外の検査は必ずしも有効とはいえません*1。しかし過去に、大腸がんを調べる便潜血検査の結果が陰性だったにもかかわらず、腫瘍マーカーのCEAが高値となっていたという方が最終的にがんと診断された例もありました*4。こうしたことから、がんのリスクが気になる方や、画像診断や検体検査だけでは不安という方は、腫瘍マーカー検査の特徴をふまえた上で補助的な検査として人間ドックや健康診断で追加を検討するとよいでしょう。

おもな腫瘍マーカーの特徴、結果の見方とほかに受けるべき検査

下記は国立がん研究センターが紹介している、検査を行うおもな臓器がんと腫瘍マーカー19種です*1

検査を行うおもな臓器がんおもな腫瘍マーカー
甲状腺がんCEA
非小細胞肺がんCYFRA21-1、CEA、SLX、CA125、SCC
小細胞肺がんNSE、ProGRP
食道がんSCC、CEA
胃がんCEA、CA19-9
大腸がんCEA、CA19-9、p53抗体
肝臓がん(肝細胞がん)AFP、PIVKA-Ⅱ、AFP-L3
胆道がんCA19-9、CEA
膵臓がんCA19-9、Span-1、DUPAN-2、CEA、CA50
膀胱がんNMP22、BTA
前立腺がんPSA
乳がんCEA、CA15-3
子宮頸がんSCC、CA125、CEA
卵巣がんCA125

腫瘍マーカーには臓器特異性(特定の臓器がんに反応する性質)の高いものと低いものとがあります。たとえばPSA・AFP・SCCなどは臓器特異性が高く、CEAなど臓器特異性が低いものは不特定の臓器がんに反応します*5

人間ドックや健康診断のオプション検査では、男女別や疾患別にこうした腫瘍マーカーを3~5種ほど組み合わせてセットにしていることがあります。腫瘍マーカー3種セットの場合はAFP・CEA・CA19-9がセットに、5種セットの場合はこの3種以外にSCCと、男性にはPSA、女性にはCA125をプラスしたセットになっているパターンがよく見られます。こうした組み合わせは医療施設によりさまざまです。

ここでは、人間ドックや健康診断のオプション検査においてよく用いられる代表的な腫瘍マーカー、PSA・AFP・CEA・CA19-9・CA125・SCCについて、基準値(基準範囲)やほかに受けたほうがよい検査などを解説していきます。

【PSA】前立腺がんの早期発見に有用。男性は40代からの受診がおすすめ

PSAは前立腺上皮でつくられる糖タンパクです。前立腺のみでつくられるため、前立腺がんの発症確認に大きく役立ちます。

【基準値とおもに反応するがん】
基準値:4.00ng/mL以下*6
年齢によって基準値を下げる場合もあります。前立腺にがんができるとPSAの産生量が上昇します。PSA値が4~10ng/mLをいわゆる「グレーゾーン」といい、25~40%の割合でがんが発見されます*2

【がん以外で高値となる原因】
・前立腺肥大症・前立腺炎
・尿道刺激後*6

【ほかに受けたほうがよい検査】
前立腺がんについては現在、厚生労働省の指針で示されている検診方法はありませんが*7、PSA検査は前立腺がんを早期発見するための最も有用な検査とされています。前立腺がんは男性の部位別がん罹患数第1位のがんで、50歳ごろから急増します*8。家族歴のある方など、前立腺がんリスクの高い方は人間ドックや健康診断などで40歳代のうちからPSAを測定しておくことで早期発見が期待できます*9

【AFP】肝臓がんのリスクが高い人は、ほかの検査と合わせて検討

AFPは「α-フェトプロテイン」という血清タンパクの略称です。通常、胎児の血液中や妊婦の血液、羊水中に存在しています。健康な人の血液中にはほとんど存在せず、肝臓がん患者の血液中には多く発現していることから、肝臓の臓器特異的マーカーとして用いられています*10

【基準値とおもに反応するがん】
基準値:10.0ng/mL以下*6
肝細胞がん、転移性肝がんなどで高値を示します。

【がん以外で高値となる原因】
・肝硬変、肝炎、高脂血症など
・妊娠後期*10

【ほかに受けたほうがよい検査】
肝臓がんについて、厚生労働省が示している検診方法はありません*7。肝臓がんを調べる一次手段として、腫瘍マーカー検査や腹部エコー検査(腹部超音波検査)があります*11肝臓がんの腫瘍マーカーはAFP以外にPIVKA-Ⅱ・AFP-L3があり、検査ではこのうち少なくとも2種類以上を測定することで有用とされています。

