マンモグラフィは少量の放射線被曝をともなう検査です。そのため、乳がんの発症リスクが心配な方がいらっしゃるかもしれません。この記事では、マンモグラフィの放射線の程度、毎年受診した場合の身体への影響のほか、マンモグラフィ以外の乳がんの検査方法などについて解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・40歳以上の女性
・マンモグラフィの放射線被曝が不安な方
・マンモグラフィを毎年受診するメリットとデメリットを知りたい方
★この記事のポイント
・マンモグラフィの放射線量による身体への影響はほとんどないと考えられている
・25歳以上の女性であれば、被曝のリスクより、マンモグラフィで乳がんを早期発見して余命を延ばすメリットのほうが上回る
・マンモグラフィの放射線量は微量であるため、毎年受診しても被曝のリスクは問題ないと考えられている
・日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)が認定する施設では、撮影技師に対して講習会や認定証の発行を実施しており、撮影装置や線量の精度管理も実施している
目次
マンモグラフィの放射線被爆で、乳がんになることがある?
マンモグラフィによる乳がん発症リスクはごくわずかで、早期発見のメリットが上回る
マンモグラフィとは、2枚の透明な板で乳房を挟んだ状態でX線撮影を行う検査のことです*1。X線は放射線の一種であるため被曝による発がんリスクに不安を感じるかもしれませんが、マンモグラフィの放射線量は身体にほとんど影響しないと考えられています。また、被曝によるリスクより、マンモグラフィで乳がんを早期発見して余命を延ばすメリットのほうが上回ることも報告されており、基本的に心配する必要はありません*2,*3。
マンモグラフィ検査の放射線量、発がんリスクとの関係、早期発見のメリットと発がんリスクの比較については、次項で詳しく解説していきます。
マンモグラフィの放射線量は身体に影響する線量ではない
マンモグラフィによる被曝線量の目安は2mGy(ミリグレイ)程度とされています*4。参考までに、マンモグラフィとその他の医療による放射線量の比較が下記です。
医療検査による放射線量*4
検査の種類 | 実際の被曝線量 | 線量の種類 |
---|---|---|
マンモグラフィ (平均乳腺線量) | 2mGy程度 | 等価線量(乳腺線量) |
胸部X線(正面) | 0.06mSv | 実効線量 |
歯科撮影 | 2〜10μSv程度 | 実効線量 |
X線CT検査 | 5〜30mSv程度 | 実効線量 |
PET検査 | 2〜20mSv程度 | 実効線量 |
・実効線量:組織が受けた影響を全身分に換算したもの。臓器ごとに受けた等価線量の単純平均ではなく、臓器ごとの放射線の感受性の違いで重み付けしたもの*4
・Gy(グレイ):放射線のエネルギーが物質や人体の組織に吸収された量を表す単位*4
・Sv(シーベルト):人体が受けた放射線による影響の度合いを表す単位*4
胸部X線やCTなど放射線を用いる検査の被曝線量は一般的に「実効線量」で表しますが、マンモグラフィは独自の「平均乳腺線量」という線量が用いられ、単位はGy(グレイ)で表します。これを全身分への影響(実効線量)に換算した資料には、おもに40歳代に行われる2方向撮影の最大値が0.72mSv(ミリシーベルト)、50歳以降で行われる1方向撮影の最大値が0.36mSvとの記載があります*2。ただし、マンモグラフィのような局所的な被曝を実効線量に換算すること自体、慎重であるべきとする見方もあります*5。また、マンモグラフィによる放射線量は検査機器の種類、乳房の厚みや乳腺の量などによっても異なるため、全身への影響を明言するのは困難ですが、身体に影響するような線量ではないとされています*6。
なお、マンモグラフィでは乳房をできるだけ薄く伸ばして板に挟みます。そのため人によっては痛みをともなうことがありますが、乳房を薄く伸ばすことで被曝線量を低減させています*6。また、最近では従来よりも低線量なマンモグラフィ検査機器も登場しています。
マンモグラフィの放射線量による乳がん発症リスクは非常に低いと推定される
