がん検診

食道がんの初期症状とは? げっぷやのどの痛みは前兆として現れる?

食道がん がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

男性ではそう珍しくない食道がんは、早期に転移しやすく、命に関わる可能性のある重大な病気です。本記事では、食道がんの初期症状や前兆のほか、逆流性食道炎の症状との違い、効果的な予防法、胃内視鏡(胃カメラ)検査を受診する重要性について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・お酒をよく飲む方
・たばこを吸っている方
・最近げっぷが多い、あるいはのどに違和感を覚えている方

★この記事のポイント
・食道がんは早期に転移しやすく予後不良なため、早期発見が非常に重要
・初期症状・前兆で食道がんに気づいても、すでに進行していることが多い
・食道がんのリスク因子は喫煙と飲酒。禁煙・節酒に努めよう
・食道がんの早期発見のためには、定期的な胃内視鏡(胃カメラ)検査の受診が推奨される

食道がんを早期発見する意義

食道がんは男性で多く、高齢になるほど罹患率は高い

食道がんとは、食べ物や飲み物を胃まで運ぶ食道に発生するがんです。食道は長さ約25cm、太さは2~3cmのくだ状の器官で、大部分が胸のあたりに位置し、首と腹部あたりにも一部あります*1日本人の食道がんは、食道の中央付近に発生するケースが多いことが知られています*2

日本で食道がんと診断される方は年間2.5万人ほどで、その約8割が男性です。日本の全がん種の中で、食道がんの罹患数は男性で7番目に位置しており、そう珍しいがんではありません。年齢別にみると、50歳代から増加し始め、70歳~80歳代でピークを迎えることから、高齢男性に多いがんと言えます*3

早期に転移しやすく予後不良な食道がんは、早期発見が大切

食道がんは、ほかの消化器がん(胃がん・大腸がん等)と比べ、早期に転移しやすいとされています。食道のまわりには肺や気管、大動脈、心臓などの重要な臓器があり、がんが食道の壁の外に広がるとこれらの臓器にも入り込みやすいこと、またリンパ管や血液が多くあるため、がん細胞が早期から転移しやすいのがおもな理由です*4

実際に、食道がんの5年生存率(2015年/ネット・サバイバル※)は、ステージ4で9.7%と厳しい予後が示されています。一方、ステージ1では79.1%と予後が良好であることが報告されており、早期に発見して適切な治療を行うことが重要と言えます*5。また、病変が食道の表面にとどまっている段階で発見できれば、身体への負担の少ない内視鏡による切除のみで治療ができる可能性があります*6

※ネット・サバイバル:5年後に生存している割合のうち、「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。

見逃してはいけない食道がんの初期症状・前兆とは?

食道がんの初期症状・前兆をチェック

食道がんは、初期段階ではほとんど症状が現れません。しかし、進行すると、以下のような症状や前兆が現れます。

【食道がんのおもな症状・前兆*7,*8
・飲食時の胸の違和感
 - 飲食物を飲み込んだときに、胸の奥がチクチク痛む
 - 飲食物を飲み込んだときに、つかえ感がある
 - 熱いものを飲み込んだときに、しみる感じがする
・体重減少
・胸や背中の痛み
・咳・痰
・嗄声(させい:声のかすれ)
など

これらの症状は、食道のがんが成長して内腔(食道の内側)が狭くなり、飲食物が通過しづらくなるために生じます。内腔がさらに狭くなると、固形物は飲み込めず、飲み物しか飲めないような状態になります。

また、がんが食道の壁を超えて、肺や背骨、大動脈などに浸潤すると、胸の奥や背中に痛みを感じることがあります。さらに、大きくなった食道のがんが、まわりの気管や気管支を圧迫したり、それらに浸潤したりすると、食事中に咳や痰が発生しやすくなります。また、声帯をコントロールする神経に影響が及ぶと、声がかすれたり、飲み物を飲み込むときにむせたりしやすくなります*7,*8

このほかに食道がんでは、消化の働きの低下し、それに関連してげっぷの回数が増えることがあります*9。食道がんの進行が原因となることもありますが、げっぷは一般的な消化器症状でもあるため、必ずしもがんに特有のものではありません。

食道がんは、食表面に発生したがんが粘膜より深い層(固有筋層)にまで浸潤すると、症状をきっかけに発見されるケースが増えると言われています。具体的な症状としては、狭窄感が39%、嚥下困難が22%と言われており*10、これらの症状にはとくに注意が必要です。気になる症状があるときは、内科や消化器内科などを受診しましょう。

食道がんと逆流性食道炎の症状の見分け方は?

