がん検診

最新の検査法「無痛MRI乳がん検診」とは? 費用や検査の流れをくわしく解説

乳がん検診 がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

乳がんは日本人女性が最もかかりやすいがんであり*1、早期発見するためには定期的に乳がん検診を受けることが重要です。従来はマンモグラフィや乳腺エコーでの乳がん検診が主流でしたが、近年は痛くない・恥ずかしくない乳がん検診法としてMRIが注目されています。この記事では「無痛MRI乳がん検診」の有効性やメリット、デメリット、費用について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・乳がん検診に苦手意識があるけれど、乳がんの検査を受けたほうがよいと感じている女性
・痛みや恥ずかしさを避けて乳がん検診を受けたい女性
・自分に合った乳がん検診の検査法を探している女性

★この記事のポイント
・乳がんは日本人女性が最もかかりやすいがん。罹患率は30代から急増し40代から70代にかけて高値が継続する
・乳腺MRIの有効性が近年認められてきており、乳がん高リスク群では25歳から乳腺MRでの年1回のスクリーニング検査が推奨されている
・無痛MRI乳がん検診は「痛くない」「見られない」「被曝しない」新しい乳がん検診法。日本人女性に多い高濃度乳腺に適している
・無痛MRI乳がん検診は人間ドックなど自費診療でのみ受けられる。費用相場は2〜3万円
・無痛MRI乳がん検診の検査方法は原則うつ伏せで15分程度。造影剤は使用しない

乳がんは女性罹患率トップ。検診での早期発見・早期治療が重要

9人に1人の女性が乳がんになる時代。発症リスクは30代から急速に高まる

乳がんにかかる人の数は年々増加傾向であり、2019年国立がんセンターの統計によると、乳がんは女性部位別がん罹患率のトップでした*1,*2。罹患率は発症リスクとも言えます。乳がんの発症リスクは20代後半から徐々に高まり30代で急増、40〜70代にかけてピークが継続します。現在では9人に1人の女性が生涯のうちに乳がんにかかるとされています*1。ただし、早期発見して適切な治療を行えば5年相対生存率(診断後あるいは治療後 5年経過した際の生存率)は9割と予後がよいです*3。乳がんで亡くなる可能性を下げるために、定期的に乳がん検診を受けましょう。

自治体検診は原則マンモグラフィのみ。乳がん高リスク群は25歳から乳腺MRIが推奨されている

乳がん検診と言えばマンモグラフィや乳腺超音波(エコー)検査が主流です。しかし、自治体の乳がん検診ではマンモグラフィであることが多いため、「痛い思いをしたくない」という理由から乳がん検診を避けてしまう女性がいるのが現状です。

近年は「痛くない」「恥ずかしくない」新しい乳がん検診の方法としてMRIが登場しています。有効性が高く、海外の報告によると早期の乳がん(非浸潤がん)の検出率がマンモグラフィで56%であったのに対して乳腺MRIでは92%でした*4。また乳がん発症リスクが高い遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)※1の場合、25~29 歳あるいは家族が乳がんを発症した最も早い年齢から、年1回の乳腺MRIを受けることが推奨されています*5,*6

※1.遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC):Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndromeの略。「BRCA1」あるいは「BRCA2」という遺伝子に病的な変異を持っており、一般的な日本人女性の6〜12倍の確率で乳がんになりやすいことがわかっている。がんを発症していない方も含めると、200〜500人に1人がHBOCに該当するとされている*7

無痛MRI乳がん検診が近年注目されている

より身体への負担を少なくしたい方は「無痛MRI乳がん検診」がおすすめです。無痛MRI乳がん検診はDWIBS法※2を利用した新しいがん診断法であり、2004年に日本人医師である高原太郎教授が開発しました*8。従来とは異なり、無痛MRI乳がん検診ではガドリニウム造影剤(以下、造影剤)を使用していません。造影剤は脳や腎臓に薬剤が蓄積する危険があることや*9、喘息の既往がある方は副作用のリスクがあることがわかっています。無痛MRI乳がん検診は造影剤を使用していないため安心して検査を受けることができます。ただし、無痛MRI乳がん検診は国の指針で定められた検診法ではないため、人間ドックなど自費診療でのみ受けることができます

※2.DWIBS法:DWIBSとは、Diffusion-weighted Whole body Imaging with Background body signal Suppression(背景抑制広範囲拡散強調画像)の略称。正常な細胞では水分子の動きはスムーズであるのに対して、がんなどの悪性腫瘍では水分子の動きが悪くなることを利用して水の動きが制御されている部位が目立つように画像化しており、PET-CTのようにがんを疑う場所が浮かび上がるように表示される。

