がん検診

肺がんの初期症状とは? 早期発見のためのレントゲン・胸部CT検査の重要性も解説

がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

肺がんは早期発見が難しいことで知られており、すべてのがんの中で死亡数が最も多いがんです*1。この記事では、肺がんの初期症状について紹介し、肺がんになりやすい人の特徴や、早期発見するための肺がん検診の重要性についても解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・肺がんを早期発見したい方
・咳が続いており、肺がんの可能性を知りたい方
・喫煙している方

★この記事のポイント
・肺がんの原因は喫煙との関係が深いが、近年は非喫煙者の罹患も増えており、とくに女性患者のうち7割以上が非喫煙者である
・肺がんは早期発見が難しく、死亡数はがん全体の中で最も多い
・肺がんの初期症状はほとんどなく、進行した状態で初めて症状が出ることもあるため、定期的な肺がん検診の受診が重要である
・肺がんをできるだけ早期発見するためには、胸部X腺(レントゲン)検査の定期的な実施に加えて、胸部CT検査の受診もおすすめ

肺がんは身近に潜む要注意ながん

肺がんの罹患数は多く、60歳以降で急激に増加

肺がんとは、空気の通り道である気管支や、その先端にある肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したものです*2。肺がんの罹患数は多く、すべてのがん種の中で大腸がんに次いで2番目です*1。一生涯で肺がんに罹患する確率は、男性で10%(10人に1人)、女性で5%(20人に1人)と推定されており(2019年データに基づく)*1、比較的身近ながんと言えます。また、肺がんは年齢が上がるほど罹患者数が増える傾向にあり、40代から増え始め、60代以降で急激に増加することが特徴です*3

肺がんは喫煙者だけでなく、「喫煙したことがない女性」も要注意

肺がんは男性に多く、喫煙との関係が非常に深いがんですが、喫煙者でなくても発症することがあります。実際に、男女別肺がん患者のうち喫煙したことがない割合を調べた研究では、男性7.5%に対して女性は75.1%であり、女性の肺がん患者では非喫煙者のほうが多い結果でした*4

また、肺がんの組織型(がんの種類)はおもに4種類あり、このうち肺がん全体の50~60%を占める「肺腺がん」という種類では、とくに女性の罹患割合が増えている傾向がみられます*5,*6。このように、女性であっても、また喫煙していなくても罹患の可能性があることを認識しておきたいです。

肺がんは早期発見が難しいため、がん全体の中で死亡数が最も多い

日本人の死因の第1位はがんで、そのうち最も多いのが肺がんです*1。この理由として、肺がんは進行した状態での発見が多いことや、ほかの臓器に転移しやすく治療が難しいことなどが挙げられます*7。2022年の国立がん研究センターのデータによれば、早期発見の段階であるステージⅠで発見された肺がん患者の割合は38.8%でした。つまり、過半数はステージⅡ以上で発見されていることになります*8

肺がんは早期発見できれば根治を目指せる

近年の医療の進歩により、肺がんは早期発見できれば根治を目指せるようになりました。肺がんのステージ別(進行期別)の5年生存率(2015年/ネット・サバイバル※)は、ステージⅠの患者で81.9%でした。しかし、ステージⅡに進行していると5年生存率は52.7%、ステージⅢでは29.3%、ステージⅣでは8.6%と、進行した状態で見つかるほど生存率は低下しており*9できるだけ早期がんのうちに発見して治療することが予後に関わっています。

※ネット・サバイバル:肺がんと診断された方が5年後に生存している割合のうち、「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。「2014-2015年5年生存率」以降、「相対生存率」に代わり採用されている。

チェックしたい! 肺がんの初期症状は?

肺がんの早期はほとんど症状が見られない

肺がんは、早期の段階ではほとんど症状が見られず、進行して初めて症状が出ることもあります。肺がんが発見される契機として、肺がん検診やほかの病気で検査を受けた際に偶然見つかることがあります*2

肺がんの初期症状の有無は、がんができた場所や大きさによっても異なります*10。がんの場所が肺の入り口の太い気管支など中心部(肺門型肺がん)であれば早期から症状がみられやすいですが、太い気管支から枝分かれした細い気管支など肺の端(肺野型肺がん)では早期のうちは自覚症状がなく、胸部X線(レントゲン)検査などの画像検査をしないと発見が難しいとされています*7

治療前の肺がん患者を対象に発見のきっかけを分析した調査では、集団がん検診で発見されたうち早期であるステージⅠだった患者は50.0%、症状が出てから発見されたうちステージⅠだった患者はわずか8.2%だったと報告されています*11肺がんの症状が出てからではすでに進行している可能性が高いため、定期的な肺がん検診の受診がいかに重要かがわかります。肺がん検診の詳細については、「早期発見のためには定期的な肺がん検診の受診が重要」で解説します。

