脳ドック

脳腫瘍に前兆はある? 初期症状やかんたんなチェック方法も解説

脳腫瘍 脳ドック
上昌広
こちらの記事の監修医師

東京大学医学部卒医学博士。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 理事長

上昌広(かみ まさひろ)
山本 佳奈
こちらの記事の監修医師

ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所 研究員

山本 佳奈(やまもと かな)

脳腫瘍は珍しいがんのひとつですが、命に関わる可能性もある重大な病気です。本記事では、脳腫瘍の初期症状のほか、脳腫瘍の種類や特徴、子どもの症状、脳腫瘍の原因やなりやすい人、脳腫瘍を早期発見するための方法について解説します。

★こんな人に読んでほしい!
・脳腫瘍を早期発見したい方
・脳腫瘍の可能性を知りたい方
・頭痛やめまいなど、気になる症状がある方

★この記事のポイント
・脳腫瘍は年齢を問わず、子どもから高齢者まで発症する可能性がある
・脳腫瘍の初期症状は、頭痛や吐き気のほか、手足のまひ、意識障害、性格や行動の変化などさまざま
・子どもの脳腫瘍は、頭囲の拡大、嘔吐、不機嫌、活動性の低下などの症状に注意が必要
・脳腫瘍の特有の予防法は確立されていないが、脳ドックで早期発見の機会が増えている

脳腫瘍とは

脳腫瘍は珍しいがんで、高齢者に限らず子どもでも発症する

脳腫瘍とは、頭蓋骨の中にできる腫瘍の総称です*1。脳腫瘍には悪性と良性があり、2020年に脳・中枢神経系のがん(悪性の脳腫瘍)と診断された人は男女計5,714人です*2。これは全がんの0.6%程度であり、がんの中でも稀ながんと言えます*2,*3。悪性脳腫瘍は80代以上の高齢者に多いですが、20~50代の働き盛り世代の発症も少なくありません*2。また、子どもも発症することがあり、小児がんの中では白血病に次いで2番目に多いがんとなっています*4

脳腫瘍には良性・悪性があり、悪性の腫瘍が約半数を占める

脳は大脳、小脳、脳幹で構成されており、大脳はさらに前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉などに分けられ、それぞれ異なる機能を持っています*5。脳腫瘍は各部位からさまざまな種類が発生し*1、WHO(世界保健機関)は100種類以上に分類しています*6

脳腫瘍は、脳や脳を包む組織から新たに発生する「原発性脳腫瘍」と、肺がんや乳がんなど他の臓器のがんが脳に転移する「転移性脳腫瘍」に分けられます*1。原発性脳腫瘍には良性と悪性があり、脳腫瘍全体のうち、原発性脳腫瘍の割合は良性が51%、悪性が32%、転移性脳腫瘍が17%だとするデータがあります*7。転移性脳腫瘍は悪性であるため、脳腫瘍の約半数は命に重大な影響を及ぼすものと言えます。

代表的な悪性脳腫瘍の「膠芽腫」は予後が悪い

脳腫瘍の予後は、腫瘍の種類や悪性度によって大きく異なります。たとえば、脳腫瘍の種類のうち、多くが良性とされる「下垂体腺腫」の5年生存率(診断されて5年後の生存率)は98.2%~99.3%です。他方、悪性脳腫瘍の中でも比較的頻度が高い「膠芽腫(こうがしゅ/グリオブラストーマ)」の5年生存率は16.0%と報告されており、長い余命を見込みにくいのが現状です*7,*8

脳腫瘍は、悪性はもちろん良性腫瘍でも、放置すると脳を圧迫することで命を脅かされる危険があります。また、悪性脳腫瘍は進行が速いことからも*1、脳腫瘍自体の早期発見・早期治療が非常に重要です。

脳腫瘍の初期症状・前兆とは?

