前立腺がんは男性の罹患率第1位のがんで、50代から増加します。2020年の前立腺がん患者数はおよそ9万5600人にも及ぶと予想されており、今や胃がん・大腸がん・肺がんよりも身近な病気となりました*1。
前立腺がんを早期発見する検査として急速に普及しているのが「PSA検査」です。この記事では前立腺がんを心配している方に向けて、PSA検査の有用性を示した上で、PSA検査の費用相場、検査方法について解説しました。年齢ごとのPSA基準値や検査結果に影響を与える要因についても説明しているので、PSA検査を終えて結果を振り返りたい方にもおすすめです。
★こんな人に読んでほしい!
・前立腺がんが気になる方
・家族に前立腺がんになった方がいる
・PSA検査の方法や基準値、費用について知りたい方
★この記事のポイント
・PSAは前立腺がんの腫瘍マーカーで、検査方法は通常の採血と同じ
・PSA検査は前立腺がんの一次スクリーニングではもっとも精度が高く、費用も比較的安価
・推奨年齢は自治体のがん検診などの場合には50歳以上だが、人間ドックの場合や前立腺がんの家族歴がある場合は40歳代で受けておくことがガイドラインで推奨されている
・PSA検査の費用は自由診療と保険診療で異なる
・自由診療の場合、費用相場は2000円~3000円程度
・PSAの基準値と受診頻度は年齢によって変化する
目次
前立腺がんの罹患数は男性第1位。PSA検査を受けよう
前立腺がんは自覚症状がないため早期発見が大事
2015年以降、前立腺がんの罹患率は男性第1位で、胃がんや大腸がんよりも多い割合です*2。国立がん研究センターがまとめたデータによると、男性の9人に1人は前立腺がんになる可能性があり今後も増えていくことが予想されています*1。
前立腺がんは自覚症状が現れにくいという特徴があります。進行すれば膀胱や尿道に負担がかかることで頻尿・残尿感・血尿・尿漏れといった症状が現れる場合もありますが、これは前立腺肥大や前立腺炎などの病気とも共通しているため、明らかな異常として自覚するのは難しいです。進行すれば骨や肺、他の臓器に転移して治療が困難になるケースもあります。
高齢化や食の欧米化が進むにつれて前立腺がんの発症リスクが高まることが明らかになっていますが、近年前立腺がんの罹患数が急増している背景には「PSA検査」が普及したことも大きく関係しているといわれています。
では、PSA検査とはどのような検査なのでしょうか? 次の章ではPSA検査の特徴と検診でPSA検査を受けるメリット、PSA検査が推奨される年齢について説明します。
PSA検査とは、最も精度が高いスクリーニング検査
PSA検査は前立腺がんを早期発見するための最も有用なスクリーニング検査で、簡便かつ精度よく前立腺がんを発見することができます。
PSAとは前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen)の略語です。PSAは、前立腺という男性特有の臓器で作られる特異的なタンパク質で、前立腺がんになると血液中にPSAが大量に放出されるため、腫瘍マーカーとして広く使われています。
PSA検査は採血をするだけで前立腺がんの疑いを調べられるので、身体への負担もほとんどなく、費用も比較的安価です。また診断精度が高く、新潟県で行われた前立腺がん検診のデータをもとに算出された結果では97.9%の確率で前立腺がんがあった検診者を陽性(要精査)と判定していました*3。
さらにヨーロッパ8ヶ国で行われている大規模試験ERSCP(European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer)でも有用性が認められており、PSA検査でがん検診を受けた場合には前立腺がんでの死亡率が20%減少したことが報告されています*2。
50歳以上は年1回PSA検査を用いたがん検診を
前立腺がんは年齢とともに発症リスクが上がり、50歳以上で罹患率が急増します。PSA検査を用いたがん検診は50〜69歳において死亡率を減少させる効果が明らかになっていることから、自治体のがん検診や会社の健康診断などでは原則50歳以上が対象です*2。
検診でPSA検査を受けるメリットとして、比較的がんを早期発見することができるため治療法の選択肢が多くなること、予後がよいことなどが挙げられます。横浜で2001~2010年に検診で発見された524例の前立腺がんと、1044例の検診外で発見された前立腺がんを比較すると、前者は転移している割合が6.1%であったのに対して後者は17.3%と、検診で発見されたがんのほうが早期の段階でした*2。
後述しますが、推奨される検診頻度はPSA値と年齢によって異なります。例を挙げると、PSA値が1.1ng/ml以上かつ基準値以下の場合には、50歳以上のすべての年代において年に1度PSA検査を受けることが望ましいとされています*2。
人間ドックなら40歳から前立腺がんのリスクを知ることができる
自己負担で人間ドックを利用する場合には、40歳台で1度PSA検査を受けることが推奨されています*2。人間ドックの受診が前立腺がんによる死亡率を低下させる効果はまだ証明されていませんが、40歳時点でのPSA値は前立腺がんの発症リスクを反映していることがわかっており、前立腺がんのハイリスク群かどうかを早期に把握できるというメリットがあります。