肺がんの主症状は咳や痰だが、ほかの呼吸器の病気と似ている

肺がんでみられるおもな症状は以下の通りです*10,*12

呼吸器に関連する症状咳、痰、血痰(血の混じった痰)、胸の痛み、
動いたときの息苦しさや動悸、呼吸困難、声のかすれ など
その他の症状発熱、体重減少 など

最も多い症状は咳や痰で*2、肺がんの咳の特徴としては「風邪でもないのに2週間以上長引く」「血痰が出る」ことが挙げられます。また、発熱が5日以上続く場合にも肺がんの可能性が考えられ、このような症状がみられた場合はすぐに医療施設を受診しましょう*10

ただし、肺がんの症状は、ほかの呼吸器疾患の症状とも共通することが多く、症状だけで肺がんと断定するのは難しいです。たとえば、咳(カラ咳)を起こす病気は肺がんだけでなく、風邪、気管支炎、結核のほか、ぜん息、アレルギー性鼻炎、間質性肺炎などがあり、ほかにも薬の副作用や心因性の咳などが原因のこともあります*13。前項の「肺がんの早期はほとんど症状が見られない」でも紹介したとおり、肺がんは早期では症状がほとんど出ないことが多いため、症状の有無に関わらず定期的に肺がん検診を受診しましょう。

転移した場合は、さまざまな症状がみられる

肺には多くの血管とリンパ管が集まっているので、ほかの臓器にがんが転移しやすいと考えられています。転移したがんが大きくなると、以下のような症状がみられることがあります。

肺がんが転移した場所症状*14
痛み、骨折、手足のまひ など
頭痛、吐き気、手足のまひ・しびれ、けいれん発作 など
肝臓黄疸 など
胸膜(肺を覆う膜)息苦しさ、仰向けで寝られない など

このような症状がみられる場合も、肺がんの可能性が考えられるため、当てはまる方はお近くの医療施設を受診しましょう。

どんな人が肺がんになりやすい?

肺がんになりやすい方として、以下のような方が挙げられます*15

  • 喫煙者、受動喫煙の機会が多い方
  • 家族に肺がん患者がいる方
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の方 など

そのほかにも、アスベストなどの有害物質にさらされていることが多い方、肺結核の方なども挙げられます。ただし、上記にあてはまる方が必ず肺がんになるわけではなく、ここまで解説してきた通り、喫煙者でなくても肺がんになることはあります。上記に当てはまるかどうかに関わらず、定期的な肺がん検診の受診が大切です(「早期発見のためには定期的な肺がん検診の受診が重要」を参照)。

次項では、それぞれの肺がんリスクの程度や肺がんのリスクとなる理由などについて解説します。

喫煙者、受動喫煙の機会が多い方

肺がんの最大の原因はたばこです*16喫煙者が肺がんになるリスクは非喫煙者と比べて男性で4.4倍、女性で2.8倍に増加するという報告があります*15。加えて、喫煙歴が長く、これまでの喫煙量が多い方ほど、肺がんリスクは高くなることが知られています*15。また、受動喫煙も肺がんの発症リスクを高めることがわかっており、副流煙にさらされる機会が多い方は注意が必要です。配偶者が喫煙者であるケースの調査データによると、肺がんのリスクが約1.3倍増加したことが報告されています*17

肺がんを予防するために、喫煙者は1日も早く禁煙を始めることが大切です。喫煙者がこれから禁煙を始めることで、10年後の肺がんのリスクを約半分に減らせることがわかっています*18。非喫煙者は喫煙し始めないのはもちろん、他人のたばこを避けて生活するようにしましょう。

家族に肺がん患者がいる方

両親や兄弟、姉妹に、肺がんにかかった人がいる場合、いない場合と比べて肺がんの発症リスクが男性で1.7倍、女性で2.7倍高まることが報告されています*19。詳細な理由ははっきりとわかっていませんが、遺伝的な要因以外に、生活習慣が共通しているなど、環境要因も関係することが考えられています。たとえば、家族に喫煙者がいる場合、ほかの家族も影響を受けて喫煙を始めたり、受動喫煙の機会が多くなったりすることです。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の方

慢性閉塞性肺疾患は、別名「COPD(シーオーピーディー)」とも呼ばれ、約10~20%の患者で肺がんを合併することが知られています。また、肺がんになるリスクは、喫煙者(COPDではない)と比べても3~4倍であると言われています*20。COPDが肺がんの発症リスクを高める理由は、明確にはわかっておらず、原因が共通して喫煙であることや、COPDの慢性的な炎症状態により肺がんになることなどが考えられています*20

