がん検診

胃がんの初期症状とは? げっぷやおなら、唇の症状は前兆として現れる?

胃がんの初期症状とは? げっぷやおなら、唇の症状は前兆として現れる? がん検診
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

胃がんは、全がんのうち罹患数・死亡数が第3位と、日本人にとって身近ながんのひとつです*1。この記事では、胃がんの初期症状や胃がんになりやすい人の特徴、早期発見するための胃がん検診の重要性について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・40代以上の方
・胃がんを早期発見したい方
・胃の痛みや胸やけを感じており、胃がんの可能性を知りたい方

★この記事のポイント
・胃がんは身近ながんのひとつだが、早期発見で完治が目指せる
・胃がんは初期症状がほとんどないため、定期的な胃がん検診の受診が重要
・胃がんは進行すると、胃の痛み、胃の不快感、胸やけ、黒色便などの症状がみられる
・胃がんの早期発見のために、40歳以上は胃部X線(バリウム)検査、50歳以上は胃内視鏡(胃カメラ)検査を受診しよう

胃がんを早期発見する意義

胃がんの死亡数は減少傾向にある

胃がんは、日本人にとって身近ながんです。がん統計によると、全がんのうち胃がんの死亡数(2022年)および罹患数(2019年)はいずれも第3位でした*1。近年、胃がんの死亡数は、医療の進歩やリスク要因であるヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)感染の減少により低下傾向です。罹患数は増加傾向にありますが、これは高齢化によるものと考えられ、人口の高齢化の影響を除いた年齢調整率でみると、死亡・罹患ともに減少傾向です*2

胃がんは減少傾向にあるとはいえ、発見が遅れると生存率は大きく低下します*1。命に関わる病気であることに変わりはなく、次項でも解説するように早期発見が非常に重要です。また、胃がんになりやすいとされるリスク因子もあるため、個々人に応じた予防が求められます。

胃がんは早期発見が重要

胃がんは早期に発見して治療すれば良好な予後が見込めるがんです。胃がんのステージ別(進行期別)の5年生存率(2015年/ネット・サバイバル※)は、早期発見とされるステージIで92.8%でした。しかし、ステージIIに進行していると5年生存率は66.6%、ステージIIIでは41.4%、ステージIVでは6.7%であり、進行した状態で見つかるほど生存率は低下します*3

胃がんにかかっても良好な予後を目指すためには、できるだけ早期に発見することが重要です。しかしながら、胃がんの初期は無症状の場合が多く、発見が遅れがちです。また、胃の痛みや胃もたれといったなんらかの症状を自覚しても、暴飲暴食やストレスが原因だと考え市販の胃薬でやり過ごすことも少なくないと推測されます。だからこそ、症状がないうちから定期的に胃がん検診を受診して、胃の状態を確認しておくことが非常に大切です。胃がん検診については「早期発見のためには、定期的な胃がん検診の受診が重要」で解説します。

※ネット・サバイバル:「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。「2014-2015年5年生存率」以降、「相対生存率」に代わり採用されている。

胃がんの初期症状

胃がんは初期症状がほとんどなく、進行してから症状が現れることが多い

胃がんの初期段階は自覚症状が見られないことがほとんどで、症状が現れるころには進行していることがあります*4。症状がないうちに検診などで胃がんが見つかった方と、症状をきっかけに胃がんが見つかった方を比較した調査結果では、前者では早期がんの割合が80.7%、後者では30.3%であったと報告されています*5。このデータからも、自覚症状がないうちに検診で早期発見することが大切だと言えます。

胃がんの症状は、胃の痛み・不快感、胸やけ、黒色便など

胃がんが大きくなると、胃液の分泌や胃の運動が障害されることでさまざまな症状が現れます。代表的なものは、胃の痛みや胃もたれなどの胃の不快感、胸やけ、吐き気、食欲不振などです*4。さらに進行すると、食べ物の消化や栄養吸収が困難となり、著しい体重減少が見られます。また、腹水や腹部膨満感、足のむくみ、排尿障害などが起こることもあります。がんが浸潤した箇所から出血が起こると、吐血や貧血、下血または黒色便などが見られます*6。胃がんが発見された患者のデータによると、最も多かった症状は胃の痛みで、次いで食欲不振、吐き気・嘔吐でした*7

なお、胃がんの中でも非常に進行が早く、予後が悪いとされる「スキルス胃がん」も初期症状はほとんどなく、進行すると上記のような症状が現れることがあります。スキルス胃がんとは、胃の壁を硬く厚くさせながら広がるタイプの胃がんで*4、全胃がんの約5〜10%を占めると言われています*8,9。スキルス胃がんについては下記記事をご覧ください。

胃がんになるとげっぷやおならの変化、唇の荒れは見られる?

