がん検診

性交渉未経験でも子宮頸がん検診は必要? 痛みは? 検診を断りたい、断られた場合の対処法も紹介

子宮頸がん がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

子宮頸がんの主因はHPV感染であり、おもな感染経路は性交渉です。では、性交渉未経験でも子宮頸がんになるリスクはあるのでしょうか。本記事では性交渉未経験でも子宮頸がん検診は必要か、20~30代のHPVワクチン接種した場合の予防効果などについて解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・性交渉未経験で、子宮頸がん検診を受診したほうがよいのか迷っている方
・会社の集団検診等での子宮頸がん検診について悩んでいる方、性交渉未経験を理由に子宮頸がん検診を断られた方
・20歳を過ぎてからHPVワクチンを接種しても子宮頸がんの予防効果があるのか知りたい方

★この記事のポイント
・子宮頸がんの原因のほとんどはHPV感染で、おもな感染経路は性交渉である
・性交渉未経験であれば、子宮頸がんになるリスクはほとんどないと言える
・医療施設によっては性交渉未経験者には検査を推奨しないことがある
・子宮頸がん検診では性交渉経験の有無を聞かれることが多い。検査にあたり大切な情報のため、正直に回答しよう
・性交渉未経験の方は、20歳以上であってもHPVワクチンによって一定の子宮頸がん予防効果が得られるとされている

性交渉未経験でも子宮頸がん検診を受ける必要はある?

子宮頸がんのおもな原因は「HPV感染」

子宮頸がんは、子宮の入り口付近(子宮頸部)にできるがんで、近年では20~30代で罹患する女性が増えてきています*1。子宮頸がんは、がんの初期段階であるステージIで見つかった場合の5年生存率(2015年・ネット・サバイバル※)は94.9%と、早期発見・治療ができれば比較的予後はよいですが、進行すると子宮の摘出が必要になったり、命に関わったりすることもあります*2

※ネット・サバイバル:「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。2014-2015年5年生存率から「相対生存率」に代わり採用されている。

子宮頸がんの95%以上は、HPV(ヒトパピローマウイルス)への感染が原因となって起こるとされています*3。HPVのおもな感染経路は性交渉であり、HPVは性交渉経験のある男女のほとんどが一度は感染したことがあると言えるほどありふれたウイルスです*3

HPVに感染しても、多くの場合は自己免疫の働きによって自然に排除されます。しかし、なんらかの理由でHPVの感染が持続すると、異形成と呼ばれるがんになる前段階へと進み、数年以上をかけて子宮頸がんへと進行することがあります*1

なお、HPVの増殖は、性交渉のような濃厚な接触によって上皮細胞にごく小さな傷ができ、細胞の深層までウイルスが入り込むことによって起こります。そのため、プールや温泉などでウイルスに触れあっただけで感染することはありません*3

子宮頸がんについての詳細は下記記事でも紹介しています。

性交渉未経験であれば子宮頸がんの罹患リスクは低い

前述のように、子宮頸がんの原因は9割以上がHPV感染です。そして、HPVはおもに性交渉によって感染します。つまり、性交渉未経験であれば、子宮頸がんを発症するリスクはかなり低いと言えます。

ただし、子宮頸がんの100%がHPVに由来するものではなく、HPVが原因ではないと考えられる子宮頸がんがごくまれにあります。子宮頸がんは膣に近いほうの扁平上皮細胞と、子宮体部(赤ちゃんを育てる部分)に近い腺上皮細胞に発生することがあり、このうち腺上皮細胞に異変が起きてがん化する「腺がん」の中には、HPV感染が原因ではないケースがあると考えられています。HPV以外の原因についてはまだはっきりとわかっていませんが、子宮頸がんの原因は100%がHPV感染によるものではないことから、「性交渉未経験者は子宮頸がん検診を受けなくてもよい」とは言い切ることができないのです。

なお、子宮頸がん検診を実施している自治体や健康保険組合、医療施設によっては「未経験者は無理をして子宮頸がん検診を受けなくてもよい」「本人の強い希望があれば、意義が低いことを説明の上で実施」などと説明しているところもあります。これは、子宮頸がんの検査は、性交渉未経験の方にとっては得られるメリットより心身の負担等によるデメリットのほうが大きいとする考えもあるためです。詳しくは次項の「性交渉未経験の方が子宮頸がん検診を受ける際に知っておきたいこと」で解説します。

性交渉未経験の方が子宮頸がん検診を受ける際に知っておきたいこと

子宮頸がん検診は、女性にとってデリケートな部位を調べる検査であり、プライベートな質問もあります。以下に性交渉未経験の方が子宮頸がん検診を受ける前に知っておきたいことをまとめました。受診についての検討材料としてください。

性交渉未経験の方は痛みや違和感を覚えやすい

厚生労働省が推奨し自治体等が実施する子宮頸がん検診では、問診、視診、子宮頸部細胞診および内診(腟内や外陰部を視触診したり、器具を挿入したりして直接検査すること)を基本として行います*4