原爆のような大量の放射線被曝(原爆被曝者の平均乳腺被曝線量:276mSv)が、乳がんの発症リスクを増加させることはわかっています*7。他方で、マンモグラフィ程度の放射線と乳がん発症リスクの関係についてはデータを蓄積中の段階であり、結論づけはされていません*7。
なお、10mSvの放射線を受けた場合、放射線被曝によるがんで死亡する人数は1万人中5人と推計されています*8。日本でがんにより死亡する人数は1万人中約3,000人であり*8、その要因は喫煙などの生活習慣やウイルス感染など、さまざまなものが関連していると考えられています*9。この要因に、仮に放射線被曝によるリスク増加があったとしてもその影響はごくわずかであると考えられます*8。
被曝リスクより乳がんの早期発見によるメリットが上回る
マンモグラフィは、触診やセルフチェックでは気づけない小さなしこりや石灰化(カルシウムが乳腺内に沈着したもの)のある小さな乳がんの早期発見に優れており、乳がんでの死亡率の減少が認められた検査でもあります*3。乳がんは、早期に発見して適切な治療を行えば、5年相対生存率(2014-2015年/ネット・サバイバル※)は98.9%と治癒が目指せるがんです*10。そのため、定期的にマンモグラフィを受診し、乳がんの早期発見に努めることが大切です。
マンモグラフィでの早期発見による余命延長の利益と被曝による余命損失のリスクを比較した研究では、25歳以上で利益がリスクを上回り、年齢が高くなるごとに大きく上回ることが示されています*2。つまり、25歳以上の方であれば、放射線被曝で余命が短くなるリスクよりも、乳がんを早期発見して余命を伸ばすことのメリットが大きく、またこのメリットは年齢が高くなるほど大きくなると言えます*2。
※ネット・サバイバル:「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。2014-2015年5年生存率以降、「相対生存率」に代わり採用されている。
乳がん検診で見つかることがある「石灰化」については下記記事で詳しく解説しています。
マンモグラフィを毎年受診するのは危険? 何回受けても大丈夫?
乳がん検診は「2年に1回」の理由
厚生労働省の指針では、乳がん検診は原則40歳以上の女性を対象に、2年に1回の間隔でのマンモグラフィ検査を推奨しています*11。対象年齢と受診間隔は乳がんで亡くなる方を減らす利益と、不利益のバランスから設定されています*1。不利益とは、偽陰性や偽陽性、過剰診断*1、放射線被曝などです。
次の検診までの2年間で、乳がんにならないかと不安に思われる方がいるかもしれません。乳がんは進行がゆっくりなものが多いため、基本的には2年に1回で問題ないとされています。ただし、なかには進行が早いがん細胞もあるため、不安な方や、乳がんにかかった血縁者がいる方などは、不利益も理解のうえで毎年の乳がん検診受診を検討してもよいでしょう。
マンモグラフィを毎年受診しても身体への影響はほとんどない
「マンモグラフィの放射線被曝で、乳がんになることがある?」で解説したとおり、マンモグラフィによる放射線量が身体に大きな影響を与えることは考えにくいため、毎年受診しても問題ないとされています。乳がんをできるだけ早期に発見したい方、乳がんにかかった血縁者がいる方は、次項の不利益も理解したうえで毎年の受診を検討してもよいでしょう。なお、厚生労働省の指針では、乳がん検診として40歳以上の女性に2年に1回の間隔でのマンモグラフィを推奨しています*11。
ただし、マンモグラフィによる被曝は、値は非常に低いもののゼロではありません。自身の判断で医療施設を変えて何度もマンモグラフィを受けるなど、不要な検査の繰り返しは避けましょう*8。
乳がんのリスクが高い人の特徴については下記記事で解説しています。
マンモグラフィの不利益を考慮したうえで受診頻度を決めよう
マンモグラフィを毎年受診した場合には、放射線被曝のリスクに加え、偽陽性や過剰診断などの不利益を受ける機会が増える可能性があります*1。偽陽性とは乳がんではないのに陽性と判定されることで、過剰診断とは生命への影響がないがんが見つかることです。これらの不利益は、結果的に費用や時間、身体面、精神面の負担につながってしまいます。
毎年マンモグラフィを受診し早期発見の機会を増やすメリットと、上記のデメリットを天秤にかけ、自身にとってより適切な受診頻度を考えましょう。
