健康診断

入社前・雇入時健康診断の抑えておきたいポイント—費用・実施時期・項目・場所など

雇用時健診 健康診断

雇入時健康診断は、企業(会社)が新たに従業員として雇用する方に実施する一般健康診断(会社に実施が義務づけられている健康診断)のひとつです。会社には雇入時健康診断の実施が、従業員には受診がそれぞれ義務づけられています。ここでは、雇入時健康診断の基本から費用の軽減方法などについてご紹介します。目次のうち1〜4章はおもに会社の人事・総務担当の方向け、5章は入社が内定している方に向けた内容となっています。

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★こんな人に読んでほしい!
・雇入時健康診断の費用は会社負担か、定期健康診断で代用できるか知りたい方
・雇入時健康診断はいつまでに、どこで受ければいいか知りたい方
・内定先、転職先から入社前に健康診断書の提出を求められている方

★この記事のポイント
・雇入時健康診断は会社の義務のため費用は会社負担が適切
・検査項目は会社の定期健康診断とほぼ同じだが、雇入時健康診断は省略項目なし
・雇入時健康診断の費用は1〜1.5万円程度が目安
・【会社向け】雇入時健康診断の費用を抑えるには、健康保険組合や自治体の制度をチェック
・【内定者向け】個人で雇入時健康診断を受ける際には領収書の発行を忘れずに

入社前に受ける雇入時健康診断とは

雇入時健康診断の実施は会社の義務

雇入時(やといいれじ)健康診断*1とは、労働安全衛生規則第43条*2によって定められている、労働者(以下、従業員)に対して行われる一般健康診断のひとつです。一般健康診断とは、事業者(企業・会社)に実施が義務づけられている健康診断で、雇入時の健康診断のほかに定期健康診断、特定業務従事者の健康診断など5つの健康診断があります*1

一般健康診断における雇入時健康診断は、企業(以下、会社)には医師による実施が、入社予定の従業員には受診がそれぞれ義務づけられています。

雇入時健康診断を受ける義務がある人

雇入時健康診断を受ける義務がある人は、会社が「常時使用する労働者*1です。下記、(A)のいずれかの条件と(B)の条件のどちらも満たす場合、パートタイマーやアルバイト、契約社員の方であっても、一般健康診断を実施すべき「常時使用する労働者」に該当します*3

(A)
・雇用期間の定めがない(無期労働契約である)
・雇用期間の定めがある(有期労働契約である)が、今後も1年以上※使用される予定がある
・雇用期間の定めがある(有期労働契約である)が、契約更新により1年以上※引き続き使用されている
※深夜業などの特定業務に常時従事する方の場合は6ヶ月以上*3

(B)
・1週間の所定労働時間数が、同種の業務に従事する正社員の4分の3以上である

厚生労働省は、会社の努力義務として(A)の条件のみを満たす従業員であっても、1週間の所定労働時間数が、同種の業務に従事する正社員のおおむね2分の1以上の場合は、一般健康診断を実施することが望ましいとしています*3。なお、派遣社員の一般健康診断については、労働者派遣事業法に基づき派遣元の会社が実施するとされています*3

雇入時健康診断の検査項目

下記は労働安全衛生規則で定められている、雇入時健康診断(第43条)と定期健康診断(第44条)の検査項目*1です。

雇入時健康診断(新規雇用時)定期健康診断(年1回)
・既往歴・業務歴の調査
・自覚症状・他覚症状の有無の検査
・身体計測(身長、体重、腹囲)
・視力・聴力検査
・胸部X線(レントゲン)検査
・血圧測定
・血液検査
-貧血:血色素量、赤血球数
-肝機能:GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP
-血中脂質:LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪
-血糖
・尿検査(尿糖、尿蛋白)
・心電図
・既往歴・業務歴の調査
・自覚症状・他覚症状の有無の検査
・身体計測(身長※、体重、腹囲※)
・視力・聴力検査
・胸部X線(レントゲン)検査※、喀痰検査※
・血圧測定
・血液検査※
–貧血:血色素量、赤血球数
-肝機能※:GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP
-血中脂質※:LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪
-血糖※
・尿検査(尿糖、尿蛋白)
・心電図※

※医師が必要でないと認めたときに省略可能な項目

雇入時健康診断は、検査項目を省略できません。 一方、会社に年1回の実施が義務づけられている定期健康診断の内容は、雇入時健康診断の検査項目に喀痰検査が加わったものですが、担当医師の判断によって省略できる項目もあります*1