無痛MRI乳がん検診がおすすめの方

痛くない乳がん検診を受けたい方

アジア系女性の乳房はハリがあり比較的サイズが小さめのため、マンモグラフィで胸を引っ張って伸ばすと痛みを感じやすいと言われています*9無痛MRI乳がん検診では乳房型にくりぬいた専用のMRIベッドでうつ伏せになって検査するため、乳房を押しつぶしたり、圧迫されたりする心配がありません。また造影剤を使用していないため、注射の痛みもありません。痛みに敏感な方や授乳中で胸が張っている方などにおすすめです。

胸を見られたり、触られたりすることに抵抗がある方

無痛MRI乳がん検診では着衣のまま検査することが可能です。専用の装置に自身で胸をはめ込んで位置を合わせるので、技師に胸をさわられる不快感がありません。医療施設によっては専用ベッドに両胸をはめ込む際に検査着を前開きにする場合があるため、着衣のまま検査を希望する場合は事前に医療施設に確認することをおすすめします。

被曝が心配な方

MRIは放射線を使わないため、検査による被曝の心配がありません。何度受けても蓄積被曝はゼロのため、半年ごとや1年ごとなど安心して繰り返し検査を受けることができます。

高濃度乳腺と指摘されたことがある方

50歳以下の日本人女性では、高濃度乳腺(乳腺の割合が多い状態)の割合が8割近くともされています*9。高濃度乳腺はマンモグラフィでがんの発見率が低下しますが、無痛MRI乳がん検診では乳腺密度の影響をほとんど受けないため高濃度乳房の方でも問題なく検査が可能です。

豊胸など乳腺を手術した経験がある方

豊胸手術でインプラントやシリコンバッグを挿入している方でも無痛MRI乳がん検診は受けることができます。マンモグラフィとは異なり、胸を強く圧迫することがないため、内容物が破裂する心配はありません。また乳腺超音波(エコー)検査よりも深部まで観察することが可能です。マンモグラフィや乳腺エコーでは術後の変形部分が痛みや観察不足になることが多いですが、MRIは胸の大きさや形に左右されにくいというメリットがあります。

乳がんの発症リスクを自覚している方

乳がんの発症リスクは一般的に40歳前後から高まりますが、以下の項目に当てはまる方は、より高いリスクを持っていることが明らかになっています。

【乳がんの発症リスク因子*10
・遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)
・高齢初産もしくは未出産
・初潮が早く、閉経が遅い
・閉経後、肥満になっている
・血縁者が乳がんになっている
・良性の乳腺疾患になったことがある

乳がん検診の検査方法はおもに3種類。料金、メリット、デメリットを比較

マンモグラフィ

マンモグラフィは乳房専用のX線撮影であり、現状では乳がんの死亡率を減少させる科学的根拠が認められている唯一の検査です。乳房をアクリル板で挟んで薄く広げることで、乳腺の重なりを減らして乳がんを発見しやすくしています。検査の感度(がんをがんと判断できる精度)は80%前後とされています*11

【マンモグラフィのメリット】
死亡率減少効果が科学的に認められている
・石灰化のある小さな乳がんの発見に適していている
・自治体のがん検診で受けることができる(ただし対象は40歳以上、2年に1回のみ)
・導入している医療施設数が多い

【マンモグラフィのデメリット】
・放射線被曝がある
・強い痛みをともなう場合がある
高濃度乳腺に不向き
・検査時に胸をさわってポジショニングする必要がある
・胸が小さい場合や変形している場合は観察範囲が限られてしまう場合がある

【費用目安】
自治体検診の場合:無料〜2,000円前後
自由診療(人間ドックなど)の場合:4,000〜8,000円
保険診療で3割負担の場合(初診料・再診料除く):1,000〜3,000円

乳腺超音波(エコー)検査

超音波を利用して乳がんを調べる検査です。検査方法はベッドに仰向けに寝た状態で乳房の上にゼリーを塗るだけで、検査所要時間は5〜10分程度なので身体への負担が少ない検査です。マンモグラフィと併用することで早期乳がんの発見率が約1.5倍に高まることがわかっています*12

【乳腺超音波(エコー)検査のメリット】
・放射線被曝がないため、妊娠中の検査が可能
・痛みがない
・若い人や高濃度乳腺の人に適していると言われている
マンモグラフィにはうつらない小さなしこりを発見できる
・導入している医療施設数がMRIよりも多い

【乳腺超音波(エコー)検査のデメリット】
・死亡率減少効果が現状では明らかでない
・石灰化のある小さな乳がんの発見に不向き
検査時に胸を見せる必要がある
・検査技師による技術差が影響しやすい

【費用目安】
自治体検診の場合:無料〜2,000円前後
自由診療(人間ドックなど)の場合:3,000〜6,000円
保険診療で3割負担の場合(初診料・再診料除く):1,000円〜2,000円