マンモグラフィを毎年受診することのメリット・デメリットは、以下の記事で解説しています。
マンモグラフィは何歳まで受ければよいかについては、下記記事をご覧ください。
マンモグラフィの被曝を低減するための医療施設選びのポイント
マンモグラフィの被曝によるリスクをできるだけ小さくしたい方は、マンモグラフィ装置の線量の精度管理が適切に行われている医療施設を選択するとよいでしょう。また、乳房をできるだけ薄く伸ばした状態で、少ない撮影回数で検査することも被曝リスク低減につながるため、撮影技師の技術の高さもポイントになります。
これらの判断材料のひとつとして、日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)が発行する施設・画像評価の認定があります*12。精中機構では、マンモグラフィの読影医師や撮影技師に対して講習会や認定証の発行を実施していることに加え、認定施設では撮影装置や線量の精度管理も実施しています。認定医療施設は日本乳がん検診精度管理中央機構のWebサイトより検索できます。
日本乳がん検診精度管理中央機構 マンモグラフィ検診施設・画像認定施設(外部サイト)
放射線被曝がない乳がんの検査方法もある
マンモグラフィの放射線量は非常に少なく、基本的に被曝による身体への影響は心配いりません。また、40代以上に対して乳がんによる死亡率減少効果が示されているのはマンモグラフィのみであるため*13、厚生労働省の指針では40代以上の方には2年に1回のマンモグラフィの受診が推奨されています。それでも、放射線被曝がどうしても気になり乳がん検診をためらう方は、X線を用いない乳腺超音波(エコー)検査や乳腺MRI検査を検討しましょう。
乳腺超音波(エコー)検査
乳腺超音波(エコー)検査は、超音波を用いて乳がんを調べる画像検査です。ベッドに仰向けに寝た状態で乳房の上にゼリーを塗り、専用の機器をあてて乳房の状態を観察する検査で、所要時間は5〜10分程度です。放射線被曝はなく、痛みもほとんどないため身体への負担は少ない検査と言えます。マンモグラフィに映らない小さなしこりを発見しやすい特徴がある一方、石灰化のある小さな乳がんの発見は難しい場合があります。
マンモグラフィと乳腺超音波(エコー)検査の違いは下記記事で解説しています。
乳腺MRI検査
乳腺MRI検査は、磁場と電磁波を用いて乳がんを調べる画像検査です。MRI装置のベッドにうつ伏せで寝て乳腺を下垂させた状態で検査します。撮影時間は15分程度であり、放射線被曝はありません。痛みもなく、検査着のまま検査が可能なため胸を見られないメリットがありますが、MRI検査に準ずる注意事項がある、費用が比較的高額などのデメリットもあります。
近年、造影剤を用いない「無痛MRI乳がん検診(通称:ドゥイブスサーチ)」が登場し、より身体的な負担が少ない検査を受診できるようになりました。無痛MRI乳がん検診や、マンモグラフィと乳腺超音波(エコー)検査とのメリット・デメリットの比較については、以下で詳しく解説しています。
参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 乳がん検診について
*2.飯沼武「マンモグラフィ乳癌検診(2年間隔)の利益リスク分析 」日本乳癌検診学会誌 2012; 21(2)
*3.日本対がん協会 よくある質問
*4.環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和4年度版)の掲載について(お知らせ)
*5.五十嵐隆元「平均乳腺線量とリスク評価」画像通信29 2 2006
*6.日本放射線技術学会 マンモグラフィ
*7.日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン2022年版 BQ11 放射線被曝は乳癌発症リスクを増加させるか?
*8.量子科学技術研究開発機構 CT検査など医療被ばくに関するQ&A
*9.国立がん研究センター がん情報サービス がんの発生要因
*10.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
*11.厚生労働省 がん検診
*12.日本乳がん検診精度管理中央機構
*13.国立がん研究センター がん対策研究所 乳がん