【連載3】新型コロナウイルスがもたらす医療の未来
更新日:2020年6月03日 変更履歴
医療ガバナンス研究所 研究員
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。
2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、4月7日に発令された緊急事態宣言。5月25日にようやく全国で解除となりました。自治体によって差はあるものの、休業要請などが段階的に緩和されつつあります。
次第に日常に戻りつつあるとはいえ、北九州市での新型コロナウイルスの感染者数の増加や、新型コロナウイルスの院内での集団感染の発生など、現在も一定数の感染者が発生しています。手洗いの徹底やマスクの着用、『密』を避ける、人との面会や人との接触をできる限り減らす努力を続けるなど、新しい生活様式はまだまだ求められそうです。
オンライン診療の普及が促進
医療の現場でも、新型コロナウイルス感染拡大を受けて大きな変革がありました。オンライン診療の普及です。アメリカやイギリス、中国では、受診時の感染リスクを減らしたり、病院への受診が難しくなった患者さんが受診できるように、パソコンやスマートフォンを用いたオンライン診療が保険認可されました。オンライン診療の需要は急速に拡大しているようです。
日本でも、患者さんや医療従事者の感染リスクを減らすため、4月13日に初診でのオンライン診療が解禁となりました。様々な規制があったためになかなか普及に至らなかったオンライン診療でしたが、初診でも、あらゆる疾患でも受診可能になり、便利になったことは間違いないでしょう。
オンライン診療を希望される患者さんからは、「熱が続いているから、病院を受診していいかわからなかった」「継続して内服していた薬がなくなりそうだけど、今は病院を受診したくないからオンラインを希望した」といった声をよく耳にします。
オンライン診療は、受診しなくてすむという点ではとても便利です。しかしながら、モニター画面越しの診療では、医師が視たり(視診)触ったり(触診)することはできません。患者さんが医師に言葉で症状や経過を伝え、医師もその情報から判断するしかありません。それだけで十分な場合もあれば、そうでない場合もあります。オンライン診療と対面診療をうまく使い分ける必要があるでしょう。
コロナ禍の予防医療はどう考えるべきか
さて、緊急事態宣言の解除を受け、再開されつつある健康診断ですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、検診や検査を受けられなかったことによる影響がすでに予想されています。
IQVIA社の報告によると、新型コロナウイルスの流行により医療機関を受診できなかったため、6月5日までの3か月間に8万人以上の米国人が、乳癌・前立腺癌・大腸癌・子宮頸癌・肺癌の5つの癌が診断されなかった、または診断が遅れたと推定されています。基準の2月に比べて4月の初めには乳癌、前立腺癌、大腸癌、子宮頸癌、肺癌の検診や検査数が4割から9割も減ってしまったことから、乳癌は36,000人、前立腺癌は22,600人、大腸癌は18,800人、子宮頸癌は2,500人、肺癌は450人が、診断がされなかった、あるいは診断が遅れてしまったのです。
健康診断だけではありません。ユニセフによると、37カ国で1億1700万人もの子供たちが麻疹の予防接種を予定通り接種できない恐れがあると言います。日本でも、小児のワクチン接種率の低下が問題になっています。
新型コロナウイルスを恐れるがあまり、本来、早期発見できたであろう疾患を患ってしまうことは避けなければなりません。健康診断や検診による早期発見・早期治療、予防接種によって予防できる疾患の感染予防が疎かにならないようにしていくことも、今後求められるのではないでしょうか。