腫瘍マーカー検査は採血や採尿により簡便に行うことができる、がん診断の補助的な検査です。人間ドックや健康診断のオプションでよく見かける検査で、その種類はさまざまです。この記事では、人間ドックや健康診断で腫瘍マーカー検査が必要かどうかについて、メリット・デメリットを用いてわかりやすく解説するとともに、代表的な腫瘍マーカーの特徴、検査結果の見方、ほかに受けたほうがよい検査についてまとめています。がん早期発見のために人間ドックや健康診断で腫瘍マーカー検査を受けるべきか考えている方はぜひご覧ください。
★こんな人に読んでほしい!
・腫瘍マーカー検査を、オプションで追加すべきか迷っている方
・すでに腫瘍マーカー検査を受けていて、結果の見方が知りたい方
★この記事のポイント
・腫瘍マーカー検査はがん診断の補助検査のひとつ
・早期のがんに対しては前立腺がん(PSA)以外の腫瘍マーカーは必ずしも有効とはいえない
・がんの早期発見には、まずはそれぞれのがんで有用とされる検査を受診することが推奨されている
・がんリスクの高い方は画像診断などほかの検査と合わせて腫瘍マーカー検査を検討する
・人間ドックや健康診断における腫瘍マーカー1種あたりの費用は1,500~3,000円程度
目次
腫瘍マーカー検査で、がんは早期発見できるのか
腫瘍マーカーとは、おもにがん細胞からつくられるタンパク質などの物質のことです。腫瘍マーカー検査は、これらの量を血液や尿から測定するがん診断の補助検査のひとつであり*1、いわば「がん発見の手がかりとなる検査」です。
腫瘍マーカー検査はがんの進行とともに陽性率が上昇する傾向があり、おもにがん治療の効果、手術後の再発や転移の有無を調べるために用いられています*1。腫瘍マーカー検査のみでがんと診断されることはなく、画像検査など複数の検査と組み合わせて診断されます。
がんの早期発見については、前立腺の異常に反応する腫瘍マーカー「PSA」が自覚症状のない人の前立腺がんの検査として用いられることもあり*2、厚生労働省の調査(2023年)では、79.1%の自治体が前立腺がん検診としてPSA検査を実施しています*3。また、日本泌尿器科学会は検診ガイドラインの中で、PSAによる前立腺がん健診を強く推奨しています*4。
人間ドックや健康診断で受けるべきか? 腫瘍マーカー検査の精度
人間ドックや健康診断で腫瘍マーカー検査を受けるかどうかを判断するためには、まず腫瘍マーカー検査についてよく理解しておくことが大切です。以下は腫瘍マーカー検査のメリット、デメリットです*1。
【腫瘍マーカー検査のメリット】
- 採血や採尿で検査できるため、身体への負担が少なく簡便
- MRI検査やCT検査などの画像診断よりも低額で実施できる
- がんやその他の疾患が見つかるきっかけとなることがある
- 腫瘍マーカーPSAは前立腺がんの早期発見に有用とされている*4
【腫瘍マーカー検査のデメリット】
- がんがある程度進行していないと検査数値が基準値(基準範囲)を超えない
- 影響因子が多く、がんの有無と無関係に高い数値になることがある
- がんがあっても数値が高くならないこともある
- PSA以外の腫瘍マーカーで早期がんを発見するのは難しい(あくまで補助的な検査)
上記でも触れたように、腫瘍マーカー検査はがんがなくても陽性を示す「偽陽性」や、がんがあるのに陰性を示す「偽陰性」になることがあり、とくに早期のがんに対して前立腺の腫瘍マーカーPSA以外の検査は必ずしも有効とはいえません*1。
しかし、過去には大腸がんを調べる便潜血検査の結果が陰性だったにもかかわらず、腫瘍マーカーのCEAが高値となっていたという方が最終的にがんと診断された例もあります*5。こうしたことから、がんのリスクが気になる方や、画像診断や検体検査だけでは不安という方は、腫瘍マーカー検査の特徴をふまえた上で補助的な検査として人間ドックや健康診断で追加を検討するとよいでしょう。
おもな腫瘍マーカーの特徴、結果の見方とほかに受けるべき検査
下記は国立がん研究センターが紹介している、検査を行うおもな臓器がんと腫瘍マーカー19種です*1。
| 検査を行うおもな臓器がん | おもな腫瘍マーカー |
|---|---|
| 甲状腺がん | CEA |
