がん検診

大腸がん検診まとめ-費用・検査方法・頻度を解説

大腸がん検診費用や検査方法 がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

2020年の大腸がん罹患予測数は15万8500例とすべてのがんの中でもっとも多く、高齢化にともない今後も増えていくことが予測されます。大腸がんが原因で亡くなる方は年間5万人以上にのぼり、女性では部位別がん死亡数第1位、男性も肺がんに次いで2番目に死亡数が多いです*1

大腸がんは比較的死亡率が高い一方で、サイズが小さい段階であれば手術ではなく内視鏡で治療することができるため、身体への負担も少なくて済みます。この記事では大腸がん検診を受ける意義から、大腸がん検診の流れ、受診費用、大腸がん検診に関する検査の特徴など「大腸がん検診」についてくわしく解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・40歳以上の方
・家族に大腸の病気になった方がいるなど、大腸がんの発症リスクがある方
・自治体から検診の案内が届いたが受診を迷っている方

★この記事のポイント
・大腸がんは初期症状が現れにくいため、体調に異変を感じていなくても定期的に検診を受ける必要がある
・発症リスクがない方でも、40代を超えたら年に1度便潜血検査で大腸がん検診を受けたほうがよい
・大腸がん検診の費用は自治体や企業などが一部を負担している対策型検診と、人間ドックを代表例とする任意型検診で異なる
・便潜血検査で陽性(潜血)と判定された場合は、大腸内視鏡検査や大腸CT検査など精密検査を必ず受けるべき
・便潜血検査で陰性の方や40歳未満の方でも、大腸がんの発症リスクがあると自覚している場合は、人間ドックで大腸内視鏡検査を受けておくとよい

大腸がん検診を受ける意義

大腸がんは罹患数・死亡数が最多にもかかわらず、大腸がん検診の受診率は4割程度

国立がん研究センターによると、2020年の大腸がん罹患数予測は男女合計で15万8500例、死亡数予測は男女合計で5万4000人です。罹患数はすべてのがんの中でトップ、死亡数も肺がんに次いで第2位に位置しており、大腸がんはもっとも身近な病気のひとつと言えます*1

大腸がんによる死亡リスクを下げるのに効果的なのが「大腸がん検診」です。自治体などで実施される大腸がん検診では40歳以上の人を対象に便潜血検査(検便)が実施されています。しかし、大腸がん検診受診率は4割程度で、国の掲げる目標50%を下回っています*2

大腸がんは初期症状がないことが多いため早期発見・早期治療が大切

大腸がんの発症リスクは幅広い世代の方にあります。30代後半から大腸がんの罹患者数が高まり始めて、男性は70代後半になると急速に罹患率が上昇します。大腸がんはある一定の大きさになると腹痛、便の変化、下血、下痢などの症状が現れますが、早期の場合には自覚症状が出にくく、体調に異変を感じてからでは治癒が困難になるケースもあります。大腸がんは早期に治療できれば5年生存率が9割以上と予後がよい病気なので、定期的に検査をして早期発見・早期治療をすることが非常に重要です*3

大腸がん検診の流れと頻度

40歳になったらまず便潜血検査を年1回受けよう

大腸がんの発症リスクに備えて、40歳を過ぎたらまずは便潜血検査を年に1回受けましょう。便潜血検査は「死亡率減少効果を示す十分な証拠がある」として、大腸がん検診ガイドライン上でも強く推奨されています。

検査方法は簡単で、自宅のトイレで採便をして医療機関に提出するだけです。大腸がんなどの病気があると、便の移動にともなって組織がこすれて大腸内に出血を起こすことがあるため、便内の出血量を調べることで大腸がんの疑いがあるかどうか簡便に判定できるという仕組みです。精度をより高めるために、2日間分の便を採取する方法(2日法)が一般的です。

40代以上であれば自治体が費用の一部を負担してくれるため1000円前後で受けることができます。また、職域検診のオプションで実施されている場合などもあります。便潜血検査を受けて陽性(潜血)と判定された場合のみ、潜血の原因を調べるために大腸内視鏡検査などの精密検査を受けるよう案内されます

大腸がんは早期には症状が現れないことが多いです。「血便が出ていないから大丈夫」「異常を感じていないから大丈夫」だと思って大腸がん検診を怠っていると、症状が現れたときには手遅れになる危険があるため、定期的に検査を受けることが重要です。

