マンモグラフィは、2枚の板で乳房を挟んで撮影する検査です*1。そのため、自分の胸が挟めるか不安に思われる方もいるかもしれません。本記事では、胸が小さい場合のマンモグラフィの可否や痛みについて解説するとともに、医療施設選びのコツ、マンモグラフィ以外の検査方法についても解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・胸が小さめで、十分に挟めるか不安な方
・マンモグラフィでの痛みが気になる方
・過去に挟めなかった経験のある方
★この記事のポイント
・マンモグラフィは乳房を2枚の板で挟んで撮影する検査で痛みを感じることがあるが、乳がんによる死亡率減少効果が示されている
・マンモグラフィは胸が小さくても挟むことができ、男性の乳房も挟めるほどである
・胸の大きさと圧迫時の痛みは関係ないが、皮膚が伸びにくい方は胸を引っ張るときに痛みを感じることがある
・マンモグラフィがどうしても難しい方は「胸を挟まない」検査として乳腺超音波(エコー)検査や、乳房PET(PEM)検査、乳腺MRI検診も選択肢に
・最新のマンモグラフィには小胸用の圧迫板が搭載されているものもある。医療施設選びの際は認定技師の在籍もチェックを
目次
マンモグラフィとはどんな検査?
マンモグラフィは、乳房を2枚の板で挟んで撮影する検査
マンモグラフィは乳房に特化したX線検査で、おもに乳がんの早期発見を目的に行われます。2枚の透明な板で乳房を挟み、薄く伸ばして撮影します*1。
<マンモグラフィ>

画像上に乳房全体を写し出すために、やや斜め方向から縦に乳房を圧迫するMLO(内外斜位方向)撮影と、水平を保って上から乳房を圧迫するCC(頭尾方向)撮影が行われます。

この2方向からの撮影を左右の乳房で行うため、乳房を圧迫する回数は計4回です。圧迫する時間は1回10秒ほど、合計40秒程度です。なお、50歳以上の乳がん検診や小さめの乳房の方では、縦やや斜め方向のMLO撮影だけが行われることもあります*2。
マンモグラフィの特徴や検査の流れ、注意点については、下記記事で詳しく解説しています。
マンモグラフィでは乳房に痛みを感じることがある
マンモグラフィでは、乳腺をより広くよりはっきりと描出して病変を見つけやすくするために、乳房を引っ張り出したり強く圧迫したりする必要があり*1,2、この際に痛みをともなうことがあります。痛みの感じ方は人それぞれで、強く感じる方もいればあまり感じない方もいます*3。
なお、胸が小さいとマンモグラフィの痛みが強くなるかどうかについては、後述の「胸が小さいほど、マンモグラフィは痛い?」で解説します。
マンモグラフィは乳がんによる死亡率減少効果が示された検査
乳がんの検査には、マンモグラフィのほかに乳腺超音波(エコー)検査や乳腺MRI検査、乳房PET(PEM)検査などがありますが、乳がんによる死亡率の減少効果が示されているのはマンモグラフィのみです*4。厚生労働省が推進する自治体主導のがん検診でも、マンモグラフィの実施が推奨されています*5。
マンモグラフィは、視触診では発見しづらい小さな病変や、乳腺超音波(エコー)検査では発見しづらい石灰化(カルシウムが沈着したもので、乳がんでみられることがあるもの)の発見に優れています*6。
石灰化について詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。
一方で、前述のとおりマンモグラフィは検査に痛みをともなう場合もあり、身体的な負担を感じやすい検査です。また、マンモグラフィの死亡率減少効果が示されたのは40歳以上を対象とした試験のみで、40歳未満の方ではその効果が明らかになっていません*7。マンモグラフィの画像では、病変や石灰化だけでなく乳腺も白く写ります。そのため、乳腺の密度が高い20~30代の方や、高濃度乳房(デンスブレスト)の方は、病変があっても見つかりにくいことがあります*6。
20〜30代の乳がん検診については、下記記事でも紹介しています。
胸が小さくても、マンモグラフィはできる?