| 非小細胞肺がん | CYFRA21-1、CEA、SLX、CA125、SCC |
| 小細胞肺がん | NSE、ProGRP |
| 食道がん | SCC、CEA |
| 胃がん | CEA、CA19-9 |
| 大腸がん | CEA、CA19-9、p53抗体 |
| 肝臓がん(肝細胞がん) | AFP、PIVKA-Ⅱ、AFP-L3 |
| 胆道がん | CA19-9、CEA |
| 膵臓がん | CA19-9、Span-1、DUPAN-2、CEA、CA50 |
| 膀胱がん | NMP22、BTA |
| 前立腺がん | PSA |
| 乳がん | CEA、CA15-3 |
| 子宮頸がん | SCC、CA125、CEA |
| 卵巣がん | CA125 |
腫瘍マーカーには臓器特異性(特定の臓器がんに反応する性質)の高いものと低いものとがあります。たとえばPSA・AFPは臓器特異性が高く、CEAなど臓器特異性が低いものは不特定の臓器がんに反応します*6。
人間ドックや健康診断のオプション検査では、男女別や疾患別にこうした腫瘍マーカーを3~5種ほど組み合わせてセットにしていることがあります。腫瘍マーカー3種セットの場合はAFP・CEA・CA19-9がセットに、5種セットの場合はこの3種以外にSCCと、男性にはPSA、女性にはCA125をプラスしたセットになっているパターンがよく見られます。こうした組み合わせは医療施設によりさまざまです。
ここでは、人間ドックや健康診断のオプション検査においてよく用いられる代表的な腫瘍マーカー、PSA・AFP・CEA・CA19-9・CA125・SCCについて、基準値(基準範囲)やほかに受けたほうがよい検査などを解説していきます。
【PSA】前立腺がんの早期発見に有用。男性は40代からの受診がおすすめ
PSAは前立腺上皮でつくられる糖タンパクです。前立腺がんの発症確認に役立ちます。
【基準値とおもに反応するがん】*6,*7
基準値:4.000ng/mL
疑われるがん:前立腺がん
※日本医学予防協会では1.100ng/mLを上限とし、49歳以下4.000ng/mL、50~64歳3.000ng/mL、65~69歳3.500ng/mL、70歳以上4.000ng/mLまでを経過観察と判定*7
【がん以外で高値となる原因】*6,*7
前立腺肥大症、前立腺炎、尿道刺激後など
【ほかに受けたほうがよい検査】
前立腺がんについては、厚生労働省の指針で示されている検診方法はありませんが*8、日本泌尿器科学会は前立腺がんを早期発見するためにPSA検査は有用としています*4。
前立腺がんは男性の部位別がん罹患数第1位のがんで、50歳ごろから急増します*9。家族歴があるなど前立腺がんリスクの高い方は*4、人間ドックや健康診断などで40歳代のうちからPSAを測定しておくことで早期発見が期待できます。
【AFP】肝臓がんのリスクが高い人は、ほかの検査とあわせて検討
AFPは「α-フェトプロテイン」という血清タンパクの略称です。おもに胎児の肝臓でつくられる物質ですが、肝臓がん患者の血液中に多く見られることがあるため、肝臓の腫瘍マーカーとして用いられています。
【基準値とおもに反応するがん】*6,*7
基準値:15.0ng/mL
※日本医学予防協会では10.0ng/mLを上限に設定*7
疑われるがん:肝細胞がん、精巣腫瘍(非セミノーマ)など
【がん以外で高値となる原因】*6
肝硬変、肝炎、妊娠など
【ほかに受けたほうがよい検査】
肝臓がんについて、厚生労働省が指針を示している検診方法はありません*8。肝臓がんを調べる方法として、腫瘍マーカー検査や腹部超音波(エコー)検査があります*10。肝臓がんの腫瘍マーカーはAFP以外にPIVKA-Ⅱ・AFP-L3があり、腫瘍が小さい場合は2種類以上の測定が推奨されています*10。ただし、腫瘍マーカーの値のみでがんの有無は確定できず、腹部エコー検査など他の検査もあわせて診断します*10。
B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変がある方や、多量の飲酒習慣のある方、肥満・脂肪肝・糖尿病がある方など、肝臓がんリスクの高い方は*11、定期的な検査を受けることが大切です。人間ドックや健康診断で肝臓を詳しく調べたい方は、CT検査やMRI検査が含まれるコースやプランも検討するとよいでしょう。
