卵巣がんは明確な自覚症状に乏しく、日常的な不調に紛れて見過ごされやすいため、「サイレントキラー」とも呼ばれています。この記事では、卵巣がんの初期症状について紹介し、卵巣がんになりやすい人の特徴や、早期発見するための婦人科検診について詳しく解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・30代以上の女性
・下腹部の張りや痛み、頻尿などが気になっている方
・親戚に卵巣がんや乳がん患者がいる方
★この記事のポイント
・卵巣がんは初期症状が乏しく、進行してから発見されることが多い
・初期症状には、お腹の張りや頻尿、むくみなど、日常的な不調に似た症状が多い
・卵巣がんを早期発見したい方は、婦人科検診やレディースドックで経腟超音波(エコー)検査を受診しよう
・血縁者に乳がんや卵巣がん罹患者がいる場合は、遺伝によるがん発症リスクがあるため、近くのがん相談支援センターで相談しよう
知っておきたい卵巣がんの特徴とは?
卵巣がんの罹患者数は30代から増加し、50~60代で最多に
卵巣がんは、女性の骨盤内にある卵巣で発生する悪性腫瘍です*1。卵巣は子宮の左右に1つずつあり、正常時は2〜3cmと親指の第一関節程度のサイズですが、卵巣がんになると大きいもので10~20cmを超えることもあります*2。
2021年のデータによると、卵巣がんの年間罹患者数は約13,000人です*3。女性に最も多い乳がん(約99,000人)と比べると少ないものの、女性向けのがん検診で対象となる子宮頸がん(約11,000人)よりは多く、決して珍しいがんではありません。年齢別に見ると、30代から40代にかけて急激に増加し、50代で最も罹患率が高くなることから*3、仕事や育児で忙しい時期に発症することも珍しくないがんと言えます。
“サイレントキラー”と呼ばれる卵巣がん、早期発見が重要
卵巣がんの5年生存率(2015年/ネット・サバイバル※)は、早期発見されたステージ1で90.6%ですが、進行した状態のステージ3で46.9%、ステージ4で29.2%と報告されています*4。このため、卵巣がんの予後を改善するためには、予防と早期発見が最も重要です。
卵巣がんは骨盤内に存在することからも、初期の自覚症状が出ても気づきにくく、別名「サイレントキラー」と呼ばれています。症状が現れてからの発見では、すでにある程度進行していることもあり、卵巣がんの診断を受けた方の40%以上がステージ3または4の進行例と報告されるほどです*5。
一方で、卵巣がん検診は現在のところ国の対策型検診の推奨項目には含まれていません*6。これは、卵巣がんの発見に至るスクリーニング検査の有効性が確立していないことを示唆しています。そのため、不安を感じる方や卵巣がんのリスクが高い方は、任意型検診として婦人科検診やレディースドックを受診するとよいでしょう。これらのプランには一般的に、子宮周辺を調べる検査として経腟超音波(エコー)検査が含まれていることが多いです。詳細は後述の「早期発見のために、婦人科検診で経腟エコー検査を受診しよう」で解説します。
※ネット・サバイバル:5年後に生存している割合のうち、「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。
卵巣がんの初期症状・前兆を見逃さないために
卵巣がんの8つの初期症状・前兆をチェック
卵巣がんの初期症状には、以下のようなものがあります*1,*2。卵巣がんは無症状のことも多く、もし下記症状があったとしても日常生活でよく経験する症状に似ており、見逃されやすいですが、気づいたときに早めに医療施設を受診することが大切です。
- 洋服のウエストがきつくなる
- お腹が張って苦しい
- 下腹部にしこりができる
- 下腹部が痛い
- 食欲がなくなる
- 頻尿や便秘になる
- 脚がむくむ
- お腹が大きく前に突き出てくる
など
洋服のウエストがきつくなることやお腹の張りは、卵巣の腫瘍自体の増大やお腹に水(腹水)がたまることで起こります*2。とくに食事量に関係なく、腹部膨満感が続く場合は注意が必要です。また、下腹部にしこりができる症状は、卵巣腫瘍がさわってわかるほど大きくなった場合に現れます。
卵巣の腫瘍が大きくなることで下腹部の痛みを感じることがあります。また、膀胱や直腸を圧迫することで、頻尿や便秘といった症状が引き起こされたり*1、たまった腹水が胃を圧迫することで食欲不振につながったりすることもあります。脚のむくみは、腫瘍がリンパ管を圧迫したり、静脈の流れを阻害したりすることで生じます*7。腫瘍の増大したり腹水の貯留が進んだりした場合は、妊娠したかのようにお腹が大きく前に出るようになります*7。
不正出血やおりものの異常は、卵巣がんと関係ある?