細胞診では子宮頸部の細胞を採取して、がん化した細胞や、がんの前段階である異形成の細胞がないかを調べます*5。下着を脱いで内診台に座り、先端がブラシ状になった細い器具を膣に入れ、子宮頸部をこするようにして細胞を採取します。細胞診自体は数秒で痛みも少ないとされていますが、膣を広げる器具を入れる際などに違和感や痛みを覚えたり、微量の出血をともなったりすることがあります。

痛みはストレスによって増強され、リラックスしているときには軽減するという報告があります*6,*7性交渉未経験の方は、検査に対する恐怖心や羞恥心から痛みを強く感じることもあります。受診を希望する場合は、事情を理解したうえで受診者に寄り添った対応がのぞめる医療施設を選ぶとよいでしょう。

子宮頸がん検診における痛みや違和感の軽減方法、医療施設の選び方については、下記の記事で詳しく解説しています。

問診票などで性交渉経験の有無が確認される

子宮頸がん検診を受ける際は、多くの場合、事前の問診票などで性交渉経験の有無について聞かれます。プライベートなことで答えにくいと感じるかもしれませんが、子宮頸がんのリスクを鑑み、子宮頸がん検診を行うかどうかの判断にも欠かせない重要な情報ですので、正直に回答しましょう。

参考までに、18〜34歳の未婚者の半数近く(男性53.0%、女性47.5%)が性交渉未経験というデータもあります*8性交渉未経験であることは珍しくないと言えるでしょう。検査の際に負担が少ない器具を使うなどの配慮をしてもらえることもあるので、問診票などに記入していても、念のため検査の前に医師または看護師に伝えるとよいでしょう。

医療施設によっては検査を断ることがある

性交渉未経験の方はHPVに感染している可能性がかなり低いため、性交渉未経験であることを申告すると、医師によっては子宮頸がん検診を積極的に推奨しない場合があります。「子宮頸がん検診の案内が届いたから受診したのに、検査を断られた」と考えるとショックを受けるかもしれませんが、性交渉未経験の方は検査を受けて得られるメリットより、痛みやストレスなど心身への負担のほうが大きいことなどを考慮しての判断であると考えられます。受診を希望する場合は、未経験でも検査を受けられるかについて事前に医療施設へ確認しておきましょう。

自治体や会社が実施する子宮頸がん検診はどうすればいい?

子宮頸がんの早期発見には、定期的な子宮頸がん検診が大切です。厚生労働省では20歳以上を対象に2年に1回、子宮頸部細胞診等による子宮頸がん検診を推奨しており、各自治体は指針に沿って検診を実施しています*4。そのため、20歳を迎える年度等に住まいのある自治体から検診の案内が送られてくることがあります。また、勤め先が実施する定期健康診断にあらかじめ子宮頸がんの検査が組み込まれていたり、オプションとして推奨されていたりすることもあります。

性交渉未経験であれば子宮頸がんの罹患リスクは低い」でふれた、“HPV感染が原因ではないわずかな子宮頸がんのリスク”が気になる方は、性交渉未経験であることを申告のうえで検診を受診するとよいでしょう。他方で、性交渉の経験がない方の場合は、そもそも子宮頸がんの原因となるHPVに感染している可能性が低いため、検診を受けることの意義はそれほど大きくないと考えることもできます。受診予定の医療施設などと相談しながら、受診について検討しましょう。

自治体の検診を受けたほうがよいか迷ったら

自治体によっては「未経験の方は検診を推奨しない」「事前に医療施設に問い合わせを」など、未経験の方は子宮頸がん検診を受けなくても問題ないとする内容をアナウンスしていることがあります。検診の案内や自治体のWeb公式サイトなどを確認しましょう。

自治体から上記のようなアナウンスがなくても、医療施設によっては検診にともなう心身の負担などを考慮し、性交渉未経験者には検査を推奨しないことがあります。事前に受診先の医療施設などに確認しましょう。

会社の定期健康診断に含まれていたら

会社の定期健康診断で実施される子宮頸がん検診は、労働安全衛生法に基づいて企業に義務づけられている健康診断の内容には含まれておらず、福利厚生の一環として任意で実施されているものです。任意であるため、自身が不要と判断すれば受診しなくても問題はありません

なんらかの理由で必ず受ける必要がある場合は、事前に医療施設や健診・検診センターなどへ問い合わせ、事情を伝えておきましょう。なお、検査前の問診等でも性交渉経験の有無を問われます。未経験の方には負担の少ない器具を使用するといった配慮のもと検査を実施する医療施設もあるため、プライベートなことではありますが偽りなく申告しましょう。集団健(検)診と個別健(検)診が選択できる場合は、プライバシーが保ちやすく、相談がしやすい個別健(検)診を選択するとよいでしょう。

なお、20〜30歳代の若い世代でも発症する子宮内膜症や子宮筋腫などは、HPV感染とは関係なく起こる疾患です*1。子宮頸がん検診は受けなくても、子宮の状態を把握するためには定期的な婦人科健診・レディースドック等を受けることが望ましいです。詳しくは「女性特有の疾患が気になる場合はレディースドックも検討を」で解説します。

「HPVワクチン」は20代、30代でも有用?

