人間ドック

MRCPとはどんな検査? 胆道・膵臓の病気の早期診断に役立つ可能性―検査費用や造影剤についても解説

人間ドック
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

MRCP検査とは、MRI装置を使って胆道(胆のう・胆管)、膵管を詳細に撮影する精密検査です。本記事では、MRCP検査で早期診断に役立つ可能性のある病気や他の検査との違い、検査の流れ、費用、この検査がおすすめな方の特徴まで解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・MRCPについて詳しく知りたい方
・40代以上で、胆道や膵臓の病気が気になる方
・胆道がんや膵臓がんを患った血縁者がいる方

★この記事のポイント
・MRCPは、MRIを利用して胆のう・胆管、膵管の液体を画像化する精密検査
・MRCPは、胆道がん、胆のう結石、総胆管結石、膵臓がん、膵嚢胞性腫瘍、膵炎などの早期診断やリスク評価に有用。治療方針の検討にも役立つ可能性がある
・放射線被曝や痛みがなく安全性が高い一方で、検査時間が比較的長く、閉所恐怖症の方や体内に金属が埋め込まれている方は注意が必要
・検査前には絶食・絶飲が必要であり、経口造影剤を服用することで診断精度が向上する
・費用は保険診療で8,000~12,000円程度、自費診療では20,000~35,000円程度が目安

MRCPとは?

MRCPの仕組みと特徴

MRCP(Magnetic Resonance Cholangiopancreatography:磁気共鳴胆道膵管撮影)は、MRI装置を用いて胆道(胆のう・胆管)、膵管を撮影する精密検査です*1。磁気を利用して液体(胆汁や膵液)のみを白く画像化することで、胆管や膵管の形状を鮮明に描き出します。

腹部MRI検査と、MRCPの違い

MRCPと同じく、MRI装置を用いて肝臓や胆のうを観察する検査として、「腹部(上腹部)MRI検査」があります。腹部MRI検査は、肝臓や胆のう、膵臓といった臓器全体の観察が目的です。

MRCPは、胆のうに加え、胆管、膵管といった水分の通り道にフォーカスしてより専門的に調べます。

MRCPは腹部MRIで行う撮像法の一つで、とくに胆管・膵管を評価する目的で追加撮像される手法です。観察部位が異なるため、腹部MRIと併せて行うことでより詳細な診断が可能になります。医療施設によっては、一度に検査を行うこともあります。

MRCPで発見されることがあるおもな病気

MRCPは、とくに胆管や膵管といった管(くだ)の部分を詳細に観察することで、以下のような病気の診断やリスク評価に有用であり、早期診断につながる可能性があります*2

【胆道(胆のう・胆管)の病気】

  • 胆道がん(胆のうがん、胆管がん)
  • 胆石(胆のう結石総胆管結石)
  • 胆管の狭窄

など

【膵臓の病気】

  • 膵臓がん
  • 膵嚢胞性腫瘍(すいのうほうせいしゅよう)
  • 膵炎
  • 膵管の狭窄

など

胆道がんは、胆管の狭窄や閉塞によって発見されることがあります。胆石(胆のう結石、総胆管結石)は、胆汁でできる石のようなかたまりです。これらを放置して胆管が詰まると、激しい腹痛や発熱を引き起こすことがあるため、重症化する前に治療が必要です*3

膵臓がんは早期発見が非常に難しいがんですが、MRCPで膵管の狭窄・拡張などの変化をとらえることで、早期診断や治療方針の検討に役立つ可能性があります。「膵嚢胞性腫瘍(すいのうほうせいしゅよう)」は、腫瘍の中に液体が貯まった袋状の病変(のう胞)です*4。膵のう胞は、放置してよい良性の場合もありますが、定期的なフォローが必要なケースもあります。種類により治療方針が大きく異なるため、専門医による評価が推奨されます*5

