人間ドックと脳ドックはどちらも、自覚症状がない方が任意で受ける健康診断の一種です。それぞれの目的や検査内容の違い、人間ドックに加えて脳ドックも受けたほうがいいのはどのような方か、2つセットで受けた場合の費用と所要時間なども解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・人間ドックと脳ドックの違いを知りたい方
・人間ドックで脳の検査もできるのか気になっている方
・人間ドックと脳ドックを同時に受けられるか知りたい方
★この記事のポイント
・人間ドックは身体の主要な部位を中心に、健康状態を総合的に調べる検査
・脳ドックはおもに脳血管疾患のリスクを調べる、脳に特化した専門ドック
・50代以上の方や脳血管疾患の危険因子がある方は、人間ドックと脳ドック両方の受診を
・人間ドックと脳ドックは同日に受けることも可能。「人間ドック+脳ドック」のセットプランもある
目次
人間ドックと脳ドックの違いとは
人間ドックと脳ドック、それぞれの目的
人間ドックと脳ドックは、どちらも病気の早期発見や将来的にかかりやすい病気のリスクを知ることにつながる予防医療の一種ですが、それぞれ目的が異なります。人間ドックと脳ドックの違いを解説します。
人間ドック
人間ドックでは身体の主要な部位に異変がないかを調べるために、基本的な検査として身体計測、血液検査、尿検査、便検査、X線(レントゲン)検査、超音波(エコー)検査などが行われます。会社などで受ける健康診断よりも検査項目が多いため、より詳細に身体の状態を知ることができます。また、内視鏡検査など基本的な人間ドックには含まれていない検査も、自身の生活習慣や家族の既往歴などの気がかりに応じて、オプション等で自由に追加することが可能です。人間ドックは法的な義務のない任意健診の一種で、保険の適用はなく、費用は基本的に全額自己負担です。
脳ドック
脳ドックでは、おもに脳血管疾患(脳血管のつまりや破裂などが原因で起こる脳や神経の疾患の総称)のリスクを調べるための専門ドックです。頭部MRI/MRA検査で脳の状態を撮影し、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といったいわゆる脳卒中の原因となる血管の狭窄や未破裂脳動脈瘤などの異常がないかを確認します。また、脳血管疾患のリスク因子となる動脈硬化の進行程度を確認するために、頸動脈超音波(エコー)検査または頸部MRA検査をあわせて行うのが一般的です。
基本的な人間ドックには脳ドックの検査内容は含まれていないため、脳を調べたい場合は脳ドック単体での受診、あるいは人間ドックにオプション等で脳の検査を追加する方法があります。詳細は「人間ドックと脳ドックをセットで受診する場合の所要時間と費用目安」で紹介します。なお、脳ドックも法的義務のない任意健診であるため、費用は基本的に全額自己負担です。
人間ドックと脳ドックの検査項目と費用目安
人間ドックと脳ドックそれぞれの検査の詳細は下記のようになっています。どちらも任意で受診する自由診療のため、実際の検査内容と費用は医療施設により異なりますが、一例としてご紹介します。
スタンダードな人間ドック
日本人間ドック学会では、下記の検査を人間ドックの必須検査項目として定めています*1。
<検査項目>
●身体測定:身長、体重、肥満度、BMI、腹囲
●血圧測定
●心電図、心拍数、呼吸機能
●眼底、眼圧、視力、聴力
●X線(レントゲン):胸部、上部消化管(食道・胃・十二指腸)
●腹部超音波(エコー):肝臓(脾臓を含む)・胆のう・膵臓・腎臓・腹部大動脈
●血液検査
・肝臓系:総タンパク(TP)、アルブミン、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GT(γ-GTP)、ALP、総ビリルビン
・腎臓系:クレアチニン、 eGFR、尿酸
・脂質系:総コレステロール、中性脂肪(TG/トリグリセリド)、HDLコレステロール、LDLコレステロール、Non-HDLコレステロール
・糖代謝系:血糖(空腹時)、HbA1c
・血球系:赤血球、白血球、血色素、ヘマトクリット、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球血色素量)、MCHC(平均赤血球血色素濃度)、血小板数、血液型※
