人間ドックは、自覚のない病気の早期発見および早期治療や、将来的な病気のリスクの把握が目的です。定期的に受診し検査データを積み重ねることで、過去と現在の比較から身体の変化に気づくこともできます。ここでは、人間ドックを受ける意味や健康診断との違いや人間ドックでのがんの発見率、年代・男女別に受けたい検査について紹介します。
★こんな人に読んでほしい!
・人間ドックを受ける意味を知りたい方
・人間ドックは本当に必要か迷っている方
・健康診断と人間ドックの違いを知りたい方
★この記事のポイント
・人間ドックは「船のドック入り」が由来
・人間ドックと健康診断の大きな違いは「検査項目数」と「費用」
・気がかりのある部位を詳しく調べるには人間ドックが有用
・人間ドックの検査は、年齢と性別、家族の既往歴を加味して選ぼう
・大切な人に人間ドックをプレゼントする選択肢もある
目次
「人間ドック」とは。「ドック」の由来も解説
そもそも人間ドックとは?
人間ドックとは、身体の状態を調べる健康診断の一種です*1。健康診断には法律などで定められた「法定検診」と、個人の意思によって受ける「任意健診」があり、人間ドックは任意健診にあたります。
どちらも病気の早期発見・早期治療につなげることが目的ですが、会社や自治体などが実施する健康診断では一般的な病気やその兆候をおおまかに調べる一方、人間ドックはより多くの部位(臓器)を詳しく検査します*2。そのため、健康診断では見つけにくい病気やその兆候を発見する可能性が高くなり、また定期的に身体の状態を細やかにチェックすることで将来的な発症リスクの把握にも役立ちます。
人間ドックの「ドック」とは。由来は「船のドック入り」
人間ドックの「ドック」は英語の「dock(船を建造・修理するための施設)」にあたります。ドッグ(dog/犬)ではありません。
「人間ドック」の呼称の起源については諸説ありますが、戦前の1937年、代議士が自身の検査入院を航海前後に船の点検や整備を行う「船のドック入り」になぞらえたこと、医療施設の受診を一部では「ドック入り」と呼んでいたことなどに由来するとされています*3。
病院による組織的な人間ドックが始まったのは、太平洋戦争を経た1954年の7月です。当時の人間ドックは1週間の入院を要するものでしたが、1959年、1泊2日に短縮した人間ドックの運用が始まると、短い入院で効率よく検査を受けられるようになったことも後押しとなり全国的に普及し、今日に至ります*3。
人間ドックと健康診断の違い、3つのポイント
人間ドックと健康診断は、どちらも健康状態をチェックし、病気の早期発見・早期治療につなげることが目的です。違いとして挙げられるのが、大きく「法的義務の有無」「検査項目数」「費用」です。
【法的義務の有無】
会社の健康診断*4は、労働安全衛生法で会社による実施と従業員の受診が義務づけられています。一方、人間ドックは任意健診のため、受けるも受けないも個人の自由です。
【検査項目数】
人間ドックと健康診断では検査項目の数が異なります。以下に会社の健康診断と自治体などによる特定健診*5、人間ドックの検査項目数をまとめました。なお、特定健診とは自治体などが実施するメタボリックシンドロームに着目した健康診断で、40~75歳未満の方(おもに会社の健康診断を受ける機会がない方)を対象としています*5。
- 会社の健康診断(定期健康診断):11種類20項目程度(医師の判断によって省略可の項目あり)
- 特定健診:6種類14項目程度(医師が必要とした場合に実施される項目4種類7項目)
- 人間ドック:8区分(種類)50項目程度(日本人間ドック学会が定める必須項目*6の場合)
【費用】
費用の違いと目安は下記の通りです。
- 会社の健康診断:自己負担なし(オプション検査などを除く)
- 特定健診:~数千円程度。自治体などによっては無料
- 人間ドック:1万~20万円程度。検査内容、医療施設などによって異なる
会社の健康診断の費用は基本的に会社が支払うため、受診者の費用負担はありません。特定健診は自治体などによって異なりますが、500~1000円程度もしくは無料であるケースがほとんどです。
人間ドックは基本的に全額自己負担です。また、病気の治療ではないため保険が適用されません。保険組合や自治体によっては、人間ドックの受診費用の一部を助成する制度などを設けている場合があります。
マーソでは、人間ドック費用助成(補助)の実施の有無を自治体ごとに掲載しています(都道府県、都道府県所在地および主要都市)。下記ページから、公開中の自治体別記事にリンクしていますので、ご活用ください。
このほか、日本人間ドック学会が認定する施設を受診した場合、医師による受診当日の結果説明と専門スタッフによる保健指導などのフォローがある点も、健康診断との違いとして挙げられます*2。
人間ドックは必要? 受ける意味と検査の適齢期
人間ドックを受ける意味とは
人間ドックを受ける意味として、次の3つの理由が挙げられます。
・検査項目数が多いため、病気の兆候などをキャッチしやすい
