がん検診

がんと遺伝の関係とは。遺伝が関わるがんの種類や次世代に遺伝する確率、検査まで解説

遺伝子検査 がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

家族にがん罹患者が多いと、「我が家はがん家系?」と不安になるかもしれません。がんの多くは遺伝とは関係ありませんが、まれに生まれつき特定のがんになりやすい体質の人もいます。遺伝が関わるがんの特徴、遺伝する確率、がんのリスクを調べる検査などについて解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・がんにかかった家族が多いため、自分もがんにかかるのではと不安な方
・遺伝しやすいがんの種類や、遺伝する確率を知りたい方
・がんにかかりやすいかどうかを調べるにはどんな検査をすればいいのか知りたい方

★この記事のポイント
・家族にがんが多くても、遺伝的要因によるものとは限らない
・生まれつき特定のがんになりやすい体質の人もいる。遺伝が強く関わるがんは全体の5~10%
・両親のどちらかががんの発症に関わる遺伝子の変化を持っている場合、子どもに受け継がれる確率は50%
・がんや病気のリスクを知るために、自身を中心に3世代の家族歴を把握しておこう
・がんのリスクを調べる遺伝子検査は特定の条件下で保険適用になる。ただし受診の判断は慎重に

がんと遺伝子について

がんが起こる仕組み

がんは、おもに遺伝子の変化が原因となって起こる病気です。遺伝子とは、人体を構成する2万種類以上の細胞が身体のそれぞれの場所で正しく働くための設計図のようなものです*1,*2

遺伝子はDNAと呼ばれる物質でできています。DNAはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)と呼ばれる4種類の物質(塩基)の配列からなっており、遺伝情報はA・T・G・Cの4つの文字のみで構成された「文字列」でたとえられます*1。文字列は人によって少しずつ異なり、それが外見や性格、病気のかかりやすさといった、人それぞれの個性や特徴の形成に関わると考えられています*2

この遺伝情報である文字列は、まれになんらかの要因で一部が別の文字に置き換わったり、部分的に抜け落ちたりすることがあります。こうした文字列の変化が起きても、通常であれば修復機能によって元に戻ります。しかし、修復に関わる遺伝子自体が変化をきたしているなどの理由で修復がうまくいかないと、もともとの設計図が書き換わり、正常に働けなくなった細胞ががん化する場合があります*1,*2

遺伝子の変化には「後天的要因」と「先天的要因」がある

遺伝子の変化は、もともとの遺伝子が後天的な要因により変化する場合と、生まれつき変化した遺伝子を持っている場合に大別されます*1,*3,*4

<がんの要因の種別>

後天的(次世代に受け継がれない) 先天的(次世代に受け継がれることがある)
生活習慣・環境要因 その他 遺伝要因
・喫煙、飲酒、食生活など
・紫外線、化学物質
(アスベスト)など
・ウイルス感染
(肝炎ウイルス、HPV、
ピロリ菌ほか)
など
・加齢
・ホルモンの影響
(エストロゲン、
プロゲステロン、
アンドロゲンほか)
・突然変異
など
生まれつきがんの発症に関わる遺伝子の変化を
持っている

がんは、上表の要因が複合的にからみあって発症しますが、多くのがんは喫煙や飲酒などの生活習慣や環境要因、感染といった後天的な要因の影響が大きいと考えられています。また、加齢やホルモンの影響による遺伝子の変化や、正常な細胞分裂の過程で突然変異的に変化が起こることもあります。これらは先天的な要因である遺伝とは関わりのない遺伝子の変化であり、がんの発症に関わった遺伝子の変化が次世代に受け継がれることはありません。

一方で、生まれつきがんの発症に関わる遺伝子の変化を持っていることで、特定のがんにかかりやすい体質の人もいます*1,*3

近親者にがん罹患者が多いと「がん家系」? 何世代まで気にかければいい?

