頸動脈超音波(エコー)検査は、加齢によって起こる動脈硬化の有無や進行程度がわかり、ひいては脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高いかどうかがわかる検査です。高血圧、脂質異常症などの危険因子がある方は、脳ドック等で受けておくと動脈硬化の早期発見ができます。頸動脈エコー検査でわかることや受診年齢の目安、費用などを解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・頸動脈エコー検査を受けてみたい方
・脳梗塞や心筋梗塞を経験した血縁者がいる方
・頸動脈エコー検査の費用や受診先を知りたい方
★この記事のポイント
・頸動脈エコーでわかるのは、動脈硬化の進行程度
・動脈硬化の早期発見は脳梗塞や心筋梗塞、認知症の予防につながる
・動脈硬化と診断されても、すぐに投薬治療が必要とは限らない。まずは生活習慣の改善を ・高血圧、肥満、喫煙は動脈硬化の危険因子。心当たりがあるなら頸動脈エコーを検討しよう
目次
頸動脈エコー検査とは
頸動脈エコー検査でわかること
頸動脈超音波(エコー)検査(以下、頸動脈エコー検査と表記)は、首に検査用のゼリーをぬってプローブ(探触子)と呼ばれる超音波が出る機器を当て、頸動脈(首の左右にある太い血管)の状態をモニターに映し出して確認する検査です。身体の表面から行えて、X線(レントゲン)検査のような被爆がないことから、比較的身体への負担が軽い検査と言えます。
頸動脈エコー検査のおもな目的は、動脈硬化の有無や程度の確認です(詳細は次項「脳梗塞や心筋梗塞、狭心症を招くことも。動脈硬化が引き起こす疾患」で解説)。血管の壁の厚さを測定し、プラーク(血液中のコレステロールなどが沈着したドロドロとした物質)の存在やプラークにより血管がどれくらい狭くなっているかなど血管内部の状態を確認します*1。
また、認知症の種類のひとつ「血管性認知症」は、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患が認知症の原因と判断される場合に診断されます。脳血管疾患のひとつである脳梗塞は、動脈硬化が大きな要因となっており、動脈硬化の程度を知ることは血管性認知症のリスクの把握にもつながります*2。
脳梗塞や心筋梗塞、狭心症を招くことも。動脈硬化が引き起こす疾患
動脈硬化とは、動脈(心臓から全身に血液を送り出している太い血管)の壁にコレステロールなどがたまり、血管が硬くなったり狭くなったりして血流が悪くなる状態を指します。動脈硬化によって起こる疾患(動脈硬化性疾患)にはおもに下記があります*3,*4。
【脳梗塞】
脳の血管が細くなったり、動脈の壁に付着していたプラークがはがれて血栓となったものが脳の血管を詰まらせたりして、脳の細胞がダメージを受けた状態です。血管性認知症の一因となることもあります。
【脳出血】
動脈硬化が進行すると、もろくなった脳の動脈が破裂して、脳内に出血することがあります。
【心筋梗塞】
冠動脈(心臓自体に酸素や栄養を供給している血管)の血管が細くなったり、動脈の壁に付着していたプラークがはがれて血栓となり心臓の血管を詰まらせたりして心筋(心臓を動かす筋肉)が障害を受け、心筋細胞が壊死した状態です。発症すると、胸の中心付近に圧迫感をともなう激しい痛みが30分以上続きます。
【狭心症】
冠動脈の動脈硬化によって血管が細くなり、心筋が一時的に酸素不足となって起こる疾患です。発症すると締め付けられるような胸の痛みや苦しさを感じることがありますが、多くの場合安静にしていると数分(長くても15分以内)でおさまります。
動脈硬化の原因は加齢による老化のほか、高血圧や脂質異常症、糖尿病、喫煙などの危険因子が重なると発症しやすくなります。自覚症状がほとんどないまま進み、ある日突然脳梗塞や心筋梗塞といった命にかかわる疾患を発症することがあるため、予防や早期発見が大切です。
