女性特有の疾患のひとつである子宮がんには「子宮頸がん」と「子宮体がん」がありますが、「子宮がん検診」で一般的に行われるのは子宮頸がんの検査です。子宮がんの検査を受ける目的や検査の種類、検査を受けるときの服装について解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・子宮がん検診の内容を知りたい女性
・子宮がん検診時の服装について知りたい女性
★この記事のポイント
・子宮がんには「子宮頸がん」と「子宮体がん」の2種類がある
・子宮がん検診には自治体や企業の検診と自由診療の検診がある
・子宮頸がん検診の受診が推奨される方は20歳以上の女性
・子宮体がん検診の受診が推奨される方は40歳以上の女性
・内診時はボトムをすべて脱ぐことになるため、着脱のしやすい服装がおすすめ。ワンピースは避けよう
目次
子宮がんとは
子宮がんには2種類ある
子宮がんは、女性の骨盤内にある臓器にできるがんで、「子宮頸がん」と「子宮体がん」があります。
「子宮頸がん」は、子宮頸部(子宮の下部にある筒状の臓器。分娩時に産道の一部になる場所)にできるがん、「子宮体がん(子宮内膜がん)」は子宮体部(子宮の上部にある袋状の臓器。妊娠時に胎児を育てる場所)にできるがんです。
厚生労働省による2017年の「全国がん登録 罹患数・率 報告」によると、日本で子宮頸がんと診断された人は年間で約11,000人、子宮体がんと診断された人は約16,000人います。また、罹患者の年齢層は、子宮頸がんは20代後半から増え始めて40代にピークを迎えるのに対し、子宮体がんは40代から増え始め、50~60代でピークを迎えます。
子宮頸がん
子宮頸がんの多くは、ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で発症していることが明らかになっています。ヒトパピローマウイルスは性交渉によって感染するウイルスで、性交渉の経験がある女性は、一生に一度はHPVに感染する可能性があると言われています。また、日本小児学会によると、HPVは母子感染の可能性もあることがわかっています。母子感染とは、妊娠・出産時に胎盤や産道などを通してウイルスが母体から赤ちゃんへ移動し、赤ちゃんが感染することです。そのため、HPVは性交渉を経なくても感染している場合があります。
HPV感染者の80~90%は免疫の働きによってウイルスが自然に排除されますが、残りの10~20%の人は自然排除されず、感染している状態が長期間続きます。その場合、「異形成(がんになる前の段階)」の状態が2〜3年続いたのち、子宮頸がんへ進行します。異形成の時期は出血や痛みといった自覚症状はなく、子宮頸がんに進行してはじめて出血やおりものの質や色の変化、下腹部や腰の痛みなどの症状があらわれます。
子宮頸がんは異形成や初期の段階で発見できれば治癒する確率が高く、子宮を温存した治療も可能ですが、進行した状態で見つかった場合、再発の恐れがあるだけでなく、子宮をすべて摘出しなければならないこともあります。したがって、定期的に検診を受けて早期発見に努めることが重要です。
詳細はこちら
●子宮頸がんの検診内容と費用-子宮全摘もありえる、20~30歳代で増加するがん
子宮体がん(子宮内膜がん)
子宮体がんには、女性ホルモンの一種であるエストロゲン(卵胞ホルモン)の刺激が深く関わっているタイプと、そうではないタイプに分けられます。
日本産科婦人科学会の「2018年患者年報」によれば、エストロゲンの刺激が関わるタイプ(類内膜腺癌)は子宮体がん全体の約8割を占めます。原因としては出産経験がないこと、閉経が遅いこと、肥満、月経不順(無排卵性月経周期)、エストロゲン製剤の単独使用(更年期障害治療に用いられることがある)などが挙げられます。
一方、エストロゲンとは関わりなく発症するタイプの子宮体がんの原因は、高血圧や糖尿病のほか、乳がん・大腸がんの家族歴などが挙げられます。さらに、高齢者に多いケースとして、がん関連遺伝子の異常によって発症する例もあります。その他、本人の乳がん・卵巣がんの既往歴もリスク要因とされています。
子宮体がんにもっとも多い自覚症状が不正出血です。日本婦人科腫瘍学会によれば、罹患者の90%に不正出血がみられるとされており、発症に気づきやすいがんと言えます。更年期とくに閉経後に出血があったり、不正出血が続いたりする場合はすみやかに診察を受けましょう。また、そのほかの症状として、排尿痛や排尿困難、性行為痛、下腹部痛、腹部膨満感などがあらわれることもあります。