がんと遺伝の関わり

家族にがん罹患者が多いと、「遺伝的にがんにかかりやすい家系なのでは」と心配になるかもしれません。しかし、前項でも紹介したとおりがんの多くは後天的な要因によるものであり、遺伝要因によるものはまれです。遺伝要因とは関係なく家族に特定のがんが多い場合は、同じような環境下で生活をしていることが関わっているとも考えられます。

なお、「がん家系」という言葉を見聞きすることがありますが、どのような家系ががん家系なのかという定義はありません。血縁者の中で発生が多いがんを、医学的には「家族性腫瘍」と呼び、家族性腫瘍の中でも遺伝が強く関わっているがんを「遺伝性腫瘍」と呼びます(「遺伝性腫瘍(遺伝要因が強く関わるがん)について」で解説)*2

「生まれつきの遺伝子の変化」が関連するがんは5〜10%

遺伝性腫瘍は、特定の遺伝子にある生まれつきの変化(バリアント※)が発症の要因となるがんです*4がん全体のうち、およそ5〜10%が遺伝性腫瘍であるとされています*4

家族に特定のがん罹患者が多いなどから遺伝性腫瘍が疑われる場合(詳しくは「遺伝性腫瘍の可能性を考慮したい家系の特徴」で解説)には、遺伝学的検査で病気の発生に関わる遺伝子の変化(病的バリアント※)の有無を診断する方法があります。将来的に発症するリスクの高いがんを知ることで、定期的ながん検診などで早期発見や治療に備えることができ、予防的な手術を受けるなどの対策も検討可能になります*5

※バリアント:遺伝子の後天的な変化、または生まれ持った遺伝子の違いを指す。病的意義のない変化も含まれる。遺伝子変異とも呼ぶ。バリアントの中でも、発病に関わるものを病的バリアントと呼ぶ*2,*6

がんの家族歴は何世代まで気にかければいいか

家族歴とは、近親者がいつ・どんな病気にかかったかという病歴のことです*5。家族歴は、がんに限らずさまざまな病気のリスクを推定するために大切な情報であることから、健康診断や人間ドックなどを受診する際に聞かれることもあります。自身を中心に3世代(第3度近親者)の病歴を把握しておくことが望ましいでしょう*5

下図を参考に、近親者がかかった病気と、病気になったときの年齢をわかる範囲で書き出してみると、気をつけたいがんや病気が把握しやすくなります。

<近親度*5
第1度近親者(遺伝情報を50%共有):父母、きょうだい、子ども
第2度近親者(遺伝情報を25%共有):祖父母、おじ・おば、おい・めい、孫
第3度近親者(遺伝情報を12.5%共有):曽祖父母、祖父母のきょうだい(大おじ・大おば)、いとこなど

血縁関係が近いほど遺伝情報の共有パーセンテージが高く、また生活習慣や環境要因も共通していることが多いです。先天的な要因と後天的な要因どちらも共通項が多いため、家族にがん罹患者がいる場合、家族性腫瘍のリスクが高まると考えられます。また「遺伝性腫瘍の可能性を考慮したい家系の特徴」の条件に当てはまる場合は、遺伝要因によるがんへの配慮が必要となってきます*7

遺伝性腫瘍(遺伝要因が強く関わるがん)について

遺伝性腫瘍の代表的な種類

遺伝性腫瘍は、どの遺伝子に生まれながらの変化があるかによって、発症しやすいがんの種類や発症率が異なります。代表的な種類は下記です*4,*8-10

遺伝性腫瘍の病名おもながんその他関連するがん・病気
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)乳がん、卵巣がん前立腺がん、膵臓がん、
悪性黒色種など
リンチ症候群
(遺伝性非ポリポーシス大腸がん:HNPCC)
大腸がん子宮体がん、卵巣がん、胃がん、
小腸がん、卵巣がん、
腎盂 (じんう)・尿管がんなど
家族性大腸ポリポーシス
(家族性大腸腺腫症:FAP)
大腸がん胃がん、十二指腸がん、
デスモイド腫瘍など
多発性内分泌腫瘍症(MEN)1型内分泌系の腫瘍下垂体・膵臓ランゲルハンス島・
副甲状腺腫瘍または過形成など
多発性内分泌腫瘍症(MEN)2型内分泌系の腫瘍甲状腺髄様がん、副甲状腺機能亢進症、
褐色細胞腫など
網膜芽細胞腫(RB)眼のがん骨肉腫、肉腫など
リー・フラウメニ症候群(LFS)骨軟部肉腫乳がん、急性白血病、脳腫瘍、
副腎皮質腫瘍など
遺伝性黒色腫皮膚がん膵がんなど
フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病脳腫瘍、腎臓がん網膜血管腫、小脳・脳幹・脊髄の
血管芽細胞腫、腎・膵・肝・
副腎等ののう胞・腫瘍など
遺伝性乳頭状腎細胞がん(HPRC)腎臓がんなし
ウィルムス腫瘍(腎芽腫)腎芽細胞腫肺がん、肝臓がん、腫瘍血栓など

