会社には、従業員の健康を守るために、健康診断を実施する義務があります。本記事では、会社の人事・総務担当の方に向けて、健康診断の具体的な費用相場、会社が費用負担する範囲について解説します。また、実施方法の考え方についても紹介します。
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★こんな人に読んでほしい!
・健康診断の費用について、会社の負担額を知りたい人事担当の方
・健康診断の負担額を会社にとって適切な水準に設定したい人事担当の方
・会社の健康診断の実施方法を検討している人事担当の方
★この記事のポイント
・雇入時健康診断と定期健康診断の受診料相場は1万円前後で、地域や医療施設によって異なる
・健康診断の費用は原則会社負担だが、オプション検査や再検査などは従業員の負担としてもよい
・2021年度以前は、定期健康診断に会社側ががん検診などを組み込むことで受けられる国の助成金制度があった。助成金の再開や新設に関する情報は厚生労働省のWebサイトに掲載されるため定期的に情報収集しよう
・健康診断を受診する間の賃金は、支払うことが望ましいとの見解を厚生労働省が示している
・健康診断の実施方法は、会社の従業員数や社内にふさわしい場所があるかなどから検討するとよい
目次
会社には「雇入時健康診断」と「定期健康診断」の実施義務がある
事業者(以下、会社)は、従業員への雇入時(やといいれじ)健康診断と定期健康診断の実施が労働安全衛生法によって義務づけられています*1。従業員の健康状態を把握することで個々に適した働き方や労働環境を整え、従業員の健康を守ることを目的としています*2。雇入時健康診断は雇用が決まった時点で実施し、定期健康診断は年1回実施する必要があります。
なお、ほかにも特定業務従事者や海外派遣労働者向けの健康診断、給食従業員の検便、特定の業種における特殊健康診断やじん肺健診などの実施も義務づけられています*3。健康診断の種類と検査項目の詳細などは、以下で紹介しています。
健康診断は病気の治療を目的とした検査ではないため、受診費は医療施設側が自由に設定でき、保険適用にはなりません。次章では、雇入時健康診断および定期健康診断の受診費の目安を紹介します。
会社が実施する「雇入時健康診断」の受診費と検査内容
雇入時健康診断の受診費の目安は1万円程度で、原則会社負担
雇入時(やといいれじ)健康診断の受診費は、1~1.5万円程度で設定されていることが多く、地域や医療施設によって異なります。費用の負担については厚生労働省が見解を示しており、労働安全衛生法等によって健康診断の実施が会社に義務づけられていることから、会社が負担すべきとしています*4。よって、会社側が入社前の従業員に雇入時健康診断の受診を指示する場合は、その費用は会社負担が適切と言えます。
なお、団体で受診することで、費用が割引されるケースがあります。詳細は医療施設や加入中の保険組合に問い合わせてみましょう。
雇入時健康診断の検査内容
雇入時(やといいれじ)健康診断の検査内容は、労働安全衛生規則によって定められています*3,*5。医療施設によってプラン名は異なりますが、「入社時健診」「入職時健診」「雇用時健診」などの健康診断プランから選び、規定の検査項目が網羅されているか確認しましょう。
<雇入時健康診断の検査内容*3>
●既往歴・業務歴の調査
●自覚症状・他覚症状の有無の検査
●身体計測(身長、体重、腹囲)
●視力・聴力検査
●胸部X線(レントゲン)検査
●血圧測定
●血液検査
・貧血:血色素量、赤血球数
・肝機能:GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP
・血中脂質:LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪
・血糖
●尿検査(尿糖、尿蛋白)
●心電図
会社が実施する「定期健康診断」の受診費と検査内容
定期健康診断の受診費の目安は1万円前後。オプション検査や再検査は従業員負担でも可
定期健康診断の受診費は、5,000~15,000円程度で設定されており、地域や医療施設によって異なります。また、20~30代の定期健康診断では、医師の判断で省略可能な検査項目があります(20・25・30・35歳を除く)。医療施設によっては20~30代向けに血液検査や心電図、胸部X線検査を省略した健康診断プランがあり、受診費は4,000~7,500円程度と割安で設定されていることが多いです。
定期健康診断の費用は、雇入時健康診断同様、会社側が負担します*4。ただし、これは労働安全衛生規則で定められた定期健康診断の検査項目についての考え方であるため、オプション検査(胃内視鏡検査、乳がん検診等)、健康診断後の再検査や精密検査については会社側で負担する必要はなく、従業員の自己負担になります。しかしながら、経済的負担から従業員が再検査や精密検査を受診しないことは、従業員の健康を守るという定期健康診断の本来の目的から逸脱しかねません。また、労働安全衛生法には、下記のような文言があります*1。
