日本人女性の9人に1人が罹患するとされる乳がんには、胸のしこり以外にもさまざまな初期症状がみられます。この記事では、乳がんかもしれない12の症状のほか、年代別の注意点、自宅でできるセルフチェックなど、早期発見のために知っておきたいことを解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・20代以上の女性
・胸の痛みやしこりなどが気になっている方
・最近、乳がん検診を受診していない方
★この記事のポイント
・乳がんは日本人女性の9人に1人が罹患する身近ながん。20代や30代の比較的若い世代で発症することも
・乳がんは早期発見できれば、完治を目指せる可能性が高い
・乳がんの初期症状は胸のしこりのほか、皮膚のひきつれやくぼみ、乳頭からの分泌物、乳房の形の変化などさまざま
・乳がんの早期発見には、日頃からのセルフチェックと定期的な乳がん検診(マンモグラフィなど)の受診が大切
目次
乳がんを早期発見する意義
乳がんは女性の9人に1人が罹患する、身近ながん
乳がんは、日本人女性の9人に1人が一生涯のうちに罹患すると推計される身近ながんです*1。国立がん研究センターのデータ(2021年)によると、女性が罹患するがんの中で乳がんの数は最も多く、年間で9万8000人以上の方が新たに診断されています*1。また、最も多い年代は40代後半から70代ですが、20代や30代といった比較的若い方での発症もみられます*2。そのため、年代を問わずすべての女性が、正しい知識を持って乳がんの予防を心がけることが大切と言えます。
乳がんは早期発見できれば、良好な予後を目指せる
乳がんは、早期に発見し適切に治療すれば、長期生存や治癒が期待できるがんです。乳がんの5年生存率(2015年/ネット・サバイバル※)のデータを見ると、しこりが小さくリンパ節への転移がないステージ1の5年生存率は99.0%です。しかし、他臓器へ転移するほど進行したステージ4では40.5%と厳しい予後が示されています*3,*4。
このように、乳がんは早期発見できるかどうかで、予後が大きく変わります。乳がんは誰にとっても身近な疾患であることから、日頃から意識することが重要です。自分でできるセルフチェックや、定期的な乳がん検診の受診により、早期発見につとめましょう(「乳がんの早期発見のためにできること」参照)。
※ネット・サバイバル:5年後に生存している割合のうち、「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。
なぜ乳がんは増えている? 原因となりやすい人の特徴
日本人女性で乳がんに罹患する方は年々増加傾向にあり、年齢調整の罹患率(人口10万人対)は1985年に28.5例であったのに対し、2015年には79.5例とおよそ3倍に増えています*5。増加している背景には、女性の社会進出による晩婚化や未婚者の増加、食生活の欧米化などが考えられています。
とくに以下の項目に当てはまる方は、乳がんになりやすいと言われています*6。
- 家族親族に乳がんや卵巣がん罹患者がいる方
- 初潮が早い方、閉経が遅い方
- 出産や授乳の経験がない方
- 喫煙や飲酒の習慣がある方
- 肥満の方
- 糖尿病の方
ただし、これらに当てはまるからといって必ず乳がんになるわけではありません。また、当てはまらない方でも発症する可能性はあります。各項目のリスクについての詳細は、以下の記事で解説しています。
乳がんの前兆・初期症状とは?
