くも膜下出血は、突然の激しい頭痛をともなう命に関わる病気です。前触れなく起こるイメージがあるかもしれませんが、場合によっては発症前に前兆がみられることがあります。本記事では、見逃せないくも膜下出血の前兆や初期症状、なりやすい人の特徴や予防法について詳しく解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・40代以上の方
・くも膜下出血を発症した家族がいる方
・頭痛が続いており、くも膜下出血の可能性を知りたい方
★この記事のポイント
・くも膜下出血はおもな原因が脳動脈瘤の破裂で、高齢女性で多く発症する
・くも膜下出血の前兆は約20%にみられ、吐き気をともなう頭痛や、視力の異常などが挙げられる
・喫煙者や高血圧の人、過度の飲酒習慣がある人、くも膜下出血になった家族がいる人は、くも膜下出血のリスクが高いため注意が必要
・くも膜下出血の予防のためには、健康的な生活習慣が大切
・脳動脈瘤の早期発見には、定期的な脳ドックの受診が有用
目次
くも膜下出血とは?
「くも膜下出血」は脳血管にできた“風船”がおもな原因で、高齢女性に多い
くも膜下出血とは、脳を覆う3層の膜(外側から硬膜、くも膜、軟膜)のうち、くも膜と軟膜の間(くも膜下腔)に出血が起こった状態です。脳卒中のひとつですが、脳の血管が詰まることで起こる「脳梗塞」や、脳の内部の細い血管が破れる「脳出血」とは発症する場所や原因が異なります*1。

くも膜下出血のおもな原因は「脳動脈瘤」の破裂で、約8割を占めます*2。脳動脈瘤とは、脳の血管の枝分かれ部分に負荷がかかって風船のようにふくらんだもので、この部分が破裂すると血液がくも膜下腔に流れ出します*3,*4。
日本の脳卒中データバンク2023によると、くも膜下出血の罹患者全体(男女)の平均年齢は65.7歳で、男女比は3:7と女性が多くなっています。男性の発症年齢の中央値は61歳、女性は70歳であり、高齢女性に頻度の高い疾患であることがわかります*5。これは、女性ホルモンが影響していると考えられています*6。
くも膜下出血の症状は「経験したことのない激しい頭痛」
くも膜下出血の症状は、突然の激しい頭痛が特徴で、「今まで経験したことがない突然の激しい頭痛」「頭に雷が落ちたような突然の痛み」「ハンマーで殴られたような痛み」などと表現されます*7,*8。また、吐き気や嘔吐をともなうことが多く、出血量が多くなると意識がもうろうとしたり、意識を失ったり、呼吸や心臓が止まることもあります。なお、脳梗塞や脳出血に多くみられる片麻痺やしびれなどの症状は、くも膜下出血ではあまりみられません*2。
くも膜下出血の診断の遅れは、予後の悪化につながり、生命に関わります*9。上記のような症状が現れたときは、ためらうことなく一刻も早く救急車を呼びましょう。
約50%が亡くなるくも膜下出血は、早期発見・早期治療が重要
くも膜下出血の死亡率は約50%と高く、生命に関わる非常に怖い病気です。また、命をとりとめても約50%の方に重篤な後遺症が残ると言われています*3。後遺症の症状や重症度は、出血した場所や出血量、治療に至るまでの時間などによってさまざまで、代表的な症状は、手足の麻痺、食べ物や水を飲み込みにくい(嚥下障害)、視野が狭くなる、言葉がうまく話せない・理解できない(失語症)、記憶障害などであり、重症な場合には後遺症が残り、日常生活に大きく影響する可能性があります。
くも膜下出血によって命やその後の生活を脅かされないようにするには、生活習慣の改善などでくも膜下出血を起こりにくくすること、そして万が一発症した際に迅速な治療につなげられるよう、次章でお伝えするくも膜下出血の前兆や初期症状を把握しておくことです。また、脳ドックを受診し、主因となる脳動脈瘤の有無を早期発見しておくことも手立てのひとつです。ただし、すべての脳動脈瘤が破裂するとは限らないなど、受診には留意点もあります。詳しくは後述します。
見逃してはいけない、くも膜下出血の前兆
くも膜下出血の前兆をチェック! 吐き気や視力障害を伴う突然の頭痛に要注意
くも膜下出血が発症する数時間前から数週間前に、前兆や初期症状が現れることがあります。これらの症状は動脈瘤からの微量の出血が原因と考えられています。具体的な症状は以下のとおりです*8。ただし、症状が現れるのは約20%とされており、すべての方に前兆が現れるわけではありません*8。
- ズキズキとした頭痛
- 吐き気、嘔吐
- めまい
- 血圧の乱高下
- 目の異常(器質的な異常、視力・視野の異常)
- 意識障害
最も多い前兆は、片頭痛のようなズキズキとした痛みが特徴の頭痛で、「警告頭痛」とも呼ばれます。吐き気やめまいをともなうことも多いです。また、頭痛以外で特徴的な前兆として、「物が二重に見える」「まぶたが下がる」「視力が落ちる」「視野が欠ける」などの目の異常が現れることがあります。これは、脳動脈瘤が眼球を動かす動眼神経や視神経を圧迫するためと考えられています。このような症状がみられたら、すみやかに近隣の頭痛外来や脳神経内科・脳神経内科を受診しましょう。
くも膜下出血による頭痛と一般的な頭痛の違いは?