一般的に不正出血とよばれている、異常子宮出血や不正性器出血などで考えられるおもな病気には、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮体がん、子宮頸がんなどがあります*8,*9。その他、閉経後出血や、ホルモンを分泌する腫瘍(例:顆粒膜細胞腫)による不正出血などもあり、不正出血があったからといって必ずしも卵巣がんとは限りません。
また、おりものの異常は、卵巣がんに特異的ではなく、子宮頸がんのほか、カンジダ症、細菌性膣症、トリコモナス膣炎などの他の婦人科疾患による可能性が考えられ*9、異臭や色の変化、かゆみなどをともなうことがあります。ただし、がんが進行して腹水や炎症をともなうと、まれに性器分泌物の変化がみられることもあります。
これらの症状は重大な病気が隠れている可能性もあるため、まずは婦人科の受診をおすすめします。生理ではない出血がある、閉経後に出血がある、おりものに異臭や色の変化がある場合などは、速やかにお近くの婦人科を受診しましょう。
不正出血やおりものが気になる方は、下記記事もご覧ください。
卵巣がんが発覚するきっかけは?
一般に卵巣がんの初期症状はほとんどないとされていますが*1、世界卵巣がん連合(World Ovarian Cancer Coalition)の「Every Woman Study™」の調査研究によると、卵巣がん患者の90%以上は、診断前に複数の症状を経験していたと報告されています*10。また、ステージ1で診断された方であっても、87.4%の方がなんらかの症状を経験していました。最も多くの卵巣がん患者が経験した症状は、腹囲の増大(53.6%)で、次いで持続的な膨満感(48.4%)、腹痛(44.9%)、極度の倦怠感(37.0%)、頻尿(36.5%)などでした。
このように、多くの卵巣がん患者が診断前に何らかの体調変化を感じていたという報告もありますが、これらの症状は他の良性疾患(過敏性腸症候群、過活動膀胱、便秘など)でもよく見られるため、症状だけで卵巣がんを見極めることは困難です。そのため、気になる症状が続く場合には、早めに医療施設で相談することが重要です。
卵巣がんの原因・なりやすい人とは?
一般に、卵巣がんのリスク因子には以下のようなものが知られています*11。
- 母や姉妹に卵巣がんの既往がある
- 本人または血縁者に、子宮体がん(子宮内膜がん)・乳がん・結腸がんの既往がある
- 初潮の年齢が早い
- 妊娠・出産の経験がない
- 高齢出産
- 閉経が遅い
- 肥満
など
家族に卵巣がんや乳がんを発症した人がいる場合、「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」である可能性があるほか、卵巣がんが関わる遺伝性疾患として「リンチ症候群※」も挙げられます*12。
※リンチ症候群:遺伝性大腸がんのひとつで、大腸がん全体のうち2~4%に相当するという報告がある。大腸のほか卵巣、子宮内膜、胃、小腸、胆道、膵臓などにがんが発症しやすいとされている*12,*13。
遺伝が関わるがん全般については、下記で詳しく解説しています。
また、体内で長期間にわたって排卵が繰り返されたり、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)にさらされる期間が長くなるほど卵巣がんのリスクは高まると考えられており、初潮の年齢が早い方、妊娠・出産の経験がない方、閉経が遅い方は注意が必要です*14,*15。出産経験があっても出産年齢が高い方は、それまでに排卵を繰り返している期間が長くなるため、卵巣がんのリスクが高まるとされています。
ほかにも、高脂肪食などの食生活の欧米化も原因のひとつとされています。卵巣がんは性行為が原因とされることはなく、むしろ性行為が関係するがんとしては、子宮頸がんがよく知られています*16。
「人間ドックのミカタ」では、子宮頸がんの記事を多数掲載しています。ぜひあわせてご覧ください。
卵巣がんの予防と早期発見のために
がん全般の予防法と同じ、禁煙・節酒&健康的な生活を心がける
がん全般の予防法として、禁煙・節酒は有効とされており、卵巣がんに対しても生活習慣の見直しが推奨されます*17。こうした生活習慣の改善は、卵巣がんに限らず、さまざまながんの予防につながるため、少しずつ生活に取り入れていくことが大切です。
