健康診断や人間ドックの受診にあたって、医療施設からの事前案内に、当日は化粧を避けるよう記載されていることがあります。ナチュラルメイクならよいのか、日焼け止めのみならよいのか、またどういった検査項目が含まれていると化粧がNGになるのか。特定の化粧品について、避けたほうがよい理由とともに解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・健康診断や人間ドック当日の化粧の可否を知りたい方
・検査項目によって注意したほうがよい化粧を知りたい方
・健康診断や人間ドックを受ける際の服装を知りたい方
★この記事のポイント
・化粧が問題となる理由は、急変時の様子がわかりにくくなることと、特定の検査装置において支障が出ること
・タトゥー、アートメイク、ジェルネイルをしているとMRI検査は受けられない
・アイメイクやカラーコンタクトレンズは必ず除去、MRI検査で金属反応の可能性あり
・検査会場までのノーメイクが苦痛な場合は、マスクで隠すか現地でクレンジングしよう
・健康診断当日の服装の基本は、着脱しやすい上下セパレート
健康診断や人間ドック当日の化粧の基本
健康診断&人間ドックでよくある化粧の注意事項
健康診断や人間ドックを受診する際は、事前に医療施設から案内が配布されます。所属する組織を通して配布されるか、医療施設から郵送されます。記載内容は、食事制限の有無や当日の所持品、結果の通達方法のほか、服装に関する注意事項などです。
健康診断の注意事項で服装とあわせて化粧についてふれている場合、よくあるのは「化粧は控えめに」「化粧は薄めに」といった表現です。一方、人間ドックの注意事項では基本的に化粧についてふれており、ふれていないことのほうがまれです。
化粧は、とくにMRI検査に関わる事項として記載されています。健康診断であっても、オプション検査で何かしらのMRI検査を追加している方は、化粧に関する注意事項が必ず同封されています。注意事項では一般的に、化粧は控えてほしい旨の内容が記載されています。医療施設によっては、「金属反応を起こす可能性があるため」と説明を添えています。
控えるメイクの種類は、アートメイク(タトゥー)やアイメイク、ジェルネイルといった簡単な記載のものから、それらに加えて口紅・アイシャドウ・マスカラ・アイブロウなど具体的なポイントメイクに踏み込んで記載しているもの、さらには化粧下地やファンデーションにまで言及している医療施設もあります。
化粧の何が問題なのか?
化粧が問題となる理由は、おもにふたつあります。
ひとつは、急変時の様子がわかりにくくなることです。検査中にもしも具合が悪くなった場合、医療従事者たちはさまざまな要素で状況を判断します。たとえば、顔色や爪の色を見たり、パルスオキシメータで血中酸素濃度を測定したりします。
パルスオキシメータは指先などをプローブと呼ばれる装置ではさみ、血中の酸素濃度を調べる器具です。新型コロナウイルス(Covid-19)の登場で広く知られるようになりました。パルスオキシメータではプローブのセンサーから爪を通して血液の色を見ているため*1、ネイルカラーをしていると正確な数値にならないことがあります*2。このように、濃い化粧やネイルカラーは状況判断の妨げになると言えます。
もうひとつは、特定の検査装置において支障が出る可能性があることです。とくに検査項目にMRI検査が含まれている場合は、必ず指示や注意事項を守りましょう。守れない場合は、医療施設側から検査を断られる可能性があることも知っておきましょう。
化粧が問題になる検査
MRI検査
MRIは、磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging)の略称です。MRI検査では磁力や電磁波を身体にあて、体内の断層画像を撮影(撮像)します*3。CT検査やX線(レントゲン)検査と異なり被爆はありません。
MRI検査は、健康診断や特定健診、人間ドック学会が定める基本の人間ドック検査項目には含まれていませんが*4,*5,*6、多くの専門ドック(脳ドック、心臓ドックなど)や人間ドックのオプション検査でも活用されているメジャーな検査で、人間ドック以外でもあらゆる部位の検査で活用されています。MRAやドゥイブス(DWIBS)もMRI装置を使用して検査が行われます。