しこりだけではない! 乳がんかもしれない12の症状
乳がんの初期症状は、自分でさわってわかる「胸のしこり」が代表的ですが、それ以外にもさまざまな症状があります。以下のような変化に気づいたら注意が必要です。
【乳がんの初期症状チェックリスト*7-9】
- 乳房のしこり
- 脇の下のしこりや腫れ
- 皮膚のひきつれ・くぼみ
- 皮膚の赤み・ただれ
- オレンジの皮のような皮膚の変化
- 乳房の皮膚の色の変化
- 乳頭からの分泌物
- 乳首の陥没(かんぼつ)や形の変化
- 乳首の湿疹やただれ
- 乳房の大きさや形に左右差が出る
- 乳房の痛みや違和感
- 乳房全体が熱を持つ
ただし、これらの症状は乳腺症や良性腫瘍など、乳がん以外の病気が原因で起こることもあります*10。また、乳房痛の多くはホルモン変動など良性の原因によることが多く、単独で乳がんを示唆する所見ではありません。自己判断はせず、変化に気づいたら必ず乳腺外科を受診しましょう。次項から、各変化について詳しく解説していきます。
しこりに関する変化
乳がんの代表的な初期症状が「しこり」です*10。乳がんが疑わしいしこりは硬く、指で押してもあまり動かず、痛みがないのが特徴とされています。また、しこりは乳房だけでなく、脇の下に現れることもあります。これは、乳房のがん細胞が最も転移しやすい場所が、脇の下のリンパ節であるためです*11。
お風呂で身体を洗う際などに、乳房の状態をチェックしてみましょう。しこりの確認は、ボディソープの泡で指のすべりがよい状態だと確認しやすいです。乳房全体を「の」の字を書くようにしてさわったり、腕を上げて脇の下の奥深くまでしっかりとふれて確認することが大切です。
乳房の皮膚に現れる変化
皮膚の変化で注意したいのが、「ひきつれ」や「えくぼのようなくぼみ」です。これは皮膚の下にあるがんが組織を内側に引っ張ることで起こる現象で、腕を上げ下げすると、より症状に気づきやすくなります*12。
また、湿疹のように「赤くなったり、ただれたりする」、「青あざのように変色する」といった皮膚の色の変化もまれに起こります。皮膚全体が「オレンジの皮のようにザラザラして見える」こともあります*13。普段から、お風呂上がりや着替えの際に鏡の前で乳房を観察することを習慣づけ、すぐに変化に気づけるようにしましょう。
乳首に現れる変化
授乳期でもないのに「乳頭から血液の混じったような分泌物」が出る場合は注意が必要です。がん細胞による分泌物が、乳管を通じて乳頭から出している可能性があり、下着のシミで気づく方もいます。
また、以前は出ていた乳首が「内側に引き込まれてへこんだ」、「湿疹やただれができた」場合も注意が必要です*7。湿疹やただれは皮膚炎の可能性もありますが、皮膚科で処方された塗り薬で改善しない場合には、必ず乳腺外科を受診して乳がんの可能性を調べましょう。
乳房全体の形や感覚の変化
乳房の左右差が突然現れたり、もともとあった左右差が急に目立つようになった場合は、がんが乳房の形を変形させている可能性があります。「片方だけが急に大きくなった」「全体の形が崩れている」「乳頭の高さが違う」場合には注意が必要です。
また、まれに炎症性乳がんというタイプの症状で、「乳房全体が急に腫れあがって硬くなり、熱っぽく赤みを帯びる」ことがあります*9。炎症性乳がんは、進行が非常に速く、皮膚の発赤や腫脹を主症状とする特殊型の乳がんです。典型的なしこりがない場合もあるため、注意が必要です。
以上のように乳がんではさまざまな症状が見られますが、まずは日頃から乳房を観察することが大切です。そして普段と違う変化に気づいたら、すぐに乳腺外科を受診するようにしましょう。
実際の乳がん発覚のきっかけは? 乳がん検診の大切さ
乳がんが発覚するきっかけとして最も多いのは、自分で症状に気づいて受診するケースです。日本乳癌学会の報告によると、発見の経緯の49.1%が、何らかの自覚症状によるものでした*13。
次いで多いのが、乳がん検診で見つかるケースで、34.5%を占めます。また、検診で発見された乳がんは、自覚症状が出てから見つかる乳がんに比べて早期発見される傾向にありました。乳がんをステージ0で早期発見したケースでは、自覚症状による発見が27.8%であったのに対し、検診による発見は51.3%でした*13。乳がんの早期発見のためには、セルフチェックだけでなく、定期的な乳がん検診の受診が必要であることがわかります。
乳がんの症状と迷うケース―年齢・ライフステージ別で解説
40代・50代の方へ:更年期障害による胸の痛み
40代・50代は、乳がんの好発年齢であると同時に、更年期を迎える年代でもあります。更年期に感じやすい諸症状のひとつに「胸痛」があります*14。
胸痛とは文字通り胸の痛みのことですが、痛み方はさまざまです。乳房・乳首周辺のピリピリとした痛みを感じる方や、胸の圧迫感などを感じる方もいます。後者の場合、狭心症のひとつである「微小血管狭心症」の可能性が考えられます。症状は胸の圧迫感だけでなく、息苦しさ、吐き気や胃痛など多岐にわたることが多く、これらの症状が数分~数時間続くこともあります*15。