人間ドックは基本検査項目だけでも50項目にのぼり、オプションを含めるとその数はさらに増えます*6。画像で身体のなかを確認する検査を含むことも多いため、一般的な健康診断では見つかりにくい病気や、病気の兆候を発見できる可能性が高まります。
・豊富なオプションで気になる部位を詳しく調べられる
人間ドックは、オプション検査が充実しています。たとえば脳のオプション検査項目だけでもMRI/MRA、頸動脈超音波(頸動脈エコー)検査、認知機能検査などがあり、気がかりに応じて適した検査を受けられます。また、大腸に不安がある方は基本的な人間ドックのコースに大腸内視鏡(大腸カメラ)検査を追加するといったように、とくに気になる部位(脳、心臓、肺、胃、大腸など)にスポットを当てた詳細な検査を組み合わせることも可能です。
・定期的な検査で経年比較が可能
人間ドックは年に1回、同時期の受診が推奨されています。その理由は、同じような条件下で定期的に受診することで、経年比較がしやすくなるためです。たとえば、ある検査項目の数値が基準範囲内(異常なしとされる数値)だったとしても、例年と比べて大幅に高ければ身体になんらかの変化が起きている可能性が考えられ、些細なサインをキャッチして観察を続けることで病気の早期発見・早期治療につなげます。
参考までに、人間ドックを受けた方のがんの発見数を以下の表にまとめました。太字は、厚生労働省が指針を示しているがん検診の種類です。
人間ドック受診者数における発見がん数 (受診期間:2016年4月~2017年3月末が対象)
検査種別 | 検査実施者数 | 疑い含む発見がん数 (カッコ内は検査実施者数に対する割合) | 確定発見 (カッコ内は検査実施者数に対する割合) | 「疑い含む発見がん数」 に対する「確定発見」の割合 |
---|---|---|---|---|
肺がん | 3,384,771人 | 14,369人(0.42%) | 941人(0.03%) | 6.55% |
大腸がん | 3,162,321人 | 43,433人(1.37%) | 2,181人(0.07%) | 5.02% |
胃がん | 2,947,015人 | 20,258人(0.69%) | 2,411人(0.08%) | 11.90% |
肝臓がん | 2,802,072人 | 10,611人(0.38%) | 218人(0.01%) | 2.05% |
腎臓がん | 2,774,871人 | 7,073人(0.25%) | 414人(0.01%) | 5.85% |
胆のうがん | 2,769,527人 | 6,884人(0.25%) | 87人(0.003%) | 1.26% |
膵臓がん | 2,753,482人 | 7,545人(0.27%) | 244人(0.01%) | 3.23% |
食道がん | 2,563,879人 | 7,411人(0.29%) | 495人(0.02%) | 6.68% |
血液がん | 1,803,841人 | 5,466人(0.30%) | 127人(0.01%) | 2.32% |
乳がん | 1,082,078人 | 14,760人(1.36%) | 2,493人(0.23%) | 16.89% |
子宮頸がん | 919,769人 | 4,966人(0.54%) | 394人(0.04%) | 7.93% |
前立腺がん | 834,796人 | 10,478人(1.26%) | 1,272人(0.15%) | 12.14% |
卵巣がん | 363,559人 | 1,810人(0.50%) | 69人(0.02%) | 3.81% |
子宮体がん | 160,112人 | 662人(0.41%) | 56人(0.03%) | 8.46% |
その他 | 840,505人 | 6,117人(0.73%) | 516人(0.06%) | 8.44% |
※日本人間ドック学会「平成30年度(2018年度)実態調査」*7 をもとに編集部で作成
※小数点第3位を四捨五入(胆のうがんの「検査実施者数に対する割合」のみ小数点第4位を四捨五入)
※太字は厚生労働省が指針で定めるがん検診の種類
肺がんの場合、検査実施者のうちがんが確定された人の割合は0.03%ですが、がんが疑われた人のうちがんが確定した人の割合は6.55%です。また、胃がん・乳がん・前立腺がんは、がんが疑われた人のうち1割以上にがんが発見されていることがわかります。
人間ドックはいつから? 男女別おすすめの検査と適齢期を解説
人間ドックの受診は、ライフステージの変化が訪れやすい30代からがおすすめです。経年による些細な変化を見逃さないためには、年1回の定期的な受診が望ましいでしょう。
病気の発症リスクは年齢や性別によって異なります。参考として、年代および性別ごとにおすすめの検査を以下にまとめました。
男性におすすめの検査 | 女性におすすめの検査 | |
---|---|---|