MRI検査やMRI装置を用いて行う検査において厳禁とされているのは、「磁性体(じせいたい)」です。磁性体とは、磁場のなかで磁性を帯びる物質を指します。磁石による強い磁場と電波が発生するMRI検査で、とくに注意が払われているのが金属です*7。
電子レンジに金属を入れることを想像するとわかるように、電磁波環境において金属は発熱します。そのため、一部の金属を身に着けていると熱傷(やけど)を負う可能性があります*8。また、磁場において金属は画像の乱れの原因になり得ます*8。画像が乱れると、正常な診断が難しくなり、診断漏れの可能性につながります。
磁性体を持つ金属は複数ありますが、身近なところでは酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられ、これらの金属はタトゥーやアイメイク、一部の化粧品やネイルカラー(とくにジェルネイル)、カラーコンタクトレンズ、その他美容アイテムに含まれています*9。たとえばアイシャドウひとつとっても、販売されている製品は多種多様です。とくに海外製ともなると全成分を正確に調べ上げることは困難です。
こうした理由から、MRI検査は化粧を落とした状態での受診が基本です。詳細は本記事の「注意したほうがよい化粧品や美容アイテム」で解説します。なお、体内に金属がある方は、身体に危険がおよぶ可能性があるため、必ず受診前に申告してください。
胃内視鏡(胃カメラ)検査
胃内視鏡(胃カメラ)検査とは、レンズのついた管を口もしくは鼻から挿入し、食道、胃、十二指腸の様子を調べる検査です。多くの場合、モニターとつなげてリアルタイムで観察することができます。病変によっては除去したり、より詳しく調べるために生検に回したりするため、一部の組織を切り取ることもあります。胃部X線(レントゲン)検査との選択制の場合もありますが、健康診断、人間ドックいずれにおいても行われる可能性のある胃の検査です。
胃内視鏡(胃カメラ)検査の管は、経口もしくは経鼻の2種類があります。いずれも、口もともしくは鼻から口もとにかけてのメイクがくずれやすくなるため、口紅やリップグロスは除去しましょう。とくに経口の場合、のどに局所麻酔薬を使用したりマウスピースをくわえたりすることが多いです。また、検査中の急変時に備えて、医師や看護師、検査技師が常に顔色をチェックしているため、濃い化粧は避けましょう。
その他の検査
健康診断や人間ドックの共通の項目として、診察が挙げられます。診察時には、貧血の有無を調べるために目の視診が行われます。アイメイクをしていると、医師にとっては診づらく、受診者にとってはメイクがくずれたり目の中に入ったりする原因になります。アイメイクは除去しておきましょう。
また、いかなる検査においても、体調の急変に備えて顔色と爪の色がわかるようにしておきましょう。これらは医療従事者にとって、重要な判断要素のひとつです。とくに体調の急変時、パルスオキシメータで血中酸素濃度を測定することがあります。指先をプローブと呼ばれるクリップ状の装置ではさむことが多く、爪の上から光を照射し、血液中の赤色の度合いで酸素濃度を算出します。酸素と結合したヘモグロビンが多いほど、赤色の度合いが高くなる原理を利用した器具です*1,*10。
このように、MRI検査や胃内視鏡(胃カメラ)検査がない場合においても、化粧は控えめにしてネイルカラー(ジェルネイル、マニキュア等)は除去しておくことが望ましいと言えます。
注意したほうがよい化粧品や美容アイテム
アイメイク(アイシャドウ、マスカラ、アイブロウ、アイライナー等)、まつげエクステ、つけまつげ
アイメイクは、MRI検査において問題になります*7。先の「MRI検査」で解説した通り、アイメイクの化粧品には着色などに金属(酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛など)が含まれていることが多く*9、そのまま検査室に入ってしまうとMRI機器の強い磁場による金属反応で、熱傷(やけど)を負う可能性があります。