しかし、腫瘍マーカーの値だけでは確定できないため、腹部エコー検査などの画像診断も受診することが推奨されています。B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変がある方、ウイルス感染をともなわない肝硬変、そのほか男性・高齢・飲酒・喫煙・肥満・脂肪肝・糖尿病など、肝臓がんリスクの高い方は定期的な検査を受けることが大切です*12。人間ドックや健康診断で肝臓を詳しく調べたい方は、CT検査やMRI検査が含まれるコースやプランも検討するとよいでしょう。

【CEA】胃がんや大腸がんなど多くのがんで高値となる

CEAは大腸がん組織から抽出される糖タンパクです。胎児腸管にも存在することから、がん胎児性抗原と呼ばれます*6

【基準値とおもに反応するがん】
基準値:5.0ng/mL以下*6
CEAは胃がんや大腸がん、膵臓がんなど消化器系のがんで陽性率が比較的高い腫瘍マーカーとして用いられています。臓器特異性は低く、肺がん・乳がん・甲状腺がんなど多くのがんで高値となります*6

【がん以外で高値となる原因】
・肝炎や膵炎などの炎症性疾患、肝硬変、糖尿病、甲状腺機能低下症*13など
・加齢や喫煙*14

【ほかに受けたほうがよい検査】
腫瘍マーカーCEAの早期がんの陽性率はいずれも低い状況です*14胃がんや大腸がんの早期発見については、厚生労働省でそれぞれ以下の検診方法が示されています。膵臓がんの検査については、次項で詳しく解説します。

・胃がん検診:問診、胃部X線検査(バリウム)または胃内視鏡検査(胃カメラ)のいずれか*7
・大腸がん検診:問診、便潜血検査*7

【CA19-9】膵臓がんや胆道系のがんに反応。消化器系のがんにも

CA19-9はモノクロナール抗体(特定のがん細胞にのみ反応する抗体)の抗原です*5。唾液腺、胆管、気管支腺などの正常な組織にも存在します*15

【基準値とおもに反応するがん】
基準値:37.0U/mL以下*6
とくに膵臓がんや胆道系のがんで陽性率が高く、胃や大腸など消化器系のがんでも比較的陽性率は高くなります*14

【がん以外で高値となる原因】
胆石症、糖尿病、膵炎、肝硬変、卵巣のう腫などの疾患*6

【ほかに受けたほうがよい検査】
膵臓がんについては、現在のところ厚生労働省の指針で定められている検診はありません。膵臓がんの検査の流れとしては、まず血清アミラーゼ、エラスターゼ1などの血液中の膵酵素を調べる血液検査やCA19-9などの腫瘍マーカー検査を行います。

腫瘍マーカーCA19-9は早期がんではあまり有用とはいえないため、人間ドックや健康診断では腹部エコー検査(腹部超音波検査)など、ほかの検査と合わせて検討するとよいでしょう*16。CT検査やMRI検査は、膵臓をより詳しく調べることができます。家族歴のある方、糖尿病・慢性膵炎・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)などの疾患がある方、喫煙者など膵臓がん発生リスクの高い方は、人間ドックや健康診断で定期的な検査を受診することが望ましいです*17

【CA125】卵巣がんの可能性がわかる女性向け腫瘍マーカー

CA125は糖タンパクの一種で、正常な子宮内膜や卵巣のう胞、卵管などでも産生されています。

【基準値とおもに反応するがん】
基準値:35.0U/mL以下*6
卵巣がんがあると大量に産生されるようになり、血液中の数値が上昇します。卵巣がんのほか、子宮体がん、膵臓がん、胆道系のがんなどでも高値となります*6

【がん以外で高値となる原因】
・子宮内膜症、子宮筋腫
・炎症、腸閉塞、膵炎、胆嚢炎など ・月経時、妊娠初期など*6

【ほかに受けたほうがよい検査】
卵巣がんについては、厚生労働省のがん検診の指針にはなく*7、腫瘍マーカーCA125の値だけでは卵巣がんの有無やがんのある位置を判定することはできません*18人間ドックや健康診断で卵巣がんを調べたい方は、腹部の触診や内診のほか経膣エコー検査(経腟超音波検査)なども含まれているコースやプランを検討するとよいでしょう。CT検査やMRI検査では卵巣や子宮をさらに詳しく調べることができます。

子宮体がんについて、現在、厚生労働省の指針として定められている検診はありませんが*7一部の自治体では子宮体部の細胞診による検診が行われています*19。現在のところ、子宮体がんの早期発見に有用な腫瘍マーカーはありません*20

