甲状腺がんは女性に多く、20~40代の若年層でも罹患するがんです。本記事では、甲状腺がんが疑わしいしこりの見分け方や、なりやすい人の傾向、甲状腺超音波(エコー)検査の意義などを詳しく解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・甲状腺がんの予防・早期発見をしたい方
・首の腫れやのどの違和感が気になっている方
・甲状腺がんになった血縁者がいる方
★この記事のポイント
・甲状腺がんはおもに5つのタイプに分類される
・甲状腺がんの90%を占める「乳頭がん」は予後が良好だが、まれな「未分化がん」は予後不良である
・初期は無症状なことが多い。のどぼとけの下付近の「しこり」や「声のかすれ」といった症状を見逃さないことが重要
・甲状腺超音波(エコー)検査は微細ながんを発見できるが、すべての人に早期発見が重要とは言い切れない
・甲状腺超音波(エコー)検査は、甲状腺がんのほか橋本病やバセドウ病の発見にも有用
目次
甲状腺がんとは?基本情報と予後について
甲状腺がんは女性に多く、20代~40代でも罹患する
甲状腺がんとは、のどぼとけの下にある「甲状腺」に発生する悪性腫瘍です*1。甲状腺は、蝶が羽を広げたような形で気管を包み込むように位置しており、その裏側には声帯を動かす「反回神経」が通っています。海藻などの食べ物に多く含まれるヨード(ヨウ素)を原料に、新陳代謝や細胞の成長を促す「甲状腺ホルモン」を分泌しています*1。
甲状腺がんの大きな特徴は女性に多いことです。罹患者数全体のうち、約7割を女性が占めます。国内では年間約1万6000人以上が罹患しており、年々増加傾向にあります。年代別では40代後半以降に多くみられますが、20代から40代前半にも罹患がみられることから、若年女性でも注意が必要です*2。
甲状腺がんの代表的な5つのタイプ―性質や進行速度の違い
甲状腺がんは、組織の状態によって大きく5つのタイプに分類され、タイプによって進行の速さや予後が大きく異なります*1,*3。
| 種類 | 頻度 | おもな特徴 |
|---|---|---|
| 乳頭がん | 約90% | 最も多いタイプ。進行がゆっくりで、予後は良好。 まれに再発を繰り返したり、悪性度の高い 「未分化がん」へ変化したりすることがある |
| 濾胞(ろほう)がん | 約5% | 2番目に多いタイプ。乳頭がんに比べリンパ節への転移は 少ないが、血行性に肺や骨などへ遠隔転移することが ある。手術で適切に取り除き、転移がなければ予後は良好 |
| 低分化がん | 1%未満 | 乳頭がん・濾胞がんと未分化がんの中間的ながん。 乳頭がん・濾胞がんが低分化がんになったり、 低分化がんが未分化がんになったりすることがある |
| 髄様(ずいよう)がん | 約1~2% | 乳頭がんや濾胞がんよりも進行が速い傾向にある。 リンパ節や肝臓、骨に転移しやすい。遺伝的な要因が 関与していることがある |
| 未分化がん | 約1~2% | 非常に進行が速く、周辺臓器(反回神経・気管など)への 浸潤・全身への転移がしやすい特徴がある |
日本人の甲状腺がんの90%以上を占める「乳頭がん」は、非常にゆっくりと進行することが特徴で、予後は良好です*1,*3。「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2024」では、進行率が非常に低い「超低リスク乳頭がん」は治療をせず、積極的に経過観察をすることが推奨されています*4。
一方、発生頻度は少ないものの、進行が速く悪性度が高い未分化がんは予後が不良です。このように、甲状腺がんの中でもタイプによって進行速度や予後は大きく異なります。
甲状腺がんは種類によって生存率が大きく異なる
日本人の甲状腺がんの約95%を占める乳頭がん・濾胞(ろほう)がんは、ステージ3と診断されても10年生存率(2012年/ネット・サバイバル※)は95%以上と、他のがんに比べ比較的良好です*5。実際、甲状腺がんを克服した著名人や芸能人の話題をニュースなどで目にすることもあります。