目周辺は、顔のなかでもとくに皮膚が薄い部分です。酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛など以外にも、アイメイクの化粧品には金属を使ったラメやパール入りの製品もあり、注意したいポイントメイクと言えます。医療施設からも注意事項として案内があるため、ノーメイクもしくは事前にクレンジングで落とすようにしましょう。また、検査前はまつげエクステを控え、つけまつげはつけずに受診しましょう。
ベースメイク(化粧下地、日焼け止め、ファンデーション、BBクリーム等)
多くのベースメイクアイテムには、アイメイク同様、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛などの金属が使用されています*9。いずれも着色材やサンスクリーン材として非常にポピュラーな成分です。
問題となるのはMRI検査で、MRI機器の強い磁場によって金属反応が起きる可能性があります*7。ベースメイクアイテムに配合されている金属量は微量ではあるものの、顔全体に塗布することから、検査時に熱を持つ場合があります。また、頭頸部の撮像に関しては、画像にゆがみや乱れが生じることがあるため、ノーメイクもしくは事前にクレンジングで落とすことが望ましいです。
タトゥー、アートメイク
人間ドックの注意事項に必ず記載されているのがタトゥー(刺青)とアートメイクで、MRI検査において禁忌※となっています。
アートメイクとは、皮膚の表面にインク(色素)を注入して着色するメイクです。クレンジングで落ちず化粧の手間が省けることから、眉やアイライン、唇などポイントメイクのサポートとして活用されています。皮膚の深い部分を着色することで半永久的に残るタトゥーと比べ、1~3年で薄くなっていく点が気軽に取り入れられる要因となっており、アートメイクを施術する医療施設の増加やメディアでの特集などの影響で、近年人気が高まっています。
タトゥーもしくはアートメイクを身体に施している場合、医療施設側から検査を断られることがあります。これらのインクには磁性体を持つ金属が使用されていることが多く、熱傷(やけど)を起こす危険性があるためです*8。どちらもクレンジングで落ちるものではないため、事前に医療施設に申告し、判断を仰いでください。
※禁忌:医療において、受診者や患者にとって悪影響の可能性がある医療措置のこと。
カラーコンタクトレンズ、コンタクトレンズ
カラーコンタクトレンズも、MRI検査における禁忌事項です。受診時に検査技師から装着の有無を問われます。必ず外すようにしましょう。
カラーコンタクトレンズは、カラー部分の着色剤として酸化鉄や酸化チタン等の金属が使用されていることが多く*8、MRIの強力な磁場によって金属反応が起こります。これにより熱を帯び、眼球に影響を及ぼす可能性があります。
カラーでないコンタクトレンズを装着している際でも、医療施設によっては外すよう求められることがあります。MRI検査の所要時間は30分~1時間程度かかることが多く、その間は身動きができません。もしもコンタクトレンズが外れたり、ごみなどがレンズとこすれて目が痛くなったりしても、探したり目をこすったりすることができません。カラーコンタクトレンズはもちろん、カラーでないコンタクトレンズを外すよう求められた場合も指示に従いましょう。
ネイルカラー(ジェルネイル、マニキュア、マグネットネイル等)
ネイルカラーのうち、とくにジェルネイルはMRI検査における禁忌で、事前に配布される注意事項に外してくるよう指示があることが多いです。その他、ネイルポリッシュ(マニキュア、ペディキュア)、ネイルチップ(ジェルやネイルポリッシュを施したつけ爪)やスカルプチュア等もMRI検査において問題となるほか、あらゆる検査で体調急変時の医療措置の妨げになります。
MRI検査においては、いずれもカラー成分に金属が使用されていることが問題になります。さらに、ジェルやネイルポリッシュを利用したネイルアートでは、金属を含むデザインパーツやラメを乗せることがあり、熱傷(やけど)や発熱、検査機器への吸着などが起こり得ます。
また、近年注意したいネイルカラーにマグネットネイルがあります。マグネットネイルとはSNSから人気に火のついたネイルカラーで、ジェルやネイルポリッシュに鉄粉を混ぜ、乾燥前に磁石で鉄粉を動かしてデザインします。鉄粉はMRI検査で火花を発する恐れがあるため、注意が必要です*11。爪に残らないよう事前に完全除去しましょう。