子宮頸がん検診は厚生労働省が指針を示しているがん検診に含まれますが、子宮体がんは含まれていません。そのため、ほとんどの場合、子宮体がん検診は自発的に受診することになり、費用は自己負担になります(一部自治体では子宮がん検診とセットで受診可)。前述のとおり発症に気づきやすいがんではありますが、リスク要因のある方は定期的な子宮体がん検診の受診を検討するとよいでしょう。
子宮がん検診の種類
自治体による住民検診
子宮がん検診は厚生労働省が推進している5大がん検診(胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの検診)のひとつであるため、住民健診として自治体主導で実施されています。これら5大検診は、加入している健康保険の種類に関係なく受診でき、受診費の一部が公費で負担されます。ただし、種類によって対象年齢や受診頻度は異なります。
住民検診の子宮がん検診は、「子宮頸がん検診」のことを指します。子宮頸がんは20代でも発症することや、子宮頸がんになる前の段階(異形成)のときは自覚症状がないことから、早期発見・治療ができるよう、厚生労働省の指針では20歳以上を対象に、2年に1回の受診を推奨しています。なお、多くの自治体では20歳(当該年度4月1日時点)の年に無料で検診を受診でき、その後の受診費用は1500円程度が目安です。
検診の申し込み方法や実施期間などは、各自治体によって異なります。まずは、お住まいの自治体のWebサイトを確認してみてください。
企業の健康診断
企業に所属している場合、法定福利厚生(法律で定められている福利厚生)のひとつとして、健康診断を受診できます。子宮頸がん検診がすでに健康診断に組み込まれていることもあれば、オプション検査で選択しないと受診できないこともあります。オプション検査として子宮頸がん検診が選択できる場合は、早期発見のためにも追加することをおすすめします。
なお、企業によっては子宮頸がん検診と子宮体がん検診をセットにしたオプション検査を用意していることもあります。検査内容や費用など、詳しいことは職場の担当者に確認しておくとよいでしょう。
自由診療
各医療施設が独自に設定している検診や人間ドックの「専門ドック(特定の部位や疾患を重点的に検査することを目的とする人間ドック)」として、「子宮頸がん検診」と「子宮体がん検診」を受けることもできます。人間ドックの一環として受診する場合、費用は保険適用外のため自己負担になります。
人間ドックでは、さまざまな検診プランが用意されています。以下にその一例を紹介します。
・子宮頸がん検診:子宮頸がんのみの検査プラン(おもに子宮頸部細胞診)
・子宮がん検診:子宮頸がんと子宮体がんの検査プラン(おもに子宮頸部細胞診および子宮体部細胞診)
・婦人科検診、レディースドック:子宮がん検診と乳がん検診がセットになっているプラン
子宮頸がんや子宮体がんの検査では、経腟超音波検査(経腟エコー検査)がセットになっていることがあります。経腟超音波検査(経腟エコー検査)とは、プローブ(探触子)と呼ばれる超音波を発する棒状の器具を膣に挿入し、超音波で子宮や卵巣の状態をモニタに映して大きさや状態を確認する検査です。子宮頸がんや子宮体がん以外に、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣がんも発見できます。
人間ドック、およびレディースドックの費用は、受けたい検査の数によって変わります。詳しくは、人間ドックを受けたい医療施設に問い合わせてみてください。
子宮頸がんの検査の種類
子宮頸部細胞診
【検査内容】
細胞診とは、子宮頸部の細胞をブラシやヘラでこすって採取する検査です。自治体や企業で受けられる子宮頸がん検診はこの検査に該当します。採取した細胞を色素で染め、顕微鏡で異常な細胞がないかを調べることによって、子宮頸がんのがん細胞だけでなく、異形成の細胞も発見できます。
【検査所要時間】
5分程度
【費用目安】
5000円前後
※自由診療の場合。ただし医療施設によって異なる
HPV検査
子宮頸部の細胞を採取して、HPVに感染しているかどうかを調べる検査です。細胞診と併用することで、子宮頸がん検診の精度を高めることができます。
子宮頸がんの発症リスクがある15種類のHPVに感染しているかどうかを調べることができます。また、医療施設によっては、とくに発症リスクの高い2種類のHPV(16型、18型)に感染しているかどうかまで調べられる検査を実施しているところもあります。この検査は、細胞診の際に採取した細胞で検査することもできます。