胸が小さくても基本的に挟める。男性の胸も検査可能
マンモグラフィは、基本的に胸が小さい場合でも挟めます。検査技師が脇下や背中から肉を寄せ集め、圧迫用の板で引き延ばして挟みます。引き延ばす際に、乳房の大きさにかかわらず多少の時間がかかる場合がありますが、検査技師は慣れているため恥ずかしく感じることはありません。なお、男性の胸も挟むことが可能で、男性の乳がんの検査時にもマンモグラフィが用いられています*8。
前述のとおり、マンモグラフィは乳がんを早期発見するために必要な検査です。40歳以上の女性であれば、2年に1回のマンモグラフィの受診が推奨されています*5。胸が小さめであることが受診をためらう理由であるなら、問題なく検査を受けられるので心配いりません。定期的に身体の状態を把握するためにも、必ず受診しましょう。
まれにマンモグラフィで挟めない場合もある
胸のサイズを理由にマンモグラフィができないことは基本的にありません。しかし、胸骨や肋骨が陥没した「漏斗胸」といわれる病気の方や、脊椎が強く曲がっている状態の方、上半身に障害があり、胸を挟むほど高く腕を挙げられない方など、胸を十分に挟むのが難しい場合はマンモグラフィができないことがあります*9。
また、そのほかにマンモグラフィの受診ができない方として、以下が挙げられます。
- 妊娠中もしくは妊娠している可能性がある方
- 授乳中の方
- 豊胸手術を受けた方
- 1年以内に胸部付近の手術をされた方
- 撮影時に破損の恐れがある医療器具等を装着している方(例:ペースメーカー、VPシャント、カテーテル、CVポート等)
など
医療施設によって対応が異なることがあるため、該当する方は事前に確認しておきましょう。
胸が小さいほど、マンモグラフィは痛い?
乳房の大きさと痛みは、基本的に関係なし
一般的に乳房の大きさとマンモグラフィの痛みは関係ないとされています。乳房が小さめの方や男性でも痛みを感じないこともあれば、逆に強い痛みを感じる方もおり、個人差があります。ただし、マンモグラフィの痛みは板で圧迫するときだけでなく、乳房を引っ張って板に固定するときにも感じやすいとされており、胸が小さめで皮膚が伸びにくい方であれば、より強く引っ張り出す必要があるため、痛みを感じることがあります。
痛みを軽減するためには、生理前を避けてリラックスして受診する
マンモグラフィによる痛みは、乳腺が発達した状態のほうが感じやすいと言われています。とくに20~30代の女性は乳腺が発達していることが多いため、痛みを感じやすい傾向にあります。また、生理前から生理中の期間も、女性ホルモンの影響で乳腺が発達した状態になります。そのため、マンモグラフィによる痛みを軽減させるためには、生理が終わったあとの乳腺のやわらかい時期に受診するのがおすすめです*2。また、身体が力んだ状態では痛みを強く感じやすいため、リラックスして受診することも大切です*3。マンモグラフィの撮影時に我慢できないほどの痛みを感じたときは、無理せず検査技師に申し出ましょう。
生理が乳がん検診に影響する理由や、最適な受診タイミングについては、以下で詳しく解説しています。
マンモグラフィの痛みを軽減するポイントについては、以下で解説しています。
胸が小さくて挟めるか心配な方に。医療施設選びのポイント
新しいマンモグラフィを導入している
最近のマンモグラフィには、胸が小さめの場合でも上手く挟めるように「小乳房用圧迫板」を備えたタイプが登場しています。マンモグラフィでは、検査技師が受診者の乳房を手で引っ張り、さらに周辺の肉を寄せ集めながら圧迫板で挟み、手を引き抜いて乳房が板状になるまで圧力をかけて薄く伸ばします。小乳房用圧迫板は通常の圧迫板と比べて手を引き抜きやすい形になっており、検査技師が引っ張ってきた乳房をぎりぎりまで持っておくことができるため、より乳房を挟みやすい仕様になっています。このような最新のマンモグラフィが導入されているかどうか、医療施設のWebサイトなどで確認してみましょう。
女性の検査技師が在籍している
女性スタッフが対応してくれることで、マンモグラフィへの不安や羞恥心が和らぐこともあります。胸が小さめの場合には、検査技師が乳房を装置に挟む際に時間がかかることもあるため、気になる方は女性の技師が在籍する医療施設を選ぶとよいでしょう。
「検診マンモグラフィ撮影認定診療放射線技師」が在籍している
「検診マンモグラフィ撮影認定診療放射線技師」とは、日本乳がん検診精度管理中央機構が発行する認定資格です*10。マンモグラフィに関する講習会や試験をクリアした技師が認定されることから、技術が担保された検査技師を探す際の目安のひとつとなります。資格を持つ検査技師は、日本乳がん検診精度管理中央機構のWebサイトより検索することができます。
日本乳がん検診精度管理中央機構 検診マンモグラフィ読影認定医師リスト (外部サイト)
どうしてもマンモグラフィを受けるのが難しい場合の検査方法は?