40~50代から頸動脈エコー検査を。危険因子が多い、遺伝的要素がある場合は20~30代でも受診しよう
冠動脈疾患や脳血管障害などの動脈硬化疾患の発症リスクや死亡リスクは、加齢に伴い増加することが指摘されています。とくに、動脈硬化性疾患が増えるのは男性で50代以降、女性は60~70代以降です。女性のほうが、男性よりも動脈硬化性疾患のリスクが低い要因として女性ホルモンや女性特有のライフスタイル(妊娠・出産・育児)の関連が考えられています*5。
動脈硬化を早期に発見し、動脈硬化性疾患の予防につなげるには、男性の場合40代から、女性は閉経を迎える50代前後から頸動脈エコー検査を受けて、血管の状態をチェックしておくとよいでしょう。
ただし、動脈硬化は肥満や高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙などの危険因子が重なることでも進行しやすいことがわかっています。また、2親等以内の家族に若年性(男性55歳未満、女性65歳未満)の狭心症や心筋梗塞などの既往歴がある方は、遺伝的に若いうちからLDLコレステロール値が高く動脈硬化が進行しやすい「家族性高コレステロール血症(FH)」が疑われる場合もあります*4,*6。これらのリスクが心配な方は、年齢にかかわらず20~30代から検査を受けましょう。
頸動脈エコー検査で甲状腺のチェックは可能か
甲状腺は喉の下側にある臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています*6。甲状腺と頸動脈は部位が近いため、頸動脈エコー検査で甲状腺のしこりが見つかるケースも少なくありません。医療施設によっては頸動脈の検査と同時に甲状腺の大きさや腫瘤の有無などをチェックすることもありますが、それぞれ別の検査として行っている医療施設もあり、対応はさまざまです。
甲状腺のチェックも同時に受けたい場合は、あらかじめ医療施設に確認しましょう。
頸動脈エコー検査の費用の目安
症状がある場合は保険適用
動脈硬化は初期症状がほとんどなく自覚症状もないため、定期的な健康診断などで見つかることが多く、自覚症状がみられるときにはすでに動脈硬化の進行が起きている可能性があります。動脈硬化を疑われる危険因子が多い方や、下記のような自覚症状があるなど、医師が検査を必要と判断した場合は、保険適用で頸動脈エコー検査を受診できます。気がかりのある方は医師に相談してみましょう。
・血圧が高めで、頭痛やめまいがする
・階段の上り下りなどで動悸、息切れがする
・手足の冷えやしびれが気になる
など
保険適用の場合、検査費用の目安は原則3割負担で1,000~2,000円程度です(初診料などは含まない)。ただし、動脈硬化は初期では自覚症状がないことがほとんどです。念のため調べたい場合には健康保険は適用されず、基本的に全額自己負担となります。
なお、脳梗塞や心筋梗塞が疑われる場合は、頸動脈エコー検査を受ける受けないに関わらず、すみやかに医療施設を受診してください。
症状がない場合は人間ドックのオプションや脳ドックで受診可能
動脈硬化は自覚症状がほとんどないため、自身では気づかぬうちに進行し、ある日突然脳梗塞や心筋梗塞といった命にかかわる疾患を引き起こすことがあります。症状がなく念のため調べたい、リスクを把握しておきたいといった場合には、人間ドックのオプション検査や脳ドックで頸動脈エコー検査を受けられます。
費用の目安は、人間ドックのオプション料金(スタンダードなプランなどに付加する場合の料金)で3,500円前後です。脳ドックでは、基本的なプランに頸動脈エコー検査が含まれていることがあります。脳ドックの費用は1.5~2.5万円前後です。
頸動脈エコー検査の流れと所要時間
検査の流れは医療施設によっても異なりますが、一般的な例をご紹介します。当日の服装を選んだり、スケジュールを立てたりする際の参考にしてください。