30代 | ・大腸がん検査(便潜血検査、大腸内視鏡(大腸カメラ)検査) ・胃がん検査 (胃X線(レントゲン)検査、胃内視鏡(胃カメラ)検査、胃がんリスク検査など) ・動脈硬化のリスクを調べる検査(血液検査) | ・子宮頸がん検査(子宮頸部細胞診) ・乳がん検査(乳腺超音波(エコー)検査) |
40代 | 30代におすすめの検査+下記 ・肺がん検査(胸部X線(レントゲン)検査) ・前立腺がん検査(腫瘍マーカーPSA検査) | 30代におすすめの検査+下記 ・乳がん検査(マンモグラフィ検査) ・子宮体がん検査(子宮体部細胞診) ・卵巣がんや子宮周辺の検査(経膣超音波(エコー)検査など) ・胃がん検査(胃X線(レントゲン)検査、胃内視鏡(胃カメラ)検査、胃がんリスク検査など) ・肺がん検査(胸部X線(レントゲン)検査) ・大腸がん検査 (便潜血検査、大腸内視鏡(大腸カメラ)検査) |
50代 | 40代におすすめの検査+下記 ・心臓の検査(冠動脈CT検査、心臓MRI検査など) ・脳の検査(頭部MRI検査、頭部MRA検査など) | 40代におすすめの検査+下記 ・膵臓がん検査(腹部超音波(エコー)検査、造影CT検査) ・骨密度検査 |
60代 | 50代におすすめの検査+下記 ・全身のがん検査(PET検査) | 50代におすすめの検査+下記 ・全身のがん検査(PET検査) ・動脈硬化のリスクを調べる検査(血液検査) ・心臓の検査(冠動脈CT検査、心臓MRI検査など) ・脳の検査(頭部MRI検査、頭部MRA検査など) |
人間ドックを検討している方に。初心者向け人間ドックの選び方
人間ドックの種類・コース選びのポイント
人間ドックを選ぶ際に意識したいポイントが「年代、性別ごとの病気のリスク」と「家族・親族の既往歴」です。前者については先述の項目「人間ドックはいつから? 男女別おすすめの検査と適齢期を解説 」をご参照ください。
家族・親族の既往歴(家族歴)がポイントとなる理由は、遺伝的要素が発症リスクに関与している病気やがん(とくに食道、胃、肝臓、膵臓、肺、子宮、膀胱のがん)*8があるためです。両親やきょうだい、祖父母、できれば血縁関係のあるおじ・おばまでの既往歴を把握しておけるとよいでしょう。医療施設によっては、予診票や問診などで家族歴の記入欄をもうけています。これら2点と自身の体調や生活習慣を加味し、調べたい部位を明確にしておきましょう。
人間ドックのコースは医療施設によってさまざまです。たとえば「スタンダードプラン」など名称が同じであっても、検査内容や費用は医療施設によって異なります。コースの内容に希望する検査項目が含まれているかを必ず確認しましょう。調べたい検査がオプションに該当する場合、別料金が発生します。希望する検査内容と予算を確認しながら、納得できる医療施設を選びましょう。マーソでは、検査項目や予算、エリアなどさまざまな条件から人間ドックを探せます。
施設選びのポイント
施設選びの際には、専門医がいるかどうかに着目しましょう。とくに身体へ小型カメラを挿入する内視鏡検査や、レントゲン、MRIなど画像をみて異常の有無を調べる検査は、医師の技術や知識、経験値によるところが大きい面があります。各分野に精通した専門医が所属しているかどうかが、医療施設選びの目安となるでしょう。
また「機能評価認定施設」であることも、施設選びの指針のひとつです。機能評価認定施設とは、日本人間ドック学会が設ける104の評価基準(2016年6月現在)を満たした医療施設です。評価・認定審査は5年ごとに行われているため、品質を保ち続ける努力をしている施設を探すのに役立ちます。
まだ人間ドックは必要ない方は、大切な人に「予防医療」のプレゼントを
人間ドックは20歳以上であれば誰でも受けることが可能です。若く健康不安がないなどから自身にはまだ必要性を感じないけれど、両親やパートナーには健康でいてほしいと考えている方は、大切な方に人間ドックを贈る選択肢もあります。
人間ドックは予防医療の一種です。どんな病気でも早いうちに発見し対処することが、心身の負担、経済的負担の軽減にもつながります。大切な方が永く健やかに過ごせるよう、日本全国の医療施設にて使用可能な「マーソギフト券」をプレゼントしてみてはいかがでしょうか。
参考資料
*1.厚生労働省 e-ヘルスネット 健診
*2.日本人間ドック健診協会 e人間ドック 健診と人間ドックの違い
*3.日本医史学会 日本医史学雑誌 第31巻3号「総合健診淵源史(下)」(1985年)
*4.厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
*5.政府広報オンライン がん検診&特定健診・特定保健指導の受診を!
*6.日本人間ドック学会「2022年度 一日ドック基本検査項目表」
*7.日本人間ドック学会「平成29年度(2017年度)実態調査、平成30年度(2018年度)実態調査」
*8.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 多目的コホート研究 がん家族歴と、その後のがん罹患リスクとの関連について