乳房や乳首のピリピリとした痛み、微小血管狭心症のどちらも原因ははっきりとしていませんが、ホルモンバランスの変化が関係していると考えられています。また、どちらの症状も乳がんの初期症状とは考えにくいですが、自己判断せず、気になる症状があれば乳腺外科を受診しましょう。微小血管狭心症が疑わしい場合は、循環器内科を受診してください。
授乳中・子育て中の方へ:授乳期の乳房トラブル
授乳中は乳房が張ったり、母乳が詰まってしこりができたり、血乳が出たりするなどトラブルが起こりやすいです。乳房が赤く腫れたり、痛みや熱感を伴うこともあります*16。授乳中の乳房のしこりは多くが良性とされていれますが、乳がんやほかの疾患の場合もあります。
気になる症状があったら、まずはかかりつけの産婦人科や母乳外来、助産師などに相談しましょう。授乳中に起こりやすい症状については、以下の記事で詳しく解説しています。
乳がんの早期発見のためにできること
初期症状を見逃さないために、自宅でできる簡単セルフチェック
前述のように、乳がん患者さんの約半数は自身で乳房の異変を見つけていることから、乳がんの早期発見にセルフチェックは大切です。近年、乳がんを意識して生活する「ブレスト・アウェアネス(Breast Awareness)」という考え方が推奨されています。具体的には下記の行動を指します*17。
- 自分の乳房の状態を知る
- 変化に気をつける
- 変化に気づいたらすぐに専門医に相談する
- 40歳になったら定期的に検診を受ける
入浴時や着替えの際に鏡の前で見る、さわるといった習慣をつけることから始めてみましょう。大切なのは「いつもと違う変化」に気づくことです*17。日頃から自分の身体に意識を向け、気になることがあったらためらわずに受診しましょう。
定期的な乳がん検診やレディースドックの受診
乳がんの早期発見のためには、セルフチェックだけでなく、定期的な乳がん検診が不可欠です。40歳以上の女性は2年に1回乳がん検診を受診しましょう*18。
乳がん検診では、問診とマンモグラフィが行われます*18。なお、40歳未満の女性には、乳腺超音波(エコー)検査が行われることが多いです。
「マンモグラフィは痛い」「検査が恥ずかしい」といった理由で検診をためらう方もいるかもしれませんが、近年そうした不安を解消する新しい検査法も登場しています。例えば、うつ伏せで寝ているだけで検査が完了する「無痛MRI乳がん検診」は、痛みや被ばくの心配がなく、精度の高さから注目されています。自身に合った方法で、定期的に乳がん検診を受診しましょう。
参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 最新がん統計
*2.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 乳房
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
*4.国立がん研究センター がん情報サービス 乳がん 治療
*5.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 集計表ダウンロード 2.罹患 2)地域がん登録「高精度地域実測値:がん罹患年次推移データ(1985年~2015年)」
*6.日本乳癌学会 乳がん診療ガイドライン2022年版
*7.東京都保健医療局 TOKYO#女子けんこう部 ブレスト・アウェアネスって?
*8.日本予防医学協会 ブレスト・アウェアネスを知っていますか?~乳がんを知って早期発見に努めよう~
*9.Inflammatory Breast Cancer, National Cancer Institute
*10.国立がん研究センター がん情報サービス 乳がんについて
*11.日本乳癌学会 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版
*12.Naraynsingh V, et al. The Pushing Sign for Early Skin Tethering in Breast Cancer. Cureus, 2021; 13(12)
*13.Nagahashi M, et al. Breast cancer statistics for Japan in 2022: annual report of the national clinical database-breast cancer registry-clinical implications including chemosensitivity of breast cancer with low estrogen receptor expression. Breast Cancer, 2025; 32(2)
*14.宮上景子ら「最近の更年期障害の管理」昭和学士会誌 77(4) 2017年
*15.日本心臓財団 微小血管狭心症をご存じですか。
*16.日本助産師会、日本助産学会「乳腺炎ケアガイドライン2020 第2版」
*17.乳がん検診の適切な情報提供に関する研究「乳房を意識する生活習慣 ブレスト・アウェアネス(令和2年度 厚生労働科学研究費補助金<がん対策推進総合研究事業>)」
*18.厚生労働省 がん検診