脳腫瘍の初期症状・前兆をチェック

脳腫瘍が発生すると、はじめに現れる症状として下記が挙げられます*1,*5

  • 頭痛
  • 吐き気、嘔吐
  • 意識がぼんやりする
  • 片側の手足のしびれや脱力、麻痺
  • 言葉が出にくい
  • 物が二重に見える
  • てんかん発作
  • 性格が変わる
  • 感情のコントロールが難しい
  • 記憶力が低下する、集中力が続かない
  • 聴力が低下する
    など

脳は頭蓋骨に囲まれていて、余分なスペースがほとんどありません。そのため、脳腫瘍が発生すると頭蓋内の圧力が高まり、脳が圧迫されることで、頭痛や吐き気が生じると言われています*5

また、脳は前頭葉、側頭葉、頭頂葉などの部位によって異なる機能を持つことから、脳腫瘍の発生部位によって異なる症状が現れます。たとえば前頭葉に腫瘍ができると、片側の手足のしびれや無気力、性格変化や尿失禁、言葉が出にくい失語症などの症状が現れることがあります*5

脳腫瘍自体は珍しい病気ですが、気になる症状があれば、早めに脳神経外科や脳神経内科を受診しましょう。脳梗塞や脳出血、認知症など、ほかの脳の病気の症状の可能性もあり、これらの病気の早期発見・早期治療につながります*1

脳腫瘍の頭痛の特徴は?

脳腫瘍の代表的な症状に頭痛があります。その特徴として、とくに朝起きたときに頭痛が強くなるとされていますが、脳腫瘍患者のうち起床時の頭痛症状があった方は17~32%とそこまで頻度は高くなかったとの報告があります*9

痛みの種類としては、頭を締め付けるような痛み、あるいはズキズキとした痛みが多いと言われています。また、数時間続く頭痛が1週間に1~3回起こるような頭痛が多く、持続的な頭痛は少ないとされています。頭痛の場所は、前頭部(おでこ付近)が多く、次いで側頭部(こめかみから耳の裏側)、側頭部(頭のてっぺん)が多いとされていますが、いずれも個人差があります*9

片頭痛に似ている場合などもあり、頭痛のみで脳腫瘍と診断することはできません。ただし、これまでに経験のない頭痛、吐き気やしびれなど頭痛以外の症状もともなう、頭痛の痛みが徐々に進行している場合にはとくに注意が必要であるため、速やかに脳神経外科や脳神経内科を受診しましょう*9

脳梗塞・脳出血における頭痛の現れ方や特徴については下記記事で解説しています。

実際に脳腫瘍発見のきっかけとなった初期症状は?

脳腫瘍患者70名のデータにおいて、脳腫瘍発見のきっかけとなった最も多い初期症状は認知機能障害で18名でした。この認知機能障害には行動変化、記憶障害、視野障害などの症状が含まれています。次に多かったのが頭痛や吐き気で15名、そして運動麻痺が11名という結果でした。とくに頭痛については、高齢者よりも若い方に多く認められました。高齢者では脳の萎縮などが見られるため、頭蓋内の圧が高くなりにくいことが理由として考えられています*10

一方、近年はCTやMRIなどの画像診断技術の発達や脳ドックの普及により、無症状の段階で脳腫瘍が発見される機会が増加しており、早期発見・早期治療につながるケースが増えてきています*11

子どもの脳腫瘍による初期症状―大人との違い

子どもの脳腫瘍のおもな症状は、頭囲(頭の周りの長さ)が大きくなる、嘔吐する、不機嫌になる、活動性が低下する、体重が増えなくなる、利き手が変わるなどです*12。頭痛や視覚障害などが現れることもありますが、子どもの場合は自分の状態を正確に伝えることが難しく大人が気づきにくいこともあります。また、なんらかの症状があったとしても、それらの症状と脳腫瘍を結びつけることは難しいため、初めから脳腫瘍を疑って医療施設を受診するケースは非常に稀です*13。お子さんの日常的な行動や様子に違和感を覚えたら、早めに小児科を受診するようにしましょう。

脳腫瘍の原因と、なりやすい人の特徴とは?