胃は、食べものを消化して栄養分を吸収する消化管のひとつです。消化管は口から肛門までつながっているため、胃がんになるとげっぷやおならが増えるなど、他の消化管に影響するのではという疑問が湧くかもしれません。

胃がんになると、胃の働きの低下からげっぷの回数が増えることがあるとされていますが*10、おならの変化が現れることは基本的にありません。

また、胃が不調だと、唇が荒れたり口の端が切れたりしやすいと聞いたことがあるかもしれません。口角炎(口の端の炎症)と胃腸障害の関連について示唆するデータはありますが*11胃がんと口の症状について直接的な因果関係を示す科学的なデータはありません。つまり、唇の荒れや口角炎は、胃腸の不調のサインと言えることもあるが別の原因で起こっている場合も多く、胃がんの症状であると直接的に結びつけることはできない、ということです。唇や口角の荒れが長引く場合は、まずは皮膚科に相談してみましょう。また、胃の状態が気になる場合は、胃内視鏡(胃カメラ)検査などを検討しましょう。

胃がんの症状は、ほかの胃・食道の病気とも似ており判別が難しい

胃がんで見られる症状は、胃炎や逆流性食道炎など胃・食道の病気でも現れることがあるため、症状のみで胃がんか否かを判別するのは困難です*12

胃がんと似た症状が出る病気としては、以下のようなものが知られています。

・胃炎(慢性胃炎・急性胃炎)
・胃潰瘍
・十二指腸潰瘍
・逆流性食道炎
・機能性ディスペプシア
など

次章でも説明しますが、胃がんや慢性胃炎は原因のほとんどがピロリ菌です。ピロリ菌の感染により、胃粘膜の慢性的な炎症が続き、胃がんへと進行します。

なお、胃の痛みや胃もたれ、胸やけといった消化器症状には、複合的な要因が関わっているため、胃カメラなどの検査をしても異常が見られず、原因不明となる場合もあります*12。しかし、胃の不調から胃カメラ検査をして、偶然に胃がんが発見されることもあるため、気になる症状があれば、すみやかに消化器内科を受診しましょう。

胃がんになりやすい人

以下にあてはまる方は、胃がんになりやすいことが知られています*13

とくにヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)の感染は、胃がんの最も重要なリスク因子*14、国内の研究結果では胃がん症例の約99%はピロリ菌に感染していたと報告されています*15。ピロリ菌の除菌方法は、飲み薬を1週間続けるもので比較的簡単です。胃がんのリスクを下げるためにはピロリ菌検査を受け、感染していた場合はすみやかに除菌治療を行いましょう*16

ピロリ菌の検査については下記記事で詳しく解説しています。

また、胃がんを予防するうえで、胃への刺激を減らすことも大切です。食事面では野菜や果物を十分に摂り、塩分は控えめを心がけましょう*13

早期発見のためには、定期的な胃がん検診の受診が重要

40歳になったら定期的に胃がん検診を受診しよう

胃がんの早期発見には、定期的な検診が非常に重要です。厚生労働省が推奨する胃がん検診の方法は、胃部X線(バリウム)検査と胃内視鏡(胃カメラ)検査です。バリウム検査の対象は40歳以上で受診頻度は年1回、胃カメラ検査は50歳以上に対し2年に1回の受診が推奨されています*17

バリウム検査は、バリウムと呼ばれる造影剤を飲み、X線で撮影する検査です。検査時間が10分前後と短く、手軽に受けやすい特徴があります。一方、デメリットとして被曝のリスクや、胃カメラ検査と比べて小さな病変が発見しにくいことが挙げられます。

胃カメラ検査は、小型カメラがついた管を口や鼻から挿入して直接胃の内部を観察する検査です。バリウム検査と比べて検査の精度は高いですが、管を入れるときに痛みや苦しさを感じることがある、検査時間が長い、バリウム検査より費用が高いなどのデメリットがあります。

