がん検診

スキルス胃がんになりやすい人とは? 前兆や初期症状、予防についても解説

スキルス胃がんになりやすい人とは? がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

スキルス胃がんは、胃がんの中でもとくに要注意ながんです。検査での発見が難しく、がんの進行も早いことから、手遅れな状態で発見されることが多いです。この記事では、スキルス胃がんの初期症状やなりやすい人の特徴、予防・早期発見するための検査について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・スキルス胃がんを早期発見したい方
・20〜40代で胸やけや胃痛が気になっており、スキルス胃がんの可能性を知りたい方
・胃がん検診では異常がなかったが、スキルス胃がんの見逃しがないか不安な方

★この記事のポイント
・スキルス胃がんとは、胃壁を硬く厚くさせながら進行する珍しいがんで、進行が早く予後不良である
・スキルス胃がんは、20~40代の比較的若い年代の方でも発症する
・スキルス胃がんは前兆や初期症状がほとんどなく、自覚症状が出るころにはすでに進行している可能性が高い
・スキルス胃がんの予防・早期発見のためには、胃内視鏡(胃カメラ)検査または胃部X線(バリウム)検査の定期的な受診や、ピロリ菌検査の受診が重要である

スキルス胃がんとは?

スキルス胃がんは、進行が早く見逃されやすいために完治が難しい

スキルス胃がんとは、胃の壁を硬く厚くさせながら進行するタイプの胃がん*1、「硬いもの」を意味するギリシャ語の「スキルス」が語源となっています*2。スキルス胃がん患者の割合は胃がん患者の約5〜10%とされており、発生頻度は決して高くないと言えます*3,4

一般的な胃がんは胃の粘膜表面から発生するのに対し、スキルス胃がんは胃の壁の内部に浸み込むように進行します。このため、胃の表面を観察する胃内視鏡(胃カメラ)検査では発見が難しい場合があります*1。発見された時点ですでにリンパ節や腹膜(胃・小腸・大腸・肝臓・胆のうなどの消化器官、女性では卵管・子宮などを覆う膜)*5転移した状態であることが多く、また手術後も腹膜への再発リスクが高いとされており、治りにくいがんとして知られています。実際に、胃がん全体の5年生存率(2015年/ネット・サバイバル※)は70.6%ですが*6、スキルス胃がんは手術で切除できた方でも5年生存率が15〜20%程度との報告があります*7

※ネット・サバイバル:5年後に生存している割合のうち、「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。「2014-2015年5年生存率」以降、「相対生存率」に代わり採用されている。

20~40代の若い方や女性でも発症するケースがあり、注意が必要

一般的な胃がんは50歳以上で発症リスクが高まり、高齢になるほど男性の割合が高くなります*8。しかし、スキルス胃がんは比較的若い方や女性でも発症することがあります。ある医療施設の報告によると、一般的な胃がんの男女比は2:1であるのに対し、スキルス胃がんは1.5:1と女性の割合が高い傾向がみられました*7。また、平均年齢は胃がん全体の65.0歳に対し、スキルス胃がんは60.6歳とやや若い傾向がみられました*7

胃の痛みや胃もたれなどは比較的ありふれた症状のため、胃になんらかの不調を覚えても受診はせずに様子をみることが多いかもしれません。しかし、スキルス胃がんは若い世代での罹患もみられることから、20~40代でも油断せず、気になる症状があればすみやかに近隣の消化器内科を受診しましょう。また、自覚症状がなくても定期的に胃がん検診を受診することで、スキルス胃がんの早期発見につながります。

スキルス胃がんの初期症状をチェック

スキルス胃がんには前兆や初期症状がほとんどなく、自覚症状が現れたときにはすでに進行していることが多いです*1スキルス胃がんでみられる症状は胃がんと同様で、胃の痛みや胃の不快感、胸やけなどの症状のほか、吐血、貧血、下血または黒色便、体重減少などです*1,*9。また、胃の壁が硬くなるために、食事後すぐに満腹感がある、吐き気を催すといった症状が現れることもあります。

ただし、これらの症状は胃炎や胃潰瘍などほかの病気でもみられることがあるため、症状だけでスキルス胃がんと断定することはできません。気になる症状がある場合は、すみやかに近隣の消化器内科を受診してください。

一般的な胃がんの前兆や初期症状については、下記記事で解説しています。

スキルス胃がんになりやすい人

スキルス胃がんになりやすい人の特徴が以下です。

・ピロリ菌に感染している、または感染したことがある
・家族や親戚に胃がん患者がいる

ピロリ菌感染は、一般的な胃がん患者の約99%に見られるほど、胃がんとの関連が強いものです*10。スキルス胃がんにおいても、一般的な胃がんほど明確ではないものの、ピロリ菌感染との関連が知られています*11。また、一部のスキルス胃がん患者は、遺伝が要因である「遺伝性びまん性胃がん(HDGC:Hereditary Diffuse Gastric Cancer)」に該当するといわれています。胃がん全体の中で1~3%に見られるとされており*12、家族や親戚に胃がんやスキルス胃がんを経験した方が多い、若くして罹患した方がいるなどの場合、HDGCの可能性があります*12

また、そのほかに胃がん全般のリスク要因として以下があります*13

・喫煙
・塩分を多く摂る習慣がある
・お酒を大量に飲む

胃がんを予防するうえで、胃への刺激を減らすことは大切です。塩分の高い食事を摂り過ぎず、野菜や果物を摂るよう健康的な食事を心がけましょう*13。また、ピロリ菌感染は胃がんの重要なリスク因子であるため、一度ピロリ菌検査の受診をおすすめします。

