PET検査

苦痛なく大腸がんを調べられるPET検査とは? 有用性や注意点を解説

大腸がん検査 PET検査
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

PET検査は、大腸がんを含むほぼ全身のがんを一度に調べられる検査です。大腸内視鏡(大腸カメラ)検査と異なり、カメラを身体に入れずに大腸がんを調べられます。この記事では、大腸がん検診としてのPET検査の特徴や精度、便潜血検査や大腸内視鏡(大腸カメラ)検査等との違いについて詳しく解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・40代以上の方
・痛みが少ない大腸がん検査を希望している方
・大腸がんの家族歴がある方

★この記事のポイント
・PET検査はほぼ全身のがんを一度に検査できる
・PET検査には得手不得手があるが、大腸がんは見つけやすいとされている
・大腸ポリープ(腺腫)も検出可能であり、大腸がんの予防に役立つ
・検査時の身体的負担は少ないが費用が約10万円と高額で、一定の被曝のリスクがある
・より確実に大腸がんのリスクを調べるためには、PET検査と大腸カメラ検査の併用を

PET検査とは? 大腸がんがわかる仕組み

PET検査は、大腸がんをはじめ、ほぼ全身のがんを調べられる

PET(ペット)検査とは、Positron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)の略称で、がんが疑われる部位の有無や、ほかの臓器への転移、治療の効果判定などさまざまな目的で利用されている検査です*1がん細胞が通常の細胞より多くのブドウ糖を取り込む性質を利用して、ブドウ糖に似た物質「18F-FDG(放射性フッ素を付加したブドウ糖)」を注射することで体内のがんの存在を可視化します*1。近年は、臓器の形状を撮影するCT検査と組み合わせた「PET-CT検査」が主流になっています*2

PET検査の大きな特徴は、ほぼ全身のがんを一度に調べられることです。がんの中でも陽性率(病気を持った人が実際に陽性となる割合)が高いのが甲状腺がん、肺がん、大腸・直腸がん、乳がんです*3。PET検査で見つかるのは、がんだけではありません。炎症が起こっている部分もブドウ糖が多く消費されるため、副鼻腔炎、肺炎、逆流性食道炎、膵炎、肝炎なども検出されます*4。また、アルツハイマー型認知症においても、記憶を司る側頭葉領域で糖代謝が低下していることが多いため、予測可能とされています*5

このようにPET検査ではがんや炎症などさまざまな病気を見つけることができますが、見つけるのが苦手ながんもあります。詳しくは下記記事で解説しています。

PET検査の費用や特徴についてもっと詳しく知りたい方は、下記記事もご覧ください。

PET検査で大腸がんを検出する精度は?

大腸がんは、PET検査でよく見つかることがあるがんのひとつです。2006~2009年度の調査結果では、PET検査の感度(がんがある人を正しく「異常あり」と判定できる割合)は86.0%、陽性的中率(「異常あり」と判定された人の中で、実際にがんがあった割合)は31.7%でした*3。同調査では、大腸がん検診で行われる便潜血検査の感度は80.2%であり、PET検査は便潜血検査と比較し精度の高い検査であると言えます。なお、PET検査と、CT検査を組み合わせたPET-CT検査の精度との違いはほとんど認められませんでした*3

ただし、大腸は正常であってもFDGが集まりやすいため、偽陽性(がんがないのに「異常あり」と判定される)が多いことにも注意が必要です*3。大腸がんの種類のなかには糖代謝が低く、PET検査では検出できないものもあります。また、5mm以下の非常に小さながんは検出が難しく、PET検査が検出できるサイズは7mm以上とされています*6

PET検査は大腸ポリープも検出できる?