【検査当日の服装】
人間ドックや脳ドックでは多くの場合検査着が用意されていますが、クリニックなどの一般診療で検査を受ける場合は検査着の用意がないことがほとんどです。その場合は、ハイネックは避け、首から鎖骨あたりまで出せる服が望ましいです。検査ではゼリーをぬるため、多少ゼリーがついても問題ない服を選ぶとよいでしょう。また、耳や首につけるアクセサリーは外しておきましょう。
【検査の流れ】
1)問診~診察台で仰向けになる
問診で危険因子の有無などを確認したのち、診察台に移動し、仰向けに寝て首元を出します。
2)首にゼリーを塗布し、プローブを当てる
顔を傾けて、首の左右にある頸動脈を順番に見ていきます。首に検査用のゼリーをぬり、プローブ(探触子)でなでるようにして、超音波でモニターに頸動脈の画像を映し出します。プローブがあたる際にはひやっと感じますが、痛みはありません。画像がよく見えるよう、照明を暗くすることもあります。
3)モニターを通してリアルタイムで観察
リアルタイムで頸動脈の画像をモニターで見ながら、医師が血管の壁の厚さ、プラークの有無や大きさ、血管が狭窄している部分がないかを確認します。このときに、医師から簡単な説明を受けることもあります。
4)ゼリーをふき取り診察終了
左右の頸動脈を確認し終えたら、ゼリーをぬぐい、服装を整えます。ゼリーは医療スタッフがふき取ってくれることが多いですが、服につかないよう自分でも確認してください。その後は指定された場所で、診察室に呼ばれるのを待ちます。
5)結果説明
診察室に戻り、画像を見ながら医師から結果を聞きます。質問があれば、あらかじめ聞きたいことを整理したメモを用意しておくとよいでしょう。なお、人間ドックや脳ドックでは、後日結果報告書が送付されることがあります。
頸動脈エコー検査そのものにかかる時間は、頸動脈の状態や医療施設によって異なりますが、15~30分程度です。前後に待ち時間などが発生することを想定し、ゆとりを持ったスケジュールを立てると安心です。検査は予約制としている医療施設が多いので、検査時間なども含め事前に確認しておきましょう。
頸動脈エコー検査の結果の見方。指標のひとつIMTとは
IMTとは
人間ドックや脳ドックで頸動脈エコー検査を受診した場合、検査結果が書面で郵送されることがあり、そこに動脈硬化の指標のひとつとなる「IMT」が記されていることがあります。
IMTとは「内膜中膜複合体肥厚度(Intima Media Thickness)」の略で、内膜、中膜、外膜の三層からなる血管壁の組織のうち、血管の内側にあたる内膜と中膜の厚さを計測した数値です*1。
動脈硬化は加齢によって進行するため、IMTは年齢が上がるにつれて厚くなる傾向が指摘されており、総頸動脈のIMTの厚さが1.1mm以上になると動脈硬化が進展しているといわれています*1,*5。
IMTのほか、プラーク (粥状のコレステロールなどが血管壁に付着して部分的に隆起したもの)の有無や厚さも動脈硬化の指標となります*5。
ただし、IMTの厚さが1.1mmを超えたからといって、直ちに投薬などによる治療が始まるとは限りません。リスク因子の有無などを複合的に判断しつつ、生活習慣の改善などで様子を見る場合もあります。
リスクを指摘されたら生活習慣の見直しを
頸動脈エコー検査で将来的な動脈硬化性疾患の発症リスクを指摘された、あるいは要経過観察となったら、動脈硬化の進行予防や改善に向けて生活習慣の見直しをしましょう*4,*5。動脈硬化の進行を遅らせることは、動脈硬化性疾患のリスク低減につながります。
食生活:減塩を心がけ、加工肉や動物性油脂などを控える
大豆や大豆製品、魚、海藻、キノコ、野菜、果物、玄米など未精製の穀類や雑穀をバランスよく取り入れた伝統的な日本食で、なおかつ減塩を心がけた食事が、動脈硬化の予防につながります。また、加工肉や動物性の脂(牛脂、バター、ラード)、トランス脂肪酸を含む菓子類は控え、食物繊維を多めに摂ることを心がけましょう。