膵臓がんについては、下記記事でも詳しく解説しています。

MRCPのメリット・デメリット

MRCPのメリットは、身体への負担の少なさです。放射線を使用しないため医療被曝の心配がなく、内視鏡や注射針を用いないことから検査にともなう痛みもありません*6

一方で、MRCPはMRIを活用する検査であるため、MRI検査に共通するデメリットもあります。MRI検査は他の検査に比べ検査時間が比較的長く、MRCPの場合は20~30分程度です。狭い空間で行われるため、閉所恐怖症の方は受診が難しいことがあります。また、MRI検査は強力な磁場を用いるため、体内にペースメーカー、ICD(植込み型除細動器)、神経刺激装置、磁性を持つクリップなどの金属が埋め込まれている方は検査を受けられないなど、厳密なルールがあります*6。事前に医療施設へ確認しましょう。

どの検査を受ければいい? 胆道・膵臓の検査を比較

腹部の超音波検査、CT検査、MRI検査の違い

胆道や膵臓の検査は複数あり、それぞれにメリット・デメリットがあります。がん検診や人間ドックなどでの受診機会が多い、3つの画像検査を比較します*7-10

腹部超音波(エコー)検査腹部CT検査腹部MRI検査
方法超音波が出る探触子(プローブ)を腹部に当て、リアルタイムで画像化するCT装置を用い、X線を身体の周囲から当てて、身体の断面画像を撮影するMRI装置を用い、強い磁場により臓器を撮影(MRCPは胆管・膵管に特化して撮影)し、画像にする
メリット・痛みがない
・被曝がない
・短時間で検査が可能
・短時間で広範囲を撮影できる・痛みがない
・被曝がない
デメリット・検査医師・技師によって検査精度が左右されやすい
・肥満の方や腸にガスがたまっている方では検査精度が下がることがある
・放射線による医療被曝がある
・造影剤を使用する場合は痛みや副作用のリスクあり
・時間がかかる
・音がうるさい
・検査を受ける際には細かい制限がある
検査前の準備6〜8時間前から絶食3〜6時間前から絶食3〜6時間前から絶食
膵臓がんの診断能※1感度※2:88%
特異度※3:94%
感度:90%
特異度:87%
感度:93%
特異度:89%
※1. 診断脳:病気に対して、「病気である」と正しく判定できる能力
※2. 感度:病気がある人を正しく判定できる割合
※3. 特異度:病気ではない人を正しく判定できる割合

腹部超音波(エコー)検査は、腹部にある臓器(肝臓、胆のう、膵臓、脾臓、腎臓、大動脈など)のスクリーニング検査としてよく用いられます*9。痛みや医療被曝がないため身体への負担が少ない利点があります。膵臓がんの診断能で比較した場合、エコー検査の感度はCTやMRIよりやや劣るものの、遜色ないとされています*10。一方、医師や技師の技量や、受診者の状態(ガスが溜まっている、脂肪が多いなど)によって検査精度が左右されやすい懸念点があります*11,*12

腹部CT検査は、専用の装置に入りX線で腹部にある臓器の状態を画像化する検査です。膵臓がんの診断能は高いとされていますが、身体への影響は限定的ではあるものの医療被曝があり、造影剤を使用する場合は造影剤アレルギーなどにも注意が必要です。

腹部MRI検査は、CT検査と同様、専用の装置に入り腹部を撮影する検査ですが、CTと異なり痛みや医療被曝はありません。膵臓がんの診断能はCTよりやや高く、とくにMRCPは膵臓がんが影響を及ぼすことが多い膵管を詳細にとらえるため、有用性が報告されています*10。ただし、強い磁場を利用するため検査を受ける際には制限が多いこと、検査時間の長さ、独特の検査音といったデメリットもあります。

自覚症状はないけれど念のため調べておきたい方は、ファーストステップとして腹部エコー検査を受けるとよいでしょう。後述の「MRCPの受診がおすすめの方」に当てはまる方は、MRCPなどの検査も検討しましょう。

MRCPと、ERCP、EUSとの違いとそれぞれの特徴

MRCPと似た名称の検査としてERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)があります。MRCPとERCPの大きな違いは、検査方法です。MRCPはMRIを利用して臓器を撮影する検査ですが、ERCPは胃カメラのように内視鏡を用いて、身体の内側から病変を調べる検査です。