大腸がんの95%は、大腸ポリープ(腺腫性ポリープ)から発生すると推定されています*7。このため、がんになる可能性のあるポリープを早期発見して切除することが、大腸がんの予防において重要となります*7,*8

PET検査は、がんだけでなく、がんになる可能性のある大腸ポリープも検出できます。大腸がん・腺腫性ポリープのいずれも、10mm以上であれば検出可能だと言われています。PET検査でがん化前のポリープを発見できる可能性があることは、予防の観点からも重要だと言えます*3,*9

PET検査とほかの大腸がん検査との比較

PET検査のメリット・デメリット

PET検査のメリットとデメリットには次のようなものがあります。

【PET検査のメリット】

  • 大腸がんを検出する精度が高い
  • ほぼ全身のがんの有無を一度の検査で調べることができる
  • がんの進行の程度を知ることができる
  • がんの転移・再発を効率的に調べることができる
  • 18F-FDGによる副作用はほとんど報告されておらず、身体的負担が少ない
    など

【PET検査のデメリット】

  • 費用が高い
  • サイズの小さながん(およそ10mm以下)は見つけられない可能性がある
  • 正確な位置や形を把握しづらく、がんかどうか判断しにくい部位がある
  • 放射性薬剤の注射やCTにより、わずかだが被曝する
  • 検査に時間がかかる
    など

PET検査の大きな特徴は、ほぼ全身のがんを一度に検査できる点です。部位ごとではなく、一度の検査で自身の身体の状態を調べることができま。FDG注射後、PET装置に20〜40分程度横になるだけなので痛みなどはほとんどなく、副作用もほとんど報告されていません。

一方、デメリットは費用が高額である点です。がんの早期発見や発症リスクの把握を目的とした人間ドックでの受診は保険適用外となり、全額自己負担となります。医療施設によって費用は異なりますが、PET検査およびPET-CT検査ともに、一般的な相場は10万円前後です。また、検査時間は前処置から画像撮影、待機時間まで含めると、約2~3時間ほどかかります。検査の流れや詳細は以下の記事をご覧ください。

便潜血検査、大腸内視鏡(大腸カメラ)検査、大腸CT(CTコロノグラフィ)検査との違い

PET検査と、大腸がん検診としてよく行われる便潜血検査と大腸内視鏡(大腸カメラ)検査、そして近年普及しつつある大腸CT(CTコロノグラフィ)検査との比較を表にまとめました。

<PET検査、便潜血検査、大腸カメラ検査、大腸CT検査の比較>

PET検査便潜血検査大腸内視鏡
(大腸カメラ)検査※
大腸CT検査
食事制限4~6時間前
から絶食
なし前日あるいは数日前
から食事制限、
検査当日は絶食
前日あるいは数日前
から食事制限、
検査当日は絶食
処置18F-FDGを
注射する
なし・下剤を服用する
・肛門からチューブを
挿入する
・造影剤と下剤を
服用する(下剤は
大腸内視鏡検査の
半量以下)
・肛門から炭酸ガスを
注入する
医療被曝被曝ありなしなし被曝あり
検査時間2~3時間約3~4時間15分程度
費用目安
(自由診療)
10万円前後1,000〜2,000円
対策型検診(住民
検診や職域検診)は
無料〜1,000円前後
2〜3万円2〜3万円
大腸がんの
発見率*10,*11
0.18~0.53%0.12~0.27%0.26~0.91%0.34%
※全大腸内視鏡検査(直腸から盲腸まで大腸の全部位を調べる検査)の場合

便潜血検査は、大腸がんやポリープによる便中の血液の有無を調べる簡便な検査方法です。手軽で費用も安価ですが、がんやポリープからの出血がない場合は検出できない点に注意が必要です。大腸内視鏡(大腸カメラ)検査は、大腸に直接カメラを挿入して観察する検査です。前日からの食事や下剤の服用など、検査にともなう制限が多いですが、がんやポリープに対する診断精度は非常に高いと言えます。

大腸CT(CTコロノグラフィ)検査は、CTで撮影した画像から大腸の3次元画像を作成する検査方法です。炭酸ガスで腸をふくらませた状態で撮影を行います。大腸カメラと比べると、検査時間は約15分程度と短く、下剤も半量以下で済むため身体的負担が少ないのが特徴です。最近では少量の下剤とタギング法(造影剤の併用)により、前処置の負担も軽減されています。6mm以上の病変であれば大腸内視鏡(大腸カメラ)検査に劣らない精度とされている一方、小さながんや表面に広がるようながんは見つけにくいとされています*12

これらの検査と比較すると、PET検査は医療被曝のリスクはあるものの、前処置は簡便であり、大腸がんの検出率は良好です。費用は高額ですが、全身のがんや炎症性疾患など、身体を総合的に調べることもできます。