ただし、便潜血検査ですべての大腸がんが見つけられるわけではなく、出血をともなわない大腸がんや悪性化する可能性があるポリープでも見落とされる可能性があります。詳細に調べるためには大腸内視鏡検査などで精密検査をする必要があるということを理解しておきましょう。

陽性の場合は必ず精密検査の受診を

便潜血検査で陽性になった場合は、出血の原因ががんではないことを精密検査で調べましょう。「痔が原因だろう」「生理の血が混ざってしまったのかもしれない」「以前に大腸内視鏡検査を受けて問題なかったから大丈夫だろう」と自己判断で放置するのは避けてください。

精密検査の方法は大腸内視鏡検査がもっとも一般的です。大腸内視鏡検査は先端にカメラが装着されている内視鏡チューブを肛門から挿入し、大腸内全体を観察する検査です。大腸内を直接観察できるため、ポリープや早期がんを見つけることに優れています。検査時にそのまま内視鏡下で組織を採取して良悪性を調べたり、切除して治療できたりする施設も多く、最近では痛みが少ない検査法や、女性が安心して受けられるような配慮を行なっている施設も増えてきています。

また、どうしても痛みに抵抗がある方は大腸CT検査や腫瘍マーカー、注腸造影検査などで精密検査を行う選択肢もあるので担当医に相談してみるとよいでしょう。記事の後半にそれぞれの検査の特徴や費用についてまとめているので、合わせて参考にしてください。

リスクが高い方は大腸内視鏡検査を受けることをおすすめ

なぜ大腸内視鏡検査を受ける必要があるのでしょうか? それは、便潜血検査よりも大腸内視鏡検査のほうが大腸がんを見つける精度が高いからです。1日分(1回法)の便潜血検査で大腸がんを指摘できる可能性は56%、2〜3回採便することで80%以上と言われています*4。一方、大腸内視鏡検査の精度は95%以上であり、便潜血検査よりも精度の高い検査ができます*5

大腸がんが発生するパターンには正常な粘膜から突然がんが発生するパターンのほかに、良性ポリープが徐々にがん化していき悪性になるパターンがあります。後者の場合、大腸内視鏡検査を受けていれば良性ポリープのうちに見つけ出して治療することが可能ですが、便潜血検査では早期の発見は困難です。

大腸がんの死亡率が減少傾向にあるアメリカでは、10年に1度大腸内視鏡検査での大腸がんスクリーニング検査が推奨されています。大腸内視鏡を用いた大腸がん検診とポリープ切除術によって大腸がん罹患率は平均して約85%低下し、大腸内視鏡でポリープを切除することが死亡率の減少に寄与するという結果が得られています*6

そのため、便潜血検査で陰性だった方も下記の大腸がんの発症リスクに複数当てはまる場合は、大腸内視鏡検査を検討してみてください。

  • 40代以上の男女(とくに50代は要注意)
  • 喫煙している方
  • 食生活が乱れている方
  • 飲酒する量や頻度が多い方
  • 肥満度(BMI)が高い方
  • 大腸がんの家族歴がある方
  • 潰瘍性大腸炎やクローン病を患っている方
  • 遺伝性疾患が疑われる方(リンチ症候群、家族性大腸ポリポーシスなど)
  • 便秘や下痢、お腹が張るといった排便症状が慢性的にある方

大腸がん検診の費用

費用は対策型検診か任意型検診かによって異なる

大腸がん検診には対策型検診と任意型検診の2種類があり、比較的安価に大腸がん検診を受けられるのは対策型検診です。対策型検診の代表例はいわゆる住民検診や職域検診で、各健康保険組合で実施される場合もあります。対策型検診は費用の一部を公費などで負担しているため、比較的安価ですが、対象年齢に制限があり検査内容も一般的に便潜血検査のみに限られています。

一方、任意型検診はいわゆる人間ドックなど医療機関や検診機関が提供している医療サービスのことです。費用は原則全額自己負担ですので比較的高価ですが、年齢制限がないことや受診者が医療施設や検査内容を幅広い選択肢の中から選ぶことができるというメリットがあります。そのため、大腸がんの発症リスクが高いと自覚している方が、大腸内視鏡検査や注腸検査(「4-4.注腸検査(注腸造影検査)」で解説)などを自主的に受ける際に選ぶことが多いです。