胆道や膵臓を内視鏡でより専門的に調べる検査には、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)のほかにEUS(超音波内視鏡検査)という方法もあります。これらは画像診断に加え、組織採取(生検)や治療を行うことが可能であり、腹部エコー検査等で異常がみられた場合の精密検査として行われることが一般的です*11,12。ERCPとEUSの検査方法や特徴は下記の通りです*11-13

【ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)】

  • 検査方法:内視鏡を口から入れ、胆管・膵管に細い管(カテーテル)を通し造影剤を注入して撮影する検査
  • 特徴:胆管・膵管を流れる液体(胆汁・膵液)内のがん細胞の有無を調べられ、確定診断が可能。ただし、胆汁細胞診により悪性の可能性を評価できるものの感度は高くないため、確定診断には病理学的診断などを要する。検査中に管が細くなっているなどの異常があった場合、治療を行うこともある
  • 留意点:内視鏡による偶発症(内視鏡が臓器を傷つけるなど)などのリスクがある

【EUS(超音波内視鏡検査)】

  • 検査方法:先端にプローブがついた内視鏡を口から十二指腸まで入れ、体内から臓器を観察する検査
  • 特徴:体内から目的の臓器にプローブを当てるため、CTやMRIではとらえきれない小さな病変を見つけることもできる。組織採取(生検)による確定診断や、場合によっては治療を行うこともある
  • 留意点:内視鏡による偶発症(急性膵炎など)、鎮静剤による副作用等のリスクがある

MRCP検査の流れ―なぜ絶食? 造影剤は使わない?

検査当日の具体的な流れ

​MRCP検査の流れは以下のとおりです*2

  1. ​検査当日:飲食の制限
    検査当日は、検査の4〜6時間前から絶食、2時間前から絶飲水と指示されるのが一般的です。医療施設により指示が異なるため、指示に従いましょう。
  2. ​来院後:問診・着替え
    体内に金属類がないかなどを問診票で最終確認します。時計やアクセサリー、金属のついた下着などを外し、専用の検査着に着替えます。
  3. ​検査直前:経口造影剤を飲む
    検査直前に、施設によっては胆管や膵管をより見やすくするため、コップ1杯程度の経口造影剤を飲むことがあります。
    ※すべての医療施設で行われるわけではありません。
  4. ​検査中:撮影
    MRI装置のベッドに横たわり、撮影が開始されます。検査時間は20~40分ほどです。検査中は大きな音が発生するため、耳栓などで対策します。また、鮮明な画像を得るために、数秒間の息止めを何度か行います。
  5. ​検査後:終了
    着替えたらすぐに帰宅でき、日常生活の制限もとくにありません。

MRCP検査の注意点として、体内に金属が埋め込まれている方は受診できない場合があります。詳細はこちらの記事をご覧ください。MRI検査に不安がある方、狭い場所が苦手な方は、事前に受診予定の医療施設に問い合わせておきましょう。

狭い場所が苦手な方向けのMRIは下記記事でも解説しています。

MRCPはなぜ絶食? 食事の注意点について

MRCP検査前には絶食が必要です。そのおもな理由が下記2点です。診断の精度を上げるため、そして胆のうを十分に拡張させるためです。

【胆管・膵管を見やすくする】
胃の中に飲食物が残っていると、目的の胆管や膵管の画像が不明瞭になることがあります。

【胆のうを十分に拡張させ、状態を正確に評価する】
食事をすると胆のうが縮んで、胆汁が放出されます。通常、食後2~3時間で胆のうは検査可能なレベルまでふくらみますが、タンパク質や脂質の多い食事をとったあとは胆のうの収縮が長引くため、6時間ほど空けることが望ましいとする報告もあります*14

より正確な検査結果が得られるよう、医療施設から指示された絶食・絶飲の時間を守り、前日は消化のよい食事をとるようにしましょう。

MRCP検査の直前に“飲む”造影剤とは?