【SCC】肺がんや子宮頸がんなどの扁平上皮がんの可能性がわかる

SCCは子宮頸がんで発見されたタンパク質です。がんには扁平上皮がんや腺がんなど複数の組織型があり、SCCはこのうち扁平上皮がんに関わる腫瘍マーカーです。組織学的には、肺がんの扁平上皮がん割合は約25~30%*21、子宮頸がんの扁平上皮がん割合は約75%*22とされています。

【基準値とおもに反応するがん】
基準値:1.5ng/mL以下*23
SCCは肺がんや子宮頸がんで陽性率が高い臓器特異性マーカーです。食道、皮膚、口腔・舌など多くの扁平上皮がんでも陽性となる*24ことから、扁平上皮がん関連抗原と呼ばれます。

【がん以外で高値となる原因】
・皮膚疾患*14
・気管支などの上気道疾患*25など

【ほかに受けたほうがよい検査】
SCCは早期がんでは値が上昇しなかったり、他の良性疾患で上昇したりすることがあるため、早期発見を目的としたスクリーニングには適しません*14肺がんや子宮頸がんの早期発見のためのがん検診では、厚生労働省によってそれぞれ以下の指針が示されています。

・肺がん検診:胸部X線検査、喀痰細胞診(対象条件あり)および問診*7
・子宮頸がん検診:子宮頸部細胞診および内診、問診、視診*7

腫瘍マーカー検査は補助的な手段として検討しよう

繰り返しとなりますが、腫瘍マーカー検査は採血や採尿で検査できるため身体への負担が少なく簡便ですが、あくまで補助診断のひとつで、それだけでがんの有無を判断できるものではありません。がんの早期発見には、人間ドックや健康診断では、それぞれ有用とされているX線検査、内視鏡検査、エコー検査(超音波検査)などの画像診断や便潜血検査、細胞診などを行い、がんリスクの高い方や心配な方は、補助的な手段として腫瘍マーカー検査を検討するとよいでしょう。どんな検査を受ければよいのかわからない方は、予約時に受診先の医療施設に相談することをおすすめします。

腫瘍マーカー検査の費用は1項目あたり数千円

人間ドックや健康診断のオプション検査で行う腫瘍マーカー検査の費用は保険対象外です。施設によって男女別や疾患別に腫瘍マーカーが3~5種のセットになっているところもあれば、1種ごとに自ら選択して受診できるところもあります。費用は医療施設により異なりますが、腫瘍マーカー1項目あたり1,500円~3,000円ほどで設定されていることが多いです。腫瘍マーカー検査を希望する方は、検査のメリット・デメリットをよく把握した上で自分の希望に合わせた検査項目を選択しましょう。

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 腫瘍マーカー検査とは
*2.国立がん研究センター がん情報サービス 前立腺がん 検査
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 がん検診 1.がん検診の実施状況(住民検診)
*4.吉永英世ら「総合健診における腫瘍マーカー(CEA)について」健康医学 第3巻 1号(1988年)
*5.広島市医師会だより(第552号 付録)「腫瘍マーカーの測定 ~その臨床的意義と効率的活用法~」(2012年)
*6.日本予防医学協会 検査結果の見方 血液検査
*7.厚生労働省 がん検診
*8.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 前立腺
*9.日本泌尿器科学会「前立腺がん検診ガイドライン 2018年版」
*10.日本衛生検査所協会 検査項目と疾患(5) AFP
*11.国立がん研究センター がん情報サービス 肝細胞がん 検査
*12.国立がん研究センター がん情報サービス 肝細胞がん 予防・検診
*13.日本衛生検査所協会 検査項目と疾患(5) CEA
*14.日本臨床検査医学会 「臨床検査のガイドライン JSLM2018」
*15.那須赤十字病院 血液検査オプション
*16.国立がん研究センター がん情報サービス 膵臓がん 検査
*17.国立がん研究センター がん情報サービス 膵臓がん 予防・検診
*18.国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 検査
*19.国立がん研究センター がん情報サービス 子宮体がん(子宮内膜がん) 予防・検診
*20.国立がん研究センター がん情報サービス 子宮体がん(子宮内膜がん) 検査
*21.国立がん研究センター 東病院 肺がんについて
*22.日本婦人科腫瘍学会 子宮頸がん
*23.国立がん研究センター中央病院「臨床検査基準値一覧 2021年8月版」
*24.大阪医療センター 腫瘍マーカー(臨床検査科)
*25.栃木県立がんセンター オプション血液検査

本サイトの情報は、病気や予防医療への理解・知識を深めるためのものであり、特定の医学的見解を支持するものではありません。自覚症状のある方は、すみやかに診察を受けてください。また、本サイト上の情報に関して発生した損害等に関して、一切の責任を負いかねます。
タイトルとURLをコピーしました