・感染症系:CRP(C反応性蛋白)、HBs抗原※
●尿検査(一般・沈渣※):蛋白、尿糖、潜血など
●便潜血検査
※は本人の申し出または状況に応じて省略可
<費用目安>
3〜5万円
人間ドックのオプション
日本人間ドック学会では、必須検査を補うオプションとして下記の6つの検査を推奨しています*1。
・上部消化管内視鏡(胃カメラ)
・乳房診察+マンモグラフィ
・乳房診察+乳腺超音波(エコー)
・婦人科診察+子宮頸部細胞診
・PSA検査
・HCV抗体検査
上部消化管検査はX線(レントゲン)検査を基本としますが、医療施設によっては追加料金で内視鏡検査(胃カメラ)への変更が可能です。マンモグラフィと乳腺超音波(エコー)検査に付帯する乳房診察は、医師の判断により省略となることがあります。
PSA検査は男性泌尿器である前立腺がんの腫瘍マーカーです。HCV抗体検査はC型肝炎ウイルスに感染しているかを調べる検査で、これまでに検査を受けたことがない方に推奨されています。
<費用目安>注:スタンダードな人間ドックにオプションとして追加した場合の料金
・上部消化管内視鏡(胃カメラ):3,000〜7,000円(X線から胃カメラに変更した場合)
・乳房診察+マンモグラフィ:5,000円前後
・乳房診察+乳腺超音波(エコー):5,000円前後
・婦人科診察+子宮頸部細胞診:3,000〜7,000円
・PSA検査:2,000〜3,000円
・HCV抗体検査:2,000〜3,000円
上記のほかにも、人間ドックには医療施設によってさまざまなプランやオプションが用意されています。詳しくは下記記事もご参照ください。
スタンダードな脳ドック
脳ドックでは、基本的な検査として脳の血管の異変や脳腫瘍の有無を調べる頭部MRI/MRA検査、脳に血液を送っている頸動脈の超音波(エコー)検査または頸部MRA検査を実施する医療施設が一般的です。
<検査内容>
・頭部MRI/MRA検査
・頸動脈超音波(エコー)または頸部MAR検査
<費用目安>
1.5〜2.5万円
人間ドックにオプションとして脳ドックを追加する場合には、費用が割引になる医療施設もあります。
より専門的な脳ドック
脳ドックの基本的な検査内容に、血液検査や尿検査、心電図検査、簡易認知機能検査などを加えたより専門的な脳ドックのプランもあります。検査によって、高血圧や糖尿病の有無、動脈硬化の進行の程度、不整脈や狭心症、心筋梗塞、認知症のリスクなどを調べることができます。
<検査内容>
・頭部MRI/MRA検査
・頸動脈超音波(エコー)検査
・血液・生化学的検査
・尿検査
・心電図検査
・ABI(血圧脈波)検査
・簡易認知機能検査
・頭部CT検査
など
<費用目安>
2.5〜5万円
人間ドックと脳ドック、どちらも受けたほうがいい人の特徴
50歳以上と、脳血管疾患のリスク因子がある方は人間ドック+脳ドックの検討を
人間ドックも脳ドックも自由診療のため、基本的に成人であれば誰でも受けることができます。予防医療の観点から言えば、人間ドックはライフスタイルの変化が訪れやすい30代ごろから定期的に受けることがおすすめです。脳ドックに関しては、日本脳ドック学会では脳血管疾患リスクが高まる中高年と、肥満や高血圧、糖尿病、喫煙習慣といった動脈硬化のリスクが高い方、血縁者に脳卒中の既往歴がある方などに受診を推奨しています*2。さまざまな病気のリスクが高まる50歳以上と、下記の特徴に当てはまる方は、人間ドックに加えて脳ドックも定期的に受けるのが望ましいと言えるでしょう。
<脳ドックを検討してほしい方の特徴>
・50歳以上
・血圧が高め
・脂質異常症や肥満を指摘されたことがある
・血糖値が常に高い
・外食、加工食品が食事の中心であり、塩分摂取量が多い
・座りっぱなしの時間が長く、ほとんど運動しない
・喫煙している
・お酒の量が多い
・がんや脳卒中、認知症を患った血縁者がいる
・頭部を使うスポーツをしている
・慢性的な頭痛がある
・ストレスが多い
など
人間ドック・脳ドックを受ける前に知っておきたい注意点
人間ドックや脳ドックの定期的な受診はさまざまな病気の早期発見につながる一方で、下記のような注意点もあります。
心的負担がかかる