現在のところ、脳腫瘍の原因はほとんど解明されておらず、どのような人が脳腫瘍になりやすいのかは、まだ完全にはわかっていません。環境要因やストレスなどの影響についても、はっきりとした因果関係は証明されていません*14

なお、2020年の研究結果では、男性でBMIが高くなるほど脳腫瘍の罹患リスクが増加する傾向が見られました。男性のBMIが27.5以上のグループでは、BMIが18.5〜23のグループと比較して脳腫瘍リスクが約2.14倍高くなりました。肥満による慢性炎症と脳腫瘍の関連が考察されていますが、症例数も限られていたことから今後さらなる研究が必要とされています*15

予防と日常生活での注意点

自宅でできるかんたんテスト

脳腫瘍に気づくきっかけのひとつである手足のまひやバランス障害を早期発見するために、自宅でかんたんにできる3つのテストを紹介します*16

【両上肢挙上試験】
手のひらを上に向けて、両腕をまっすぐ前に伸ばします。麻痺がある場合、その腕が内側に向いて下がってきます。

【片足立ち試験】
片足で立つ姿勢を、左右それぞれ行います。麻痺がある足では、上手く立つことができません。

【指鼻試験】
人差し指を左右にまっすぐ伸ばし、左右片方ずつ鼻の先に触れるのを繰り返します。バランス異常がある場合、指が鼻の先からずれてしまいます。

これらのテストは目を閉じると症状がより顕著になります。異常を感じたら、すみやかに医療施設を受診しましょう。

生活習慣の改善

現時点で、脳腫瘍の予防に直接効果があると証明された生活習慣はありませんが、がん全般の予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な身体活動、適正体重の維持などが有効であることがわかっています。このような生活習慣を心がけることは、がん予防のほか、生活習慣病の予防などご自身の健康維持に役立ちます。日常生活の中で、これらの健康習慣を少しずつ取り入れていくようにしましょう*14

30代から早期発見のために、脳ドックを受診しよう

現在、脳腫瘍については、厚生労働省の指針として定められているがん検診がありません。一方、脳ドックにより、偶然脳腫瘍が発見されるケースもあることから*14、不安な方は脳ドックの受診を検討しましょう。

脳ドックは、脳の状態を詳しく調べる検査です。頭部MRI/MRA検査、頸動脈エコー検査などの専門的な検査を行い、脳の疾患や異変を検出します。脳ドックのおもな目的は脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の早期発見ですが、脳腫瘍を見つけることも可能です。

脳ドックを受診できる医療施設はこちらから検索できます。

マーソでは、脳ドックに関する記事をたくさんご用意しています。あわせてお読みください。

マーソの脳ドックの記事一覧

参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 脳腫瘍〈成人〉について
*2.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 脳・中枢神経系
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 全がん
*4.国立がん研究センター がん情報サービス 小児がんの患者数(がん統計)
*5.キャンサーネットジャパン「もっと知ってほしい悪性脳腫瘍のこと」2019年
*6. Louis DN, et al. The 2021 WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System: a summary. Neuro Oncol, 2021; 23(8)
*7.国立病院機構 岡山医療センター 脳腫瘍‐脳神経外科
*8.国立がん研究センター がん情報サービス 脳腫瘍〈成人〉患者数(がん統計)
*9.佐々木光「二次性頭痛:脳腫瘍と頭痛 ―メカニズム,診断,治療」日本内科学会雑誌 112(8) 2023年
*10.草場正彦ら「脳腫瘍患者の初期症状と病院に受診するまでの期間について」 理学療法科学 33(1) 2018年
*11.橋本直哉「無症候性脳腫瘍の自然経過と治療のタイミング」脳神経外科ジャーナル 27(6) 2018年
*12.キャンサーネットジャパン 小児脳腫瘍とは
*13.国立がん研究センター がん情報サービス 脳腫瘍〈小児〉について
*14.国立がん研究センター がん情報サービス 脳腫瘍〈成人〉予防・検診
*15.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 体格と脳腫瘍の罹患リスクとの関連について
*16.国立がん研究センター中央病院 脳脊髄腫瘍科 診療について

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