雇入時健康診断はいつまでにする?  一般的に「3ヶ月以内」とされる理由

雇入時健康診断が一般的に「3ヶ月以内」とされる理由

雇入時健康診断の実施時期は「雇入れの際」とされていますが*1、雇入れ時の直前もしくは直後など、具体的な期限については明文化されていません。一般的には雇入れ前「3ヶ月以内」とされることが多く、その根拠として考えられるのは、労働安全衛生規則第43条*2の以下の部分です。

事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。

労働安全衛生規則第43条

上記より、雇用予定者が3ヶ月以内の医師による健康診断(雇入時健康診断に該当する検査項目)の結果を証明できる書面を提出した場合には雇入時健康診断の省略が可能、と読み取れます。このことから、雇入れ前3ヶ月以内は雇入時健康診断の実施時期として差し支えない時期と解釈されています。

なお、入社後に雇入時健康診断を実施する場合の期限についても明確にされていません。しかし、雇入時健康診断や定期健康診断など、一般健康診断の目的が、従業員の健康を把握し適切な労働環境を整えることにある点を踏まえると*4、入社後できるだけ早い段階での実施が望ましいと言えます。

定期健康診断を雇入時健康診断の代用としても問題ない?

前述の通り、内定者が3ヶ月以内に受診した定期健康診断の結果を提出した場合は、雇入時健康診断に該当する検査項目は受診の必要はありません。ただし、定期健康診断で省略された項目は別途受診する必要があります(「雇入時健康診断の検査項目」を参照)。

内定者の入社から1ヶ月後に会社の定期健康診断を予定しているなど雇入時健康診断と定期健康診断の時期が近い場合は、会社の定期健康診断と同時実施でも問題ないと考えられます。ただし、新たに入社した従業員は雇入時健康診断に該当する検査項目を受診する必要があります。

なお、定期健康診断の実施時期は、原則1年以内ごとに1回です。雇入時健康診断を受診した新入・中途社員も、受診から1年以内に定期健康診断を受ける必要があります。実施時期について迷う場合は、所轄の労働基準監督署に問い合わせてください。

雇入時健康診断の結果を見て採用を取り消してもよいか

労働局(現厚生労働省)は、雇入時健康診断は従業員の適正配置や入社後の健康管理に役立てるものであり、採用不採用の決定に使われるものではない*5と通達しています。これは、雇入時健康診断の結果によって不採用としてはならない、と言い換えることができます。

なお、雇入時健康診断を含む一般健康診断の結果、とくに健康保持に努める必要があるとされた従業員に対し、会社は医師または保健師による指導を実施するよう努める義務が発生します(労働安全衛生法第66条の7)*6

雇入時健康診断の費用は「会社負担」の解釈が妥当

原則的に会社負担と考えられる理由

厚生労働省は、労働安全衛生法等で会社に義務づけられている健康診断の費用は会社が負担すべきとの見解を示しています*7。このことから、入社前に雇入時健康診断の受診を指示する場合は、その費用は会社負担が適切であると考えられます。

会社によっては、前述の労働安全衛生規則第43条の条文から「雇用予定者が3ヶ月以内に受けた健康診断の費用は会社が負担する必要はない」と解釈し、費用は個人負担としているケースもあるようです。しかし、雇入時健康診の実施義務が会社にあることを踏まえると、入社前であっても会社負担とするのが望ましいと言えるでしょう。

入社前の雇入時健康診断はどう案内するか

会社側は、雇用予定者に入社前の雇入時健康診断の受診を指示する場合、下記などの対応をアナウンスしておくとよいでしょう。

・受診費用はいったん内定者に支払ってもらう
・医療施設から会社宛の領収書を発行してもらう
・入社後に精算を行う

雇入時健康診断の費用を安くする方法

雇入時健康診断の費用は医療施設によって異なります。目安として1〜1.5万円程度です。雇入時健康診断は保険適用外のため、全額負担となります。

会社が雇入時健康診断の費用負担を軽減する方法として、次の2つがあります。

1)加入している健康保険組合の割引制度等を利用する

健康保険組合によっては、提携する医療施設等で通常より安価に雇入時健康診断を含む各種企業健診を実施している場合があります。加入中の健康保険組合に確認してみましょう。

2)自治体が実施する企業健診を利用する

自治体によっては、企業向けの健診を実施しているところもあります。例えば、東京都台東区では小規模企業を対象とした健診を実施しています(2023年10月現在)。

【台東区による小規模事業所健診*8
条件:台東区内に事業所が所在する企業(従業員10名以下)勤務の従業員
場所:永寿総合健診・予防医療センター、鶯谷健診センター
定員:1事業所につき5名まで、月30名程度
検査項目:問診、身長、体重、血圧測定、腹囲、尿検査、血液検査、胸部レントゲン撮影、視力検査、聴力検査、心電図検査
費用:3,160円