検査の結果、再検査や要精密検査と診断されると、結果的に問題がなかったとしても再検査などの結果が出るまでは気持ちが落ち着かないものです。また、治療の必要がない病変が見つかるケースもあります*3。たとえば脳ドックでは未破裂脳動脈瘤(まだ破裂していない動脈瘤)が発見されることがあります。小さなものであれば破裂する可能性は低いため多くは経過観察となりますが、動脈瘤があると知ってしまうことで不安に陥りかねません。このように、人間ドックや脳ドックの結果によっては心的負担がかかることを理解しておきましょう。
偶発症のリスクがゼロではない
人間ドックや脳ドックに限らず、検査や医療行為を受ける際には偶発症(医療行為に伴って予期せず起こる合併症)のリスクがあります。重篤な事態となるケースはまれではありますが、内視鏡検査では出血や穿孔(せんこう/胃や腸の壁に穴があくこと)、鎮静剤を使用した場合には呼吸抑制や血圧低下などが起こることがあります*3。なお、参考までに胃がん検診での偶発症発生状況をみると、内視鏡による偶発症件数(5歳区分)は275,228件中588件、このうち鼻出血は393件、穿孔症例1件、鎮静剤による呼吸抑制は17件、要入院は2件、死亡は0件との報告があります*4。
費用が高額になりやすい
人間ドックも脳ドックも自由診療のため、受けたい検査をすべて受けようとすると費用が高額になることがあります。そのため、年齢、性別、生活習慣、家族歴などから、必要度が高いと思われる検査をある程度しぼりこんで受けるとよいでしょう。なお、人間ドックや脳ドックの受診にあたり、自治体や加入中の健康保険組合などから助成金が出ることもあるので確認してみましょう。
人間ドックと脳ドックをセットで受診する場合の所要時間と費用目安
人間ドックと脳ドックを両方受けたい方は、予約や受診が一度ですむセットプランなどを検討するとよいでしょう。近年では、スタンダードな人間ドックに脳ドック同様の検査内容が加わったプランや、男女別におすすめのプラン+脳の検査などさまざまなバリエーションのプランがあります。参考までに、人間ドック+脳ドックのプラン例をいくつかご紹介します。なお、実際の検査内容や所要時間、費用等は医療施設によって異なります。プランの名称などにとらわれず、自身が調べたいことや受けたい検査を明確にし、希望の検査がプランに含まれているかを確認しながら選びましょう。
【スタンダードな人間ドック+脳ドックプラン】
<検査内容>
・日本人間ドック学会が推奨する必須検査
・頭部MRI/MRA
・頸部MRA
<所要時間>
2〜4時間
<費用目安>
約4~7万円
【人間ドック(胃内視鏡)+脳ドックプラン】
<検査内容>
・日本人間ドック学会が推奨する必須検査・上部消化管X線(レントゲン)検査を上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)に変更
・頭部MRI/MRA
・頸部MRA
<所要時間>
2〜4時間
<費用目安>
約5~7万円
【メンズドック+脳ドックプラン】
<検査内容>
・日本人間ドック学会が推奨する必須検査
・頭部MRI/MRA
・肺部検査(胸部CT・喀痰細胞診検査)
・前立腺がん検査(PSA)を含む腫瘍マーカー
<所要時間>
2〜4時間
<費用目安>
約6~8万円
【レディースドック+脳ドックプラン】
<検査内容>
・日本人間ドック学会が推奨する必須検査
・頭部MRI/MRA
・子宮がん検査(子宮頸部細胞診、腹部超音波(エコー))
・乳がん検査(マンモグラフィまたは乳腺超音波(エコー))
<所要時間>
3〜6時間
<費用目安>
約6~8万円
マーソでは人間ドックと脳ドックが同時に受けられる医療施設の検索から予約までスムーズにできます。セットで受診するにあたって医療施設選びに迷っている方には、よく閲覧されている医療施設をまとめたページがあるのでご参照ください。
https://www.mrso.jp/features/pack/
参考資料
*1.日本人間ドック学会「2023年度 一日ドック基本検査項目表(健保連人間ドック健診項目表)」
*2.日本脳ドック学会 脳ドックとは
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん検診について もっと詳しく
*4.日本消化器がん検診学会、胃がん検診精度管理委員会「2019年度胃がん検診偶発症アンケート調査報告」日本消化器がん検診学会雑誌 Vol.61(1) , Jan. 2023