しかし、甲状腺がんは組織型によって予後が大きく異なります。乳頭がん・濾胞がんは比較的良好な経過をとることが多い一方、未分化がんなどでは注意が必要です。進行が非常に速い「未分化がん」は、診断後1年間で亡くなる方が多く*4、5年生存率(2015年/ネット・サバイバル※)は8.9%ときわめて厳しい数字になっています*5。
※ネット・サバイバル:10年後または5年後に生存している割合のうち、「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。
甲状腺がんは予後がよいこともある? ただし放置判断は危険
ここまででお伝えした通り、甲状腺がんのうち頻度が高い「乳頭がん」は、他のがんと比較しても予後がよいがんです。一方で、がんの多くは早期発見・適切な治療が重要ですが、乳頭がんの中には進行が非常にゆっくりなものもあり、早期発見・治療が必ずしも患者の利益になるとは限らない場合もあります。そのため、命にかかわらないような超低リスクなものについては、ただちに手術をせず慎重に経過を見る「積極的経過観察」が推奨されています。
ただし、甲状腺がんを自己判断で放置してよいわけではありません。がんが進行して周囲の臓器(反回神経や気管、食道など)に広がると、声のかすれや飲み込みにくさ、気道狭窄(きょうさく)、誤嚥(ごえん)を引き起こすことがあります*1,*4。進行によって手術が必要な状態になった場合、手術にともなう合併症等のリスクも高まり、甲状腺をすべて切除した場合は生涯にわたる甲状腺ホルモン薬の服用が必要となることもあります*4。
また、遺伝性の関与が知られる「髄様がん」や非常に進行が速い「未分化がん」などは、早期の専門的診断と治療介入が予後を大きく左右します 。
自分は大丈夫だと思い込んだり、過度に不安になったりするのではなく、定期的に専門医による評価を受け、自身の状態を正しく把握することが大切です。詳しくは「甲状腺がんを超音波エコーで早期発見する意義はある?」で解説します。
がんと遺伝の関係については、下記記事で詳しく解説しています。
甲状腺がんの症状としこりの見分け方
甲状腺がんを疑う症状チェックリスト
甲状腺がんは初期には症状がないことも多いですが、病状の進行にともなって以下のような症状がみられることがあります*3。
甲状腺がんの症状チェックリスト*1,*3
【初期にみられることがある症状】
- 首のしこり
【進行するとみられることがある症状】
- 声のかすれ
- 飲み込みにくさ
- 呼吸のしづらさ
- 血痰
甲状腺は、声を司る反回神経や、気管、食道と隣接する場所に位置しています。そのため、がんが進行して周囲の組織に影響を及ぼすと、声のかすれや飲み込みにくさなどの症状が現れることがあります*6。気になる症状が続く場合は、医療施設で相談しましょう。
甲状腺の正しい場所と、甲状腺由来のしこりの特徴
甲状腺はのどぼとけのすぐ下にある縦4〜5cmほどの臓器で、気管の前面に張りつくように位置しています*7。甲状腺のしこりは、飲み込む動作(嚥下)に合わせて上下に動くことが特徴のひとつです。鏡の前で唾を飲み込んだときに、しこりが上下に動くかどうかを観察すると、甲状腺由来のしこりかどうかの参考になることがあります。
また、数週間のうちに目に見えて大きくなるなど急速な増大がみられる場合は進行の速い疾患の可能性もあるため*4、速やかな受診が必要です。
なお、甲状腺がんのように首のあたりにしこりができる病気に「悪性リンパ腫」があります。悪性リンパ腫は血液がんのひとつで、首やわきの下、足の付け根などのリンパ節にしこりができることがあります。首付近のしこりの原因、良性か悪性かの判断はさわっただけではわかりません。気になる症状があるときは、必ず専門医を受診してください。
悪性リンパ腫について知りたい方は、下記記事をご覧ください。
甲状腺がんで「肩の痛み」が起こることはある?