上記は年1回の定期健診相当の内容ですが、雇入時健康診断の検査項目にも対応している内容です。企業健診の実施有無は自治体により異なります。会社所在地の自治体で確認して、もし実施があれば利用可能か問い合わせてみましょう。

【個人で受ける方へ】雇入時健康診断はどこで受ける? 結果はいつ届く? 事前のチェックポイント

雇入時健康診断はどこで受けるか。事前に確認したいポイント3つ

個人で雇入時健康診断を受診する際、会社からとくに医療施設の指定がない場合はどこで受けても問題ありません。入社前に受診する場合、検査結果は本人が医療施設へ直接取りに行くケースが一般的です。最寄りの医療施設(総合病院、クリニック、健診センターなど)など、自身が足を運びやすい医療施設を探して受診するのがおすすめです。なお、入社後に受診する場合は、会社が加入している健康保険組合の提携施設などを指定されるケースがほとんどです。

所在地や予算から雇入時健康診断を実施している医療施設を探す

入社前に自身で雇入時健康診断の受診先を探す際には、次の3つのポイントを確認しておきましょう。

1)必要な検査項目の実施の有無

医療施設によっては、雇入時健康診断を「入社前健診」や「雇用時健診」などの名称で案内しているケースがあります。いずれの場合も「雇入時健康診断の検査項目」にある項目が実施されるかどうかをチェックしましょう。会社や業務によっては、指定の検査を指定の用紙で提出することが求められる場合もあります。オプションで追加できる検査を含め、必要とされる検査項目に対応している医療施設かどうかを事前に確認しましょう。

2)費用と領収書の発行について

雇入時健康診断の費用は1〜1.5万円前後が目安です。受診費用は保険適用外のため、全額自己負担となります。医療施設によっては、診断書の発行はオプションで別料金となる場合もあるため、確認しておきましょう。会社によって対応は異なりますが、受診費用を立て替える場合は、後日経費精算時に会社から領収書の提出を求められます。会社からの指示がなくても、入社予定の会社宛の領収書を受け取って保管しておきましょう。

3)結果が届く時期を確認

雇入時健康診断を個人で受診する場合、結果は本人が医療施設に直接取りに行くのが一般的です。医療施設によっては、料金を追加することで結果の即日発行や後日郵送に対応している場合があります。会社から提出期限を指定されている場合は、医療施設に結果の受け取り方法や必要な時期までに発行してもらえるのかを事前に確認しておきましょう。

雇入時健康診断を受ける際の服装は、受診が入社前か、入社後かによって異なります。入社前に個人で医療施設を予約し雇入時健康診断を受ける場合は、私服で問題ありません。スムーズに受診できるよう、上下セパレートで着脱しやすい服装がよいです。

入社後も、受診する医療施設へ直行直帰するなど、オフィスに寄る必要がなければ私服で問題ないでしょう。就業前後あるいは就業時間の合間などに雇入時健康診断を受ける場合は、ラフな服装で出社が可能か、またはスーツで受診できるのかなど当日の服装について会社の人事や受診先の医療施設に聞いておくとよいでしょう。健康診断に適した服装は下記記事で詳しく紹介しています。

健康診断の結果はいつもらえる? 即日・翌日発行が可能な医療施設もある

雇入時健康診断の結果の発行時期は医療施設により異なりますが、一般的には、受診後1~3週間ほどで検査結果を受け取ることができます。一部の項目を除き、即日発行や翌日発行に対応している医療施設もありますが、至急対応など多くの場合は別途料金が発生します。会社への提出期限に合わせて、事前確認のうえ、ある程度余裕を持たせたスケジュールでの受診をおすすめします。

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参考資料
*1.厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
*2.e-Gov法令検索 労働安全衛生規則
*3.厚生労働省 東京都労働局 よくあるご質問「Q16.一般健康診断では常時使用する労働者が対象になるとのことですが、パート労働者の取り扱いはどのようになりますか?」
*4.厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会 報告書」2016年
*5.労働局(現厚生労働省)「採用選考時の健康診断について」1993年(滋賀県公式サイトより)
*6.e-Gov法令検索 労働安全衛生法
*7.厚生労働省 よくある質問「健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?」
*8.台東区 小規模事業所健診

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