大腸がんの検査それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで自身に合った検査を選択するのが望ましいでしょう。

大腸がんの検査方法の違いは下記でも解説しています。

より確実に調べるためには、PET検査とほかの検査の併用を

「FDG-PET がん検診ガイドライン2019」では、より確実な大腸がんの発見のために、PET検査に便潜血検査または大腸内視鏡検査を併用することが推奨されています。これは、PET検査単独では早期の大腸がんが見逃される可能性があるためです*3

実際のデータからも検査の併用の有効性が示されています。2006〜2009年度の全国調査によると、PET検査単独の感度は86.0%、便潜血検査単独で80.2%でしたが、両者を併用することで感度は97.2%まで向しました*3。この結果からも、より確実な大腸がんの早期発見のためには、各検査を組み合わせて行うのがおすすめです。

PET検査の受診がおすすめの方、注意が必要な方

PET検査の受診がおすすめの方、注意が必要な方が下記です。

【おすすめの方】

  • がんにかかったことがある近親者がいる方
  • 50歳以上の方
  • 30代~40代の健康に不安のある方
  • 複数のがんを同時に調べたい方
  • 甲状腺がんなど一般的ながん検診にはない部位のがんを調べたい方

【受診できない方】
妊娠中の方、妊娠の可能性がある方

【医師との相談が必要な方】

  • 授乳中の方
  • 血糖値が高めの方
  • 放射線被曝を極力避けたい方

PET検査の対象年齢は、「FDG-PETがん検診ガイドライン2019版」では50歳以上の方が推奨されていますが*3、30~40代でもがんにかかった家族がいる方、喫煙習慣があるなどがんのリスクが高い方は受診を検討してもよいでしょう*3。PET検査は、自治体等のがん検診にはない甲状腺などのがんを見つけられることがあるため、複数のがんが心配な方にはひとつの選択肢となります。

一方、PET検査は被曝のリスクがあるため、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方は受診できません。授乳中の方は検査を受けないほうがよいとされています*3。なお、被曝については一定のリスクがあるものの、1回の検査で人体に危険が及ぶレベルではないとされています。

PET検査の注意点は下記で詳しく解説しています。

一度に全身のがんを調べたい方は「DWIBS(ドゥイブス)」もおすすめ

DWIBS(ドゥイブス)とは、MRIを活用してほぼ全身のがんを一度に調べられる検査方法のことです。「全身DWIBS(ドゥイブス)」「全身MRI検査」「全身拡散強調MRI検査」などと呼称している医療施設もあります。

DWIBS(ドゥイブス)は被曝のリスクがなく、PET検査と同様にほぼ全身のがんを一度に調べることができます。検査費用は5~8万円とPET検査よりやや安価であり、検査時間も30分~1時間と短いです。ただし、見つかりやすいがんと見つかりにくいがんがあるなど、注意点もあります。詳細は以下の記事をご覧ください。

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス PET検査とは
*2.国立国際医療研究センター病院 FDG-PET/CTとは
*3.日本核医学会、日本核医学会PET核医学分科会「FDG-PET がん検診ガイドライン(第3版、2019年版)」
*4.大阪公立大学医学部附属病院 血液内科・造血細胞移植科 FDG-PET
*5.日本核医学会「FDG PET, PET/CT診療ガイドライン2020」
*6.加藤智弘、伊藤恭子「大腸がん検診の現状と今後の展望」人間ドック 2018; 33(1)
*7.Tomasz Sawicki, et al. A Review of Colorectal Cancer in Terms of Epidemiology, Risk Factors, Development, Symptoms and Diagnosis. Cancers, 2021; 13(9)
*8.日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡Q&A 大腸にポリープがあると言われました。取らなくてもいいのでしょうか?
*9.安田聖栄、井出満「PETとがん検診」日本放射線技術学会雑誌 2005; 61(6)
*10.曽根康博ら「FDG-PET/CTで発見された大腸限局性集積の臨床的検討」日本消化器がん検診学会雑誌 1012; 50(5)
*11.満崎克彦ら「人間ドックにおける大腸CT検査―大腸癌一次検診としての有用性―」人間ドック 2019; 34(4)
*12.日本大腸肛門病学会 大腸の病気 大腸CT検査について教えてください

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