…健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。
労働安全衛生法 第66条の7
従業員がためらいなく受診できるよう、再検査や精密検査の一部負担や就業時間内の受診を認めるなどの配慮も検討してみましょう。なお、定期健康診断を受診している時間の賃金について、厚生労働省は賃金を払うことが望ましいとしています*6。
定期健康診断の検査内容
定期健康診断の検査内容は、雇入時健康診断同様、労働安全衛生規則によって定められています*3,*5。雇入時健康診断と比較すると、喀痰検査が追加されており、医師の判断により省略可能な項目があります。
<定期健康診断の検査内容*3>
●既往歴・業務歴の調査
●自覚症状・他覚症状の有無の検査
●身体計測(身長※、体重、腹囲※)
●視力・聴力検査
●胸部X線(レントゲン)検査※、喀痰検査※
●血圧測定
●血液検査※
・貧血:血色素量、赤血球数
・肝機能:GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP
・血中脂質:LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪
・血糖
●尿検査(尿糖、尿蛋白)
●心電図※
※医師が必要でないと認めたときに省略可能な項目
会社の健康診断に使える助成金制度はある?
2023年2月現在、会社の健康診断に使える国の助成金制度はありません。ここでは、過去の助成金制度を紹介します。助成金情報は厚生労働省や労働安全機構などのWebサイトに掲載されています。今後の再開や新設の可能性を踏まえ、情報収集は定期的に行いましょう。
「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」のひとつである「健康づくり制度」は、会社の定期健康診断にがん検診などを付加する制度です*7。2021年度以前は、この制度を導入して自社が計画した離職率の低下目標値を達成すると、助成金が支給されました(2022年4月1日以降は受付中止)。
非正規雇用者のキャリアアップ促進を目的とした「キャリアアップ助成金」の「賞与・退職金制度導入コース(旧諸手当制度等共通化コース)」では、有期雇用労働者の健康診断に対する助成がありましたが、2022年4月に廃止されました*8。また、副業・兼業労働者を対象として健康診断を実施した際に受けられる「副業・兼業労働者の健康診断助成金」は2022年11月に廃止されました*9。
会社の健康診断を実施する方法の選び方
会社の健康診断を実施する方法として、以下のパターンが挙げられます。
・巡回健診バスを利用して集団健診を実施
・会社の中で集団健診を実施
・会社が指定した医療施設で健診を実施
・任意の医療施設の中から選んで健診を実施 など
「定期健康診断の受診費の目安は1万円前後。オプション検査や再検査は従業員負担でも可」で解説した通り、健康診断を受診する時間については、厚生労働省の見解により賃金を支払うことが望ましいとされています*6。社内実施の場合は健康診断にふさわしい部屋があるか、医療施設の場合は医療施設への移動時間や交通費など、従業員数を踏まえて考慮するとよいでしょう。
マーソでは地域から健康診断を実施している医療施設を選べ、一覧ページでは受診費が表示されるため、比較しやすくなっています。ぜひご活用ください。
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参考資料
*1.e-Gov法令検索 労働安全衛生法
*2.厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会 報告書」(2016年)
*3.厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
*4.厚生労働省 よくある質問「健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?」
*5.e-Gov法令検索 労働安全衛生規則
*6.厚生労働省 よくある質問「健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?」
*7.厚生労働省 人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)
*8.厚生労働省 キャリアアップ助成金
*9.労働者健康安全機構(JOHAS) 各種助成金