下記記事では、肝臓がんになりやすい人や受けておきたい検査について解説しています。あわせてお読みください。
【CEA】胃がんや大腸がんなど多くのがんに反応
おもに胎児の消化管に存在するタンパク質ですが、胃がんや大腸がん、肺がん、乳がんなどでも高値になることがあります。そのため、各がんの経過観察や再発・転移の確認などに用いられることが多いです*7。
【基準値とおもに反応するがん】*6,*7
基準値:5.00ng/mL
疑われるがん:胃がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がん、肺がん、乳がん、甲状腺がんなど
【がん以外で高値となる原因】*6
炎症性腸疾患、胆道炎、肝炎、肝硬変、膵炎、加齢、喫煙など
【ほかに受けたほうがよい検査】
CEAはさまざまながんで高値になることがあり、かつ感度(がんがある人のうち、正しく「陽性」と判定される割合)が高くないため、特定部位のがんの早期発見には向きません。胃がんや大腸がんの早期発見については、厚生労働省の指針では、それぞれ以下の検診方法が示されています*8。
- 胃がん検診:問診、胃部X線(バリウム)検査または胃内視鏡(胃カメラ)検査のいずれか
- 大腸がん検診:問診、便潜血検査
胃がん、大腸がんの検査について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
膵臓がんの検査については、次項で解説します。
【CA19-9】膵臓がんや胆道系のがん、消化器系のがんにも反応
CA19-9は膵臓や胆管などに存在するタンパク質です。膵臓や胆管、胆のうのほか、胃がんや大腸がんに反応することもあります*7。
【基準値とおもに反応するがん】*6,*7
基準値:37.0U/mL以下
疑われるがん:膵臓がん、胆道がん、胃がん、大腸がん
【がん以外で高値となる原因】
閉塞性黄疸、胆道炎、膵炎、胆石症、糖尿病、肝硬変、卵巣のう腫など
【ほかに受けたほうがよい検査】
膵臓がんは、厚生労働省の指針で定められている検診はありません*8。膵臓を調べる検査としては腹部超音波(エコー)検査がよく行われます*12。ただし、早期の膵臓がんは腹部エコー検査だけでは見つけにくいこともあり、必要に応じてCTやMRIなどの画像検査を行います。
腫瘍マーカーCA19-9は早期がんではあまり有用とは言えないため、人間ドックなどでより詳しく調べたい場合は、腹部エコー検査やCT検査、MRI検査などの画像検査も行うことが勧められます。とくに、家族歴のある方、糖尿病・慢性膵炎・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)などの疾患がある方、喫煙者は、膵臓がんの発生リスクが高いとされています*13。定期的な検査を検討しましょう。
膵臓がんについては下記記事で詳しく解説しています。
【CA125】卵巣がんの可能性がわかる女性向け腫瘍マーカー
CA125は糖タンパクの一種で、卵巣がんなど婦人科の病気を調べる際に用いられます。
【基準値とおもに反応するがん】*6,*7
基準値:35.0U/mL以下
疑われるがん:卵巣がん、子宮体がん、膵臓がん、胆道がん
【がん以外で高値となる原因】*6,*7
子宮内膜症、卵巣のう腫、子宮筋腫、月経、妊娠、腹膜炎、胸膜炎、膵炎、胆のう炎など
【ほかに受けたほうがよい検査】
卵巣がんは厚生労働省のがん検診の指針で示される検診はありません*8。代表的な検査方法は、超音波(エコー)検査やCT検査、MRI検査などの画像検査です*14。CA125のみで卵巣がんなどの有無を確定することはできないため、画像検査を組み合わせることが推奨されます。
人間ドックなどで卵巣がんを調べたい方は、経膣超音波(エコー)検査が含まれるプランを選ぶとよいでしょう。異常が疑われた場合には、CT検査やMRI検査などを組み合わせて卵巣や子宮をさらに詳しく調べます。