​MRCP検査では、施設によって検査前に液体の造影剤を飲むことがあります。これは、CT検査等で使用することがある注射する造影剤(多くの場合、ヨード造影剤)とは異なるタイプの造影剤で、胆管・膵管を見やすくする目的で使われますが、必須ではありません。

MRCPは、胆汁や膵液といった「液体」を白く光らせて画像化することから、胃や十二指腸にある水分は診断の妨げになります。しかし、この液体を飲むと胃や十二指腸の水分が画像上では黒く映るため、胆管や膵管の状態がよりわかりやすくなり、正確な診断がしやすくなります。

MRCPで使用する造影剤は、血管から全身に巡る注射の造影剤と異なり、体内に吸収されずにそのまま便として排出されます。そのため副作用は少ないですが、マンガンを含むため軟便や下痢が起こることがあります。

MRCPの費用は?

自覚症状や健診で異常が指摘されて受診する場合(保険診療)

腹痛などの自覚症状がある、あるいは健康診断や人間ドックの超音波検査などで異常が見つかり、医師が「精密検査が必要」と判断した場合は、健康保険が適用されます。MRCPの費用の目安は、3割負担の場合で以下の通りです。

​費用の目安(3割負担の場合): 8,000円~12,000円程度

検診目的で受ける場合 (自由診療)

​とくに自覚症状はないものの、がんなどのリスクに備えて検査を希望する場合は、自由診療となり、全額自己負担です。人間ドックのオプション検査や、「膵臓ドック」「膵・胆道ドック」といった専門的な検診コースで、MRCPを受診することができます。自費のため費用は医療施設によって大きく異なりますが、一般的な相場は以下の通りです。

​費用の目安: 20,000円~35,000円程度

MRCPの受診がおすすめの方

日本膵臓学会のガイドラインによれば、以下が膵臓がんのリスク因子です*10。あてはまる方は、MRCPの受診がおすすめです。

  • 喫煙者
  • 糖尿病
  • 肥満
  • 多量飲酒
  • 血縁者に膵臓がんの罹患者がいる方
  • 膵炎や膵のう胞、胆石症の既往がある方

その他、原因不明の上腹部痛や背部痛が続く方(他の因子がある場合)や腹部エコー検査で膵臓が見えにくいと言われた方も注意が必要です。とくに膵臓がんは、日本のがん死亡数の第3位であり、早期発見が難しいことが知られています*15。ひとつでも心当たりがある方は、放置せずにかかりつけ医や専門の医療施設に相談しましょう。

MRCPが受けられる医療施設

​MRCP検査は、MRI装置が導入されている大学病院や地域の基幹病院のほか、近年では「膵臓ドック」などを実施する専門のクリニックで受けることができます。

胆道や膵臓は内科の中でもとくに専門的な分野です。専門医が在籍する医療施設は、各学会のサイトから検索できます。

日本胆道学会 認定指導施設一覧(外部サイト)
日本膵臓学会 認定指導施設一覧(外部サイト)

MRCPが受けられる医療施設は、マーソでもご覧いただけます。検索条件に、「MRCP」を入れて検索してみてください。

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参考資料
*1. 日本胆道学会 MRI(MRCP)
*2. 日本膵臓学会 膵臓の検査 MRI/MRCP
*3. 日本胆道学会 胆石症
*4. 国立がん研究センター中央病院 膵嚢胞性腫瘍(IPMN, MCN, SPN, SCNなど)の外科治療
*5. 国立がん研究センター東病院 膵のう胞性腫瘍
*6. 森本大介ら(2020)「新時代の腹部MRI ーMRCPを中心にー」日本放射線技術学会 近畿支部雑誌 26(2)
*7. 国立がん研究センター がん情報サービス 膵臓がん 検査
*8. 国立がん研究センター がん情報サービス 胆道がん(胆管がん[肝内胆管がんを含む]・胆のうがん・十二指腸乳頭部がん) 検査
*9. 日本膵臓学会 腹部超音波検査
*10. 日本膵臓学会「膵癌診療ガイドライン2022年版」
*11. 日本消化器がん検診学会 「腹部超音波検診判定マニュアル改訂版(2021年)」
*12. 日本消化器病学会 健康情報誌「消化器のひろば」No.17-3
*13. 東京大学医学部附属病院 消化器内科 胆膵グループ 主な対応疾患、診療実績
*14. 露口智絵ら(2017年)「MRCP における食事摂取後の継時的胆嚢体積変化について」日本赤十字社診療放射線技師会電子会誌 8
*15. 国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 最新がん統計

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