膀胱がんの特徴的な症状は、痛みがないのに尿に血が混じる「無症候性血尿」です。しかし、痛みがないために「大丈夫だろう」と放置されたり、膀胱炎と似た症状で見逃されたりすることも珍しくありません。本記事では、膀胱がんの代表的な症状やほかの病気との見分け方、喫煙などのリスク因子、検査方法まで詳しく解説します。
★こんな人に読んでほしい!
・50代以上の方
・尿の色や、頻尿、残尿感などが気になる方
・喫煙している方
★この記事のポイント
・痛みがない血尿は、一度きりでも膀胱がんの重要なサインの可能性がある
・喫煙は膀胱がんの最大の要因。予防には一日も早い禁煙が重要
・毎年の健康診断で、尿検査の潜血が陽性でないかを確認しよう
・50代以上の方や喫煙歴のある方は、人間ドックで尿細胞診や腹部超音波(エコー)検査の受診を検討しよう
膀胱がんとは?
膀胱がんの発生場所と種類
膀胱がんは、骨盤内に位置する膀胱に発生するがんです。膀胱は袋状の臓器で、腎臓で作られた尿を一時的に溜めておく役割を担っています*1,*2。
膀胱がんには発生部位によっていくつかの種類がありますが、90%以上は膀胱の内側を覆う粘膜(尿路上皮)から発生する「尿路上皮がん」です。膀胱のほか、腎盂(じんう)や尿管にも尿路上皮がんが発生することがあります(腎盂・尿管がん)*1。
尿路上皮がんは、がんが粘膜の表面にとどまっている状態の「筋層非浸潤性がん」、壁の筋層まで達している「筋層浸潤性がん」に分類されます*1。
そのほか、まれに「扁平上皮がん」「腺がん」「小細胞がん」などに分類されるタイプがあり*1、これらは尿路上皮がんとは原因や治療の経過(予後)が異なる場合があります*3。
膀胱がんは早期発見しやすいが「再発」もしやすい
膀胱がんは症状が自覚しやすく、比較的早期に発見しやすいがんとされています。海外の報告によると、初めて尿路上皮がんと診断されるケースのうち約75%は、がんが粘膜の表面にとどまっている「筋層非浸潤がん」の段階で見つかっています*4。
他方で、膀胱がんは再発のリスクが高いがんでもあります。初期に見つかり手術(内視鏡的切除)をしても、その後に再発する確率は30〜70%と報告されています*5。
生存率をみてみると、ステージ1で発見された場合の5年生存率(2015年/ネット・サバイバル※)は82.2%ですが、10年生存率(2012年/ネット・サバイバル※)は62.1%となっています*6。そのため、膀胱がんは早期発見はもちろん、治療後も定期的な経過観察を続けることが重要です。
※ネット・サバイバル:5年後または10年後に生存している割合のうち、「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出された数値。
膀胱がんのおもな症状と受診目安
膀胱がんのおもな症状
以下は膀胱がんのおもな症状の例です。症状が続く場合や、血尿をともなう場合は、泌尿器科への相談を検討しましょう*1。
- 痛みをともなわない血尿(無症候性血尿)
- 頻尿(トイレの回数が増える)
- 排尿時の痛み
- 残尿感(排尿した後もスッキリせず、尿が残っている感じがする)
- 切迫した尿意
膀胱がんに気づくきっかけとなる重要なサインが「痛みがないのに尿に血が混じる」ことです。実際に、40歳以上の膀胱がん患者の64%に認められたという報告があります*5。膀胱内の腫瘍表面から出血することで、血尿がみられると考えられており、尿の色は鮮やかな赤色から、薄いピンク色、あるいは古い血液が混じったコーヒーのような黒茶色までさまざまです*7。目で見てもわからず、顕微鏡でしか確認できない血尿(顕微鏡的血尿)もあります*1。
また、がんが膀胱を刺激することで、トイレが近くなったり(頻尿)、排尿時に痛みを感じたりするなど、細菌による膀胱炎とよく似た症状があらわれることがあります。一般に日中の排尿回数が多い状態を頻尿と呼びます。目安として8回以上(およそ2時間に1回以上)とされることがありますが、個人差があります。「いつもよりトイレが近い」と感じる場合は、頻尿のサインかもしれません*8。