がんと遺伝の関係については下記記事で解説しています。

スキルス胃がんを早期発見・予防するためにできること

胃カメラ検査またはバリウム検査を毎年受診しよう

スキルス胃がんは、胃の粘膜表面にあまり変化を起こさず進行するため、胃内視鏡(胃カメラ)検査や胃部X線(バリウム)検査での発見が難しいことが知られています*14。このため、一度の検査で異常がなくても、経過を追って定期的に検査を受けることが早期発見に重要です。毎年胃がん検診を受診していた方では、そうでない方と比べてスキルス胃がんが早期に発見され、予後がややよい傾向があったとの報告もあります*15

厚生労働省が定める指針では、胃内視鏡(胃カメラ)検査を50歳以上の方に対し2年に1回実施し、胃部X線(バリウム)検査は当面の間、40歳以上の方に年1回の実施としています*16。これらの検査を年に1回のペースで受診することをおすすめします。

なお、一般的に胃がんの早期発見には胃内視鏡(胃カメラ)検査が有用とされていますが*17スキルス胃がんの場合は胃部X線(バリウム)検査のほうが有用な場合があります。スキルス胃がんは胃壁の内部で進行し、胃壁が硬くなっていく特徴があることから、胃の内部を直接観察する胃内視鏡(胃カメラ)検査では発見が難しいことがあり*1胃のふくらみにくさを評価できる胃部X線(バリウム)検査のほうが発見しやすいと考えられています。ただし、熟練した内視鏡医であれば、胃のふくらみにくさや粘膜のひだの所見から早期発見が可能とも言われています。

検査実績の豊富な医療施設の見つけ方は、以下の記事で解説しています。

一度はピロリ菌検査を受診しておこう

前項でも説明したように、スキルス胃がんのリスク因子としてピロリ菌感染が挙げられます。スキルス胃がんは若い年代での罹患もみられることから、早めのピロリ菌検査と除菌治療が予防に有効と考えられています*18。ピロリ菌検査の方法には、胃内視鏡(胃カメラ)検査で直接調べる方法や、採血、検便など簡単に調べられる検査もあり、精度や費用はさまざまです。各検査の違いは以下で解説しています。

また、「胃がんリスク検査(ABC検査)」というピロリ菌感染の有無と胃粘膜の萎縮度を調べる検査もあります。将来的な胃がんのリスクを調べる検査で、採血のみで調べられます。会社の健康診断や人間ドックのオプションとして選択できたり、自治体が無料または安価で実施していたりする場合もあるので、加入中の健康保険組合やお住まいの自治体のWebサイト等で確認してみてください。

胃がんリスク検査は下記記事で解説しています。

スキルス胃がんは血液検査の結果でわかる?

スキルス胃がんを血液検査のみで確定診断することはできませんが、血液検査で腫瘍マーカーの値を測定することで、がんの有無を間接的に判断する情報になることがあります。腫瘍マーカーとは、がん細胞やがん細胞に反応した細胞から作り出される特殊なタンパク質・酵素・ホルモンなどで、胃がん患者では「CEA」や「CA19-9」の数値が特徴的に上昇することがあります*19。ある医療施設の報告では、スキルス胃がん患者のCEAの陽性率は43.2%、CA19-9の陽性率は52.8%であったとされています*20

ただし、腫瘍マーカー検査はがんの診断を補助する位置づけにすぎず、検査結果が陽性であってもがんではない可能性があり、また陰性でもがんが存在する可能性があります*19。また、腫瘍マーカーが陽性の場合、すでに進行がんである可能性が高く、スキルス胃がん患者では陽性例のほうが陰性例より予後不良な傾向が見られたとの報告もあります*20。つまり、腫瘍マーカー検査は参考情報のひとつになり得ますが、早期発見の観点では有用と言えないことに留意しましょう。

腫瘍マーカーについては下記でも解説しています。

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 胃がんについて
*2.gastropedia スキルス胃癌(ガストロ用語集 2023 「胃と腸」47巻5号より)
*3.希望の会 希望の会の設立にあたって
*4.入口陽介ほか「スキルス胃癌のX線診断—4型胃癌の年次推移,形態学的・病理組織学的検討」胃と腸 2020; 55(6)
*5.日本腹膜播種研究会 腹膜播種とは
*6.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
*7.渋谷均ほか「スキルス胃癌の検討」市立室蘭総合病院医誌 2011; 36(1)
*8.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 胃
*9.長寿科学振興財団 健康長寿ネット 胃がん末期
*10.Matsuo T, et al. Low prevalence of Helicobacter pylori-negative gastric cancer among Japanese. Helicobacter, 2011; 16(6)
*11.日本癌学会 第23回日本癌学会市民公開講座 講演1「胃がんで亡くならないために何をなすべきか」
*12.GeneReviewsJapan 遺伝性びまん性胃癌(Hereditary Diffuse Gastric Cancer)
*13.日本医師会 知っておきたいがん検診 胃がん検診 胃がんの原因
*14.東京都保健医療局 とうきょう健康ステーション 胃がん
*15.野口哲也ほか「胃集検におけるスキルス型胃癌の現状」日本消化器集団検診学会雑誌 2000; 38(4)
*16.厚生労働省 がん検診
*17.日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡Q&A 胃がん検診を受けようと思っていますが、バリウムと胃カメラ、どちらの方がよいですか?
*18.厚生労働省 第30回 がん検診のあり方に関する検討会 令和2年1月15日 資料1-3「リスクに応じた胃がん検診の考え方」
*19.国立がん研究センター がん情報サービス 胃がん 検査
*20.日本消化器病学会 1996年第93巻 臨時増刊号「スキルス胃癌における腫瘍マーカーの検討」

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
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ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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