精密検査を勧められた場合は健康保険が適用される

大腸がんの対策型検診で便潜血検査を受けて、陽性(潜血)になった場合は大腸内視鏡検査で精密検査を受ける必要があります。この場合、大腸内視鏡検査には健康保険(公的医療保険)が適用されます。

また、以前に便潜血検査で陰性になった方でも、「血便がある」「以前なかった便秘が最近ひどい」「下腹部痛が続いている」などなんらかの腹部症状が起きている場合は検診ではなく、診察を受けて大腸内視鏡検査での精密検査が必要かどうか判断を仰いでください。医師によって精密検査が必要だと判断された場合には大腸内視鏡検査に医療保険が適用されます。

大腸がん検診の内容と費用

便潜血検査

一般的に2日間に分けて採便を行い、専用キットに入れて医療機関に提出します。便内に含まれる血液を調べることで簡便に大腸がんの疑いがあるかどうか調べることができます。

  • 費用:1000〜2000円
    ※対策型検診(住民検診や職域検診)の場合は無料〜1000円前後
  • 検査時間:5〜10分程度
  • 便潜血検査が推奨される人:40歳以上の男女、肥満・喫煙・飲酒など大腸がんの発症リスクを抱えている方、大腸がんの家族歴がある方
  • 便潜血検査を受けられない人:生理中の方、採便が困難な方
  • 注意点:生理中の採便は避けてください。採便後の容器は冷暗所で保管します。便はなるべく検日、前日、前々日の3日間のうちから2回取るようにしてください。

●便潜血検査について詳しくはこちら
便潜血検査2日法とは? 精度や検査結果の見方も解説

全大腸内視鏡検査

  • 費用:2〜3万円程度
    ※保険適用の場合は6000〜9000円程度
  • 検査時間:前処置に3時間程度、検査に15分前後、検査後に1時間程度
  • 大腸内視鏡検査が推奨される人:便潜血検査で陽性と判定された方、50代以上で大腸内視鏡を受けたことがない方、大腸がんの発症リスク(肥満・喫煙・飲酒)を抱えている方、大腸がんの家族歴がある方、以前に大腸ポリープを指摘されたことがある方、潰瘍性大腸炎やクローン病の方、家族性大腸ポリポーシスなど遺伝性疾患が疑われる方
  • 大腸内視鏡検査を受けられない人(施設による):大腸がとても狭い方、腸閉塞をしたことがある方、腹部に放射線治療をしたことがある方、妊婦、排便状態が不十分な方
  • 注意点:原則、検査前日の朝食から当日の検査直前まで食事制限と下剤の服用が必要です。検査用のチューブを挿入するために空気を腸内に注入すると、お腹が張って多少痛みを感じることがあります。鎮静剤を投与する場合には、検査当日の車やバイクなどの運転は控えてください。抗血栓薬の服用は中断する場合があります。

大腸内視鏡検査にともなう痛みが不安な方は、医療施設の選び方や検査前の食事管理の仕方を工夫することで痛みを軽減できることがあるので別記事も参考にしてください。また胃の内視鏡検査を受ける予定がある方は、大腸内視鏡検査と同日に受ける選択肢もあります。検査時間はその分長くなりますが、食事制限、下剤の服用、通院回数などの負担を検査1回分にまとめることができるので検討してみるのもよいでしょう。

S状結腸内視鏡検査

S状結腸内視鏡検査は肛門、直腸、S状結腸のみを内視鏡で観察する検査です。肛門〜S状結腸は大腸がんの発生頻度の7〜8割程度を占めるため、大腸がんの好発部位を簡便に検査したい方に向いています。下剤の服用や食事制限はせずに当日に浣腸洗浄をするのみで検査を行えるため、全大腸内視鏡検査に比べて身体への負担が少ない検査です。

  • 費用:3000円程度(保険適用の場合)
  • 検査時間:5〜10分程度
  • S状結腸内視鏡検査が推奨される人:大腸がんの発症リスクが高くない方、簡便な検査を行いたい方、全大腸内視鏡検査を受ける時間的な余裕がない方
  • S状結腸内視鏡検査を受けられない人:全大腸内視鏡検査と同様