逆流性食道炎とは、胃酸が食道に逆流することで、食道粘膜に炎症が生じる疾患です。食道の炎症がなく、胸やけなどの症状がある場合は「胃食道逆流症(GERD)」という名称で呼ばれることもあります。食生活の欧米化などにより、成人の10〜20%が罹患していると推測されています*11

逆流性食道炎の代表的な症状は、胸やけやつかえ感、呑酸(どんさん:酸っぱい液体が上がってくる感じ)などです*11。食道がんの症状と似ているため、症状から病気を判断するのは難しく、見分けるためには胃内視鏡(胃カメラ)検査で直接食道の状態を観察する必要があります。実際に、医療施設で逆流性食道炎が疑われたものの、その後行った胃カメラ検査で食道がんが見つかったケースがあります。

また、逆流性食道炎から食道がんが発生するリスクはありますが、そのリスクは「バレット食道」と呼ばれる特殊な状態に関連することが多いです。 バレット食道は、食道の粘膜が長期間の胃酸逆流により変化し、胃の粘膜に似た組織に置き換わる状態で、がんに進行するリスクが高いとされています*12。気になる症状があれば、消化器内科を定期的に受診し、胃カメラ検査などで食道の状態を確認してもらうことが重要です。

食道がんを症状がないうちに早期発見するには、胃カメラ検査の受診が必要

症状をきっかけに食道がんが発見されたケースでは、すでに進行がんであることが多く、実際に食道がんが食道の粘膜下層まで広がっても、約60%の方が無症状であったとの報告があります。一方、食道がんを早期発見できた方の約90%は、胃内視鏡(胃カメラ)検査の受診によるものです*10。このことからも、食道がんの早期発見のためには、症状の有無に関わらず、定期的に胃内視鏡(胃カメラ)検査を受けることが大切と言えます。

食道がんになりやすい人

下記に当てはまる方は、食道がんのリスクが高いとされています*13,*14

  • 喫煙習慣がある
  • 飲酒習慣がある
  • アルコールに弱い体質(お酒を飲むとすぐに顔が赤くなるなど)
  • からいものや熱いものを頻繁に摂取する
  • 野菜や果物の摂取が少ない

日本では食道がんの約90%が、食道粘膜の細胞から発生する「扁平上皮がん」という種類で、そのおもな発生要因は飲酒と喫煙であることが明らかになっています。また、飲酒と喫煙の両方の習慣がある人は、より食道がんの発症リスクが高まることが知られています*13

アルコールに弱い体質の方は、アルコールが分解されてできる「アセトアルデヒド」という発がん性物質を処理する能力が低いため、食道がんのリスクが高くなると言われています*14。また、熱い食べ物や飲み物を常用することで、食道がんのリスクが上がるとの報告も多数あります*14。さらに、栄養状態の低下や果物・野菜の摂取不足も、ビタミンが欠乏して食道がんにつながる可能性があります*13

食道がんの予防と早期発見のために

禁煙・節酒し、健康的な生活を心がける

食道がんの予防において最も効果的な対策は禁煙、そして過度な飲酒を控えることです。禁煙は始めるのが早ければ早いほど、がんの予防効果が高いことがわかっています*15。また、アルコールについては、とくに顔が赤くなりやすい体質の方は、できるだけ節酒を心がけましょう。さらに、食道がんの予防には、食生活の改善も重要です。野菜と果物を積極的に摂取している方ほど、食道がんの発症リスクが低いことがわかっています*16

早期発見のために、胃カメラ検査を受診しよう

胃内視鏡(胃カメラ)検査は、食道がんの早期発見に必要不可欠な検査です。胃がんの早期発見のために用いられる検査ですが、食道の状態も観察することもできます。

厚生労働省が定める指針では、胃カメラ検査を50歳以上の方に対し2年に1回、胃X線(バリウム)検査は当面の間、40歳以上の方に年1回の実施としています*17。高リスク者(喫煙者、飲酒者)はこれに限らず、医師と相談して検査頻度を決めるとよいでしょう。また、バリウム検査では早期の食道がんを発見するのは困難なケースが多いため*18、リスクが高い方は胃カメラ検査を選択することがおすすめです。

「胃カメラ検査は苦しそう」と思われる方もいるかもしれませんが、近年は鎮静剤の使用や経鼻内視鏡の導入により、負担が大幅に軽減されています。実際に、以下の体験談では、「表面麻酔をしたので、痛みや苦痛はほとんど感じなかった」「鎮静剤ありだったので、気づいたら終わっていた」という声が紹介されています。

胃カメラ検査は、胃がん検診のほか、人間ドックでも受診できます。以下よりお近くで受けられる医療施設を検索してみてください。

胃カメラ検査が受けられる医療施設を探す

胃カメラ検査については下記記事で詳しく解説しています。

胃がんの初期症状については、下記をご覧ください。

参考資料
*1.日本食道学会 食道がん一般の方用サイト 食道とは、食道がんとは?
*2.国立がん研究センター 食道がんの原因・症状について
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 食道
*4.日本臨床外科学会 食道がんと診断されたら… 3. 特徴(他の消化器がんとの違い)について
*5.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
*6.日本消化器内視鏡学会 内視鏡で治せる食道がんはどのようなものですか?
*7.国立がん研究センター がん情報サービス 食道がんについて
*8.日本臨床外科学会 食道がんと診断されたら… 2. 症状について
*9.NHS Symptoms of oesophageal cancer
*10.小山恒男ほか「食道表在癌に対する内視鏡診断の現況と課題」日本消化器病学会雑誌 第110巻 2013年
*11.日本消化器病学会「患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023」
*12.日本臨床外科学会 食道がんと診断されたら… 15. 食道がんと関係のある食道の病気
*13.日本食道学会 食道がん一般の方用サイト 食道がんの疫学・現状・危険因子
*14.国立がん研究センター がん情報サービス 食道がん 予防・検診
*15.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 日本人における禁煙年数とがん罹患リスク
*16.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 野菜・果物摂取と扁平上皮細胞由来食道がんとの関連について
*17.厚生労働省 がん検診
*18.国立がん研究センター 食道がんの検査・診断について

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