「痛みのない血尿」が一回だけであっても、必ず医療施設の受診を
膀胱がんによる出血は必ずしも継続するわけではなく、一度みられたあとに自然に消えたり、数日で通常の尿に戻ったりすることがあります*1。これはがんが治ったのではなく、たまたま出血が止まっているだけにすぎません。
「痛みがないから大丈夫」「一時的な出血だったので様子を見よう」と自己判断せず、一度でも血尿がみられた場合は、放置せず泌尿器科への受診を検討してください。
血尿・頻尿・排尿痛が気になったら? ほかの病気との見分け方
【女性向け】膀胱がんと膀胱炎の症状の違い
女性の場合、血尿や頻尿があらわれても、生理や膀胱炎、更年期などの影響だと考え、膀胱がんとは結びつきにくいことがあります。
膀胱炎でよくみられるのが、「頻尿」「血尿」「排尿の終わりでのしみるような痛み」などです。また、出産や更年期によるホルモンバランスの変化の影響で、頻尿や急な尿意といったトラブルがあらわれることもあります*9。
膀胱がんの特徴的な症状は「痛みをともなわない血尿」ですが、頻尿や排尿時の痛みなど、膀胱炎に似た症状をともなうケースもあり*1,*8,*10、膀胱炎や更年期によるものか、膀胱がんが原因なのかを症状だけで見分けることは専門医でも困難です。気になる症状があれば、自己判断せず泌尿器科を受診してください。
「血尿」がみられたときのがんのリスク
痛みのない、目で見てわかる血尿(無症候性肉眼的血尿)がみられた場合、年齢やリスク因子によって確率は異なりますが、一定割合で泌尿器科のがん(膀胱がんなど)が見つかることが報告されています。なかには、無症候性肉眼的血尿の約25.5%にがんがみつかったとの報告があります*11。「一度だけだったから」、女性の場合は「生理が重なったから」と見過ごすのは非常に危険です。
また、目では見えないものの、健康診断の尿検査などで指摘される血尿(顕微鏡的血尿)のうち、2.3~8.3%ががんと診断されているとの報告もあります*11。目で見える血尿に比べれば確率は低くなりますが、放置してよいわけではありません。健康診断などで「尿潜血」を指摘されたら、速やかに専門医を受診しましょう。
症状がある方は泌尿器科を受診しよう
排尿時の違和感や血尿が一度でもあった場合は、「泌尿器科」を受診しましょう。
泌尿器科では、膀胱がんの確定診断に欠かせない「膀胱鏡(内視鏡)検査」を受けることができます。膀胱鏡検査とは、非常に細い内視鏡を尿道から挿入し、膀胱の内部を直接モニターで観察する検査です。挿入時の痛みや不快感をやわらげるために、多くの場合は局所麻酔を使用します*12。
膀胱がんの最大の原因は「喫煙」
膀胱がんの発症には、生活習慣や環境、遺伝的な要因が関係しています。おもなリスク因子は以下のとおりです*5。
- 喫煙習慣がある
- 仕事で特定の化学物質や染料を扱っている
- HPV(ヒトパピローマウイルス)感染や、過去の治療歴がある(尿道カテーテルの長期留置、骨盤への放射線治療など)
- 血縁者に膀胱がんの患者がいる
たばこは膀胱がんの最大の原因であり、患者の約50%が喫煙によるものと推測されています*13。たばこに含まれる発がん性物質が血液から尿へと溶け出し、それが膀胱内に溜まって粘膜を長時間刺激し続けることが、膀胱がんの発生に関与していると考えられています*5。
現在喫煙している人は、吸わない人に比べて発症リスクが男性で1.96倍、女性で2.35倍高まるという報告があります。一方で、禁煙期間が長くなるほどリスクが低下することも明らかになっています。予防のためにはできるだけ早く禁煙を始めましょう*14。
このほか、子宮頸がんの主要因でもあるHPV(ヒトパピローマウイルス)感染については、膀胱がんとの関連を示唆する報告もあり、一部ではリスク上昇が指摘されています。また、長期間の尿道カテーテル留置、骨盤への放射線照射なども発症に関与すると考えられています。
親や兄弟に膀胱がんの罹患者がいる場合、リスクは約1.7倍になると報告されています。ただし、家族歴があるからといって必ず発症するわけではありません。家族歴がある方は、血尿などの症状に注意し、不安がある場合は医療施設への相談を検討しましょう*5。