「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」と診断されたら、予防の選択肢が増える
血縁者に乳がんや卵巣がんの罹患者がいる方で、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断された場合、専門医と相談のうえで、リスク低減手術や定期的なサーベイランスの選択肢を検討することが推奨されています*17,*18。サーベイランスとは、がんの早期発見のために、より細かく計画的に検査し、継続的に診察をすることです。
HBOCの診断には、BRCA1とBRCA2の遺伝子検査が必要です*18。気になる方は、まずはお近くのがん相談支援センターで相談してみるのがよいでしょう*17。
遺伝子検査の詳細や、検査を受診するメリット・デメリットは以下の記事で詳しく解説しています。
早期発見のために、婦人科検診で経腟エコー検査を受診しよう
卵巣がんの早期発見には、定期的な婦人科検診やレディースドック(人間ドック+婦人科検診)の受診がおすすめです。婦人科検診とは、子宮や卵巣などの女性特有の臓器に異常がないかをチェックし、がんをはじめとする病気の早期発見を目指すものです。
婦人科検診の内容は、医療施設によってさまざまですが、乳がんを調べるためのマンモグラフィや乳腺超音波(エコー)検査、子宮頸がんを調べるための子宮頸部細胞診、そして子宮体がんや卵巣がんを調べるための経腟超音波(エコー)検査などが一般に行われます。ただし、経腟エコー検査によるスクリーニングは現時点で有効性が確立されていないため、ハイリスク群に対してのみ実施する医療施設もあります。
経腟エコー検査とは、超音波を発生する棒状の器具(プローブ)を腟内に挿入し、卵巣や子宮の状態を画像で確認する検査です。短時間で済み、痛みもほとんどない検査ですが、腫瘍の場所や大きさ、広がり具合などを確認することができます。とくに、「卵巣がんの原因・なりやすい人とは?」で紹介したリスク因子にあてはまる方は、症状がなくても定期的に婦人科検診を受診することがおすすめです。
婦人科検診を受診できる医療施設はこちら
レディースドックを受診できる医療施設はこちら
婦人科検診についてもっと知りたい方は、下記記事をご覧ください。
下記記事では、レディースドックについて解説しています。
参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がんについて
*2.日本産科婦人科学会 卵巣の腫瘍とがん
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 卵巣
*4.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
*5.キャンサーネットジャパン 【2021年改訂】もっと知ってほしい卵巣がんのこと(卵管がん、腹膜がん)
*6.厚生労働省 がん検診
*7.日本婦人科腫瘍学会 市民の皆さまへ 卵巣腫瘍
*8.日本産科婦人科学会 異常子宮出血と不正性器出血
*9.日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2023」
*10.World Ovarian Cancer Coalition. The Every Woman Study™ 2018 Summary Report.
*11.日本女性心身医学会 女性の病気について 卵巣癌
*12.がん研有明病院 がんと遺伝の関係性について
*13.大腸癌研究会 遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版
*14.大阪医療センター 卵巣がん(婦人科)
*15.日本医師会 その他のがん 卵巣がん
*16.国立がん研究センター がん情報サービス 子宮頸がん 予防・検診
*17.国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 予防・検診
*18.日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 遺伝性乳がん卵巣がんを知ろう! みんなのためのガイドブック2022年版「Q21 サーベイランスとは何ですか?検診とは違うのでしょうか?」