40歳未満の方は、乳腺超音波(エコー)検査を選択肢に
乳腺超音波(エコー)検査とは、仰向けに寝た状態で乳房の上に超音波プローブを当てることで乳房の画像を得る検査です*6。X線を用いないため、被曝の心配がありません。
<乳腺エコー検査>

乳房を挟む必要がないため、どんな胸のサイズの方でも身体的負担が少ない検査と言えます。また、20代や30代の乳腺が発達した方や、高濃度乳房(デンスブレスト)の方は、乳腺超音波(エコー)検査のほうがマンモグラフィより乳がんの発見に役立つことがあります*6。
ただし、乳腺超音波(エコー)検査の乳がんによる死亡率減少効果は現状では明らかになっていません*7。また、マンモグラフィに比べて、石灰化を見つけるのには向いていません。乳腺超音波(エコー)検査は自身の年齢、メリット・デメリットなどを考慮して選択するとよいでしょう。
人間ドックなどで行われる乳房PET(PEM)検査や乳腺MRI検査も検討しよう
乳がんの検査はマンモグラフィや乳腺超音波(エコー)検査が主流ですが、近年は「痛くない」「恥ずかしくない」新しい乳がん検診の方法として、乳房PET(PEM)検査や乳腺MRI検査が登場しています。
PEM(ペム/Positron Emission Mammography)検査
乳房専用のPET検査装置を用いた検査で、乳房専用PETやマンモPETなどと呼ばれることもあります。18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)と呼ばれる放射性薬剤を体内に注射して撮影し、乳がんを発見します。マンモグラフィのように2枚の板で乳房を挟む「対向型」と、バスト部分が開いたベッド様の装置にうつ伏せになる「リング型」があります。
乳腺MRI検査
強い磁場と電磁波を利用して身体の内部を撮影するMRI装置を利用し、乳がんを発見する検査です。最近では、より身体への負担が少ない検査として、造影剤を使用する必要がない「無痛MRI乳がん検診」も登場しています。
リング型の装置によるPEM検査や乳腺MRI検査は、ベッドのような装置にうつ伏せで寝て、装置に乳房を下垂させて撮影を行います。
<乳腺MRI検査(リング型)>

検査時は基本的に受診する側が自身で乳房を装置に下垂させるか、着衣(検査着)のままです。検査時に胸を見られたり、さわられたりすることに抵抗がある方、マンモグラフィの圧迫による痛みを避けたい方は検討してみてください。デメリットとしては、いずれも受けられる医療施設数が少ない点、また基本的に人間ドックなどでの自由診療となるため費用が高い点などが挙げられます。PEM検査と無痛MRI乳がん検診については、下記記事で詳しく解説しています。
乳がんは女性の9人に1人が生涯罹患する病気、必ず検診を受診しよう
乳がんは女性の9人に1人が生涯で罹患するといわれるほど、女性にとって身近ながんです*11。また、乳がんの罹患者は20代後半から徐々に増えて30代で急増し、40代後半に最初のピークを迎えることから、若年層でも留意する必要があります*12。
一方で、早期に発見して適切な治療を行えば、5年相対生存率(2014-2015年/ネット・サバイバル※)は98.9%と予後はよいです*13。早期発見には、定期的な乳がん検診の受診が大切です。乳房が小さめであってもマンモグラフィは問題なく受けられるので、過度に不安がらず、どうしても難しい場合はほかの検査方法を検討しながら、定期的に乳がん検診を受診しましょう。
※ネット・サバイバル:「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。2014-2015年5年生存率から「相対生存率」に代わり採用されている。
人間ドックの見方では、乳がんや乳がん検診・検査に関する記事を多数用意しています。あわせてご参照ください。
参考資料
*1.国立がん研究センター 中央病院 乳房X線検査(マンモグラフィ)
*2.日本放射線技術学会 マンモグラフィ
*3.東京都予防医学協会 乳がん検診
*4.国立がん研究センター がん情報サービス 乳がん検診
*5.厚生労働省 がん検診
*6.国立がん研究センター がん情報サービス 乳がん 検査
*7.国立がん研究センターがん対策研究所 がん検診ガイドライン 乳がん
*8.国立がん研究センター中央病院 男性乳がん(だんせいにゅうがん)
*9.厚生労働省 がん検診のあり方に関する検討会「がん検診事業のあり方について」2023年
*10.日本乳がん検診精度管理中央機構 検診マンモグラフィ撮影診療放射線技師の認定を受けるには
*11.がん研究振興財団「がんの統計2023」
*12.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 乳房
*13.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計