早期発見のためには定期的な肺がん検診の受診が重要

40歳以上の人は胸部X腺(レントゲン)検査を毎年受診しよう

肺がんは、初期症状が出てからではすでに進行期であることが多く、早期発見のためには定期的な肺がん検診が重要です*15

肺がん検診は、厚生労働省が推奨するがん検診のひとつで、40歳以上の人を対象に年1回の実施が指針として示されています。全国の自治体で実施されているほか、職場の健康診断にも組み込まれています。検査項目は、問診・胸部X線(レントゲン)検査、喀痰細胞診(50歳以上で喫煙指数600以上の人)です*21。胸部X線検査は、肺を平面画像として撮影して写真の濃淡などから病気の有無を探す検査で、喀痰細胞診は痰にがん細胞が含まれていないかを調べる検査です。なお、喫煙指数は、喫煙が健康に与える影響を表す指標で、「1日の平均的喫煙本数×喫煙年数」から算出されます*22

自治体の肺がん検診の例として、世田谷区の事例を紹介します。費用は100円(喀痰検査は別途500円)と、自己負担を抑えて受診できるのが特徴です。

世田谷区の肺がん検診の種類・費用(例)*23

種類検査項目対象者受診間隔費用
肺がん問診、胸部X線検査、
喀痰検査
※喀痰検査は50歳以上
で喫煙指数600以上の方
40歳以上年1回100円
※喀痰検査実施者
は別途500円

世田谷区のがん検診の情報は、こちらの記事でくわしく解説しています。

また、マーソでは、都道府県・県庁所在地・政令指定都市・その他人口の多い主要都市など各自治体別に健康データやがん検診に関する情報をまとめています。お住まいの自治体がどのような取り組みを行っているのか、ぜひ以下の記事からご確認ください。

肺がんのリスクが高い方や心配な方は、胸部CT検査の受診を

自治体の肺がん検診では、検査手法としてほとんどの場合胸部X線(レントゲン)検査が採用されていますが、ごく一部の自治体では、肺がん検診に胸部CT検査も取り入れています。胸部CT検査(コンピュータ断層撮影)とは、身体を輪切りにした形で撮影する検査で、胸部X線検査のように平面的ではなく、立体的な画像で肺の状態をみることができます。胸部X線写真では見つかりにくい淡い陰影でみられる病気も確認することが可能です*22。そのため、肺がんリスクが高い喫煙者の方や、肺がんになるか心配でできるだけ早期発見したい方は、胸部CT検査の受診がおすすめです。

最近は、人間ドックやほかの病気の診断のために受診した胸部CT検査で、早期の肺がんが発見されることが増えています。肺がん検診を胸部CT検査で受診したい方は、以下からお近くの医療施設を検索してみてください。

肺がん検診の選び方や受診できる医療施設

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計
*2.国立がん研究センター がん情報サービス 肺がんについて
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 肺
*4.Seki T, et al. Cigarette smoking and lung cancer risk according to histologic type in Japanese men and women. Cancer Sci, 2013;104(11)
*5.国立がん研究センター東病院 肺がんについて
*6.国立がん研究センター中央病院 肺線がんについて
*7.東京都保健医療局 とうきょう健康ステーション 肺がん
*8.国立がん研究センター がん情報サービス 院内がん登録全国集計
*9.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
*10.日本肺癌学会 患者さんのための肺がんガイドブック 2022年版 Q3 肺がんになるとどのような症状が現れるのですか
*11.Satoh H, et al. Outcome of patients with lung cancer detected by mass screening versus presentation with symptoms. Anticancer Res, 1997; 17(3C)
*12.国立がん研究センター中央病院 肺がんの症状について
*13.日本呼吸器学会 呼吸器Q&A Q1 からせき(たんのないせき)が3週間以上続きます
*14.日本肺癌学会 患者さんのための肺がんガイドブック 2022年版 Q4 肺がんが転移しやすい場所と症状について教えてください
*15.日本肺癌学会 EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 1. 危険因子と臨床症状,検出方法
*16.日本医師会 知っておきたいがん検診 肺がん検診 肺がんの原因
*17.国立がん研究センター 受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍
*18.国立がん研究センター 肺がん 予防・検診
*19.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 肺がん家族歴と肺がん罹患との関連について
*20.坂東 政司 杉山幸比古「特集 COPD:診断と治療の進歩 Ⅲ.合併症(全身併存症) 4.肺癌」日本内科学会雑誌 2012; 101(6)
*21.厚生労働省 がん検診
*22.東京都予防医学協会 肺がん検診
*23.東京都世田谷区 肺がん検診

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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