遺伝性腫瘍が遺伝する確率

ヒトの身体の細胞のひとつひとつには、23対46本の染色体が入っています。染色体とは遺伝情報であるDNAが折りたたまれた物質で、通常、子どもは両親から対になった染色体の1本ずつを受け継ぎます*1親のどちらかが生まれつき特定のがんになりやすい遺伝子の変化(病的バリアント)を持っている場合、子どもがその病的バリアントを受け継ぐ確率は50%です*7

片方の親から病的バリアントを受け継いでも、必ずしもがんが発症するわけではありません。染色体は2本1対のため、もう一方の親から受け継いだ遺伝子が働き、遺伝性腫瘍を発症しない場合もあります*8。また、両親ともに遺伝子の変化を持っていなかったとしても、親の精子や卵子ができる段階で遺伝子に突然変異が起こり、特定のがんになりやすい遺伝体質を持って生まれることがあります。

遺伝性腫瘍の可能性を考慮したい家系の特徴

家族や親戚など血縁者の病歴から、遺伝性腫瘍が疑われる場合を紹介します*3。ここでいう血縁者とは、血のつながりがある第3度近親者まで(父母、きょうだい、子ども、祖父母、おじ・おば、おい・めいなど)を指します(詳しくは「がんの家族歴は何世代まで気にかければいいか」を参照)。下記に当てはまる方は、各がんの専門医や遺伝外来、遺伝カウンセラーなどに相談しましょう。

・若くしてがんに罹患した血縁者がいる
・何回もがんに罹患した血縁者がいる
・血縁者に特定のがんが多く発生している
・希少ながんにかかった血縁者がいる

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がんのリスクや兆候について調べたい

家族性腫瘍が気になる、あるいは念のため調べておきたい方が、がんのリスクや兆候を調べる方法として代表的なものを紹介します。

自治体などによるがん検診を受ける

自治体では、国が推奨する5つのがん(胃がん・子宮頸がん・肺がん・乳がん・大腸がん)の検診を実施しています*11。これらがん検診は、科学的根拠に基づいてがん死亡率の減少が認められています。特定の年齢を対象に自治体が実施するがん検診で受けられるほか、会社の健康診断のオプションなどで受けられることもあります。

なお、がん検診はあくまでも精密検査が必要な人と不要な人のスクリーニング(振り分け)が目的であり、がんか否かを診断するには専門の医療施設で精密検査を受ける必要があります。「異常あり」や「要精密検査」の通知を受けたら、すみやかに医療施設を受診しましょう。自治体によっては、前立腺がんや口腔がんなど国が推奨している5つのがん検診以外の検診を独自に実施していることがあります。自治体のWebサイトなどで確認してみましょう。

人間ドックでがんの検査を受ける

がんやがん以外の病気についてより詳しく調べたい、5つのがん検診以外の部位のがんも調べたいなどの場合は、人間ドックのオプションによるがん検査や、専門ドックの受診を検討してもよいでしょう。どんな検査やプランを選べばいいか迷うときは、自身の生活習慣や既往歴のほか前述の家族歴を手がかりに、自身が留意しておきたい病気や受けたい検査を考えてみるとよいでしょう。

気になる部位・病気ごとにどんな検査が行われるか知りたい方は下記を参照してください。

気になる部位・病気ごとにどんな検査が行われるか知りたい方は、下記を参照してください。
気になる病気を知る&検査を探す

遺伝性腫瘍について調べたい

遺伝性腫瘍の可能性を考慮したい家系の特徴」で紹介した条件に当てはまるなどの理由で、遺伝が関連するがんについてより詳しい検査を希望する場合には、以下のような方法があります。

遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)

遺伝学的検査とは、遺伝子の配列に、がんの発症に関連する生まれつきの変化がないかどうかを調べる検査です。血液(正常細胞)を採取して、特定の遺伝子の塩基配列を調べます*12,*13