日本では、頭痛に悩む方が約3000万人と多く、その約半数は緊張型頭痛、約840万人は片頭痛によるものと言われています*10。緊張型頭痛は急に頭が痛くなるというより、なんとなく始まりだらだらと続くもので、後頭部から首筋にかけての重圧感や圧迫感として現れます。「鉢巻きをしているような頭痛」、「帽子をかぶっているような頭痛」などと表現され、通常、頭の両側に起こります。肩こりや目の疲れ、めまいなどをともなうこともあります。
片頭痛は、頭の片側のこめかみあたりがズキズキと強く痛むのが特徴で、吐き気をともなうこともあります。光や音、においなどの刺激に敏感になることもあります。頻度は月に1~2回が多いとされています*10。
くも膜下出血による緊急性の高い頭痛かどうかを判断するためには、このような一般的な頭痛の特徴も把握しておきましょう。ただし、頭痛の症状だけで診断することはできないため、気になる症状がある方は自己判断せず、近隣の頭痛外来や脳神経内科・脳神経外科を受診しましょう。
くも膜下出血になりやすい人は?
くも膜下出血になりやすい人の特徴としては、以下が挙げられます*9。
- 喫煙している人
- 高血圧の人
- 過度の飲酒習慣がある人
- くも膜下出血になった家族がいる人
もっともリスクを高める因子は過度な飲酒で、1週間に150g以上の飲酒には注意が必要です*9。たとえば、ビールのロング缶(容量500mL、アルコール濃度5%の場合、アルコール量20g)を毎日飲むと、1週間で140gの飲酒となります*11。
なお、ストレスがくも膜下出血の原因になるかは、関連が認められるとする報告と、認められないとする報告があり、関連性は明確ではありません*9。
20代、30代の若い方で、くも膜下出血の発症が心配な方は、以下の記事をご参考ください。
くも膜下出血の予防法
禁煙と節酒、毎日の食事や生活習慣の改善
くも膜下出血の予防には、喫煙や節酒、食事や運動といった生活習慣の改善や、高血圧対策が重要です。
- 禁煙
- 節酒
- 血圧管理
- 適度な運動
- バランスのよい食事
- 減塩
- こまめな水分摂取
たばこは脳動脈瘤破裂のリスクを高めるため、一日でも早い禁煙が求められます。また、くも膜下出血は飲酒量に応じて発症率が上がるとされています。飲酒は適量を心がけましょう。
また、脳卒中全般において、高血圧は重要なリスク因子です。高血圧は塩分の摂り過ぎが要因のひとつであるため減塩を意識し、日頃から血圧測定などで自身の血圧を把握しておきましょう。ウォーキングなどの有酸素運動も血圧管理に効果的です。ただし、過度な運動は急激な血圧上昇を招くこともあるため気をつけましょう。
食事面では減塩のほか、野菜・果物・海藻類・大豆製品を積極的に献立に取り入れるなど、バランスのよい食生活を心がけましょう*1,*12。
定期的な脳ドック受診
くも膜下出血のおもな原因は、脳動脈瘤の破裂です。脳動脈瘤の有無や脳血管疾患のリスクは、脳ドックで行われる頭部MRI/MRA検査で調べることができます。頭部MRI検査とは、磁力や電磁波を用いて頭部や頭蓋骨内を撮影する検査です。頭部MRA検査は脳の血管に特化した検査で、脳の血管の様子を3次元的に観察できます。
日本脳ドック学会によると、脳動脈瘤は30歳以上の成人において約3%に認められたと報告されています*13。定期的な脳ドック受診により未破裂の脳動脈瘤を早期発見できれば、くも膜下出血のリスクを大幅に軽減できる可能性があります。ただし、本来であれば治療の必要がない未破裂動脈瘤まで見つかることもあるなどのデメリットもあります。メリット・デメリットを理解したうえでの受診が大切です。脳ドックのメリット・デメリットは下記記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
マーソではこのほかにも、脳ドックにまつわるさまざまな記事を掲載しています。
参考資料
*1.厚生労働省 e-ヘルスネット 脳血管障害・脳卒中
*2.長寿科学振興財団 健康長寿ネット くも膜下出血
*3.国立循環器病研究センター 脳動脈瘤
*4.日本医師会 健康の森 脳出血
*5.日本脳卒中データバンク「『脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握』報告書 2023年」
*6.井川房夫ほか「くも膜下出血の疫学と転帰」島根県立中央病院医学雑誌 第47巻 2023年
*7.日本脳神経外科学会、日本脳神経外科コングレス 脳神経外科疾患情報ページ くも膜下出血
*8.日本精神神経学会、日本頭痛学会、日本神経治療学会「頭痛の診療ガイドライン2021」
*9.日本神経治療学会 脳卒中治療ガイドライン2009
*10.日本脳神経外科学会、日本脳神経外科コングレス 脳神経外科疾患情報ページ やさしい頭痛のはなし
*11.厚生労働省 健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて
*12.長寿科学振興財団 健康長寿ネット 脳血管疾患(脳梗塞・脳内出血・くも膜下出血)予防のための食事とは
*13.日本脳ドック学会 脳ドックとは