「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2024」には、甲状腺がんの典型的な症状に「肩の痛み」は挙げられていません。多くの場合、肩の痛みやこりは筋肉の疲労や血行不良によるものと考えられ、肩の痛みやこりの症状だけで、甲状腺がんを強く疑う所見とは一般的にはいえません。
ただし、がんが骨に転移した場合には、肩に痛みが出る可能性があります。また、甲状腺がんの手術後には首から肩にかけての筋肉にこりや違和感を感じる方もいます*4。首のしこりや声のかすれなどの症状をともなう場合は、専門医の診察を受けましょう。
甲状腺がんに「なりやすい人」の特徴と原因
甲状腺がんの原因ははっきりわかっていませんが、以下が甲状腺がん発生のリスク因子とされています*8。
- 小児期に頸部へ放射線治療を受けたことがある
- 肥満
- 甲状腺がんの家族歴(とくに髄様がん)
とくに小児期に頸部へ放射線治療を受けた場合、甲状腺がんのリスクが上昇することが知られています。また、肥満については、リスク上昇との関連が一部の疫学研究で示唆されていますが、因果関係は明確ではありません*8。
甲状腺がんのうち「髄様がん」は、遺伝的な要因が強く関与しており、その約40%が遺伝性とされています。ただし、髄様がん自体は甲状腺がん全体の1~2%程度とまれです*1。
よくある質問
甲状腺がんに気づいたきっかけで多いのは?
甲状腺がんが発見されるきっかけの多くは、自覚症状ではなく、ほかの病気の診察や検査による偶然の発見です。がんがある程度の大きさになると、首のしこりにふれて気づくこともありますが、初期の自覚症状はほとんどありません。風邪などの体調不良で受診した際に、医師が首の腫れに気づくケースや、人間ドックの「頸動脈超音波(エコー)検査」、「胸部CT検査」などで偶然見つかるケースが大半を占めています*8。
甲状腺に悪い食べ物・避けるべき習慣は?
基本的には特定の食べ物を避ける必要はありません。 一部の研究では、海藻類を極端に多く摂取し続ける習慣が甲状腺がんのリスクに関与する可能性が示唆されていますが、日本人の通常の食生活であれば神経質になる必要はないと考えられています*9。
甲状腺がんのセルフチェックは?
自宅で簡単にできるセルフチェックの手順は以下の通りです。
- 鏡の前で顎を少し上げ、首の形に左右差やふくらみがないかを確認
- 唾を飲み込み、のどぼとけの下付近で上下に動くしこりがないかを確認
- その周辺を指先でさわり、硬いしこりがないかを確認
正常な甲状腺組織は目立ってさわれることはあまりありませんが、体型や個人差によってはさわれることがあります。がんや良性腫瘍ができると、「しこり」としてさわれることもあります*10。ただし、自分ではっきりわかるほど腫れるケースは多くなく、セルフチェックのみで判断するには限界があります。気になる変化がある場合は医療施設で相談しましょう。必要に応じて、甲状腺超音波(エコー)検査などの評価が行われます。甲状腺がん検診の必要性については、のちの項で解説します。
ストレスが原因で甲状腺がんになりますか?
ストレスが甲状腺がんを引き起こすという医学的な根拠はありません。ただし、バセドウ病など一部の甲状腺疾患では、過度なストレスが発症や症状悪化の引き金になると考えられています*11。がん全般においても、ストレスによる免疫力の低下が健康に悪影響を及ぼす可能性は否定できませんが、直接の発症原因とは特定されていません*12。
のどが詰まる感じや違和感があるのですが、甲状腺がんのサインですか?
甲状腺がんのサインとして、のどの詰まりや違和感が現れることはまれです。甲状腺はのどの粘膜の外側にあるため、小さながんがのどの内側の症状を引き起こすほど影響を及ぼすことはあまりないと考えられるためです*13。
のどが詰まる感じがあっても食事は普通に摂れる場合や、何かに集中している時に違和感を忘れる程度であれば甲状腺がんによる症状の可能性は高くないと考えられます。ただし、食べ物がのどに詰まる、飲み込むと強く痛む、声がかすれるといった症状がある場合は、喉頭がんや食道がんの可能性もあります。早めに耳鼻咽喉科を受診してください*13。
甲状腺がんを超音波(エコー)検査で早期発見する意義はある?