遺伝性乳がん卵巣がん症候群の診断を目的に行われる「BRCA1/2遺伝子検査」は、45歳以下で乳がんを発症した方や、第3度近親者までに乳がんまたは卵巣がんの発症者がいるなどの条件に当てはまる方は保険適用となり*6,*14、費用は約20万円の1~3割負担(3割負担の方で約6万円)です。保険適用とならない方が自由診療で検査を受ける場合の費用は、検査会社や遺伝子のどの程度の領域を調べるかにもよりますが数万円~20万円ほどが目安です。なお、検査料のほかに遺伝カウンセリングの費用などが別途かかることがあります。

がん遺伝子パネル検査(がん遺伝子プロファイリング検査)

がん遺伝子パネル検査とは、がん細胞や組織を採取し遺伝子にどんな変化が起こっているのかを調べる検査です。数十〜数百個の遺伝子の変化を一度に調べられ、おもにがんの特徴を知ることでより適した治療法を探る目的として行われます*1。がん遺伝子パネル検査にもさまざまな検査方法があり、検査方法によっては発症しているがんが遺伝性腫瘍である可能性が示唆されることがあります*1

おもにがんを発症している方が検査の対象であるため、希少がんなどで標準治療がない、あるいは進行や転移が見られるがすでに標準治療が終了しているなどの条件下で保険適用となり、費用は56万円の1~3割負担(3割負担で約17万円)です。がんを発症していない方が将来的なリスクを調べるためにがん遺伝子パネル検査を受診する場合は自由診療となり、調べる遺伝子の数などによっても異なりますが、費用は25~60万円ほどが目安となります。

検査前は遺伝カウンセリングを受けるのが望ましい

遺伝に関する検査は、自分自身だけでなくきょうだいや子どもにも影響を及ぼすことがあり、非常にセンシティブです。そのため事前に遺伝カウンセリングを受けて、検査についてよく理解したうえで受けるのが望ましいと言えます。遺伝に関わる検査などを行う医療施設の中には、遺伝カウンセリングや遺伝外来を併設しているところもあります。これらを利用するか、近くに該当する施設がない場合はかかりつけ医師や、遺伝子医療を実施している専門機関などに問い合わせてみましょう。

遺伝子医療を実施している専門機関は、下記から調べることができます。
登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム(外部リンク)

定期的ながん検診で早期発見・早期治療につなげることが大切

がんは、遺伝要因と環境要因が関わりあって発症します。たとえがんの発症に関わる遺伝子の変化を受け継いでいたとしても、必ずがんになると決まったわけではありません。もしがんになったとしても、多くの場合、早期に発見し適切な治療を行うことで、命をおびやかされる可能性の低下につながります。

がんは、初期段階では自覚症状がほとんどないことが多く、自分では気づきにくいからこそ、がん検診の定期的な受診が大切です。遺伝性腫瘍が疑われた場合でも、遺伝情報に基づいたきめ細やかな検査などを定期的に受けることで、早期発見・早期治療だけでなくがんの予防につなげることが可能です*6。一般的ながん検診よりも詳しい検査を希望する場合には、人間ドックなどを検討するとよいでしょう。

自身の発症リスクが高いかどうかを知りたい方は、下記もご覧ください。
近親者にがんや心筋梗塞、脳卒中になった方はいますか?

参考資料
*1.国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT) がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査
*2.国立がん研究センター がん情報サービス がんゲノム医療 もっと詳しく
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がんの発生要因
*4.日本遺伝性腫瘍学会 遺伝性腫瘍とは
*5.日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 遺伝性乳がん卵巣がんを知ろう!みんなのためのガイドブック2022年版
*6.日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2021年版 本ガイドラインで用いる用語の解説
*7.国立がん研究センター東病院 家族性腫瘍外来
*8.国立がん研究センター がん情報サービス 「遺伝性腫瘍・家族性腫瘍」
*9.多彩な内分泌異常を生じる遺伝性疾患(多発性内分泌腫瘍症およびフォンヒッペル・リンドウ病)の実態把握と診療標準化の研究班編「フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病診療ガイドライン2017年版」
*10.国立がん研究センター がん情報サービス 腎芽腫(ウィルムス腫瘍)〈小児〉について
*11.厚生労働省 がん検診
*12.国立がん研究センター がん情報サービス  がん医療における遺伝子検査 もっと詳しく
*13.国立がん研究センター東病院 遺伝子検査(解析)
*14.日本乳癌学会「遺伝性乳がん卵巣がん症候群の保険診療に関する手引き(2020年7月改訂)」

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