子宮体がんも厚生労働省の指針で示される検診はありませんが*8、自治体によっては子宮体部の細胞診による検診を行っているところもあります*3。CA125は子宮体がんに対するCA125の感度(がんがある人のうち、正しく「陽性」と判定される割合)は30%と低く*6、子宮体がんの診断や判定に使える腫瘍マーカーはありません*15。
卵巣がん、子宮体がんについては、以下の記事もあわせてお読みください。
女性特有の疾患について調べたい場合は、レディースドックがおすすめです。レディースドックについては下記記事で詳しく解説しています。
【SCC】肺がんや子宮頸がんなどの扁平上皮がんの可能性がわかる
SCCは、さまざまな臓器の「扁平上皮」という組織にできるがんが増える際に産出されるタンパク質です。肺、子宮頸部の扁平上皮にがんがある場合に陽性率が高くなります。
【基準値とおもに反応するがん】*6
基準値:1.5ng/mL以下
疑われるがん:肺がん、子宮頸がん、食道がん、頭頸部がん
【がん以外で高値となる原因】*6
皮膚疾患、肺炎、気管支炎など
【ほかに受けたほうがよい検査】
SCCは早期発見を目的としたスクリーニングには適しません*6。一方で、治療効果や再発の経過観察などに用いられることが多い腫瘍マーカーです。肺がん、子宮頸がんの検診は、厚生労働省によってそれぞれ以下の指針が示されています*8。
- 肺がん検診:問診、胸部X線(レントゲン)検査
- 子宮頸がん検診:子宮頸部細胞診、内診、問診、視診(30歳以上で自治体が実施している場合:HPV検査単独法、問診、視診)
肺がん、子宮頸がん検診について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
腫瘍マーカー検査は補助的な手段として検討しよう
腫瘍マーカー検査は採血や採尿で検査できることから、身体への負担が少なく簡便ですが、あくまで補助診断のひとつで、それだけでがんの有無を判断できるものではありません。
がんの早期発見を目的とした人間ドックや健康診断では、X線(レントゲン)検査、内視鏡検査、超音波(エコー)検査などの画像診断や細胞診など、それぞれのがんに有用とされる検査を受けることが推奨されます。そのうえで、がんのリスクが高い方や心配な方は、補助的な手段として腫瘍マーカー検査を検討するとよいでしょう。どんな検査を受ければよいのかわからない方は、予約時に受診先の医療施設に相談することをおすすめします。
腫瘍マーカー検査の費用は1項目あたり数千円
人間ドックや健康診断などで腫瘍マーカー検査を受ける場合の費用は、保険対象外です。費用の目安は、腫瘍マーカー1項目あたり1,500~3,000円程度で提供している医療施設が多いです。
人間ドックの基本的なコースにオプションで1種ずつ選べる場合もあれば、3〜5種類をセットで提供している場合もあるなど、医療施設によって提供方法が異なります。自身は何を調べたいのか明確にし、かつ腫瘍マーカーの特性も理解したうえで選択するとよいでしょう。
参考資料
*1.国立がん研究センター がん情報サービス 腫瘍マーカー検査とは
*2.国立がん研究センター がん情報サービス 前立腺がん 検査
*3.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 がん検診 1.がん検診の実施状況(住民検診)
*4.日本泌尿器科学会「前立腺がん検診ガイドライン 2018年版」
*5.吉永英世ら「総合健診における腫瘍マーカー(CEA)について」健康医学 第3巻 1号(1988年)
*6.日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン2021」
*7.日本予防医学協会 検査結果の見方 血液検査
*8.厚生労働省 がん検診
*9.国立がん研究センター がん情報サービス がん統計 前立腺
*10.国立がん研究センター がん情報サービス 肝細胞がん 検査
*11.国立がん研究センター がん情報サービス 肝細胞がん 予防・検診
*12.国立がん研究センター がん情報サービス 膵臓がん 検査
*13.国立がん研究センター がん情報サービス 膵臓がん 予防・検診
*14.国立がん研究センター がん情報サービス 卵巣がん・卵管がん 検査
*15.国立がん研究センター がん情報サービス 子宮体がん(子宮内膜がん) 検査