【検査所要時間】
5分程度
【費用目安】
子宮頸部細胞診とセットで1万円前後
コルポスコピー検査(膣拡大鏡検査)
【検査内容】
子宮頸部細胞診で異常が見つかった場合に行う検査です。子宮頸部に酢酸を塗布し、それによる変化を「コルポスコピー」という拡大鏡を使って観察します。
検査では、まず病変が疑われる部位をコルポ診で確認し、場合によっては、耳かき状の器具(キューレット)で組織診(顕微鏡で組織を調べてがんかどうかを確認する検査)で使うサンプルを採取することがあります。
【検査所要時間】
コルポスコピー検査のみの場合、10〜15分程度
子宮体がんの検査の種類
子宮体部細胞診
膣から子宮に細い棒状の器具を挿入して子宮内膜の細胞を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べる検査です。検査後数日間はおりものが茶色っぽくなったり、出血したりすることもあります。
【検査所要時間】
5分程度
【費用目安】
5000円前後
経腟エコー検査(経腟超音波検査)
プローブ(探触子)と呼ばれる細長い超音波の器具を膣内に挿入し、子宮体部や卵巣の様子を映し出す検査です。子宮がんのほか、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣がんを見つけることができます。
【検査所要時間】
10分程度
【費用目安】
子宮体部細胞診とセットで1万円前後(子宮頸部細胞診とセットで受診する場合も同様)
子宮がん検診はどんな服装で受診するとよい?
子宮がん検診の検査方法
子宮がん検診で行う検査は、膣から検査器具を挿入することが多いため、内診台で開脚する姿勢で行われます。内診台のそばに、荷物や脱いだものを置くカゴが用意されているので、ストッキングや下着、下半身の服などを脱いで入れます。
内診台に座り、足を乗せる台にそれぞれ左右の足の裏を合わせます。おなかのあたりにカーテンが引かれ、医師との間は仕切られることもあります。医師や看護師の操作で内診台が持ち上がり、背もたれが倒れると同時に足を乗せた台も開きます。自動的に仰向けの開脚姿勢になり、検査が行われます。
子宮がん検診におすすめの服装
子宮頸がん検診や子宮体がん検診など単体の検査の場合は検査着がないことも多くあります。検査前に下着などを脱ぐ必要があること、検査後すぐに医師からの説明があることもあることから、検査当日は着脱しやすい服で行くのがおすすめです。
内診前に、パンツタイプはもちろん、スカートであってもボトムはすべて脱ぐよう指示されます。そのため、上半身も下着だけになってしまう可能性のあるワンピースはおすすめできません。多くの医療施設ではバスタオルや使い捨てタイプのひざ掛けを用意しています。内診が始まるまで下半身をかくしておけるので、羞恥心がぬぐえない方は利用するとよいでしょう。一部の医療施設では、ストッキングや下着のみを脱いでスカート(タイトスカートを除く)のまま内診台に座ることを容認される場合もありますが、汚れる可能性があるためいずれにしても内診時にはスカートを背中までたくし上げる必要があります。
子宮がん検診を受けること自体に恥ずかしさを感じる方がいるかもしれませんが、子宮がん検診は子宮頸がんや子宮体がんの早期発見をするうえで欠かせない検査です。ただ、どうしても気になってしまう場合は、女性医師が在籍する医療施設での受診を選択してみてはいかがでしょうか。
参考資料
国立がん研究センター がん情報サービス 子宮頸がん
国立がん研究センター がん情報サービス 子宮体がん(子宮内膜がん)
日本産科婦人科学会 子宮体がん
厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告 2017」
日本小児科学会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」2020年5月改訂版
日本婦人科腫瘍学会 子宮体がん
日本産科婦人科学会 婦人科腫瘍委員会「2018年患者年報」(日本産科婦人科学会雑誌第72巻第7号)
ESMO(欧州臨床腫瘍学会)「ESMO 患者さんの手引き 子宮内膜がん」日本語版(日本癌治療学会 2016年)
日本医師会「知っておきたいがん検診」子宮頸がん検診Q&A
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