がんと遺伝の関係については下記記事をご覧ください。
早期発見のための検査と人間ドックの活用
毎年の健康診断で「尿潜血」をチェックする
膀胱がんの早期発見において、もっとも身近で重要な検査が、毎年の健康診断で行われる尿検査です。企業が行う年1回の定期健康診断や自治体等が実施する特定健診の必須項目は尿糖と尿蛋白のみですが*15,*16、実際の現場では「尿潜血」の検査も行われることが多いです*17。実施の有無が知りたい方は、事前に健診機関まで問い合わせてください。なお、人間ドックの尿検査では、尿潜血は必須項目(※)に含まれています*18。
※日本人間ドック・予防医療学会が定める「基本検査項目」の場合
「健康診断の尿検査はなぜ朝イチなの?」などの疑問は、下記記事で詳しく解説しています。
ハイリスクな方は人間ドックの「腹部エコー」や「尿細胞診」を
より確実に膀胱がんを早期発見したい方、50代以上の方や喫煙歴があるハイリスクな方は、人間ドックのオプションなどで以下のような検査を検討しましょう*12,*19。
-
腹部超音波(エコー)検査
超音波が出る探触子(プローブ)を腹部にあて、リアルタイムで画像化する検査。多くの人間ドックでは基本検査項目に含まれており、骨盤内の臓器(膀胱や前立腺、卵巣・子宮などの骨盤内腫瘍)も観察範囲に含まれる - 尿細胞診
尿にがん細胞が含まれていないかを調べる検査。人間ドックではオプションとして提供されることがある -
膀胱がん腫瘍マーカー(NMP22、BTA)検査
尿中に含まれる、膀胱がん特有のタンパク質濃度を測定する検査。あくまで診断補助的な検査であり、この検査のみで膀胱がんを確定することはない
これらの検査を受けられる医療施設は、以下から探せます。
https://www.mrso.jp/searches/
一部の医療施設では、男性向けの「メンズドック」として提供されていることもあります。
https://www.mrso.jp/prostate/
前立腺がんの検査について気になる方は、下記記事をご覧ください。
参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 膀胱がんについて
*2.キャンサーネットジャパン 【2022年改訂】もっと知ってほしい膀胱がんのこと
*3.尾張拓也(2017)「急速なリンパ節転移増大を認めた膀胱小細胞癌の1例」多根医誌 6(1)
*4.Kamat AM, et al.Bladder cancer. The Lancet, 388(10061) 2796-2810, 2016
*5.日本泌尿器科学会「膀胱癌診療ガイドライン2019年版」
*6.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
*7.愛知県がんセンター 膀胱がん
*8.日本泌尿器科学会 尿が近い、尿の回数が多い~頻尿~
*9.日本女性医学学会 トイレが近い 尿が漏れる
*10.日本泌尿器科学会 排尿痛がある、排尿時に痛い
*11.橋本 寛文(2000)「血尿 -泌尿器科の立場から-」四国医誌 56(3)
*12.国立がん研究センター がん情報サービス 膀胱がん 検査
*13.Burger M, et al. Epidemiology and risk factors of urothelial bladder cancer. Eur Urol, 2013; 63(2)
*14.国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 日本人における喫煙・禁煙と膀胱がん罹患リスク
*15.厚生労働省「労働安全衛生法に基づく 健康診断を実施しましょう」2025年3月
*16.政府広報オンライン 生活習慣病とは?予防と早期発見のために定期的な受診を!
*17.日本腎臓学会 検尿の考え方・進め方 – 第3章 1.健康診断における検尿
*18.日本人間ドック・予防医療学会 判定区分表
*19.日本人間ドック・予防医療学会 腹部超音波検査マニュアル