甲状腺がんは一律「早期発見が重要」とは限らない
多くのがんは、早期に見つけ適切な治療を受けるほど治癒する可能性が高くなりますが、甲状腺がんは、すべてのタイプにおいて一律に早期発見が推奨されるわけではありません*4。これは、前述のとおり甲状腺がんは種類によって進行速度や予後が大きく異なるためです。
乳頭がんは早期発見が必ずしも最優先ではない
甲状腺がんにかかった血縁者がいる方、子どものころに放射線治療を行ったなどのリスクがない方に対し、以下を背景に超音波(エコー)検査による甲状腺がん検診は推奨されていません*4。
- 検診による死亡率減少や受診者の健康状態の改善に役立つというエビデンスがない
- 甲状腺がんの約90%を占める「乳頭がん」のうち、超低リスクとされるものは進行率が非常に低く、即時に手術した場合と経過観察をした場合で予後は変わらない
- 超低リスク乳頭がんが見つかったとしても、すぐに手術をせず、慎重に経過を観察する「積極的経過観察」が標準的
つまり、甲状腺がんリスクのない方にとっては、検診により命にかかわる可能性が低い「ごく小さな乳頭がん」を見つけすぎること(過剰診断)によるデメリットのほうが懸念される、ということです。
早期発見が重要なケース
甲状腺がんの罹患経験のある血縁者がいる方、子どものころに放射線治療を行った経験がある方は、定期的な検査で自身の状態を把握しておきましょう。甲状腺がんのうち、「髄様がん」は約40%が遺伝性であるとされています*4。
また、乳頭がんであっても手術を要する可能性がある中リスク以上の場合は、周囲の組織へ広がる前に発見することが大切です。エコー検査自体は事前の準備や身体への負担がほぼなく、簡便に受けられる検査であるため、自身の身体をきちんと把握しておきたい方、経過観察になったとしてもできるだけ早めに甲状腺がんを見つけておきたい方は、受診を検討してもよいでしょう。
甲状腺がんだけでなく、若年女性に多いバセドウ病や橋本病も発見できる
甲状腺超音波(エコー)検査は、20〜40代の女性が罹患することが多いバセドウ病や橋本病といった甲状腺疾患を見つける際にも有用です*11,*14。「疲れやすくなった」「寒がりになった」「イライラしやすい」といった不調が、じつは甲状腺疾患によって起こっている場合もあります。
バセドウ病を放置すると心不全や骨密度の低下を招く恐れがあり、橋本病ではまれに悪性リンパ腫が発生することもあります。また、どちらも流産や早産のリスクを高めるため、適切な治療を行うことが大切です*11,*14。
甲状腺がんだけでなく甲状腺疾患が気になる方は、人間ドックのオプションとして甲状腺または頸部エコー検査の追加を検討しましょう。以下から、甲状腺超音波(エコー)検査が受けられる医療施設を検索できます。
甲状腺の検査については下記記事で詳しく解説しています。
全身のがんを調べるなら「PET検査」「DWIBS検査」も選択肢に
甲状腺がんだけでなく全身のがんを調べたい方の選択肢として「PET検査」「DWIBS(ドゥイブス)検査」があります。どちらも甲状腺がんが見つかりやすい検査ですが、一方でそれぞれ発見が不得手ながんもあります。また、全身がん検査はすべての方において必要な検査とも言い切れません。受診については主治医等と相談しながら決めていきましょう。
PET検査やDWIBS検査について詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
全身がん検査が受けられる医療施設は下記から検索できます。
https://www.mrso.jp/pet/
参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 甲状腺がんについて
*2.厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告2023」
*3.国立がん研究センター東病院 甲状腺がん
*4.日本内分泌外科学会「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2024」
*5.国立がん研究センター がん情報サービス 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
*6.愛知県がんセンター 甲状腺がん
*7.国立長寿医療研究センター 首の腫れが心配.ひょっとして甲状腺の病気かも?
*8.日本臨床外科学会 2.甲状腺がんの発生に関連する因子
*9.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 海藻摂取と甲状腺がん発生との関連について
*10.日本臨床外科学会 4.甲状腺がん検査の流れ
*11.日本内分泌学会 バセドウ病
*12.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 自覚的ストレスとがん罹患との関連について
*13.がん研究会 有明病院 甲状腺がん
*14.日本内分泌学会 橋本病(慢性甲状腺炎)