とくに、前立腺がんの家族歴がある方は、発症リスクが高くなるため、40歳を過ぎたら積極的に検診を受けることをおすすめします。家族歴の影響は薄れてきているという研究もありますが、第一近親者(親、兄弟、子ども)の罹患者数が多いほど、またその近親者のがん診断時年齢が若いほど、発症リスクが高まることがわかっています。第一近親者が前立腺がんに罹っている場合には、前立腺がんの発症リスクが2.2~5.6倍なるといわれています*2。
PSA検査の費用は自由診療と保険診療で異なる
PSA検査の費用は自費で2000円~3000円
PSA検査の費用は自由診療と保険診療の場合で異なります。
【自由診療の場合】
自覚症状がなく検診目的でPSA検査を受ける場合には、人間ドックなどの自由診療を自己負担で受けることになります。PSA検査のみを自由診療で受ける場合の費用相場は、2000円~3000円程度です。人間ドックのプランを選ぶ際の注意点として、血液検査もしくは腫瘍マーカー検査の項目にPSAが含まれていることをしっかりと確認してください。基本コースのオプションとして追加料金が発生するプラン、PSA検査を含む男性に多い疾患の検査をまとめたプラン(例:メンズドック)など医療施設によってさまざまです。
また、会社の健康診断(例:生活習慣病予防健診)にPSA検査は含まれていないことが多いです。ただし、加入している社会保険や受診する医療施設などによってはPSA検査を追加できる場合もあるため、会社や受診する医療施設にPSA検査を受けられるかどうか事前に確認しておくことをおすすめします。
【保険診療の場合】
頻尿や残尿感、血尿など前立腺がんを疑う症状がある場合には、人間ドックなどでの検診ではなく医療機関を受診してください。医師がPSA検査を必要だと認めた場合には健康保険が適用されます。3割負担の場合を例に挙げると、検査費用1000円前後に初診料などが加わります。
自治体によっては補助金があるため確認を
前立腺がん検診は国が指針に定める、がんによる区民全体の死亡率を下げる効果が科学的に証明されている「対策型がん検診」には含まれていませんが、自治体によっては独自で前立がん検診を実施していることがあります。
PSA検査の費用を一部公費で負担してくれるため、500円~2000円程度で受けることができます。対象年齢や受けられる頻度も自治体によって異なりますので、利用できる補助制度があるかどうか自治体のWebサイトを確認してみてください。
【世田谷区の場合*4】
- 対象:60歳以上の世田谷区民の男性
- 頻度:生涯で1度のみ
- 自己負担費用:600円
【品川区の場合*5】
- 対象:55歳以上の品川区民の男性
- 頻度:年1度
- 自己負担費用:500円
PSA検査の基準値と頻度
PSAの基準値は年齢によって違います。年齢階層ごとのPSA基準値と推奨される受診頻度は以下の通りです*2。
【年齢階層ごとのPSA基準値】
年齢 | PSA値の基準値 |
50歳~64歳 | 3.0ng/ml以下 |
65歳~69歳 | 3.5ng/ml以下 |
70歳以上 | 4.0ng/ml以下 |
【推奨される受診頻度】
年齢 | PSA値 1.0ng/ml以下 | PSA値 1.1ng/ml~基準値 | PSA値 基準値以上 |
50歳~64歳 65歳~69歳 70歳以上 | 3年に1度 | 1年に1度 | 専門医を受診 |
PSA値が基準値を上回ったら、まずは泌尿器科でくわしく検査を受けてみましょう。前立腺肥大症の治療薬やホルモン製剤を内服している場合やAGAの治療中には、PSA値が本来よりも低く測定されることがあるため、事前に医師へ相談することが望ましいです*2。その他、検査値に影響を与える要因については記事の最後にくわしくまとめました。
PSA値が高くてもがんと決まったわけではないが早期受診が大事
PSA値は、前立腺肥大など前立腺の病気でも高くなる
PSA値が高いからといってがんと決まったわけではありません。PSA値は前立腺肥大症や前立腺炎でも高くなります。たとえば、新潟県のがん検診で基準値以上と判定された1151例のうち、精密検査をしてがんが見つかったのは約16%で、残りの約84%の方はがんではありませんでした*3。
とはいえ、PSAが高くなった原因を勝手に判断してしまうと、がんを進行させてしまう危険があるため、必ず泌尿器科を受診して精密検査を受けましょう。
前立腺の検査方法はPSA検査以外にも直腸診、超音波検査、MRI検査、針生検がありますが、最終的にがんを確定診断するには針生検を受ける必要があります。一般的な検査の流れとして、直腸診で前立腺が硬くなっていないか、超音波検査で前立腺のサイズや形状に異常がないかを確認してがんが否定できない場合にはMRI検査でさらに検査をします。MRI検査でも悪性が否定できない場合は、異常が疑われる部分の組織を針で採取し顕微鏡下で調べて良悪性を判定します。
前立腺がんは進行が緩やかで死亡率が低く治療可能