ネイルポリッシュは市販のリムーバーで、ネイルチップはお湯で落とすことができますが、落とす作業に時間がかかります。ジェルネイルやスカルプチュアは専用溶剤が必要なため、その場で落とすことができません。受診直前のチェックで発覚すれば検査を断られることになるため、注意事項を必ず守り、ネイルカラーはすべて事前に除去しましょう。
その他:口紅、リップグロス、整髪料、制汗スプレー
口紅やリップグロス、一部の整髪料には金属が含まれています。盲点となるのは一部の制汗スプレーで、制汗作用として金属イオンが含まれています。いずれもMRI検査の金属反応として問題になるため、検査当日は使用を控えましょう*7。
また、本記事の「胃内視鏡(胃カメラ)検査 」で解説したとおり、胃内視鏡(胃カメラ)検査を受診する際も口紅やリップグロスは除去することが望ましいです。
ノーメイクが苦痛という方に
すっぴんはマスクで隠そう
健康診断や人間ドックの当日はノーメイクが望ましいとしても、検査会場や医療施設にノーメイクで向かうことに精神的苦痛をともなう方は一定数いると考えられます。その場合は、マスクで隠すとよいでしょう。コロナ禍の影響で、季節を問わずマスクをつけていても違和感がなくなりました。
さらに普段コンタクトレンズを装着している方はレンズを外し、マスクに加えてメガネをかければ顔の大部分が隠れるため、ノーメイクでも気にならなくなります。
落としやすいメイクで現地クレンジング
ここまで解説した通り、受診する検査項目にMRI検査が含まれる場合は、化粧を落とした状態での受診が基本です。
ノーメイクで外に出るのは苦痛だったり、ノーメイクは問題ないが日焼け止めだけはつけたかったりする場合、メイクは最小限にし、クレンジング剤を持参して検査会場や医療施設到着後に落とすようにするとよいでしょう。シートタイプのクレンジング剤であれば、かさばらない上にクレンジングに時間がかからずおすすめです。
MRI検査が含まれていない場合でも、急変時に医療施設側が顔色を確認できるようノーメイクが望ましいですが、どうしても苦痛な場合はごく薄い化粧で臨むようにしましょう。
男女別に考える、当日の服装
健康診断を集団会場で受診する場合、検査着の用意がないことが一般的です。医療施設で受診する場合は、検査着の用意は医療施設次第です。上下の用意があることもあれば、上半身だけのこともあります。人間ドックでは、医療施設側で検査着を用意していることが多いです。
健康診断を受診する場合、服装の基本は着脱しやすい上下セパレートであることです。足元は、ストッキングやタイツよりもソックス、ブーツよりも手を使わずに着脱できるくつがよいでしょう。適切な服装の一般的な例は下記の通りです。
上下セパレートの服、着脱しやすいくつ、無地Tシャツ、金属やプラスチック(アジャスター、ボタン等)のない下着や服
男性は、インナーに白Tシャツを着用しておくだけでとてもスムーズになります。女性はワンピースやサロペットを避け、下着はホックだけでなくアジャスターにも注意しましょう。その他、詳細は下記記事で解説しています。
参考資料
*1.日本呼吸器学会 呼吸器Q&A「Q30 パルスオキシメータとはどのようなものですか?」
*2.日本呼吸器学会「Q&Aパルスオキシメータハンドブック」
*3.国立がん研究センター がん情報サービス MRI検査とは
*4.厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
*5.厚生労働省 e-ヘルスネット 特定健康診査の検査項目
*6.日本人間ドック学会「2022年度 一日ドック基本検査項目表(健保連人間ドック健診項目表)」
*7.日本画像医療システム工業会「磁性体(金属等)持っていませんか?」
*8.日本磁気共鳴専門技術者認定機構 安心してMRI検査を受けていただくために
*9.日本化粧品工業連合会 化粧品の基礎知識 化粧品に配合される色材
*10.日本呼吸器学会「よくわかるパルスオキシメータ」(2021年)
*11.熊本地域医療センター「熊本地域医療センターだより 2021年2月号」