バリウム検査と胃カメラ検査の違いや、各検査をラクに受けるコツについては以下の記事で解説しています。

参考までに、自治体の胃がん検診の例として、世田谷区の事例を紹介します。費用は1,000~1,500円と、自己負担を抑えて受診できます。

世田谷区の胃がん検診の種類・費用*18

検査項目
※いずれも問診含む
対象者受診間隔
※同一年度内の両方受診不可
費用
バリウム検査40歳以上年1回1,000円
胃カメラ検査50歳以上2年に1回1,500円

がん検診や人間ドック補助制度など、各自治体が実施している健康への取り組みはこちらにまとめています。

人間ドックでは、大腸内視鏡(大腸カメラ)検査とのセット受診も可能

人間ドックでは、胃内視鏡(胃カメラ)検査と大腸内視鏡(大腸カメラ)検査を同日に受診できるプランもあります。忙しくて何度も検査に行けない方、食事制限を一度にすませたい方などは検討してみましょう。お近くの人間ドックはこちらからお探しいただけます。

また、先述のとおり自治体の胃がん検診は年齢や受診間隔が設定されていますが、人間ドックであれば自身が希望するタイミングで受診できます。40歳未満で「胃がんになりやすい人」にあてはまる方は、胃がん検診の受診を検討してみましょう。

胃がん検診の受診年齢や頻度については以下で詳しく解説しています。

一度はピロリ菌検査を受診しておこう

胃がんの最も重要なリスクとされるピロリ菌感染の有無は、検査で調べることができます。ピロリ菌検査の方法には、胃内視鏡(胃カメラ)検査を使って調べる検査や、採血・検便などを用いた検査もあり、精度や費用はさまざまです。各検査の違いは以下で詳しく解説しています。

また、ピロリ菌の検査と胃粘膜の萎縮度合いの検査を組み合わせ、胃がんのリスクを調べる「胃がんリスク検査(ABC検査)」もあります。あくまで将来的な胃がん発症リスクの予測が目的であり、胃がんそのものを見つける検査ではありませんが、20〜30代で胃がんのリスクを知りたい方などは検討してもよいでしょう。採血のみで行えるため、会社の健康診断や人間ドックなどのオプションとして選べることがあるほか、自治体が無料または安価で実施していることもあります。お住まいの自治体のWebサイト等で確認してください。

なお、ピロリ菌検査および胃がんリスク検査は、胃がんを発見するための検査ではなく、あくまでピロリ菌の有無を調べるための検査です。また、胃がんの原因がピロリ菌ではないこともあります。したがって、ピロリ菌検査や胃がんリスク検査の結果、陰性あるいはリスクが低いとされた場合でも、胃カメラ検査は定期的に受けましょう。胃がんリスク検査についての詳しくは、下記記事をご覧ください。

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 胃
*2.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 年次推移
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果一覧システム
*4.国立がん研究センター がん情報サービス 胃がんについて
*5.佐藤敏輝「無症状胃がんと有症状胃がんの臨床病理学的検討」新潟医学会雑誌 2008; 122(4)
*6.長寿科学振興財団 健康長寿ネット 胃がん末期
*7.萩原廣明ほか「胃がん個別検診の現況と課題 ―前橋市胃がん個別検診18年間の成績の検討から―」日本消化器集団検診学会雑誌 2004; 42(3)
*8.希望の会 希望の会の設立にあたって
*9.入口陽介ほか「スキルス胃癌のX線診断—4型胃癌の年次推移,形態学的・病理組織学的検討」胃と腸 2020; 55(6)
*10.NHS Symptoms Stomach cancer
*11.岸本麻子ほか「口角炎について」耳鼻と臨床 2010年 56巻, 3号
*12.日本消化器内視鏡学会 胃痛(胃もたれ)の原因は、内視鏡でわかりますか?
*13.日本医師会 知っておきたいがん検診 胃がん検診 胃がんの原因
*14.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト ヘリコバクター・ピロリ菌除菌と胃がんリスク
*15.Matsuo T, et al. Low prevalence of Helicobacter pylori-negative gastric cancer among Japanese. Helicobacter, 2011; 16(6)
*16.日本ヘリコバクター学会「ピロリ菌から胃を守れ!!」2021年
*17.厚生労働省 がん検診
*18.東京都世田谷区 胃がん検診

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上昌広
こちらの記事の監修医師

特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。
虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

山本 佳奈(やまもと かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
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