乳腺MRI検査

乳腺MRI検査は強い磁場と電磁波を利用してMRIで乳がんを調べる検査で、おもに本記事で紹介している「無痛MRI乳がん検診」を指します。MRI検査室内で専用の乳腺コイルにうつ伏せで寝て撮影をするのが一般的です。マンモグラフィや乳腺超音波(エコー)検査、細胞診などで乳がんが疑われる場合に、乳がんの広がりの範囲や、しこりの良悪性を評価するために用いられています。乳腺MRIには造影剤を使用する場合とそうでない場合がありますが、ここでは非造影で行う乳腺MRI検査(無痛MRI乳がん検診)についてまとめています。

【無痛MRI乳がん検診のメリット】
痛くない
・検査着を着たまま検査が可能(胸を見られることがない
・放射線被曝がないため繰り返し検査が可能
・高濃度乳腺の人に適している
・豊胸後や術後乳腺の人に適している

【無痛MRI乳がん検診のデメリット】
・死亡率減少効果が現状では明らかでない
・受けられる医療施設が限られている
費用が比較的高額

【費用目安】
自由診療(人間ドックなど)の場合:2〜3万円

無痛MRI乳がん検診の流れ。うつ伏せで15分程度

無痛MRI乳がん検診の基本的な流れは下記の通りです。

1)検査当日、検査時間の15〜20分前程度に来院
2)受付にて受付票と問診票の記入
3)放射線科(MRI検査室)へ移動
4)更衣室にて検査着もしくはTシャツに着替え
5)MRI検査(約15分)
6)着替え

無痛MRI乳がん検診はうつ伏せの体勢で行うのが一般的です。うつ伏せになることで乳腺が下垂してより広い範囲を観察しやすくなることに加えて、呼吸による画像のブレを防ぐことができるためです。

所要時間は、検査時間自体は15分程度、受付から検査終了まで含めて1時間程度です。事前の食事制限や造影剤の注射がなく、必要な持ち物もないので気軽に検査を受けられるのが特徴です。結果の説明方法は医療機関によって異なりますが、2〜3週間程度で郵送されることが多いです。

無痛MRI乳がん検診の注意事項

無痛MRI乳がん検診を受けられない可能性のある方

無痛MRI乳がん検診はMRI装置を使用するため、受診にはMRI検査と同等の注意事項があります。下記の方は無痛MRI乳がん検診すなわちMRI検査を受けられない場合があるため、事前に医療施設へ検査可否を確認してください。

・妊娠中
・ペースメーカー、人工関節、人工内耳、脳動脈クリップなどの体内金属がある
・磁石式の入れ歯をしている(使用不可能になる場合がある)
・入れ墨やアートメイクをしている(変色や発熱する場合がある)
・閉所恐怖症
・検査中安静にすることが困難

閉所恐怖症の方はアイマスクをしたり、音楽を流したりすることで不安な気持ちが和らぎ検査を受けられる場合があります。閉所恐怖症があり検査をためらっている方は、圧迫感を少なくする工夫をしているかどうか医療施設に確認してみるのもよいでしょう。

MRI検査室へ持ち込むことができないもの

下記のものはMRI検査室に持ち込めないため、着替えの際にすべて外しましょう。

時計、ピアス、ネックレス、入れ歯、携帯電話、磁気カード、カラーコンタクトレンズ、アルミニウムなど金属が使用されている貼付剤、カイロなど

また、過度なラメネイルやアイシャドウは金属反応を起こす場合があるので避けましょう。

無痛MRI乳がん検診を受ける時期

乳腺は女性ホルモンの影響を受けているので、検査に向いている時期とそうでない時期があります。

無痛MRI乳がん検診は生理開始から5〜14日で受けるのが望ましいです*9。生理前や授乳中は乳腺が張りやすく、がんを見つけにくくなる傾向があるためです。受診者にとっては、生理前や授乳中は痛みを感じやすい時期でもあります。推奨される期間以外でも検査ができないわけではありませんが、精度が下がる可能性があることを理解しておくとよいでしょう。なお、閉経後はいつでも検査可能です。

参考資料
*1.国立がん研究センターがん情報サービス 最新がん情報
*2.国立がん研究センターがん情報サービス 乳房
*3.国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録 2013-14年5年生存率集計」
*4.Christiane K Kuhl. MRI for diagnosis of pure ductal carcinoma in situ: a prospective observational study. The Lancet, 2007 Aug.
*5.日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版「Q4.乳がんと遺伝について」
*6.NPO法人日本HBOCコンソーシアム「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために(ver.3)」
*7.NPO法人日本HBOCコンソーシアム 遺伝性乳がん卵巣がんを知ろう!みんなのためのガイドブック2022年版「Q1 HBOC(エイチビーオーシー)とは何でしょうか?」
*8.東海大学工学部 MRIを活用した新たながん診断法を開発 医用生体工学科・高原太郎教授
*9.ドゥイブスサーチ
*10.日本医師会 乳がん検診 乳がんの原因
*11.日本対がん検診 よくある質問
*12.東北大学 プレスリリース「超音波検査による乳がん検診のランダム化比較試験(J−START)―若い女性への乳がん検診の標準化と普及へ向けて―」

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