注腸検査(注腸造影検査)

注腸検査(注腸造影検査)とは、肛門から空気と造影剤(バリウムなど)を大腸へ流し込み、体位変換をしながらX線撮影する検査方法です。内視鏡検査と異なり大腸内部を直接観察しているわけではないため、ポリープなどを見つけてもその場で治療をすることはできません。がんの形状を確認したり大腸が正常に動いているかを確認したりするのに適しています。大腸内視鏡検査の補完な役割をしますが、最近では大腸CT検査に置き換わってきています。

  • 費用:4000〜5000円
  • 時間:15〜25分程度
  • 注腸造影検査が推奨される人:腹部の手術歴があり癒着などで大腸内視鏡検査が困難な方、大腸の形状や動きを確認したい方
  • 注腸造影検査が受けられない人:消化管に出血や穿孔の可能性がある方、バリウム製剤にアレルギー反応がある方
  • 注意点:内視鏡検査と同様、前日の食事制限や下剤の服用が必要です。S状結腸など屈曲が強い部分は観察が困難になりやすいです。また、X線による放射線被ばくがあります。

大腸CT検査(CTコロノグラフィ)

最新の検査法のひとつです。大腸を炭酸ガスでふくらませてからCT検査を行い、撮影したデータから3D画像を作成して大腸の病気を見つけ出します。特殊な解析装置を使用することで、内視鏡検査のような大腸内粘膜の状態を3Dデータで再現してポリープなどを見つけ出すことが可能です。内視鏡検査よりも下剤を服用する量が少なく、痛みが少ないにも関わらず内視鏡検査に匹敵する情報が得られるというメリットがあります。ただし、凹凸の少ないがんや6mm未満の小さなポリープは見つけにくいため、全大腸内視鏡検査と併用して行われる場合もあります。

  • 費用:2〜3万円程度
  • 検査時間:10〜15分程度
  • 大腸CT検査が推奨される人:腹部の手術歴があり癒着などで大腸内視鏡検査が困難な方、下剤の服用を少なく済ませたい方、検査時間を短く済ませたい方、大腸内に内視鏡カメラを挿入することへの抵抗が強い方
  • 大腸CT検査が受けられない人:妊婦もしくは妊娠している可能性がある方、透析中など水分摂取に制限がある方、腸閉塞が疑われる方
  • 注意点:X線による放射線被ばくがあります。炭酸ガスは腹部への吸収が比較的早いですが、多少腹部が張ることで痛みを感じる方もいます。

腫瘍マーカー検査

腫瘍マーカー検査だけで大腸がんを調べることはできませんが、疑いがあるかどうかを簡便に調べることができます。また、画像検査で大腸がんの疑いがあった場合に確定診断をする手助けになります。検査方法は通常の採血と同様で、簡便に行える検査なので大半の施設で受けることが可能です。

  • 費用:2000円程度(1本あたり)
  • 検査時間:5分程度
  • 腫瘍マーカー検査が推奨される人:画像検査で悪性の疑いがある所見があった方
  • 腫瘍マーカー検査が受けられない人:採血が困難な方
  • 注意点:単独で確定診断を行うことはできません。採血の検査項目に大腸がんの腫瘍マーカー(CEA、CA19-9、p53抗体など)が含まれていない場合もあるため、検査項目をよく確認しましょう。

参考資料
*1. 国立がん研究センターがん情報サービス 2020年のがん統計予測
*2. 日本消化器がん検診学会JSGCS「これからのわが国の大腸がん検診への期待」
*3. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計 」(2010〜2011年)
*4. Nakama H1, Yamamoto M, Kamijo N, Li T, Wei N, Fattah AS, Zhang B ’Colonoscopic evaluation of immunochemical fecal occult blood test for detection of colorectal neoplasia. ’(1999年1月)
*5. 国立がん研究センターがん情報サービス 大腸がん検診
*6. Winawer SJ, Zauber AG, Ho MN, et al ’Prevention of colorectal cancer by colonoscopic polypectomy. T’(1993年12月)
米国予防医学専門委員会(USPSTF)「大腸がんの推奨グレード」2016年6月
平成16年度厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関わる研究」班「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」(2005年)

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