飲酒の習慣がある方は、適正な量を意識しましょう。目安は1日あたりビールなら500ml缶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス(120ml)2杯程度です。また、週に1日以上の休肝日を設けましょう*7。
高血圧や糖尿病で治療を受けている場合は、かかりつけ医と相談のうえ食事メニューを組み立ててください。
運動:少なくても何もしないよりはよい、時間をかけて持続時間を増やそう
適度な運動は、肥満や血圧上昇といった動脈硬化リスクの低下につながります。WHOでは、成人(18~64歳)が健康効果(高血圧、一部のがん、2型糖尿病の発症予防、メンタルヘルス、睡眠の向上など)を得るための身体活動(安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する動作)*8として1週間を通して下記いずれかに取り組むことを推奨しています*9。
・中強度の有酸素運動を少なくとも150~300分
・高強度の有酸素運動を少なくとも75~150分(または、中強度と高強度の身体活動の組み合わせによる同等の量)
また、さらなる健康増進のために、週2日以上、中強度以上の主要筋群を使った筋トレも推奨しています。
加えて、座りすぎが総死亡率や心血管系疾患、がんなどによる死亡率の上昇や発症の増加といった悪影響を及ぼすことにも言及し、下記を推奨しています。
・座りっぱなしの時間を減らし、どんな強度でもいいので身体活動に置き換える
・長時間の座りすぎが健康に及ぼす悪影響を軽減するためには、中強度から高強度の身体活動を推奨レベル以上に行うことを目標とする
WHOは、身体活動が少なくても何もしないよりはよい、時間をかけて徐々に頻度、強度、持続時間を増やしていくことがよいとしています。運動習慣がない方は、日常的に座りっぱなしの時間を減らし、身体を動かす時間を増やすよう意識するところから始めましょう。
高血圧や糖尿病で治療を受けている場合は、かかりつけ医と相談のうえ運動メニューを組み立ててください。
禁煙:喫煙本数やニコチン・タール量を減らしてもリスクは減らない
禁煙は、動脈硬化性疾患の予防につながる大きなアクションです。年齢にかかわらず、禁煙期間が長いほどリスクが低下するとされています。なお、喫煙本数を減らしたり、低ニコチン・低タールのたばこに替えたりすることはリスクの低下につながりません。
何科で受ける? 頸動脈エコー検査が受けられる医療施設
頸動脈エコー検査はおもに次の診療科が行っています。
・循環器内科
・脳神経内科/脳神経外科
・腎臓内科
・糖尿病内科
など
頸動脈エコー検査を実施しているかどうかは、各医療施設に確認してください。動脈硬化が疑われると医師が判断した場合には、保険適用で検査を受診できます。
人間ドックではスタンダードなプランにオプションで頸動脈エコー検査を付加できる場合があり、脳ドックではほとんどのプランに頸動脈エコー検査が組み込まれています。頸動脈エコー検査に対応した人間ドック・脳ドックは下記より検索できます。
参考資料
*1.厚生労働省 e−ヘルスネット 頸動脈エコー検査
*2.日本臨床衛生検査技師会「医学検査」第五部 超音波検査 第1章 頸動脈超音波検査(2017年 66巻 J-STAGE-2号)
*3.厚生労働省 e−ヘルスネット 動脈硬化
*4.日本動脈硬化学会 生活習慣病とは?
*5.日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版」
*6.日本内分泌学会 一般の皆様へ INDEX
*7.厚生労働省 e−ヘルスネット 栄養・食生活と高血圧
*8.厚生労働省 e−ヘルスネット 身体活動
*9.日本運動疫学会、医薬基盤・健康・栄養研究所、東京医科大学「WHO身体活動・座位行動ガイドライン(日本語版)要約版」(2021)