子宮頸がんは、ワクチンによって予防できる数少ないがんでもあります。性交渉未経験の方が将来的な子宮頸がんを予防する手立てとして、HPVワクチンの接種も候補に挙がります。

HPVワクチンの接種は、日本では小学校6年生~高校1年生相当の女子が定期接種の対象となっており、自己負担のない公費の予防接種として受けることができます*9。定期接種に対象年齢が設定されている理由は、初めて性交渉を持つ前にワクチンを接種することで、より高い子宮頸がんの予防効果が得られることが明らかとなっているからです*10

また、定期接種の対象年齢を過ぎてからワクチンを接種しても一定の効果が認められています。アメリカでは男女に対し26歳までの接種を推奨しており、45歳までの接種でワクチンの効果が認められるとの海外の報告もあります*10,*11

日本でのHPVワクチン接種の費用は、定期接種の対象期間以外の方は原則として自己負担となり、ワクチンの種類と回数によって異なりますが、約4~10万円が目安となります。

なお、厚生労働省では高校1年生までに接種の機会を逃した方(1997年4月2日~2007年4月1日生まれの方)を対象として、公費によるキャッチアップ接種を行っています。HPVワクチンについての相談窓口ももうけられており、接種について気になることがある場合は電話で相談することができます。

厚生労働省 感染症・予防接種相談窓口(外部リンク)

女性特有の疾患が気になる場合はレディースドックも検討を

性交渉未経験の方は子宮頸がんのリスクはかなり低いと言えますが、子宮内膜症や子宮筋腫といった疾患は性交渉とは関係なく起こります。これらは20〜30代といった若い世代でも発症し、生理(月経)痛や不妊の原因となることもあるため*1、性交渉経験の有無に関わらず定期的に婦人科検診やレディースドックなどを受けることが大切です。

また、子宮に発生するがんのうち、子宮体部にがんができる「子宮体がん(子宮内膜がん)」にも留意したいところです。子宮体がんの罹患数は20代後半から少しずつ増えはじめ、50代でピークを迎えます。子宮頸がんに比べると罹患数のピークは遅いですが、部位別の罹患数(2019年)は子宮頸がんが10,879人、子宮体がんが17,880人で、子宮体がんが子宮頸がんを上回っています*1,*12

子宮体がんの発生にはエストロゲン(卵胞ホルモン)という女性ホルモンが関わっており、エストロゲンの値が高いと子宮体がんの発生リスクも高いとされています。出産経験のない方や生理不順がある方、肥満の方などはエストロゲン値が高くなる傾向があるため、若いうちから定期的に検診を受けましょう。自治体などが実施する子宮がん検診の中には子宮体がんの検査も含まれることがありますが、一般的には子宮頸がんのみのところが多いです。子宮体がんの検査を受けたい場合は、婦人科外来での診察、婦人科検診やレディースドックなどを受診するとよいでしょう。

子宮体がんが調べられる婦人科検診を探す

なお、婦人科検診やレディースドックでも、基本的には問診で月経周期や性交渉経験の有無を問われ、内診による診察や膣に器具を入れて内側から子宮等を観察する経腟超音波(エコー)検査などが行われます。内診にどうしても抵抗がある場合は、経腟超音波(エコー)検査の代わりに、精度は若干劣るもののおなかの上から子宮等を観察する経腹超音波(エコー)検査などを行う選択肢もあります。経腹超音波(エコー)検査を希望する場合は対応可能かどうか、事前に医療施設に問い合わせましょう。

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参考資料
*1.日本産科婦人科学会  婦人科の病気
*2.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム(検索画面)
*3.本産科婦人科学会「子宮頸がん予防についての正しい理解のために Part1 子宮頸がんと HPV ワクチンに関する最新の知識」2022年
*4.厚生労働省 がん検診
*5.国立がん研究センター がん情報サービス 子宮がん検診について
*6.仙波恵美子「ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム」日本緩和医療薬学雑誌 Vol.3 No.3 December 2010(日本緩和医療薬学会)
*7.一色俊行「痛みと心理」理学療法科学 第15巻第3号 2010年(理学療法科学学会)
*8.国立社会保障・人口問題研究所「2021年社会保障・人口問題基本調査<結婚と出産に関する全国調査> 第16回出生動向基本調査 結果の概要」
*9.厚生労働省「小学校6年~高校1年相当 女の子と保護者の方へ大切なお知らせ(詳細版)」2024年2月改訂版
*10.日本婦人科腫瘍学会 一般の皆様へHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)についてQ&A
*11.厚生労働省 HPVワクチンに関するQ&A
*12.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 子宮体部

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