前立腺がんは罹患率が男性第1位であるのに対して、死亡率は第6位と比較的低いです*6。前立腺がんの死亡率が低い理由として、前立腺がんの多くは他のがんに比べて進行が緩やかであることが挙げられます。生きている間にがんの兆候が見られず、死後の病理解剖によって初めて確認されるがんは「ラテントがん」と呼ばれますが、前立腺ラテントがんの保有率は30代未満で5%、80歳以上で59%であったという報告もあります*7。
また、有効な治療法が多様にあることも死亡率が低い理由のひとつです。前立腺がんの一般的な治療法は以下に示す通りですが、進行したがんや他の部位に転移のある状態であるほど治療の選択肢は限られてしまうため、定期的に検診を受けて早期発見することが非常に重要です。
- 外科手術
- 放射線治療(外部照射、密封小線源)
- ホルモン療法
- 抗癌剤を用いた化学療法
- PSA監視療法
治療の合併症があるため、治療方針は専門医と相談を
前立腺がんの治療法にはそれぞれメリットがある一方で、副作用や合併症が起こるリスクもあります。外科手術を例に挙げると、身体への負担が大きいことに加えて、尿漏れを防ぐ肛門括約筋や勃起に関係する神経を傷つけてしまうと尿漏れや勃起障害(ED)が起こるリスクがあります。また外照射による放射線治療の場合には、身体への負担は比較的少なくなるものの、前立腺周囲に存在する直腸・膀胱・尿道などにも微量の放射線が当たるため、潰瘍や出血が起こったり勃起障害が起こったりする合併症の危険もあります。
上記のように前立腺がんの治療には合併症のリスクがあることを理解した上で、慎重に治療方針を決める必要があります。前項でお話しした通り、前立腺のなかには進行が非常に緩やかなラテントがんも含まれているため、過剰治療になる可能性もゼロではありません。積極的な治療をせずに定期的にPSA検査と針生検をして様子をみる「PSA監視療法」という方法もあります。
できるだけ後悔しない治療方針を立てるためにも、信頼できる泌尿器科医に相談をしましょう。経験豊富な医師を選ぶポイントとしては、日本泌尿器科学会から認定された「泌尿器科専門医」が在籍している医療施設を選択するのがおすすめです。専門分野で4年以上経験を積み、一定の手術件数があり、資格試験に合格した医師のみが名乗れる資格ですので、泌尿器科分野に力を入れている目安と考えることができます*8。
PSA検査の注意事項
検査前
PSA検査を受ける前には以下のことに注意する必要があります。
- 前立腺肥大症の治療薬、ホルモン製剤、AGAの治療中の場合は事前に医師に申し出ること(本来よりも数値が低くなることがあるため)
- 直腸診の直後は避けること
- 検査前最低2日間は射精しないこと
- 自転車やバイクに乗った直後は避けること
- 事前の食事制限はとくになし
すでにお伝えした通り、一部の治療薬にはPSA値を下げる作用があります。また検査の直前に強い刺激を受けるとPSA値が高くなることがあるので、気をつけましょう。
その他、会社の健康診断で受けた血液検査の結果があれば、診察の際に持っていくとよいです。尿検査と合わせて行われることが多いため、可能であればトイレは済ませずにおいたほうがよいでしょう。
検査後
PSA検査を受けて基準値を上回った場合には、「フリー・トータル比(F/T比)」を合わせて用いることが前立腺がんと前立腺肥大の鑑別に役立つと考えられています。
F/T比とは、総PSA(total PSA)量に占める遊離PSA(free PSA)量のことです。PSAは血中で遊離PSAと結合PSAの2種類に分かれており、一般的なPSA検査ではこの2つの合計量すなわち総PSAで基準値が設けられています。前立腺がんほどこの遊離PSAの割合が少ないという特徴を利用した指標がF/T比(Free PSA/Total PSA)で、がんの診断精度がPSA検査単独法よりも高いです。とくにPSA値が4.0〜10.0ngのグレーゾーンである場合に用いられます。F/T比が10%未満であれば前立腺がんの可能性が高く、20%以上であれば前立腺肥大などがん以外の可能性が高いといわれています*9。
また、一度PSA検査を受けて問題がなかったからといって前立腺がんの可能性がまったくないわけではありません。PSA値は年齢とともに上がる傾向があり、前立腺がんの発症リスクも50歳以上で上昇します。前立腺がんのなかにはPSA値が上がらないPSA陰性がんもあるため、直腸診など複数の検査と合わせて調べたり、定期的にPSA検査を受けて変化を把握したりしておくことが早期発見には重要です。
参考資料
*1.国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」2020年のがん統計予測
*2. 日本泌尿器科学会「前立腺がん検診ガイドライン(2018年版)」
*3. 小松原秀一ら「前立腺がん検診の精度管理 ―検診受診者記録と地域がん登録との照合の試み―」JACR Monograph15号(日本がん登録協議会)
*4. 世田谷区 がん検診
*5. 品川区 成人のがん検診・各種健(検)診
*6. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」最新がん統計
*7. 日本泌尿器科学会編「前立腺がん診療ガイドライン(2016年版)」
*8. 日本泌尿器科学会 専門医の取得について
*9. 大内秀紀ら「前立腺がん診断におけるPASのF/T比の検討」日本泌尿器科学会雑誌91巻12号(2000年)